〒350-1308 埼玉県狭山市中央三丁目6番G-206号
不動産登記業務に関するQ&A、当事務所で取り扱った事例などを記載させていただいております。
【◆ 業務に関するQ&A】
【◆ 総則関係】
【Q1】
不動産の権利に関する登記の申請手続き上のルールについて教えてください。
【A1】
不動産の権利に関する登記は、対象不動産の所在地を管轄する法務局へ申請手続きしなければなりません。
また、登記権利者(登記手続きで権利を取得する者等)と登記義務者(登記手続きで権利を失う者等)が共同で登記申請しなければならないのが原則です。
それから、登記申請情報(登記申請書)と添付情報(添付書類)を法務局へ提供する方法により、登記の申請手続きを行わなければなりません。
→ 不動産の権利に関する登記手続きの基本ルールの詳細についてはこちら
【Q2】
不動産の権利に関する登記手続きをする場合、原則として「登記原因証明情報」を提供しなければならないと聞きました。登記原因証明情報とは、どのような書類ですか?
【A2】
登記原因証明情報とは、申請する登記の原因となった事実または法律行為によって、その権利関係が変動したことを証明する情報(書類)になります。
【Q3】
従来の権利証が「登記識別情報」に変わったと聞きました。登記識別情報について教えてください。
【A3】
登記識別情報とは、不動産および登記名義人となった申請人ごとに定められる情報のことを言います。12個のアラビア数字とアルファベットをランダムに組み合わせてできた符号が、登記識別情報として法務局から発行されます。
【Q4】
自宅の権利証を紛失してしまいました。それによって権利関係や今後の手続きをするにおいて何か問題が生じますか?
【A4】
権利証を紛失してしまった(登記識別情報を失念してしまった)場合でも、所有不動産の権利まで失うわけではないので、その点については心配ありません。
今後、自宅を処分する手続きを行う場合、原則として権利証(登記識別情報)が必要となります。しかし、権利証を紛失(登記識別情報を失念)してしまった場合、代替の方法での手続きが可能なので、この点についても問題ありません。
→ 権利証を紛失(登記識別情報を失念)した場合の問題や対応方法についてはこちら
【Q5】
不動産の権利を移す登記をする際、権利証を紛失した時に行う代替の手続き方法について、具体的に教えてください。
【A5】
「事前通知制度」および「資格者代理人による本人確認情報制度」の2つの制度があります。
事前通知制度とは、権利証(登記識別情報)が提供されないで、不動産の権利移転の登記等、登記名義人の権利証(登記識別情報)の提供を要する登記の申請がなされた場合、その登記が登記名義人本人の意思に基づいてなされたのか否かを登記官側で確認(登記名義人の本人確認)する旨の登記手続き上の制度です。
資格者代理人による本人確認情報制度とは、登記手続きを代理で行う司法書士等の資格者代理人が、事前に登記名義人の本人確認を行い、その内容を記載した情報(本人確認情報)を提供して登記手続きを行う制度になります。
不動産売買による所有権移転の登記手続きを行う際、権利証を紛失している場合、資格者代理人による本人確認情報制度を利用するのが通常です。
→ 資格者代理人による本人確認情報制度の詳細についてはこちら
【Q6】
不動産登記の手続きをする際、印鑑証明書の提供を求められることが多いですが、それはなぜですか?
【A6】
印鑑証明書の提供義務を課すことによって、虚偽の登記申請がされるのを防止することができ、登記の真実性を担保することができるからです。
また、不動産の登記申請の際に提供された情報(書類)の真実性を担保する目的で、印鑑証明書の提供が求められるケースもあります。
→ 不動産登記の手続きに必要な印鑑証明書の詳細についてはこちら
【Q7】
不動産登記の申請の際、手続き先の法務局に提供する書類の原本は返却してもらえるのでしょうか?
【A7】
原本還付の手続きを取ることによって、登記申請の際に提供した書類の原本を返却してもらうことが可能です。
ただ、提供する書類によっては、原本還付の手続きを取ることができないものもあります。
【Q8】
不動産登記の申請をを行う際に税金はかかりますか?
【A8】
不動産の権利に関する登記に対しては、原則として、登録免許税が課税されます。そのため、不動産の権利に関する登記手続きを行う際には、原則として、登録免許税を納付しなければなりません。登録免許税とは、不動産や会社の登記等、登録免除税法の別表第一に記載されている各種手続きに対して課税される国税です。
登録免許税の納税義務者、納付する登録免許税の金額とその算出方法等は、申請する登記の内容によって異なります。また、登録免許税の納付手続きの方法も複数の方法が設けられています。
【Q9】
司法書士へ登記を依頼して手続きをしてもらう場合、委任状への署名捺印は必要ですか?
【A9】
司法書士が本人を代理して不動産登記の手続きを行う際、代理権限証明情報として本人からの委任状を提出する必要があります。そのため、登記手続きの前に、委任状へ署名捺印をしてもらうことになります。
【Q10】
不動産を売却する際、必要となる権利証が一部不足している旨を指摘されました。不動産の登記手続きをする場合、権利証が複数必要となることがあるのでしょうか?
【A10】
登記名義人が、複数回に分けて権利を取得した場合、その後に所有不動産の売却に基づく登記手続きをする際、複数の権利証が必要となります。
→ 複数回に分けて権利を取得した不動産を譲渡する際に必要となる登記識別情報(登記済証)の詳細についてはこちら
【◆ 売買登記関係】
【Q1】
住宅を購入する際の不動産登記の手続きにおいて、登録免許税の軽減を受けられると聞きました。どのような場合に登録免許税の軽減を受けられるのでしょうか?
【A1】
居住目的で建物を新築したり、取得したりした場合、一定の要件を満たすと住宅用家屋証明書を取得できます。そして、居住目的で新築・取得した建物等の不動産登記の手続きを行う際、住宅用家屋証明書を他の登記情報(登記書類)と一緒に提供すれば、登録免許税の軽減を受けられます。
【◆ 贈与登記関係】
【Q1】
所有している土地を自分の兄弟へ贈与しようと考えています。手続きの際、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
【A1】
土地の贈与をする場合、法律上の問題発生を回避する意味で契約書を作成しておいたほうがよいでしょう。また、贈与税、不動産取得税、登録免許税など税金面のことを考えて手続きする必要があります。
→ 贈与の登記をするにおいての注意事項の詳細についてはこちら
【Q2】
自分が亡くなったときに他の人へ財産を承継させる方法に「死因贈与」があると聞きました。死因贈与とはどのようなものなのか教えてください。
【A2】
死因贈与とは、贈与者(財産を譲り渡す人)が亡くなったときに法律的な効力が発生する贈与契約のことです。死因贈与の効力は遺贈に類似しているので、その性質に反しない限り、遺贈の規定が準用されています。
【Q3】
長年連れ添った私の妻へ感謝の意味を込めて自宅の権利を譲り渡したいと考えています。ただ、不動産を贈与すると贈与税がかかるのではと思い、手続きをすることに躊躇しています。何かよい方法はありませんか?
【A3】
夫婦間で居住用の不動産を贈与する場合、一定の条件を満たすことで贈与税の配偶者控除の適用を受けられる場合があります。
【Q4】
親子間で不動産を贈与する際に、贈与税の負担なしで手続きする方法はあるのでしょうか?
【A4】
親子間で不動産を贈与する場合、相続時精算課税制度を活用することで、贈与税の負担を回避できる場合があります。
ただ、将来的に相続税の申告の必要があると考えられる場合、この制度を活用すると逆に納税額が多くなる可能性もあります。そのため、この点も考慮して、相続時精算課税制度を活用するか否かを決めたほうがよいでしょう。
→ 不動産の親子間贈与と相続時精算課税制度の詳細についてはこちら
【◆ 抹消登記関係】
【Q1】
抵当権抹消登記の申請方法を教えてください。
【A1】
抵当権抹消登記は、抵当権設定者(不動産の所有名義人)と抵当権者の共同で申請手続きを行うのが原則です。
ただ、抵当権設定者が共有である場合や抹消登記の手続き前に亡くなっている場合、例外的な方法で申請手続きを行うことができます。
【Q2】
抵当権抹消登記に必要な書類を紛失してしまいました。このようなときでも抵当権抹消登記の手続きをすることができるのでしょうか?
【A2】
必要書類を紛失してしまった場合でも、抵当権抹消登記の手続きをすることは可能です。ただ、通常の抵当権抹消登記をするときよりも少し手続きに手間がかかります。
→ 手続きに必要な書類を紛失してしまった場合の抵当権抹消登記の詳細についてはこちら
【Q3】
親から相続した土地に昭和初期に設定された「農工銀行」名義の抵当権が設定されています。この抵当権を外したいのですが、どのように手続きを進めればよいのでしょうか?
【A3】
農工銀行は明治から昭和初期にかけて存在した金融機関で、その後みずほ銀行へ権利義務が承継されています。そのため、みずほ銀行と一緒に抵当権抹消登記の手続きを進めていくことになります。
【Q4】
かなり昔に完済した借入金の担保となっている抵当権の抹消登記手続きをしたいと考えていますが、具体的な借入金の完済日がわかりません。このような場合でも、抵当権抹消登記手続きはできるのでしょうか?
【A4】
借入金の完済年月日が確認できない場合でも、抵当権抹消登記手続きはできます。
→ 完済年月日が確認できない場合の抵当権抹消登記の詳細についてはこちら
【Q5】
10年以上前に住宅ローンを完済して、金融機関から抵当権抹消登記書類の発行を受けていましたが、登記手続きは済ませていませんでした。
この度、当時発行を受けた書類を使用して抵当権抹消登記の手続きをしようと考えているのですが、金融機関の代表者がローン完済時から変わっていることがわかりました。ローン完済時に発行を受けた抵当権抹消登記書類には、当時の代表者名が記載されています。
このような場合でも、ローン完済時に発行を受けた抵当権抹消登記書類を使用して手続きできるのでしょうか?
【A5】
金融機関の代表者がローン完済時から変わっている場合でも、当時発行を受けた抵当権抹消登記書類を使用して手続きできます。
→ 金融機関の代表者変更がある場合の抵当権抹消の詳細についてはこちら
【◆ その他の登記関係】
【Q1】
現在住んでいる自宅の建物が未登記となっています。このような場合、建物の登記をしておいたほうがよいのでしょうか?
【A1】
登記をしていないと、他の人に自分の所有権を主張できなくなります。そのため、可能である限り、登記をしておいたほうが好ましいでしょう。
【Q2】
相続人のなかにまだ出生していない胎児がいます。このようなときでも相続登記をすることができますか?
【A2】
法定相続による相続登記を行い、胎児を含めた相続人全員の共有名義にすることが可能です。この場合、胎児の登記名義の表記は、「亡被相続人名妻何某胎児」となります。
【Q3】
親が未成年の子と有償の取引行為をする際、どのような手続きが必要になるのでしょうか?
【A3】
親と未成年の子との間で有償の取引行為を行う場合、利益相反となります。そのため、家庭裁判所へ申立をして特別代理人を選任してもらったうえ、その特別代理人が未成年の子を代理して親と取引行為をする必要があります。
→ 利益相反行為(親と未成年の子のケース)の詳細についてはこちら
【Q4】
自身が代表取締役である会社の所有する不動産を買い取りしたいと考えています。会社と代表取締役である私が売買契約をする必要があるかと思いますが、その他、何か手続きが必要ですか?
