会社の定款の記載事項の中には、その事項の記載がないと定款全体が無効となってしまうもの(絶対的記載事項)がいくつか存在します。株式会社の定款には、5つの絶対的記載事項が規定されており、その1つが本店所在地です(会社法27条)。そのため、株式会社の設立手続きを行う際、その会社の本店所在地を定款に定める必要があります。

 

【ⅰ.株式会社設立時の本店所在地の定款の定め方および決定方法について】
 

設立する株式会社の本店所在地を定款に定める方法は、以下の2つの方法があります。

【ⅰ.本店所在地を最小行政区画(例 埼玉県狭山市)の範囲で定款に記載する方法】

この場合、本店所在地の具体的な場所は、発起人(会社の創立者または出資者)が決定します。

【ⅱ.本店所在地の具体的な場所まですべて定款に記載する方法】

 

実際に株式会社の設立手続きを行う際、本店所在地の最小行政区画まで定款に記載し、具体的な町名や地番は発起人の間で決めるⅰの方法を選択して、会社の本店所在地を定めるケースが大半です。

の方法で本店所在地を定款に定めた場合、会社設立後に本店所在地を移転する際、移転先が定款で定めた市区町村内の場所であれば、定款に記載した本店所在地の内容に変更は生じないため、定款変更の手続きをする必要はありません。

一方、ⅱの方法で本店所在地を定款に定めた場合、会社設立後に本店所在地を移転する際、定款に記載した本店所在地の内容は基本的に変更となるため、例外的なケースを除いて定款変更の手続きをしなければなりません。

つまり、株式会社の設立時にⅱの方法を選択して本店所在地を定款に定めると、ⅰの方法を選択した時と比較して、株式会社設立後に本店所在地を移転する時の手続き上の手間や負担が増えてしまいます。

そのような理由から、大半の方はⅰの方法を選択して、設立する株式会社の本店所在地を定めています。

 

【ⅱ.本店所在地とする場所の選択方法と注意点】

 

会社を設立して事業を始める場合、賃貸オフィス、自宅、シェアオフィス等を本店所在地の場所とすることが考えられます。また、すでに個人で事業を始めていて、法人化する目的で会社を設立する場合、事業を行っている場所を本店所在地とするケースも多いです。

設立する会社の本店所在地とする場所を決定する際、その選択方法は複数あります。本店所在地とする場所は、今後行う予定の事業内容や資金面、事業を行う上でのメリットやデメリット等を総合的に考慮し、その中で適した場所を選ぶことが大切です。

 

なお、「自宅」や「シェアオフィス」を会社の本店所在地の場所として選択しようとする場合、それぞれ以下の事項に注意しなければなりません。

 

【自宅を会社の本店所在地とする場合の注意点】

自宅を本店所在地とする場合、自宅の住所が会社の本店所在地として登記されるため、登記情報を閲覧する方法により、不特定多数の人がその場所を確認できるようになります。個人情報の観点から、自宅住所が公開されることに対して問題あるか否かを考慮の上、自宅を本店所在地とするか否かを決めていく必要があります。

自宅の場所が賃貸マンションや分譲マンションの時も注意が必要です。賃貸マンションの自宅を会社の本店所在地として選択する場合、会社の事業所(事務所)として利用することが賃貸契約の内容に反していないか否かを事前に確認しておかなければなりません。

また、分譲マンションの場合も、管理組合等の規約で、部屋を事業用として使用することが禁止されている場合もあります。そのため、分譲マンションの自宅を会社の本店所在地にしようとする際にも、管理組合の規約内容を事前に確認しておく必要があります。

 

【シェアオフィスを会社の本店所在地とする場合の注意点】

運営会社の規約等で明確に登記の利用を許可しており、当住所が物理的に存在する場所であることが確認できれば、シェアオフィスを会社の本店所在地として登記すること自体は可能です。しかし、シェアオフィスを会社の本店所在地にして事業を運営していく中で、「事業の許認可取得」・「郵便」・「シェアオフィスの運営会社」等について、事前に確認しておかないと不都合が生じてしまうケースもあるので注意を要します。

