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相続財産の内容や他の相続人の状況から、一度手続きをした相続放棄を取りやめたいと考えてしまうことがあるかもしれません。このような場合、相続放棄を取りやめて、被相続人の遺産を相続人として相続できるようになるのか気になるところです。
そこで、相続放棄をした後、その撤回や取り消しができるのか否かについて見ていきましょう。
【ⅰ.相続放棄の撤回は認められない】
一度正式に手続きして効力が生じた相続放棄を、その後ある時点からなかったことにすることを撤回と言います。相続放棄の申述が家庭裁判所で受理された後、撤回することは認められません(民919条①)。民法919条1項において、相続放棄は民法915条1項の期間内でも、その撤回はできない旨を規定しています。そのため、相続放棄の申述が家庭裁判所で受理されれば、たとえ申述期限内であっても撤回することができないのです。
相続放棄の撤回が認められないのは、他の相続人の相続上の権利に利害が生じるからです。たとえば、相続人が、被相続人Aの子であるB、C、Dの3名だったとします。この場合、通常であれば法定相続分は各3分の1ずつになります。しかし、相続人の1人であるBが相続放棄をした場合、Bは最初からAの相続人ではなかったとみなされます。
それにより、CとDの法定相続分は各2分の1になります。
もし、Bのした相続放棄の撤回が認められると、BもAの相続人ということなり、法定相続分は当初の各3分の1ずつに変更となります。その結果、CとDの相続できる割合が減って利害が生じてしまうのです。
上記のような形で相続放棄をした者以外の相続人に利害が生じるのは好ましくありません。そのようなことから、相続放棄の撤回は認められていないのです。
一方、家庭裁判所が相続放棄の申述を受理する前であれば、取り下げることができます(家事事件手続法82条1項)。相続放棄の撤回が認められないのは、その申述が家庭裁判所で受理された後の話です。相続放棄の申述をした後、照会および回答を経て、家庭裁判所が受理するという流れで手続きが進んでいきます。
上記の手続きの間であれば、取り下げすることによって、相続放棄をやめることができるのです。
相続放棄の申述が受理される前の取り下げ手続きは、家庭裁判所に取り下げ書を提出して行ないます。家庭裁判所に提出する取り下げ書の書式は特に決まっていません。家庭裁判所側で提供している書式を使用して作成しても、自身で任意に作成しても、どちらでもかまいません。取り下げ書を家庭裁判所に提出すると、相続放棄の取り下げが認められます。
【ⅱ.相続放棄の取り消しは認められる可能性もある】
相続放棄の撤回と似て非なるものに相続放棄の取り消しがあります。相続放棄の取り消しとは、撤回と異なり、最初から相続放棄をしなかったことにすることです。
相続放棄の撤回不可の規定(民919条①)は、民法の総則および親族の規定により、相続放棄の取り消しをすることを妨げないとしています(民919条②)。そのため、主に以下のようなケースで、相続放棄の取り消しを認めてもらえる可能性があります。
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相続放棄の取り消しができる者は、本人、法定代理人、同意権のある者です。相続放棄の取り消しの申述手続きは、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所にします。
また、相続放棄の取り消しの申述期間も定められています。具体的には、追認できるときから6カ月以内、または相続放棄のときから10年以内に取り消ししなければなりません。上記期間内に相続放棄の取り消しの申述をしなければ、その権利が時効で消滅してしまいます(民919条②)。
【ⅲ.実際に相続放棄の取り消しを認めてもらうのは難しい】
法律上、一定事由に該当する場合、相続放棄の取り消しができるとされています。裁判所の判決や決定の中には、詐欺を理由に相続放棄の取り消しを認めたものが存在します。(東京高裁1952年7月22日決定)また、相続放棄にも錯誤の適用がある旨を認めた裁判例もあります。(最高裁1965年5月27日)
しかし、相続放棄の取り消しをするには、その原因を示す証拠を提出して家庭裁判所側に認めてもらわなければなりません。相続放棄の取り消しの原因を示す証拠を用意できないケースも多いです。
また、相続放棄が錯誤に当たるとされるには、その動機の勘違いが手続きの際に表示され、内容も重大なものであり、なおかつ相続放棄者にも重大な落ち度がないことが必要になります。相続財産の内容を誤って認識していたというだけでは、基本的に錯誤を原因とする相続放棄の取り消しは認められません。
そのようなことから、実際に相続放棄の取り消しを認めてもらうのは難しいです。
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