【A4】
会社と取締役による直接取引は利益相反行為に当たります。そのため、原則として、株主総会(取締役会を設置している会社は取締役会)の承認決議を得なければなりません。
→ 利益相反行為(会社と取締役のケース)の詳細についてはこちら
【Q5】
共有不動産の解消方法の1つに持分を放棄する方法があると聞きました。具体的に教えてください。
【A5】
不動産の共有名義人の1人がその持分を放棄すると、他の共有者へその持分の権利が帰属します。2人で不動産を共有している場合、そのうちの1人が持分の放棄をすることで、共有関係を解消することができます。
【◆ 当事務所で取り扱った事例】
【1】
数十年前に設定された抵当権の抹消登記手続き
→ 数十年前に設定された抵当権の抹消登記手続きの詳細についてはこちら
【2】
混同による仮登記の抹消
不動産の登記手続きは、土地や建物等の不動産の物理的現況や権利関係の内容に変更が生じた時等に行います。
不動産の登記手続きには、いくつかのルールが存在します。司法書士が業務で取り扱う不動産の権利に関する登記では、「管轄(登記申請先の法務局)」、「登記の申請形態」、「登記申請時に提供する情報(書面)」等において、手続き上のルールが定められています。
【ⅰ.不動産登記の管轄】
不動産登記は、登記の対象となる不動産の所在地を管轄する法務局へ申請手続きをしなければなりません。たとえば、埼玉県狭山市にある不動産の登記をする場合、管轄は「さいたま地方法務局所沢支局」となるため、当法務局宛へ申請手続きをする必要があります。
登記対象となる不動産が自宅から遠方の場所にある場合、管轄の法務局の場所も自宅から遠方になります。上記のようなケースの場合、不動産登記の申請手続きを行う者の負担が大きくなるのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、そのようなことはありません。
2005年(平成17年)の不動産登記法改正により、出頭主義(管轄の法務局に出頭して登記申請手続きをしなければならない規定)が廃止され、当改正法施行後は、オンラインや郵送の方法でも不動産登記の申請手続きをすることができるようになっています。
したがって、対象の不動産や管轄の法務局が自宅から遠方の場所にある場合でも、自宅近辺の場所にある時と比較して、不動産登記の申請手続きを行う者の負担が特に大きくなることはありません。
【ⅱ.不動産の権利に関する登記の申請形態】
不動産の権利に関する登記は、登記権利者(名義人になる等、登記手続きをすることによって利益を受ける者)と登記義務者(権利を失う等、登記手続きをすることで不利益を受ける者)が共同で申請手続きをしなければならないのが原則です。
不動産の権利に関する登記手続きにおいて共同申請主義が取られているのは、原則として、登記官には形式的な審査権しか認められていないからです。形式的審査権とは、登記申請の際に提供された申請情報(申請書類)や添付情報(添付書類)等の内容のみを基準に審査できる権限のことを言います。
登記官が登記の審査をする際、通常は登記原因となる実体的な権利が現実に発生しているか否かまで調査しません。登記申請の際に提供された申請情報(申請書類)や添付情報(添付書類)等の内容に問題がなければ、申請された登記はそのまま受理されます。
上記のような形で登記の審査や受理がなされると、実体的な権利関係の内容と異なった不真正な登記がされてしまう可能性も否定できません。しかし、登記によって利益を受ける登記権利者だけではなく、登記によって不利益を受ける登記義務者も登記申請の手続きに関与させれば、登記の真正が保たれて、実体的な権利関係の内容と異なった不真正な登記の受理を防ぐことが可能となります。
以上のような理由で、不動産の権利に関する登記において、共同申請主義が取られているのです。
ただ、不動産の権利に関する登記の中にも、共同申請主義の例外として、単独で申請できる登記の種類もいくつか存在します。具体的には、相続登記、所有権保存登記、名変登記等があげられます。
【ⅲ.不動産登記申請時に提供する情報(書面)】
不動産の権利に関する登記は、管轄の法務局へ一定の情報(書面)を提供して申請手続きをしなければならないのが原則です。登記の申請手続きの際に提供する一定の情報(書面)は、登記申請情報(登記申請書)とその登記手続きで求められる添付情報(添付書面)になります。
登記申請情報(登記申請書)には、登記の目的、登記の原因、申請人、手続き対象となる不動産の表示等が記載されます。また、不動産の権利に関する登記の申請手続きの際に提供する添付情報(添付書面)には、登記識別情報(登記済権利証)、登記原因証明情報、印鑑証明書、住民票等がありますが、申請する登記の種類によって、提供を求められる添付情報(添付書類)の内容は異なります。
不動産の権利に関する登記の申請手続きを行う際、法令に別段の定めがある場合を除いて、登記原因証明情報を登記申請情報(登記申請書)と一緒に提供しなければならない旨が法律上で規定されています(不動産登記法61条)。
そのようなことから、不動産の権利に関する登記の申請手続きを行う際には、原則として、登記原因証明情報の提供が必要になります。
【ⅰ.登記原因証明情報とは】
登記原因証明情報とは、申請手続きをする登記の原因となった事実または法律行為によって、その権利関係が変動したことを証明する情報です。登記原因証明情報の制度は、登記原因の真実性を担保する目的で、2005年(平成17年)の不動産登記法改正の時に設けられました。
上記改正前においても、「登記原因証書」が不動産の権利に関する登記の必要書類とされていて、売買を原因とする所有権移転登記の申請時には、売渡証書等を登記原因証書として提出していました。提出された登記原因証書は、登記完了後、「登記済」の赤い印が登記官によって押印され、「登記済権利証」という形で登記権利者等に渡されていました。また、登記原因証書に該当する書類がない場合は、申請書副本(登記申請書の写し)を代わりに提出し、当書類を素材にして登記済権利証が作成されました。
現行法の登記原因証明情報の前身にあたる登記原因証書は、登記原因となった事実や法律行為により権利変動を証明するためというよりは、登記済権利証を作成するために提出を求められていたものだったと言えます。
しかし、上記法改正前の不動産登記実務の環境では、申請された登記原因の真実性の担保の面で十分とは言えません。そのようなことから、登記原因証書(申請書副本)の制度を廃止し、登記原因証明情報の制度を設けて、登記申請当事者から、申請する登記の原因となった事実や法律行為に関する情報を提供させることを原則としたのです。
登記申請情報(登記申請書)と一緒に提供された登記原因証明情報は、登記済権利証の素材となる登記原因証書(申請書副本)と異なり、一定期間法務局に保管されて、利害関係人も閲覧可能な状態におかれます。それにより、不動産取引の安全性の確保につながることも期待されています。
【ⅱ.提供する登記原因証明情報の具体的内容】
不動産の権利に関する登記を申請する際に提供する登記原因証明情報は、登記を共同で申請する場合と単独で申請する場合において、その内容が少し異なります。
【1.共同申請の場合】 共同申請の場合、登記申請の当事者が作成した報告形式の登記原因証明情報を提供するのが原則です。また、不動産の売買や担保権設定等の契約をする際に作成される契約書を、登記原因証明情報として提供することもできます。
【2.単独申請の場合】 不動産の権利に関する登記を単独で申請する場合、共同申請の場合と異なり、報告形式のものや各種契約書等の私署証書を登記原因証明情報として提供することはできません。登記原因となる事実や法律行為を証明できる公的な情報(書類)を登記原因証明情報として提供する必要があります。 たとえば、登記名義人の住所変更による名変登記を申請する時には、当住所変更の内容を確認できる住民票の写し等を登記原因証明情報として提供します。 単独申請の場合は、共同申請の場合と異なり、登記の申請手続きに関与する相手当事者(登記義務者)が存在しないため、申請形態によって登記の真正を担保することができません。そのようなことから、より証明力の強い公的な情報(書類)を登記原因証明情報として提供を求めることで、登記の真正担保をはかろうとしているのです。 |
【ⅲ.登記原因証明情報の提供が不要な場合】
不動産の権利に関する登記の申請をする際、不動産登記法61条の「法令に別段の定めがある場合」に該当する時は、登記原因証明情報を提供が不要となります。
たとえば、不動産登記法74条1項の所有権保存登記(戸建ての所有権保存登記)は、上記の法令の別段の定めに該当します。そのため、この登記の申請手続きをする場合、登記原因証明情報を提供する必要はありません。
また、上記の法令の別段の定めに該当するわけではありませんが、混同による権利の抹消登記を申請する場合、混同により権利関係が消滅したことが登記記録上明らかである時は、登記原因証明情報の提供は不要です。
不動産の権利に関する登記申請を行うと、その手続きによって名義人になったり、権利を得たりした者に対して登記識別情報通知書が発行されます。登記識別情報通知書に記載されている登記識別情報は、不動産の権利に関する登記において、重要な登記関係の情報になります。
【ⅰ.登記識別情報とは】
登記識別情報とは、不動産および登記名義人となった申請人ごとに定められるアラビア数字とアルファベットが組み合わさった12桁の符号のことです。登記識別情報の内容により、当情報の通知を受けた登記名義人を識別することができるようになっています。そのような仕様になっていることから、登記手続きを登記名義人自身で行っているか否かを確認する(登記名義人の本人確認をする)趣旨で、一定の登記手続きを行う際に、登記名義人の登記識別情報の提供が求められています。
登記識別情報の制度は、登記原因証明情報と同様、2005年(平成17年)の不動産登記法改正によって設けられました。
上記改正以前は、登記によって権利を取得した者に対して登記済証(権利証)が発行されていました。しかし、上記改正法が施行されて以降、オンラインで登記申請が可能となった法務局から順次、登記済証(権利証)の発行に代えて登記識別情報が通知されるようになっています。
【ⅱ.登記識別情報の通知について】
登記識別情報は、不動産および登記名義人となった申請人ごとに定められ、登記を行うことにより、登記名義人となる申請人に対して通知される仕組みになっています(不動産登記法21条本文)。そのため、登記識別情報通知書は、不動産ごとに1通ずつ、登記名義人となった申請人ごとに1通ずつ発行されます。
以下の表は、不動産売買における登記識別情報の通知の具体例になります。
【不動産売買における登記識別情報の通知の具体例】
事例(№) | 不動産売買の当事者 | 売買対象の不動産 | 通知される登記識別情報の内容 |
№.1 | 売主A:買主B | a土地 |
計1通 |
№.2 | 売主A:買主B・C | a土地 |
計2通 |
№.3 | 売主A:買主B | a土地・b建物 |
計2通 |
№.4 | 売主A:買主B・C | a土地・b建物 |
計4通 |
たとえば、上記表の事例「№4」のように、BとCがAからa土地とb建物を購入して、a土地とb建物につき、それぞれB・Cの共有名義で登記手続きを行ったとします。このような場合、Bに対してa土地とb建物の登記識別情報が各1通、Cに対してもa土地とb建物の登記識別情報が各1通それぞれ発行され、合計4通の登記識別情報が発行されることになります。
【登記識別情報通知書の記載事項】
登記名義人となった登記申請人に対して通知される登記識別情報通知書には、登記識別情報の他、以下の事項が記載されています。
|
【登記名義人になっても登記識別情報が通知されないケースもある】
登記識別情報は、登記手続によって登記名義人となった申請人に対して通知されます。そのようなことから、登記手続によって登記名義人になっても、当登記の申請人にならなかった者に対しては、登記識別情報は通知がされないので注意を要します。
(例:複数の相続人のうちの1人が、保存行為によって相続人全員の共有名義にする法定相続登記の申請手続きを単独で行った場合、申請人以外の相続人に対しては、登記識別情報が通知されません。)
→ 保存行為による法定相続登記・登記識別情報の不通知から発生する問題点についてはこちら
【ⅲ.登記識別情報の管理について】
発行される登記識別情報通知書そのものではなく、当通知書に記載されている情報(アラビア数字とアルファベットが組み合わさった12桁の符号)に価値があるという点が登記識別情報の大きな特徴になります。たとえ、登記識別情報通知書が本人の手元にあっても、その情報の内容を他の者に知られてしまった場合、登記識別情報が盗まれた状態となってしまいます。そのようなことから、登記識別情報を管理する際、登記識別情報通知書に記載されている情報が漏えいしないようにしなければなりません。
登記識別情報は、登記識別情報通知書の下側の部分に記載されていて、その場所には、折り込み式のカバーがつけられています。このカバーを剥がしてしまうと登記識別情報が露出した状態になってしまうので、この情報を提供しなければならないとき以外は、カバーを剥がさないで保管しておく必要があります。
仮に、登記識別情報通知書の下側のカバーを剥がしてしまい、他の者に登記識別情報を見られ、その内容を覚えられてしまったとします。このような場合は、法務局に申出をして登記識別情報を失効させることで対応することが可能です。
※2015年(平成27年)2月23日以降に順次、登記識別情報通知書の様式が折り込み式タイプのものに変更されましたが、変更前は登記識別情報が記載されている場所に目隠しシールが貼られているタイプのものでした。通知された登記識別情報通知書が目隠しシールタイプのものであっても、管理方法については折り込み式タイプのものと同様です。
【ⅳ.登記の際に提供する登記識別情報等と提供できない場合の対応方法】
不動産の権利を取得した登記名義人が、他の者へ売却したり、担保権を設定したりする際、それらの登記手続きを行う場合、権利を取得した時に通知された登記識別情報を提供するのが原則です。ただ、種々の事情により、登記識別情報を提供できない時もあります。このような場合は、どういう方法で対応すればよいのか問題となります。