【事業の許認可取得関係】

事業の許認可を取得するには、独立した事務スペースおよび接客スペースの存在や固定電話等の固定設備を備えること等が要件とされている業種も存在します。シェアオフィスを会社の本店所在地とする際、上記の要件を満たせなくて、許認可を取得できないという事態に陥る可能性もあるため、気を付けなければなりません。

【郵便関係】

会社が事業を行う中で、法務局・税務署・年金事務所・銀行・取引先等からの重要書類が定期的に郵便で届きます。重要書類の場合、本人限定受取郵便・書留郵便等で郵送されてくるのが通常です。もし、会社の本店所在地にしているシェアオフィスでこれらの郵便の受取に対応していない場合、重要書類の郵便物受領の際に不都合が生じてしまいます。そのため、このような不都合を回避するため、会社の本店所在地にしているシェアオフィスの郵便物の受取・転送ルールや費用等を事前に確認しておく必要があります。

【シェアオフィスの運営会社関係】

運営会社の都合により、シェアオフィスが閉鎖されるリスクも存在します。利用していたシェアオフィスが閉鎖されてしまった場合、会社の本店所在地を変更する(本店移転)手続きをしなければなりません。そのような場合、会社の本店移転登記、名刺・封筒・ホームページ等の本店の記載内容変更、取引先・税務署等への通知等の手続きや作業をしなければならないため、多大な労力とコストが発生してしまいます。

→ 会社の本店移転登記の手続きについてはこちら

したがって、運営会社の運用実績・資本力・事業継続性等を確認した上、信頼できる業者が運営するシェアオフィスを選択することが大切です。

 

【ⅲ.マンションやビルの1室を本店所在地にする場合の登記の記載について】

 

マンションやビルの1室を会社の本店所在地にする場合、マンション名やビル名とその部屋番号を省略して登記をすることが可能です。たとえば、「埼玉県狭山市中央三丁目6番地 スカイビル101号」(注)が正式な住所表記であるとします。このような場合、「埼玉県狭山市中央三丁目6番地」という形で本店所在地の登記ができます。

※(注)「埼玉県狭山市中央三丁目6番地スカイビル101号」の住所表記は、架空のものです。

マンション名やビル名とその部屋番号まで記載して登記することももちろん可能です。しかし、このような形で本店所在地の登記をすると、マンション名やビル名が変更をした場合、本店の変更登記をする必要があります。さらに、マンション内の違う部屋に引越しをした時、本店移転の登記をしなければなりません。

→ 会社の本店移転登記の手続きについてはこちら

上記のような手続き上の手間やコスト面から考えると、マンション名やビル名とその部屋番号を省略して登記をしたほうが好ましいと言えます。

 

ただ、マンション名やビル名とその部屋番号を省略して本店所在地の登記をしてしまうと、郵便物の配達の際に支障が出てしまう可能性もあるため注意が必要です。

対象の会社の所在するマンション等の建物の部屋やポストに会社名のネームプレートが掲示されていれば、マンション名やビル名とその部屋番号が登記されていなくてもその場所を特定できるため、郵便物の配達に支障はないかもしれません。しかし、対象の会社の所在するマンション等の建物の部屋やポストに会社名のネームプレートを掲示されていない場合、その場所が特定できなくて、郵便物の配達に支障が出てしまうケースもあります。

そのようなことから、マンション名やビル名とその部屋番号を省略する形で会社の本店所在地を登記するか否かは、郵便物の配達で生じる支障も考慮の上、決めていく必要があります。もし、会社の本店として登記するのは「番地まで」にしたいが、その一方で郵便物の配達で支障がでるのではと不安を感じている場合、「番地」の後に部屋番号だけのせる形(上記の例では、「埼玉県狭山市中央三丁目6番地101号」)で登記するのも1つの方法です。

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