2005年(平成17年)に改正不動産登記法が施行された後、オンラインによる登記申請が可能となった法務局が管轄となる不動産の権利を取得した者に対しては、登記名義人となった時に登記識別情報が通知されています。一方、2005年(平成17年)の改正不動産登記法が施行される前に、不動産の権利を取得した者は、登記名義人となった時に登記済証(権利証)の発行を受けているだけで、登記識別情報の通知を受けていません。後者のように登記済証(権利証)の発行を受けている登記名義人は、登記識別情報の通知を受けていないため、登記識別情報の提供を要する登記手続きを行う際、当情報を提供することができません。
このようなケースでは、登記識別情報の代わりに発行を受けている登記済証(権利証)を提供することによって、登記手続きを行うことができます。なぜなら、発行を受けている登記済証(権利証)を提供すれば登記識別情報を提供したとみなされるという取扱がなされているからです(不動産登記法附則7条)。
その他、登記手続きを行う際に登記識別情報を提供できないケースとして、発行された登記識別情報通知書をなくして登記識別情報を失念してしまったり、法務局へ申出をして登記識別情報を失効させたりした場合、があります。このような時は、代替手段の方法を利用して、登記手続きを行うことになります。
不動産の権利を取得した場合、登記名義人となる申請人に対して登記識別情報が通知されます。また、2005年(平成17年)の不動産登記法改正前に不動産の権利を取得した者に対しては、登記済証(権利証)が発行されています。
名義人となった不動産の売買や担保設定に関する登記申請において、登記義務者(登記手続きによって権利を失ったり、不利益を受けたりする者)として手続きをする場合には、登記識別情報(登記済証)を提供しなければならないのが原則です。しかし、登記識別情報を失念した(登記済証をなくした)場合には、これらの情報(書類)を提供することができません。
しかし、登記名義人が登記識別情報を失念した(登記済証をなくした)場合でも、これらの書類の提供を要する登記手続きを行うことは可能です。
【ⅰ.登記識別情報の再通知(登記済証の再発行)は可能か】
不動産の権利を取得した際に通知された登記識別情報を失念した(発行された登記済証をなくした)場合、まず、法務局から登記識別情報を再通知(登記済証を再発行)してもらう方法による対応策が考えられます。
しかし、法務局側で登記識別情報の再通知(登記済証の再発行)をしてもらうことはできません。そのため、このようなケースで所有する不動産の売却や担保設定に関する登記手続きに登記義務者として関与する場合、登記識別情報(登記済証)を提供できない時の代替の手続き方法を利用する必要があります。
【ⅱ.登記識別情報(登記済証)を提供できない時の代替の手続き方法】
不動産の所有者が、売却や担保設定に関する登記をする際に登記識別情報(登記済証)を提供できない場合、主に以下の2つの方法を利用して手続きを行います。
【事前通知制度】 事前通知制度とは、不動産登記をするにおいて、登記義務者が正当な理由によって登記識別情報(登記済証)を提供できない場合、登記審査を行う登記官が登記義務者の本人確認(登記を申請する意思の有無の確認)をした上で、登記手続きを進める制度です。
【資格者代理人(司法書士等)による本人確認情報制度】 登記義務者が登記識別情報(登記済証)を提供できない場合、登記手続きを代理する資格者(司法書士等)が事前に登記義務者の本人確認を行い、その内容を記載した情報(本人確認情報)を提供して登記手続きを行う制度です。 |
【ⅲ.登記識別情報(登記済証)の失念(紛失)・盗難による不動産の実体的な権利への影響およびリスクとその対応策】
登記識別情報(登記済証)を失念(紛失)したり、盗難にあったりすると、そのことが不動産の実体的な権利に影響をおよぼずのか否かも、不動産の所有者側としては気になるところです。
不動産の権利を取得した時に通知(発行)された登記識別情報(登記済証)を所持していることが、当不動産の所有者の条件とされているわけではありません。したがって、登記識別情報(登記済証)を失念(紛失)したり、盗難にあったりした場合、それと同時に所有不動産の実体的な権利まで失ってしまうわけではないため、その点については心配不要です。
また、登記識別情報(登記済証)の盗難にあった後、他の者に悪用されて、自身の所有する不動産の権利を他の者へ移転されてしまうことも懸念されますが、この点についてもそれほど心配する必要はありません。
売買・贈与等を原因として不動産の所有権を移転させる登記手続きを行うためには、当不動産の登記名義人の登記識別情報(登記済証)の他、登記名義人の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)も併せて提供しなければなりません。
したがって、仮に登記識別情報(登記済証)の盗難にあった場合でも、直ちに不正な権利移転の登記をされてしまう可能性は少ないと言えます。
ただ、登記名義人の印鑑証明書の偽造等による不正な権利移転の登記がされてしまう可能性もゼロではありません。そのような可能性を考慮して、不正な権利移転の登記の実行を予防したいのであれば、「不正登記防止申出」、「登記識別情報の失効の申出」の2つの制度を利用して対策することが可能です。
【不正登記防止申出】 不正登記防止申出とは、登記識別情報(登記済証)の盗難等により、登記名義人以外の者から不正な登記がなされる危険性が差し迫っている場合、当申出から3ヶ月以内に不正な登記の申請があった時に、法務局からその旨の通知を受けることによって、不正な登記がなされることを防止するための制度です(不動産登記事務取扱手続準則35条)。 ※当制度は、申出から3ヶ月の期間内に不正な登記がなされるのを防止するための制度で、権利移転を禁止する趣旨の制度ではありません。
【登記識別情報の失効の申出】 登記識別情報の失効の申出とは、登記識別情報の盗難等により、その内容を他の者に見られて覚えられてしまった可能性がある場合、その登記識別情報の効力を失わせる制度です(不動産登記規則65条)。 |
登記識別情報(登記済証)の提供を要する不動産の権利に関する登記申請を行うにおいて、登記名義人が登記識別情報(登記済証)を提供できない場合、その代替となる手続き方法の1つに事前通知制度があります。
【ⅰ.事前通知制度とは】
事前通知制度とは、登記識別情報(登記済証)を提供しないで、登記識別情報(登記済証)の提供が必要となる登記の申請手続きがなされた時、その登記が登記名義人本人の意思に基づいて申請されたのか否かを登記官側で確認(登記名義人の本人確認)する旨の登記手続き上の制度です。
具体的には、登記識別情報(登記済証)を提供しないで、登記識別情報(登記済証)の提供が必要な登記の申請手続きがなされた場合、登記官から申請人である登記名義人に対して「登記申請があった旨」および「その登記申請の内容が真実であると考えるのであれば、一定期間内にその旨の申出をすること」を通知します(不動産登記法23条1項)。
その後、申請人である登記名義人より、上記通知から一定期間内に、申請された内容が真実である旨の申出がなされた場合、申請された登記が処理されることになります。
不動産の権利に関する登記手続き上において、登記識別情報(登記済証)は、申請人である登記名義人の本人確認をする役割を果たしています。そのため、登記識別情報(登記済証)の提供が必要な登記の申請時に、登記識別情報(登記済証)が提供されないで登記申請がなされた場合、当情報(書類)に基づく登記名義人の本人確認ができなくなってしまいます。
登記識別情報(登記済証)に基づく登記名義人の本人確認ができないと、登記申請時の登記名義人の本人確認が不十分となり、不実の登記がなされてしまう結果を招く可能性もあります。このような状況の中では、登記申請時に登記識別情報(登記済証)の提供ができない時でも、登記名義人の本人確認を十分に行える手続き方法を設けておかなければ、登記の真正を担保することができません。
そのようなことから、登記識別情報(登記済証)の提供を要する登記申請を行う際、当情報(書類)の提供ができない時の登記名義人の本人確認方法の1つとして、事前通知制度が設けられています。
【ⅱ.登記名義人への事前通知方法】
事前通知の方法によって登記手続きを進める場合、登記官は登記名義人に対して書面を送付する方法により通知します。具体的には、事前通知の方法で登記申請を行った件数ごとに事前通知書を登記名義人宛に送付します。
不動産の権利に関する登記の申請方法は、書面申請とオンライン申請がありますが、どちらの方法で登記の申請手続きを行った場合でも、上記の方法(書面送付の方法)で事前通知がなされることになります。
また、事前通知書の送付先や送付方法については、登記名義人が個人であるか法人であるかによって異なり、具体的には、以下のとおりです。
【1.登記名義人が個人の場合】 登記名義人が個人である場合、その人の住所宛に本人限定受取郵便またはそれに準ずる方法によって送付します。
【2.登記名義人が法人の場合】 登記名義人が法人である場合、原則として、その法人の主たる事務所へ書留郵便等の方法で送付します。 ただ、登記名義人が法人の場合で事前通知の方法によって登記手続きを行う際、その法人の代表者の住所宛に事前通知書を送付する旨の希望を申出することが可能です。 このような時は、法人の代表者の住所宛に本人限定受取郵便またはそれに準ずる方法によって送付することになります。 |
【ⅲ.事前通知による登記手続きの手順】
事前通知制度を利用して登記を行う場合は、以下の手順で手続きが進んでいきます。
【1.登記識別情報(登記済証)なしで登記申請】
事前通知制度を利用して登記をする場合、登記識別情報(登記済証)を提供しないで申請手続きを行います。申請先の法務局に提供する登記申請情報(登記申請書)には、登記識別情報(登記済証)を提供できない理由を記載しなければなりません。
【2.登記官からの事前通知書の発送】
上記1の登記申請を法務局で受け付けた後、登記官から登記名義人に対して事前通知書が発送されます。発送先や発送方法については、上記「ⅱ.登記名義人への事前通知方法」のとおりです。
【3.登記名義人の申出】
登記官より事前通知書が発送されてから一定期間内に、登記名義人は申請された登記の内容が真実である旨の申出をしなければなりません。申出期間は、登記官より事前通知書が発送されてから原則として2週間以内です。ただ、登記名義人の住所が外国にある場合は、4週間以内となります。
申出の方法は、選択した登記の申請方法(書面申請またはオンライン申請)によって異なります。
【書面申請の方法を選択した場合】
書面申請の方法で登記申請の手続きをした場合、事前通知書の下側にある申出書の回答欄に、登記名義人の名前を記載して、その横に申請書または委任状に捺印した印鑑と同じ印鑑で捺印をします。その後、署名捺印をした申出書(事前通知書)を登記申請先の法務局へ返送する方法で申出を行います。
【オンライン申請の方法を選択した場合】
オンライン申請によって登記申請の手続きをした場合、法務大臣の定めるところにより、登記名義人が事前通知の書面の内容を通知番号等により特定し、申請された登記の内容が真実である旨に電子署名を行った上で、オンラインによってその情報を送信するという形で申出を行うのが原則です。
ただ、司法書士等が本人の登記申請代理人となり、特例方式(登記申請情報をオンラインで送信して、その他の添付書類は書面で提出する登記申請方法)で登記申請を行い、登記の委任状を書面で提出した場合は、書面による申出を行うことも可能です。
【4.申出書の受領および登記の処理、実行】
登記申請先の法務局側が、登記名義人より返送された申出書を事前通知の申出期間内に受領した後、登記の処理の作業を行い、登記が実行されます。
【ⅳ.前住所地への通知】
登記識別情報(登記済証)を提供できないため、事前通知制度を利用して登記申請をする際、その登記が所有権に関するものであり、なおかつ登記義務者(登記名義人)の住所の変更登記がされている場合、事前通知の他、その登記義務者の登記記録上の前住所への通知(前住所通知)も行われるのが原則です(不動産登記法23条2項)。
ただ、以下のケースに該当する時は、前住所への通知はされません(不動産登記規則71条2項)。
|
【ⅴ.事前通知がなされない場合】
以下のケースのいずれかに該当する場合、登記識別情報(登記済証)を提供しないで登記申請を行った時でも、登記官より事前通知はなされません(不動産登記法23条4項)。
|
登記申請をする際、登記識別情報(登記済証)を提供しなければならない時で、失念(紛失)等で登記識別情報(登記済証)を提供できない場合、事前通知制度を利用して登記の申請手続きをすることが可能です。
一方、資格者代理人(司法書士等)が申請人本人を代理して登記識別情報(登記済証)の提供を要する登記の申請手続きを行う際、失念(紛失)した登記識別情報(登記済証)の代わりに本人確認情報を提供し、登記官が提供された当情報の内容を相当であると認めた場合、事前通知制度の規定は適用されない旨が法律上で定められています(不動産登記法23条4項①)。
そのため、上記ケースに該当する場合、資格者代理人による本人確認情報制度を利用すれば、事前通知制度を省略して登記の申請手続きができます。
【ⅰ.本人確認情報とは】
登記識別情報(登記済証)の提供を要する登記申請を行う際に、失念(紛失)等で提供できない登記識別情報(登記済証)の代わりに資格者代理人によって提供される本人確認情報とは、申請人が登記申請権限のある登記名義人であることを確認できる事項が記載されている情報のことを言います。
登記申請を代理する資格者代理人は、まず、申請人となる登記名義人と直接面談し、身分を確認できる一定の書類の提示を受けた上、登記名義人であることを確認できる事項を聴取しながら本人確認を行います。その後、聴取した上記事項の内容を書面上に記載して本人確認情報を作成していくことになります。
本人確認情報制度も、申請人となる登記名義人の本人確認が行われた上で登記がなされる点では事前通知制度と共通しています。しかし、事前通知制度の場合は、登記官側で登記手続き中に本人確認を行って問題がなければ登記がなされるのに対し、本人確認情報制度の場合は、資格者代理人側で本人確認が行われ、その保証に基づいて登記がなされる点で異なります。
【ⅱ.本人確認情報に記載してその情報を明らかにすべき事項】
本人確認情報制度を利用して資格者代理人が登記申請を行うには、申請人が登記申請権限のある登記名義人であることを確認できる情報(本人確認情報)を資格者代理人が作成した上で提供し、その内容を登記官から相当と認めてもらう必要があります。
そのようなことから、本人確認情報制度を利用して資格者代理人が登記申請を行う場合、以下の内容を明らかにし、その内容を本人確認情報に記載した上で提供しなければなりません。
※ 申請人の氏名を知り、面識がある時とは、以下の場合を指します。
|
【ⅲ.本人確認書類の種類】
資格者代理人が本人確認情報を作成して登記申請を行う際において、申請人と面識がない場合、面談の時に申請人が申請権限のある登記名義人であることを確認できるための書類の提示を受けて本人確認を行います。
資格者代理人が申請人と面談する際、提示を受けて確認しなければならない書類の種類は、以下のとおりです。
【1.1種類の書類の提示を受けて確認可能な場合】 運転免許証、個人番号カード(マイナンバーカード)、パスポート、在留カード、運転経歴証明書等の顔写真付きの書類の場合、1種類の書類の提示を受ければ申請人の本人確認が可能です。
【2.2種類以上の書類の提示を受けることで確認できる場合】 国民健康保険や健康保険の被保険者証、後期高齢者医療の被保険者証、年金手帳等の各種保険証や手帳等の中から2種類以上の書類の提示を受ければ、申請人の本人確認が可能となります。 この場合、提示された書類に申請人の氏名、住所、生年月日の記載がなければなりません。
【3.官公庁またはそれに準ずる機関からの発行書類と組み合わせて確認できる場合】 2に該当する書類1通と官公庁またはそれに準ずる機関から発行される書類1通の計2通以上の書類の提示を受けることによって、申請人の本人確認ができます。 この場合も2と同様、提示書類に申請人の氏名、住所、生年月日の記載がなければなりません。 |
なお、資格者代理人が本人確認情報を作成して登記申請を行う際、本人確認情報と上記の本人確認の書類のコピーを一緒に提出して手続きするのが通常です。
不動産の登記申請を行う際、添付情報として印鑑証明書の提供を求められるケースがあります。印鑑証明書の提供を求められる理由は、申請する不動産登記の種類によって、その内容が異なります。
【ⅰ.不動産登記手続きで印鑑証明書の提供が求められる理由】
不動産の登記申請をする際に印鑑証明書の提供が求められるのは、虚偽の登記申請がされるのを防止して、登記の真正を担保するためです。
実印や印鑑証明書は、基本的に本人以外の者が自由に使用したり、取得したりすることはできません。そのため、提供された添付情報(添付書類)に申請人の実印による捺印がされていて、なおかつ印鑑証明書が提供されていれば、申請人本人が自分の意思で登記手続きに関与している可能性が高いと判断できます。
上記判断が可能であることから、登記官側も提供された印鑑証明書等の添付情報(添付書類)より、当申請人の本人確認や登記申請の意思確認を形式的に行った上での登記処理ができるようになるため、その結果として、虚偽登記の防止と登記の真正担保の実現が図られるようになります。
以上のような理由により、不動産の登記申請を行う際、一定の場合に申請人の印鑑証明書の提供が求められています。
【ⅱ.不動産の登記手続きで印鑑証明書の提供が求められる場合】
すべての種類の不動産の登記申請で申請人の印鑑証明書の提供が求められるわけではありません。主に以下の内容とする不動産の登記申請を行う場合、特定の申請人の印鑑証明書を提供する必要があります。
【1.所有権に関する登記をする場合】
所有権に関する登記申請を行う際、原則として、登記義務者(登記手続きで不利益を受ける者)の印鑑証明書を提供する必要があります。
たとえば、不動産の売買や贈与を原因とする所有権移転登記の申請を行う際、権利を失う売主や贈与者の印鑑証明書を提供しなければなりません。
【2.所有権以外の権利に関する登記をする場合】
所有権以外の権利に関する登記申請を行う場合、登記識別情報(登記済証)を提供できない時にその代替の方法で手続きする際、登記義務者(登記手続きで不利益を受ける者)の印鑑証明書の提供が必要となります。
たとえば、抵当権抹消の登記手続きを行う場合、本来であれば、登記義務者となる担保権者(抵当権の名義人)の印鑑証明書を提供する必要はありません。
しかし、事前通知制度を利用して抵当権抹消の登記手続きをする場合、担保権者の印鑑証明書の提供が必要となります。
また、資格者代理人による本人確認情報制度を利用して抵当権抹消の登記手続きをした時も、事前通知制度を利用した場合とその結論は同じです。
上記のケースの登記申請を行う際に提供する印鑑証明書は、発行日から3ヶ月以内のものでなければなりません。
※不動産の登記申請で印鑑証明書の提供を要するのが法人である場合、当法人の会社法人等番号を登記申請情報(登記申請書)に記載すれば、当法人の代表者の印鑑証明書の提供を省略することが可能です。
→ 不動産登記手続きにおける法人の代表者の印鑑証明書の提供省略についてはこちら
【ⅲ.添付情報(添付書類)の真正を担保する目的でも印鑑証明書の提供が求められる】
不動産の登記申請の際に印鑑証明書の提供が求められるのは、申請人の本人確認と登記申請意思の確認をして、虚偽の登記がされるのを防止するためだけではありません。不動産の登記申請の時に提供された添付情報(添付書類)の真正を担保する趣旨で、印鑑証明書の提供が要求される場合もあります。
その代表例が、相続登記の際に遺産分割協議書と一緒に提供する相続人の印鑑証明書です。ただ、この時に提供する印鑑証明書は、ⅱの場合に提供する印鑑証明書とは異なり、発行期限の定めはありません。
不動産の登記手続きを行う際、申請する登記で必要となる書類を登記申請情報(登記申請書)と一緒に提供しなければなりませんが、その時に原本還付の手続きを取るケースも少なくありません。
【ⅰ.原本還付とその利用するメリット】
原本還付とは、不動産の登記申請を行う時に提供した書類の原本を登記完了後に返却してもらう手続きのことです。
不動産の登記申請を行う際、必要となる書類の原本を提供しなければならないのが原則です。しかし、原本をそのまま提供してしまうと、その書類は手続き終了後も法務局で保管され、登記の申請人に対して返却されません。そのため、原則どおりに原本を提供して登記手続きをすると、提供する書類の原本を登記以外にも使用する予定がある場合に不都合が生じてしまいます。
(例:遺産分割協議に基づく相続登記を行う際に、相続登記の手続き対象となる不動産以外の財産の分割方法も記載されている遺産分割協議書の原本を提供してしまうと、登記完了後、当協議書の原本は手続き先の法務局に保管されてしまうため、後日、相続登記の手続き対象となる不動産以外の財産の相続手続きを行う場合に、遺産分割協議書の提供を求められても対応できません。)
しかし、原本還付の手続きを行っておけば、上記のような不都合を回避できます。登記完了後に提供した登記書類の原本を返却してもらえることができれば、その書類の原本を登記以外の他の手続きに使用することも可能となります。その結果、登記以外の他の手続きを行う際、再度同じ書類を取得するための手間や費用を省けるメリットを享受できます。
【ⅱ.原本還付手続きの方法】
不動産の登記申請の際に行う原本還付の手続き方法は、以下のとおりです。
|
登記申請を行う際に、上記の手順を踏んで原本還付の手続きをすれば、登記完了後に対象書類の原本を返却してもらえます。
【ⅲ.原本還付ができない書類もある】
不動産の登記申請を行う際、提供するすべての書類を原本還付することができるわけではありません。提供する書類の中には、原本還付の手続きを取ることができないものもあります。
不動産の登記申請を行う時に提供する書類のうち、以下の書類は原本還付の手続きを取ることができません。
【登記申請情報(登記申請書)または委任状に捺印した申請人等の印鑑証明書】 不動産の売買や贈与の登記申請を行う際に、売主または贈与者が提供する印鑑証明書がこれにあたります。
【第三者の同意または承諾を証する情報(書面)に捺印した人の印鑑証明書】 会社と役員が利益相反となる不動産取引を行う際、その承認を受けたことを証する株主総会議事録(取締役会議事録)へ捺印した役員の印鑑証明書がこれにあたります。
【登記申請のためだけに作成された委任状】 登記申請以外の事項も委任内容となっている委任状は、原本還付の手続きが可能です。
【登記申請当事者が作成した報告形式の登記原因証明情報】 契約書などの既存の書類を登記原因証明情報として提供する場合は、原本還付の手続きが可能です。
【資格者代理人による本人確認情報】 |
【ⅳ.相続登記関連の原本還付の手続き】
遺産分割協議を行って相続登記の手続きをする場合、遺産分割協議書と相続人の印鑑証明書を登記原因証明情報の一部として提供しなければなりません。
その際、遺産分割協議書だけではなく、相続人の印鑑証明書も原本還付の手続きを取ることが可能です。この点、登記申請情報(登記申請書)または委任状に捺印した申請人の印鑑証明書、第三者の同意または承諾を証する情報(書面)に捺印した人の印鑑証明書の場合と取扱いが異なります。
また、相続登記の登記原因証明情報の一部として提供する被相続人と相続人の相続関係を証明する戸籍謄抄本・除籍謄本・改製原戸籍等も、相続関係説明図を提供すれば原本を返却してもらうことが可能です。
上記内容を含めた相続登記の添付情報(添付書類)に関する原本還付の可否は、以下の表のとおりになります。
【相続登記の添付情報(添付書類)の原本還付の可否】
原本還付可 | 原本還付不可 |
|
|
不動産の登記や会社・法人の登記の申請手続きを行う際、登録免許税という税金を納付しなければならないのが原則です(申請する登記によっては、登録免許税が非課税になるケースもあります。)。そのため、不動産の権利に関する登記や会社・法人の登記の手続きを司法書士へ依頼する場合、報酬以外にも、登録免許税の代金が実費として発生することを把握しておく必要があります。
登録免許税は、納税義務者が決まっていて、納付方法も複数あります。また、申請する登記の内容によって、納付する金額やその算出方法が異なります。
【ⅰ.登録免許税とは】
登録免許税とは、登録免許税法の別表第一に記載されている登記・登録・特許・免許・許可・認可・認定・指定および技能証明について課税される国税(国庫に納付する税金)です(登録免許税法2条)。登録免許税法の別表第一の記載事項には、一定の不動産の登記や会社の登記が含まれています。そのため、課税対象となる登記の手続きを行う際には、登録免許税の納付が必要です。
【不動産登記と登録免許税】
不動産登記の場合、「権利に関する登記」と「表示に関する登記」で登録免許税の課税に関する原則と例外が異なります。
権利に関する登記手続きを行う場合、登録免許税を納付しなけければならないのが原則ですが、一定の場合は非課税になります。
(非課税となる場合の具体例:国や公共法人が不動産の権利を取得して登記名義人になる場合、登記上の地目が「墓地」となっている土地の相続登記を行う場合、評価額が100万円以下の土地の相続登記を行う場合等。)
→ 登記上の地目が「墓地」となっている土地の相続登記についてはこちら
→ 評価額が100万円以下の土地の相続登記についての免税措置についてはこちら
これに対して、表示に関する登記手続きを行う場合は、原則として登録免許税は非課税です。例外として、土地の分筆や合筆等の一定の登記手続きを行う時に、登録免許税が課税される場合もあります。
【登録免許税の納税義務者】
登録免許税は、登記手続を行うことにより、登記を受ける者が納付しなければなりません。登記を受ける者が2人以上いる場合は、これらの者が連帯して登録免許税の納付義務を負います(登録免許税法3条)。
たとえば、被相続人Aの所有不動産を相続人であるBとCの間で遺産分割協議を行い、Bが単独で相続することになり、Bの単独名義とする相続登記を行うとします。この場合、登記を受ける者であるBが相続登記の登録免許税の納付義務を負います。
上記の例で、もし、相続人であるBとCが被相続人Aの所有不動産を相続人であるBとCが共同で相続し、BとCの共有名義とする相続登記を行うとした場合は、BとCが登記を受ける者となり、2人が連帯して登録免許税を納付しなければなりません。
また、会社・法人の登記手続きを行う場合は、登記申請人となる会社(法人)が納付義務を負うことになります。
【登録免許税の納付方法】
登録免許税の納付方法には、以下の3つの方法があります。
現金納付 | 金融機関(日本銀行歳入代理店)で登録免許税を納付する方法(登記申請時には、登録免許税の納付時に受領した領収証書の原本を登記申請の台紙に貼付して法務局に提供します。) |
収入印紙による納付 | 登録免許税額の収入印紙を登記申請の台紙の貼付して法務局に提供する形で納付する方法 |
電子納付(オンライン申請を行う場合のみ利用可能) | インターネットバンキング・モバイルバンキング・ATM等を利用して、登録免許税を電子的に納付する方法 |
司法書士の実務上では、収入印紙による納付を利用する場合が多いですが、オンラインで登記申請を行う場合は、電子納付の方法を利用して納付するケースもあります。
一方、登録免許税の金額が高額(数百万円~数千万円単位の金額)になる場合は、現金納付の方法で登録免許税を納付することもあります。
【ⅱ.課税標準とは】
登記手続きの際に納付する登録免許税額は、課税標準を基準に算出します。課税標準とは、登録免許税の税額計算する際の基準のことです。そのため、申請する登記で納付しなければならない登録免許税額を計算するためには、最初に何が課税標準となるのかを把握する必要があります。
登録免許税算出のための課税標準となる内容は登記の種類によって異なります。主要な不動産登記、会社・法人登記の課税標準は、以下のとおりです。
【不動産登記】
相続、売買、贈与等の所有権移転登記の場合 、原則として不動産の固定資産評価額が課税標準になります。一方、新築建物等の固定資産評価額が出ていない不動産の場合、法務局で定められた認定価格をもとに課税標準を算出します。
抵当権や根抵当権等の担保権の設定登記の場合、債権額(根抵当権の場合は極度額)が課税標準になります。
各種権利の抹消登記の場合、不動産の個数が課税標準となります。 |
【会社・法人登記】
会社の設立登記の場合、株式会社と合同会社の設立は資本金の額、合名会社と合資会社の場合は申請件数が課税標準になります。
役員変更、商号変更、目的変更等の各種変更登記の場合、申請件数が課税標準になります。ただ、本店移転の場合は本店の数が課税標準です。 |
【ⅲ.所有権移転登記の登録免許税の計算方法】
相続・売買・贈与等を原因とする所有権移転登記の登録免許税額は、課税標準に一定の税率を乗じて計算しなければなりません。その際、課税標準に1,000円未満の端数が出た時、その部分を切り捨てて計算します。
また、登録免許税を算出する際、100円未満の端数が出た時も、その部分は切り捨てて計算します。算出した登録免許税が1,000円未満になった場合は、1,000円となります。
【相続登記の登録免許税算出の具体例】
1筆の土地(固定資産評価額:765万4,300円)の相続登記を行う場合の登録免許税は、以下の方法で算出します。
|
個人住宅を新築したり、購入したりする場合、建物の所有権移転登記・所有権保存登記等の不動産の権利に関する登記手続きを行うことになりますが、その際には、原則として、登録免許税を納付しなければなりません。
上記のケースにおいて、住宅用家屋証明書を取得することができれば、建物に関する所有権の登記等に係る登録免許税の軽減措置を受けることができます。
【ⅰ.住宅用家屋証明書とは】
個人住宅を新築したり、購入したりした後、その住宅を当個人の居住用にした場合、一定の要件を満たすことで、建物新築・購入に関連する建物の所有権の登記や抵当権に関する登記手続きを行う際、登録免許税の軽減措置を受けられます。
上記の登録免許税の軽減措置の適用を受けるには、登記手続きを行う際、登録免許税の軽減を受けるための書類を他の登記情報(登記書類)と一緒に提供しなければなりません。そして、登録免許税の軽減を受けるための書類が、住宅用家屋証明書です。
住宅用家屋証明書は、新築または取得した居住用建物の所在地にある市区町村役場で取得することが可能です。住宅用家屋証明申請書を必要書類と一緒に提出した上で、手数料(1,300円)を支払うことにより、住宅用家屋証明書を発行してもらえます。
【ⅱ.適用される登記とその軽減額】
住宅用家屋証明書によって登録免許税を軽減できる登記は、個人が居住目的で新築・購入した建物の所有権保存登記、所有権移転登記と住宅取得資金の貸付等の抵当権設定登記です。
具体的な軽減内容は、以下のとおりです。
【所有権保存登記】
登録免許税の課税標準×1000分の4 → 登録免許税の課税標準×1000分の1.5 ※特定認定長期優良住宅・認定低酸素住宅の場合、2027年(令和9年)3月31日までの期間は、登録免許税の課税標準×1000分の1に軽減 |
【所有権移転登記】
登録免許税の課税標準×1000分の20 → 登録免許税の課税標準×1000分の3 ※戸建て以外の特定認定長期優良住宅・認定低酸素住宅の場合、2027年(令和9年)3月31日までの期間は、登録免許税の課税標準×1000分の1に軽減 ※戸建ての特定認定長期優良住宅の場合、2027年(令和9年)3月31日までの期間は、登録免許税の課税標準×1000分の2に軽減 |
【抵当権設定登記】
登録免許税の課税標準×1000分の4 → 登録免許税の課税標準×1000分の1 |
【ⅲ.住宅用家屋証明書取得のための主な適用要件】
住宅用家屋証明書を取得するには一定の要件を満たす必要がありますが、主な適用要件は以下のとおりです。
|
建物の権利を取得したとき、登記名義を自分のものにするために登記手続きを行います。しかし、建物の権利を取得したにもかかわらず、登記がされていないケースもめずらしくありません。金融機関からの融資を受けないで建物を新築したり、建物の新築後、車庫や物置をあらたに建築したりしたときなど、その傾向がよくみられます。
そこで、建物が未登記の状態になっている場合、登記をしたほうがよいのかについてみていくことにします。
【ⅰ.登記をしておいたほうが好ましい】
未登記の建物がある場合、登記をしておいたほうが好ましいです。建物の登記がされていない場合でも、その所有する権利までなくなってしまうわけではありません。しかし、登記をしておかないと、「この未登記建物は自分の所有者である」ということを他の人に主張できないというデメリットがあります。
また、不動産登記法において、「新築した建物または区分建物以外の表題登記のない建物を取得した者は、その所有権を取得した日から1カ月以内に申請しなければならない」と建物の表題登記の申請義務が定められています。(47条1項)
不動産登記法で定める申請義務に違反した場合、10万円以下の過料の対象となるという規定もあります。実際には過料を受けないケースが大半ですが、だからといって申請義務に違反するのはよいとはいえません。
このようなことから、可能な状況であれば登記をしておきたいところです。
【ⅱ.登記をしなければならない場合】
以下の状況にある場合、未登記の建物の登記手続きをしなければなりません。
【未登記の建物を担保に入れて融資を受ける場合】 銀行などの金融機関が不動産を担保に資金を融資する場合、基本的にその担保不動産に抵当権を設定します。抵当権の設定登記をするには、その不動産の所有権の登記がなければなりません。そのようなことから、建物が未登記である場合、登記をしなければならないのです。 【未登記の建物を売却する場合】 不動産の売買をする場合、買主の権利を保全するため、登記名義を買主に移す登記手続きをするのが通常です。しかし、そのためには、売買による所有権移転登記をするときまでに売主の登記名義になっていなければなりません。したがって、未登記の建物を売却するには、あらかじめ登記をしておく必要があるのです。 【建物の敷地が借地である場合】 借地上に建物がある場合、登記がなければ借地権を地主以外の人に主張することができません。そのようなことから、この場合も未登記の建物の登記が必要になります。 |
【ⅲ.未登記の建物の登記手続き】
未登記の建物は、登記記録がまだおこされていない状態にあります。そのため、まず表示に関する登記手続きを行ったうえで、権利に関する登記の手続きをしなければなりません。
具体的には、建物の登記記録の表題部をおこすために「建物の表題登記」をした後、権利部の甲区に「所有権保存登記」をすることになります。
未登記の建物(戸建ての場合)の建物表題登記と所有権保存登記は、その建物の所有者が申請人となって手続きを行います。
また、未登記の建物(戸建ての場合)が相続物件である場合、相続した相続人が申請人となって建物表題登記と所有権保存登記をすることになります。
【ⅳ.所有している未登記の建物の調べ方】
所有している建物が未登記の状態であるか否かを把握していない方も少なくありません。所有している建物が未登記の状態にあるのか否かを調べるには、どのようにすればよいのでしょうか。
まず、未登記の建物の所在地にある役所で、固定資産評価証明書と名寄帳を取得します。その後、固定資産評価証明書と名寄帳に記載のある建物を指定して、法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得します。
そこで、登記事項証明書を取得できない建物がある場合、それが未登記の建物になります。
また、固定資産評価証明書や名寄帳に未登記の建物が記載されている場合、その建物の登記面積は0㎡で家屋番号もないので、この2点によっても確認が可能です。
夫婦や親子の間で不動産を贈与しようと考えるケースもめずらしくありません。不動産を贈与する場合、贈与者(財産を譲り渡す人)から受贈者(財産を譲り受ける人)へ「贈与」を原因とする所有権移転登記を行います。
ただ、不動産の贈与登記をする際、契約などの法律上の面と税金面において注意しなければなりません。
【ⅰ.不動産の贈与登記をする際には贈与契約書を作成したほうがよい】
贈与者と受贈者の間で不動産を無償で譲り渡す旨の合意が整えば、それだけで贈与契約が成立します。しかし、不動産を贈与する場合、贈与契約書を作成したほうが好ましいでしょう。なぜなら、贈与契約書を作成しておくことで、法律上の面や税金面において、問題の発生を回避できるからです。
贈与契約書を作成するメリットとして、具体的に以下のような点があげられます。
【贈与契約書を作成しておけば当事者間で契約成立後に契約を解除できなくなる】 書面を作成しないで贈与を行った場合、当事者間で契約上の履行が終わった部分を除き、解除することができると定められています。そのため、契約書を作成していないと、成立した贈与契約が解除されてしまう可能性があります。 しかし、贈与契約書を作成して書面による不動産の贈与をすることで、契約成立後に当事者間で契約解除ができないようにすることが可能となるのです。
【贈与契約に関する当事者間のトラブルを防ぐことができる】 口頭だけで贈与契約をした場合、当事者間で契約条項を明確にすることができません。そのため、当事者間で契約内容に関するトラブルになってしまう可能性もあります。 ですが、贈与契約を締結する際、贈与契約書を作成しておけば、当事者間でその契約条項を明確にできます。そのため、契約内容に関するトラブルの発生を防ぐことができるのです。 |
【ⅱ.不動産の贈与登記の際に考慮する必要のある税金】
不動産の贈与登記を行う際、その手続きによって発生する、または発生する可能性のある税金について考慮しなければなりません。なぜなら、贈与する不動産の金額によっては、発生する税額も高額となり、予想外の出費を強いられることもあるからです。
不動産の贈与登記の手続きを行う前に、以下の税金についての考慮が必要です。
【贈与税】 贈与税とは、個人の相手から財産をもらった人に対して課税される税金です。 贈与税は、原則として暦年課税によって課税されます。暦年課税とは、ある人が年間(1月1日から12月31日の間)に贈与を受けた財産の合計額から基礎控除額である110万円を差し引いた金額に課税する方式のことです。 そのため、数百万円から数千万円単位の額の不動産を贈与すると、贈与税の課税対象になることも多く、さらには高額な税金が発生してしまうこともあります。
贈与税の配偶者控除や相続時精算課税制度を活用することで、贈与税の発生を回避できるケースもありますが、それぞれ適用要件が定められています。 したがって、不動産の贈与登記の手続きをするまえに、税務署に問い合わせをしたり、税理士の先生へ相談したりして、贈与税の対象になるか否かの確認をしておいたほうがよいでしょう。
【不動産取得税】 不動産取得税とは、不動産の権利を取得した人に対して課税される税金です。具体的には、売買、贈与、交換などで不動産の権利を取得した場合、この税金の課税対象となります。一方、相続によって不動産の権利を取得したときは、この税金の課税対象外です。 不動産の権利を贈与によって取得すると、軽減や免除対象にならない限り、原則として不動産取得税が課税されてしまいます。そのため、不動産の贈与登記を行う際にも、どのくらいの税額になるのかをしっかり把握しておく必要があります。
【登録免許税】 贈与の登記に限らず、不動産の権利に関する登記手続きをする場合、原則として登録免許税を納付しなければなりません。 不動産の贈与登記をする場合に発生する登録免許税額は、課税標準の額の2%となります。たとえば、贈与登記の対象不動産の固定資産評価額が1000万円だったとしましょう。この場合、20万円の登録免許税を納付しなければなりません。 登録免許税は、贈与税や不動産取得税とは違い、必ずおさめなければならない税金となります。そのため、不動産の贈与登記を行うまえに、納付しなければならない登録免許税の額を把握しておいたほうがよいでしょう。 |
不動産登記を行う場合、司法書士などの専門家へ依頼して手続きをするのが一般的です。その際、本人に代わって登記申請を行う司法書士は、申請書と一緒に代理権限証明情報を提出することになります。
【ⅰ.不動産登記手続きの代理権限証明情報とは】
不動産の登記申請を行う際に提出する代理権限証明情報とは、登記申請代理権の存在を証明する情報(書類)のことです。司法書士が本人から不動産登記申請の委任をされた場合、手続きの際に代理権限証明情報として委任状を提出します。
また、未成年者や成年被後見人などの制限行為能力者が登記申請人となるとき、その法定代理人が代わりに手続きを行うのが通常です。この場合、未成年者の親(親権者)や成年後見人は、法定代理権を証明できる戸籍謄本や成年後見登記事項証明書を代理権限証明情報の一部として提出しなければなりません。
代理権限証明情報として提出する書類であって、市区町村、登記官その他公務員が職務上作成したものである場合、発行から3ヶ月以内のものでなければなりません。したがって、戸籍謄本や成年後見登記事項証明書を代理権限証明情報の一部として提出する場合、発行から3ヶ月以内のものを準備する必要があります。
一方、会社などの法人が申請人となって不動産の登記手続きを行う場合、法人の代表者の資格を証明できる書類の提出は原則不要となっています。なぜなら、不動産登記令、不動産登記規則等の一部が改正されて、2015年(平成27年)11月2日より、不動産登記の申請人となる法人が「会社法人等番号」を提供すれば、資格証明書(会社の履歴事項証明書、代表者事項証明書など)の提出を省略できるようになったからです。
→ 法人が申請人となる不動産登記手続きの添付情報の変更についてはこちら
【ⅱ.委任状への記載事項について】
不動産登記手続きの代理権限証明情報として提出する委任状には、本人が司法書士へ依頼する登記手続きの内容が記載されます。具体的には、登記申請にかかる登記事項、登記申請の当事者、対象となる不動産の表示、委任の年月日などです。
また、不動産の登記申請の際に提出する登記原因証明情報の記載事項から、委任する登記手続きの範囲が明確になっている場合があります。このようなときは、登記原因証明情報の記載事項を援用して、委任状の記載事項の一部を省略することが可能です。
【ⅲ.登記手続きの委任者本人が亡くなったり、法人の代表者に変更があったりした場合】
本人が司法書士へ登記申請の依頼をした後、実際に手続きするまで期間があくケースもあります。その間に申請人となる本人が亡くなったり、法人の代表者が変更になったりする可能性もゼロではありません。
そこで、上記のような状況になった場合、申請人側からの不動産登記申請の依頼によって生じた司法書士の代理権の効力はどのようになるのでしょうか。
民法の規定では、本人が亡くなると代理権は消滅するとされています。しかし、不動産登記法には、登記申請代理権の不消滅に関する規定が設けられているので、不動産登記申請の依頼後、手続き前に本人が亡くなっても登記申請の代理権は消滅しません。そのため、司法書士は本人からの委任状を使用して登記手続きをすることが可能です。
また、登記申請人である法人の代表者が変更したときも、上記と結論は同じになります。
不動産の売買や贈与を原因とする登記手続きを行う場合、原則として売主や贈与者が権利を取得したときの登記識別情報を提供(登記済証を提出)しなければなりません。
そこで、複数回に分けて権利を取得した不動産を売買したり、贈与したりする際、登記手続きをするにおいて、どの登記識別情報を提供(登記済証を提出)しなければならないのかについてみていきます。
【事例】
平成15年8月1日にAB夫婦が不動産を購入して、持分2分の1ずつの共有名義で登記しました。 その後、令和6年9月1日にAが亡くなったので、Aの相続人である配偶者Bへ上記不動産のA名義の持分を移転させるために相続登記の手続きをしました。(登記申請日は令和6年10月1日) そして、Bが住み替えのために引っ越しをすることになったので、上記不動産を他の人へ売却することになりました。 その際、売買による所有権移転登記を申請するためにBはどの登記識別情報を提供(登記済証を提出)しなければならないのでしょうか。 |
【結論】
売買による所有権移転登記を行う場合、登記義務者である売主がその不動産の権利を取得したときに発行されたすべての登記識別情報を提供(登記済証を提出)しなければなりません。
売主であるBは、平成15年8月1日に不動産を購入した際、持分2分の1の権利を取得しています。また、令和6年10月1日にAの死亡に基づく相続登記を行い、Aの持分である2分の1の権利を取得して単独所有者となりました。
そのため、平成15年8月1日に登記申請をしたときに発行された登記済証(平成17年の不動産登記法改正前であるため、登記識別情報制度はまだ設けられていません。)と令和6年10月1日に登記申請をしたときに発行された登記識別情報が両方必要となるのです。
上記2つのうち、どちらか1つを紛失または失念してしまった場合、登記識別情報を提供(登記済証を提出)できないときの代替の方法で登記手続きしなければなりません。
住宅ローンを完済した場合、借入先の金融機関が設定した抵当権も消滅することになります。それにより、住宅ローンの借入に基づいて設定された抵当権の登記も外すことが可能となり、金融機関から抵当権抹消登記の手続きをするための必要書類を発行してもらえます。
しかし、金融機関から書類を発行してもらったものの、つい抵当権抹消登記の手続きを後回しにしてしまい、そのまま長い期間手続きをしないで放置してしまうこともあります。その後、抵当権抹消の登記手続きをしなければならない状況になり、手続きをしようと考えても、当時発行してもらった書類をなくしてしまったというのもよくある話です。
そこで、上記のように手続きに必要な書類を紛失してしまった場合、どのように抵当権抹消の登記手続きをするのかみていきます。
【ⅰ.抵当権抹消登記の手続き書類を金融機関から再発行してもらう】
抵当権抹消の登記手続きをする際、以前発行してもらった必要書類を紛失してしまった場合、金融機関へ書類の再発行手続きの依頼をします。書類の再発行の依頼は、原則として当事者本人自身で行わなければなりません。
依頼を受けた金融機関は、当事者本人の住宅ローンの利用実績や完済状態にある旨を確認したうえで、書類の再発行の手続きをしてくれます。
再発行の手続き開始後、数週間程度で書類を準備してくれるのが通常です。抵当権抹消の登記手続きに必要な書類がすべて整った場合、当事者本人が金融機関の店舗まで出向いて書類を受領することになります。
【ⅱ.再発行してもらえる書類とできない書類がある】
抵当権抹消の登記手続きをする場合、一定の書類を申請書と一緒に提出しなければなりません。
そして、金融機関側は、抵当権抹消の登記手続きに必要な書類をすべて再発行してくれるわけではありません。再発行してもらえる書類と再発行できない書類があります。
抵当権解除証書などの登記原因証明情報や金融機関側の登記委任状などの書類は再発行してもらえます。
しかし、抹消対象の抵当権の設定登記をしたときに発行された登記識別情報または登記済証(登記済の赤い判がある抵当権設定契約書など)は再発行してもらえません。
【ⅲ.書類を紛失した場合の抵当権抹消の登記手続き方法】
抵当権抹消の登記申請をする際、抹消対象の抵当権の設定登記がされたときに発行された登記識別情報を提供(登記済証を提出)しなければならないのが原則です。
しかし、抵当権抹消登記の手続きに必要な書類を紛失してしまい、金融機関に再発行の手続きをしてもらっても、登記識別情報または登記済証を再発行することはできません。そのようなことから、登記識別情報を提供(登記済証を提出)できないときの代替の方法によって、抵当権抹消の登記手続きをする必要があります。
→ 登記識別情報を失念(登記済証をなくした)ときの登記手続き方法についてはこちら
上記の代替の手続き方法には、事前通知制度と資格者代理人による本人確認情報制度があります。
抵当権抹消登記の場合、事前通知制度を利用して手続きするのが一般的です。
また、抵当権抹消登記を事前通知制度または資格者代理人による本人確認情報制度を利用して手続きする場合、抵当権者である金融機関側の登記委任状には、実印が捺印されていなければならないので注意が必要です。
そのため、事前通知制度または資格者代理人による本人確認情報制度を利用して抵当権抹消登記を申請する際、金融機関の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)も提出しなければなりません。
金融機関の印鑑証明書は、抵当権抹消登記の必要書類の再発行手続きの際、一緒に用意してもらえます。
金融機関から発行を受けた抵当権抹消書類を紛失した場合でも、抵当権抹消登記の手続きはできますが、通常よりも少し手間がかかります。
→ 手続きに必要な書類を紛失してしまった場合の抵当権抹消登記についてはこちら
抵当権抹消登記の必要書類を紛失してしまう原因は人それぞれですが、そのなかでも住宅ローンを完済した後、抵当権抹消登記の手続きをしないまま長期間が経過し、発行された書類がどこかにいってしまったというケースが多いです。
当事務所においても、そのような状況にある方からご相談があり、実際に手続きさせていただいたケースがいくつかありますが、その事例の1つを紹介させていただきます。
【事例】
夫が亡くなり、夫名義の不動産を妻へ相続登記をして欲しいというご依頼があり、手続きをさせていただくため登記情報を確認したところ、以下の名義で抵当権が1つ設定されていました。
住 所 | 東京都品川区西五反田(番地以降省略) |
抵当権者 | ファミリー信販株式会社 |
(上記抵当権は昭和58年に設定)
こちらの業者からの借入はかなり前に完済しており、抵当権抹消登記の手続きだけされていないという状況でした。
そのため、上記の抵当権の抹消登記も、当初ご依頼いただいた相続登記といっしょに手続きさせていただくことになりました。
【当事務所でのお手続き】
抵当権抹消登記のお手続きをさせていただくためには、金融機関から発行してもらった書類が必要となります。そのため、借入を完済されたときに金融機関より発行してもらった抵当権抹消登記書類を探していただきました。その結果、登記済の判のある抵当権設定契約書だけ発見していただくことができました。
登記済の判のある抵当権設定契約書は、抵当権者側の登記済証にあたります。そのため、抵当権者である金融機関にその他の書類を再発行してもらえば、手続きが可能という状態であることがわかりました。
上記ご依頼の抵当権抹消の登記手続きをさせていただくためには、まず抵当権者であるファミリー信販側に登記済証(登記済の判のある抵当権設定契約書)以外の書類を再発行してもらう必要があります。そのため、まずこの業者がどのような状態なのか調査させていただきました。
調査の結果、ファミリー信販は、オリックスクレジット株式会社へ社名を変更していたことがわかりました。その後、抵当権抹消登記の書類の再発行手続きについて、オリックスクレジット株式会社のローン担当者の方に連絡しました。
担当者の方からは、設定されている抵当権が把握できる登記情報を送っていただき、ご依頼者の借入や完済に関する履歴を確認できれば、ご対応する旨の回答をいただきました。ただ、抵当権抹消登記の書類は当事務所側で作成したものにオリックスクレジット株式会社側が署名捺印をして書類を返送するという形にしてほしいとのことでした。
相手の金融機関が銀行などの場合、当事者本人からのご連絡がないと、抵当権抹消登記の書類の再発行に応じてくれないケースも少なくありません。ですが、この業者は当事務所からのご連絡だけで対応してもらえたので、その点はスムーズに手続きを進めることができました。
当事務所側でファミリー信販名義の抵当権が設定されている登記情報を送った後、オリックスクレジット株式会社側から借入と完済の履歴の確認がとれた旨の連絡がありました。その連絡を受けて、当事務所側で作成した抵当権抹消登記の書類を送付し、その数日後に署名捺印していただいた書類を含む抵当権抹消登記の書類一式を送っていただきました。
そして、相続登記の申請の準備が完了した後、一緒に登記手続きをさせていただき、無事ファミリー信販名義の抵当権を外すことができました。
農地の相続登記の手続きのご依頼を受ける際、その対象不動産に農工銀行名義の抵当権が設定されているケースが散見されます。通常の抵当権抹消登記であれば、手続きをする際、それほど困難が生じることは基本的にありません。
ですが、農工銀行の抵当権は、明治、大正、昭和初期くらいの年月日で設定されています。そのため、どのように抹消登記の手続きを行えばよいのかよくわからないという方も多いです。
農工銀行名義の抵当権が設定されている農地を相続した後に売却しようとする場合、農工銀行の抵当権設定登記の抹消登記の手続きをしなければならないのが原則です。そのため、今のうちに抹消登記の手続きをしておいたほうが好ましいといえます。
そこで、農工銀行名義で設定されている抵当権の抹消登記の手続き方法についてみていきます。
【ⅰ.農工銀行について】
農工銀行とは、農工業の改良発達のための貸付を目的とした特殊銀行で、明治33年8月以降、北海道を除く全府県に各1行ずつ設立されました。
しかし、大正10年に日本勧業銀行と農工銀行の合併に関する法律が制定されて、その後、全国各地の農工銀行はすべて日本勧業銀行に合併されました。
農工銀行は、以下のような経緯をたどり、現在ではみずほ銀行がその権利義務を承継しています。
ⅰ 大正10年から昭和19年の間にかけて各都府県の農工銀行が日本勧業銀行に合併される |
ⅱ 昭和46年に日本勧業銀行が第一勧業銀行に銀行名を変更 |
ⅲ 平成14年の銀行再編の際、第一勧業銀行がみずほ銀行に銀行名を変更 |
ⅳ 平成25年にみずほ銀行はみずほコーポレート銀行に合併される |
ⅴ ⅳの合併と同時にみずほコーポレート銀行はみずほ銀行へ銀行名を変更 |
【ⅱ.農工銀行名義の抵当権抹消登記手続き】
ⅰのとおり、農工銀行の当時の権利義務は、みずほ銀行へ承継されています。そのため、農工銀行名義の抵当権の抹消登記手続きも、みずほ銀行へ連絡して手続きを進めていくことになります。
具体的な手続きの流れは、以下のとおりです。
【1.農工銀行抹消登記書類の発行請求】
みずほ銀行へ連絡をした後、農工銀行名義の抵当権が設定されている土地の登記情報を提供したうえで、抹消登記書類の発行を請求します。
請求を受けたみずほ銀行側は、提供した登記情報などを確認したうえで、抹消登記書類発行手続きのための書類(抵当権抹消依頼書 借用書)を出してくれます。
上記2つの書類に必要事項を記載したうえで、みずほ銀行へ提出します。
【2.農工銀行抹消登記書類の発行および受領】
抵当権抹消依頼書と借用書を提出後、みずほ銀行側は書類の発行手続きを進めてくれます。農工銀行からみずほ銀行への権利承継を証明する書類を準備することになるので、書類発行まで1週間から2週間程度かかるのが通常です。
書類が整ったら、みずほ銀行側からその旨の連絡があります。その後、みずほ銀行の店舗まで出向いて、書類を受領する形になります。
【3.農工銀行の抵当権抹消登記手続き】
みずほ銀行より、農工銀行の抵当権抹消登記書類を発行してもらった後、登記手続きを行います。農工銀行からみずほ銀行へ権利承継される過程で2回合併しています。そのため、抹消登記の原因日付によっては、合併移転の登記をしてから、農工銀行の抵当権抹消登記の手続きをしなければなりません。
しかし、みずほ銀行側で合併移転の登記が不要となる日付を登記原因日付して、抵当権抹消登記の手続きをすることを認めてくれます。そのため、1件の申請で抵当権抹消登記の手続きをすることが可能です。
ただ、農工銀行の抵当権が設定されたときに発行された登記済証は、再発行してもらえません。そのため、登記済証を提出できないときの代替の方法で手続きをすることになります。
農工銀行の抵当権抹消登記の場合、事前通知制度を利用して申請手続きを行います。
事前通知制度を利用して登記手続きを行う場合、手続き完了までの時間が長くなるのが通常です。特にみずほ銀行の本店所在地(東京都)から遠方の場所にある法務局へ登記手続きをする際には、申請から完了まで2週間程度かかってしまうケースもあります。
【ⅲ.当事務所での農工銀行の抵当権抹消登記手続き】
当事務所においても、農工銀行の抵当権抹消登記の手続きを受託させていただいております。当事務所の所在地(埼玉県狭山市)近辺の方だけではなく、遠方からのご依頼も承っております。
当事務所へ農工銀行の抵当権抹消登記のご依頼をいただいた際、以下の費用でお手続きをさせていただきます。
司法書士報酬 | 55,000円(税込) |
実費(登録免許税、書類発行手数料など) | 10,000〜15,000円程度 |
交通費 | 数千円〜 |
受託させていただいている事案にもよりますが、総額費用は70,000円前後になるのが通常です。
ただ、遠方所在地の土地の抹消登記手続きの場合、交通費の金額が数万円単位になる場合もございます。(具体的内容は下記をご参照お願い致します。) このような場合、お手続き費用の額が上記よりも高くなります。
また、当事務所で農工銀行の抹消登記の手続きをさせていただく際、以下の点をご了承いただけますようよろしくお願い致します。
【1.抹消登記書類発行の際に手数料がかかります】 みずほ銀行から農工銀行の抵当権抹消登記に必要な書類を発行してもらう際、手数料(5,000円+消費税)がかかります。当該発行手数料は、ご依頼者の方のご負担となっております。
【2.通常の抵当権抹消登記手続きよりも完了まで時間がかかります】 農工銀行の抵当権抹消登記の手続きをさせていただくには、みずほ銀行より必要書類を発行してもらう必要があります。同手続きの取扱い数はそれほど多いというわけではございません。そのため、みずほ銀行の担当者の方によっては、不慣れが原因で書類の準備に時間がかかってしまうケースもございます。 また、通常、事前通知制度を利用して登記手続きをさせていただくので、その点でも時間がかかってしまいます。 ご依頼内容によっては、お手続きから完了まで1カ月以上かかってしまう可能性もございます。そのようなことから、お手続きを急ぎたいという方は、なるべく早めにご依頼いただいたほうが確実です。
【3.書類再発行先の支店までの往復分の交通費が発生します】 農工銀行の抵当権抹消登記書類の再発行請求は、お手続き対象の土地の所在地を管轄する支店に対して行うのが原則です。 そのため、お手続き対象となる土地の所在地にあるみずほ銀行の支店まで出張させていただき、農工銀行の抵当権抹消登記書類を受領させていただく必要がございますので、上記の基本手数料の他、現地までの往復分の交通費が別途発生いたします。 |
贈与とは、ある人が他の人へ無償で財産を与えるという内容の契約のことで、原則として贈与契約が成立した日にその効力が生じます。しかし、契約当事者間で贈与者が死亡したときにその効力が成立する内容の贈与契約を締結することも可能です。このような贈与契約のことを死因贈与といいます。
そこで、死因贈与にはどのような特徴があるのか、登記手続き方法と合わせてみていくことにします。
【ⅰ.死因贈与の特徴】
死因贈与は、贈与者が死亡したときに贈与の効力が生じるので、遺贈と同じような効果をもたらせます。そのため、死因贈与は、その性質に反しない限り、遺贈の規定が準用されているのです。
たとえば、遺言で財産を承継させようとする場合、遺言執行者を定める場合も少なくありませんが、死因贈与の契約を締結する際にも、執行者を定めることが可能です。また、法の規定の準用ではありませんが、財産を無償で承継した人が相続税の対象になる点も、死因贈与と遺贈は共通しています。
これに対して、死因贈与は、当事者間で合意によって行うものであるのに対し、遺贈は財産を承継させる人の一方的な意思表示によって行うものであるなど、その性質が相違する点も少なくありません。
そのため、遺贈の規定が準用されていない事項も一定数あります。具体的には以下のとおりです。
【遺言能力】
民法では15歳になると遺言をすることができると定められています。そのため、遺言能力があれば、成年に達しなくても遺言をすることが可能です。
しかし、死因贈与は遺言能力に関する規定は準用されていないので、成年に達しなければ原則として自分1人で契約を締結することができません。
【遺言の方式】
遺言は民法の規定にしたがって遺言書を作成しなければ、原則として無効となってしまいます。
一方、死因贈与の場合、遺言の方式に関する規定は準用されていないので、自由な方式で死因贈与契約書を作成することが可能です。また、契約書を作成しないで、当事者間の口約束のみによって契約を締結できます。
【遺贈の放棄】
遺贈が特定遺贈の場合、受遺者は遺言者が死亡した後、いつでも放棄することができます。包括遺贈の場合は、相続放棄の規定が準用されるので、被相続人が死亡して、そのことにより自分が相続人になったことを知ったときから3ヶ月以内に放棄をすることが可能です。
しかし、遺贈の放棄に関する規定は死因贈与に準用されていません。少なくとも契約書を作成して死因贈与の契約をした場合、原則として受贈者1人で放棄することはできません。
【ⅱ.死因贈与による不動産の登記手続き方法】
不動産を死因贈与契約の対象とした場合、契約の効力が生じると贈与者から受贈者へ権利が移転します。そのため、不動産の名義を贈与者から受贈者へ変更する登記手続きをしなければなりません。
死因贈与による不動産の登記手続きは、契約の効力が発生したときに贈与者から受贈者へ所有権移転登記をする方法により行います。しかし、契約の際に受贈者名義の仮登記をした後、死因贈与の効力が発生したときに本登記をすることも可能です。
上記2つの具体的な登記手続き方法は、以下のとおりです。
【効力発生後に所有権移転登記する方法】
一般の贈与と同じように贈与者と受贈者が共同で登記手続きをします。しかし、贈与者はすでに死亡しているので、登記手続きに関与できません。この場合、受贈者と贈与者の相続人全員が共同で登記申請手続きを行います。
死因贈与契約書に死因贈与執行者の指定がある場合、執行者が贈与者の代わりに手続きに関与します。
ただ、執行者を指定して死因贈与の登記手続きを行う場合、契約書を公正証書にしておいたほうが好ましいといえるでしょう。なぜなら、契約書が私署証書(私人が作成して署名捺印した文書)である場合、登記手続きをする際に、執行者の印鑑証明書だけでなく、贈与者が契約書に捺印した実印についての印鑑証明書または贈与者の相続人全員の承諾書(印鑑証明書付)を提出しなければならないからです。
死亡した贈与者の印鑑証明書が用意できない場合、その相続人全員から承諾書へ実印で捺印してもらったうえで印鑑証明書を準備してもらわなければなりません。贈与者の相続人のなかで非協力的な人がいる場合、手続きを進めるのに支障が出てしまう可能性も出てきます。
そのようなことから、死因贈与の登記手続きをスムーズに進めるために、契約書を公正証書にしておいたほうがよいのです。
【契約のときに仮登記をした後、効力発生したときに本登記をする方法】
死因贈与の契約を締結した場合、贈与者の死亡を始期とする所有権移転仮登記の手続きをすることが可能です。上記仮登記は、死因贈与の贈与者と受贈者の共同で手続きするのが原則ですが、贈与者の承諾があれば、受贈者が単独で手続きできます。
死因贈与の始期付所有権移転の仮登記を受贈者の単独申請の形で手続きをする場合、贈与者の印鑑証明書を承諾書と一緒に提出しなければならないのが原則です。
しかし、死因贈与契約書を公正証書で作成し、その契約書のなかに「贈与者が死因贈与に基づく所有権移転仮登記を承諾する」旨の文言をいれておけば、贈与者の印鑑証明書を提出することなく手続きができます。
贈与者が死亡して、死因贈与の効力が発生した後は、受贈者と贈与者の相続人全員または執行者が共同で仮登記の本登記手続きを行います。
他の人へ自分の財産を贈与する場合、対象財産の額が基礎控除額(年間110万円)以上になると、受贈者(財産をもらう人)に対して贈与税が課せられるのが原則です。そのため、長い間一緒に生活してきた配偶者(結婚相手)に対して、感謝の気持ちとして自分の財産を贈与しようとしても、贈与税がネックとなってなかなかできない方も少なくありません。
しかし、居住用の不動産であれば、状況によって無税で自分の配偶者に対して贈与できる場合があります。配偶者へ居住用の不動産を贈与する際、贈与税の配偶者控除の適用を受けられる場合があるからです。
そこで、贈与税の配偶者控除とはどのような制度なのかについてみていきます。
【ⅰ.贈与税の配偶者控除とは?】
贈与税の配偶者控除とは、夫婦間で居住用の不動産または居住用の不動産を取得するための金銭の贈与がされたとき、一定の条件を満たす場合に贈与税の課税価額から2,000万円の控除ができる制度です。贈与税には、年間110万円の基礎控除の制度が設けられていますが、贈与税の配偶者控除と併用して適用を受けることができます。そのため、最大で2,110万円の控除を受けられるのです。
居住用の不動産を購入してからある程度の期間が経過した場合、その価額が2000万円以内になっているケースもめずらしくありません。そのため、贈与税の配偶者控除の制度を利用すれば、贈与税が課税されない状態で配偶者へ居住用の不動産の権利を移転できることも多いです。
贈与税の配偶者控除の適用を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
贈与税の配偶者控除の適用が受けられるのは、婚姻から20年経過した後に行われた配偶者への贈与になります。ここでの「婚姻」とは、戸籍上で婚姻関係があることを意味します。内縁などの事実婚の場合、贈与税の配偶者控除の適用は受けられません。 また、贈与税の配偶者控除の適用対象となる贈与財産は、居住用の不動産そのものだけではなく、居住用の不動産を取得するための金銭も含まれます。 それから、2018年(平成30年)の相続法改正により、婚姻期間が20年以上である夫婦のうち、一方の配偶者が他方の配偶者に対して、居住用の建物またはその敷地を遺贈または贈与した場合、特別受益の持戻し免除の意思表示があったものと推定する旨の規定が設けられました。 → 特別受益の持戻し免除の意思表示に関する推定規定についてはこちら この規定も、贈与税の配偶者控除の条件である「婚姻期間が20年以上経過した」に合わせて決められています。
配偶者から贈与を受けて取得した居住用の不動産または配偶者から贈与を受けた金銭で取得した居住用の不動産に贈与を受けた年の翌年3月15日までに住んでいることが必要です。 また、贈与を受けた年の翌年3月15日に住んでいるだけではなく、その後も住み続ける見込みであることも要件となっています。
贈与税の配偶者控除の適用を受けるためには、贈与税の申告をしなければなりません。 受贈者である配偶者は、財産の贈与を受けた日から10日経過した以後に発行された戸籍や戸籍の附票、居住用の不動産の贈与を受けたことを証明できる登記事項証明書、固定資産証明書などの書類を一緒に提出して申告します。
贈与税の配偶者控除の制度は、同じ配偶者への贈与に対しては一度しか利用できません。そのため、以前にこの制度の適用を受けて配偶者へ贈与をしていないことが条件となります。 |
【ⅱ.居住用不動産の範囲について】
贈与税の配偶者控除の対象となる居住用不動産とは、受贈者である配偶者が居住の用に供する国内の家屋またはその家屋の敷地のことです。また、家屋の敷地は、所有権だけでなく借地権も含みます。
この控除の適用を受けるには、家屋と家屋の敷地を一括して贈与しなければならないわけではありません。家屋または家屋の敷地のどちらか一方の贈与でも控除の対象となります。
【ⅲ.贈与税の配偶者控除の適用を受ける際のメリットとデメリット】
贈与税の配偶者控除の適用を受けて贈与した財産は、贈与者の相続が発生したとき、相続税の計算において有利な扱いを受けられます。
相続が発生する前の3年以内に被相続人が他の人へ贈与した場合、その贈与財産の額は、相続税の課税価格に加算されるのが原則です。しかし、贈与税の配偶者控除の適用を受けて贈与した場合、その財産額は相続税の課税価格に加算されません。
そのようなことから、贈与税の配偶者控除の適用を受けて贈与を行うと、贈与者の相続に関する相続税対策になるというメリットがあります。
一方、贈与税の配偶者控除の適用を受けて居住用の不動産を贈与した場合、通常の贈与と同様、受贈者に対して登録免許税が課税されます。また、不動産取得税も課税対象となるのが原則です。手続きの際にこれらの税負担をしなければならない点がデメリットになります。
居住用の不動産の贈与契約および登記手続きをする際には、この点について事前に把握しておく必要があります。
不動産を贈与する場合、原則として、不動産の贈与を受ける方に対して贈与税などの税金がかかるため、税負担の金額がどのくらいになるのかを考慮したうえで、手続きを進めるか否かを決めなければなりません。
一方、親から子へ不動産の贈与を行う場合、相続時精算課税制度を活用することで、贈与税の負担を回避できるケースもあります。そのため、相続時精算課税制度を活用した上で、不動産の親子間贈与を考える方も少なくありません。ただ、相続時精算課税制度を活用して不動産の親子間贈与を行った結果、かえって税負担が大きくなってしまう場合もあるため注意が必要です。
そこで、相続時精算課税制度と当制度を活用する際の注意点について解説していきます。
【ⅰ.相続時精算課税制度とは?】
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親または祖父母から20歳以上の子どもや孫へ財産を贈与した際に選択できる贈与税の制度です。相続時精算課税制度を選択した場合、それ以降、相続時精算課税適用財産(当制度の選択に係る贈与者より贈与を受けた財産)の贈与時の価額から2,500万円の特別控除額を差し引いた後の価額が贈与税の課税対象となります。(すでに相続時精算課税制度を選択されていて、使用済の特別控除額がある場合、「2500万円-使用済の特別控除額」の金額が特別控除額の限度額となります。)
法改正により、2024年(令和6年)1月1日以降に贈与を受けて取得した相続時精算課税適用財産(相続時精算課税制度の選択に係る贈与者より贈与を受けた財産)については、当財産の贈与時の価額から1年ごとに基礎控除額110万円が控除されることとなり、当控除の残額から特別控除額を差し引いた価額が贈与税の課税対象となります。 |
相続時精算課税制度の詳細は、以下の国税庁のHPにて、ご確認お願い致します。
不動産の価額は、数百万円から数千万円単位の金額のなるのが通常です。そのため、親子間で不動産の贈与をする際、暦年課税制度によって贈与税を算出する(年間の贈与額の合計から110万円を控除して計算する)ことにしてしまうと、贈与税の課税対象になってしまう可能性のほうが高くなります。贈与する不動産の価額によっては、課税される贈与税の金額が高額なる可能性もあります。
しかし、上記のようなケースでも、相続時精算課税制度を選択すれば、贈与税の支払いを回避できる場合もあります。たとえば、相続時精算課税制度を選択した上、2500万円の不動産を親から子へ贈与したとします。この場合、贈与対象の不動産の価額は、相続時精算課税制度の特別控除額の範囲内におさまるため、贈与税の課税対象価額は0になり、贈与税も課税されません。
【ⅱ.相続時精算課税制度を活用する際の注意点】
相続時精算課税適用財産(当制度の選択に係る贈与者より贈与を受けた財産)の贈与時の価額は、当制度の選択の対象贈与者の死亡による相続税の課税価額に加えられます。もし、将来的に相続税の申告が必要になると考えられる場合にこの制度を選択してしまうと、逆に納税額が多くなってしまうケースも出てきてしまうため注意が必要です。その際、相続時精算課税制度から暦年課税制度へ変更したいと考えてもそれはできません。したがって、相続時精算課税制度の選択によって生じる不利益を考慮しながら、この制度を活用するか否かを決めていく必要があります。
法改正により、2024年(令和6年)1月1日以降に贈与を受けて取得した相続時精算課税適用財産(当制度の選択に係る贈与者より贈与を受けた財産)については、当財産の贈与時の価額から基礎控除額110万円を控除した残額が、相続時精算課税制度の選択の対象贈与者の死亡による相続税の課税価額に加えられることとなりました。 |
それから、遺留分との関係にも注意したほうがよいでしょう。遺留分とは、法定相続人に保証された一定割合の相続分のことです。
贈与の受贈者である子は、贈与者の親の相続人であるのが原則です。贈与を受けた人が相続人である場合、相続開始前の10年間に特別受益となる生前贈与がされた分は、遺留分算出の基礎財産に含まれます。相続時精算課税制度によって親から子になされた不動産の生前贈与は、原則として、生計の資本としての贈与となるため特別受益にあたります。
その結果、親の相続開始前の10年間に親子間による不動産の生前贈与がなされた場合、遺留分算出の基礎財産にその贈与不動産の価額が含まれてしまうのが通常です。したがって、相続時精算課税制度を活用して不動産の親子間贈与を行う場合、贈与者の相続人の遺留分についても考慮しておくことが大切です。
住宅ローンを完済後、銀行などの金融機関から書類を発行してもらった後、抵当権抹消登記の手続きを進めていきます。単独所有不動産の抵当権抹消登記であれば、その所有者と抵当権者が一緒に手続きを行えばよいでしょう。
しかし、不動産の所有者が複数人、つまり共有である場合もめずらしくありません。また、抵当権設定後、設定者に相続が発生するケースもあります。
そこで、このような場合の抵当権抹消登記の申請人や申請方法についてみていきます。
【ⅰ.設定者が共有の場合】
不動産登記の手続きは、登記手続きによって利益を受ける人(登記権利者)と不利益を受ける人(登記義務者)が共同して行うのが原則です。そのため、共有者全員と抵当権者が抵当権抹消登記の申請人になります。
しかし、この場合、必ずしも共有者全員が抵当権者と共同で手続きを行わなければならないわけではありません。抵当権設定者が共有である場合、共有者の一人が抵当権者と共同で抵当権抹消登記の手続きができます(登記研究425・127等)。抵当権抹消登記の手続きは、民法252条但書の保存行為にあたるとされているからです。
ただ、申請書には、抵当権設定者として共有者全員の住所と氏名を記載しなければなりません。
【ⅱ.抵当権が消滅した後に設定者が亡くなった場合】
設定した抵当権が消滅した後、抵当権抹消登記の手続きをする前に設定者が亡くなったとします。その際、抵当権抹消登記の手続きをする前に、設定者の相続登記をする必要があるのでしょうか。
このようなケースでは、相続登記をすることなく、設定者の相続人と抵当権者が共同して抵当権抹消登記の手続きをすることが可能です(登記研究661・225等)。設定者の相続人が複数である場合、そのうちの一人が抵当権者と共同して抵当権抹消登記の手続きを行うことができます。
一方、設定者が亡くなった後、抵当権が消滅した場合、いきなり抵当権抹消登記の手続きはできません。このようなときは、まず設定者の相続登記をした後、抵当権抹消登記の手続きをする必要があります。団体信用生命保険によって住宅ローンが完済になった場合、この手順により抵当権抹消登記の手続きを行います。
不動産登記令、不動産登記規則等が一部改正され、2015年(平成27年)11月2日より、法人が申請人となる不動産登記手続きの添付情報が変更となりました。また、2020年(令和2年)3月30日から、同法令等の改正により、法人の代表者の印鑑証明書の提供に関する取扱も変更となっています。
【ⅰ.法人の資格証明書について】
これまで、会社などの法人が申請人となって不動産登記手続きを行う際、原則として代表者事項証明書や登記事項証明書など代表者の資格証明書を提出しなければなりませんでした。
しかし、2015年(平成27年)11月2日より、原則として申請人となる法人の「会社法人等番号」を提供すれば、代表者の資格証明書を提出する必要がなくなりました。会社法人等番号とは、商業法人登記をしている会社等の法人に対して付される12桁の識別番号のことです。会社法人等番号は、登記申請書の申請人欄のところに記載して提供することになります。
ただ、例外として、申請人となる法人の発行後3カ月以内の登記事項証明書を提出することで、会社法人等番号の提供に代えることができます。法人が会社法人等番号を提供して不動産登記の申請をする際、手続きの遅延が発生しないようにするため、このような例外の制度を設けたのです。
法人が会社法人等番号を提供して不動産登記の申請を行った場合、法務局側は当該法人の登記情報を閲覧して代表者を確認します。しかし、その前に当該法人の登記が申請されているときは、登記情報を閲覧して当該法人の代表者を確認できません。そのため、当該法人登記の手続き完了後、登記情報が閲覧できる状態になってから申請された不動産登記の審査に入るのです。それにより、通常より不動産登記の手続きが遅れてしまうケースも出てきてしまいます。
上記のような状況が生じても、発行後3カ月以内の登記事項証明書を提出して法人が不動産登記の申請を行えば、法務局側はそれを元に審査するのでスムーズに手続きが進めることが可能となります。それにより、不動産登記の手続き遅延を防ぐことができるのです。
【ⅱ.法人の住所証明書について】
不動産の所有権を取得して、所有権保存登記や所有権移転登記を行う場合、原則として登記名義人になる個人や法人の住所証明書を提出しなければなりません。新たに所有権登記名義人になる個人や法人が、実在しているか否かを確認する必要があるからです。
法人が所有権登記名義人となる登記手続きを行う場合、これまでは代表者事項証明書または登記事項証明書を住所証明書として提出していました。しかし、2015年(平成27年)11月2日より「会社法人等番号」を提供することにより、住所証明書の提出を省略できるようになっています。
【ⅲ.法人の変更証明書について】
不動産の登記名義人である法人が本店移転を行った場合、それにともなって当該法人の住所(本店)の変更の登記をします。その際、原則として法人の住所(本店)の変更経緯を確認できる登記事項証明書や閉鎖事項証明書などの変更証明書を提出しなければなりませんでした。しかし、2015年(平成27年)11月2日より「会社法人等番号」を提供することで変更証明書の提出を省略することが可能となっています。
ただ、省略できるのは、法人の現在の会社法人等番号で変更事項を確認できるものに限られます。現在の会社法人等番号で変更事項が確認できない時は、変更証明書の提出を省略することができません。
2012年(平成24年)5月20日「外国会社にあっては2015年(平成27年)3月1日」以前に、他の法務局の管轄区域内への本店移転登記等を行っていた場合には、その都度、当会社・法人の会社法人等番号が変更されていました。2012年(平成24年)5月20日「外国会社にあっては2015年(平成27年)3月1日」以前に、他の法務局の管轄区域内への本店移転登記を行っていた場合の登記事務でも、変更前の会社法人等番号が記録された登記記録に法人の住所(本店)の変更経緯が記録される取扱がなされていました。
上記のケースに該当する会社・法人が、不動産の所有権登記に記録されている住所(本店)の変更登記をする場合、現在の会社法人等番号を提供しただけでは、法務局側で法人の住所(本店)の変更経緯を確認できません。したがって、このようなときは、現在の会社法人等番号の提供の他、法人の住所変更の経緯が確認できる閉鎖登記事項証明書または閉鎖登記簿謄本等を提出する必要があります。
【ⅳ.法人の代表者の印鑑証明書について】
法人が不動産の売主側の立場で売買による不動産登記手続きを行う場合、当登記の申請人となる法人は、申請情報(代理人が登記手続きを行う場合は委任状)に代表者の実印を押印する必要があります。上記のようなケースで不動産登記手続きを行う場合、これまでであれば、原則として法人の代表者の印鑑証明書(発行日より3カ月以内のもの)を提供しなければなりませんでした。
しかし、2020年(令和2年)3月30日から、「添付情報 印鑑証明書(会社法人等番号〇〇〇〇-〇〇-〇〇〇〇〇〇)」という形で申請情報に申請人となる法人の会社法人等番号を記載すれば、法人の代表者の印鑑証明書の提供を省略できるようになっています。
ただ、同改正前の取扱のとおり、法人の代表者の印鑑証明書(発行日より3カ月以内のもの)を提供してもかまいません。
妻が妊娠している状態で、夫が亡くなったとします。この場合、胎児はすでに生まれたものとみなされる(民886条1項)ので相続人になります。そのため、胎児も相続登記の名義人になることが可能です。
そこで、胎児が相続人となったとき、その後の登記手続きはどのように行うのかみていきます。
【ⅰ.胎児を含めて行う法定相続による相続登記】
法定相続による相続登記であれば、胎児を名義人とする登記手続きをすることが可能です。登記手続きの方法は、通常の法定相続による相続登記と基本的には変わりません。ただ、胎児が名義人になることから考えなければならない点がいくつかあります。
まず、胎児の登記名義の表記ですが、「亡被相続人名妻何某胎児」です。たとえば、夫A、妻BでAが亡くなり、Bとその胎児が相続人になる場合、胎児の登記名義の表記は「亡A妻B胎児」になります。
それから、胎児はまだ生まれていないので実際に登記申請の手続きができません。この場合、胎児の代わりに妻が法定代理人として申請手続きを行います(S.29・6・15民甲1188)。
また、胎児を含めた法定相続による相続登記をするとき、胎児の存在を証明しなければならないのかという問題もあります。この場合、医師などが発行する懐胎を証明する書類を提出する必要はないという見解が出ています(登記研究191号72)。
【ⅱ.胎児が出生したときの登記手続き】
胎児を名義人とする相続登記をした後、妻が無事に出産したとしましょう。その際、出生した子の氏名を登記記録に反映させなければなりません。そのため、胎児の名義から子の氏名に変更する登記手続きをすることになります。
また、胎児が出生した場合、氏名変更だけではなく住所変更の登記手続きもしなければなりません。たとえ、すでに登記されている胎児の住所と出生後の子の住所が同じであっても住所変更の登記手続きを要します。
なお、胎児が出生したときに行う所有権登記名義人住所氏名変更登記は、子の法定代理人(子の母)が申請人となって手続きをします。
【ⅲ.胎児が生まれたときに死亡していた場合の登記手続き】
胎児名義の法定相続による登記をした後、胎児が死亡した状態で生まれたときはどのような登記手続きをするのでしょうか。この場合、相続の際に「胎児はすでに生まれたものとみなす」という規定が適用されなくなる(民886条2項)ので、最初から胎児は存在しなかったものと扱われます。
そのため、胎児を含む法定相続による相続登記に一部誤りがあることになるため、それを訂正する登記をしなければなりません。具体的には、所有権更正の登記手続きをすることになります。
相続登記のご依頼を受ける際、その対象となる不動産に仮登記が残った状態のままであるケースが散見されます。当事務所へご依頼いただいた相続登記の案件のなかに、以下のような権利関係の不動産がありました。
(甲区)
順位番号 | 登記の目的 | 権利者その他の事項 |
1 | 所有権移転 | 大正15年12月20日売買 所有者A |
2 | 所有権移転請求権仮登記 | 昭和28年7月22日贈与予約 権利者B |
余白 | ||
3 | 所有権移転 | 昭和36年11月7日相続 所有者B |
今回、不動産の所有者であるBが亡くなりました。(相続人はCとD)。そこで、Bの相続人の1人であるCの名義にする相続登記とともに、順位2番で登記されている所有権移転請求権仮登記の抹消手続きをすることになったのです。
このような場合、C名義への相続登記を行った後、どのような方法で順位2番の仮登記の抹消手続きをすればよいのでしょうか。
【ⅰ.混同による仮登記の抹消手続きを行う】
上記の事例では、Bが昭和36年11月7日に相続を原因として不動産を取得したことにより、順位2番の仮登記の権利は混同により消滅しています。そのようなことから、この場合は、混同による仮登記の抹消手続きを行います。
混同とは、同一物について複数の物権あるいは債権債務関係が同一人に帰属した場合、存続させておく必要のない権利を消滅させるという法律の規定です。たとえば、借地人が借地の所有権をした場合、原則として混同により借地権は消滅します。
上記の事例でも、Bは昭和28年7月22日にAと贈与予約をして、将来贈与によって所有権を取得できる権利を得ました。しかし、昭和36年11月7日にBはAを相続して不動産の所有権を取得したことにより、贈与予約の権利を存続させておく必要性がなくなりました。そのようなことから、順位2番の仮登記の権利は、混同によって消滅することになるのです。
混同による仮登記の抹消は、原則として現在の所有権登記名義人と抹消する仮登記の名義人が共同で申請手続きを行います。そのため、相続登記によって所有権登記名義人になったCが登記権利者、仮登記の名義人であるBの相続人CとDが登記義務者となって順位2番の仮登記を抹消します。
一方、上記の事例でもしBが生存している場合は、Bが単独で「権利混同」を原因として順位2番の仮登記の抹消手続きをすることが可能です(登記研究360・92)。
【ⅱ.権利証(登記識別情報)がない場合の手続き方法】
混同による仮登記の抹消をする際、原則として仮登記名義人の権利証(登記識別情報)が必要となります。しかし、上記の事例のように、仮登記の権利を取得した時期が昔で権利証をなくしてしまっているケースも少なくありません。
このような場合、事前通知制度を利用したり、本人確認情報を提供したりして手続きをすることが考えられます。
しかし、上記の事例ではこれらの方法を利用しなくても順位2番の仮登記を抹消できます。なぜなら、仮登記は利害関係人による単独抹消が認められているからです(不登法110条後段)。
仮登記上の利害関係人とは、仮登記の本登記を行う際、それによって自己の権利が否定されたり、不利益を受けたりする人をいいます。仮登記の抹消登記の登記権利者(上記の事例では新たに相続登記によって名義人になったC)も仮登記上の利害関係人にあたります。そのため、利害関係人による単独抹消の方法によって、Cは順位2番の仮登記の抹消手続をすることが可能です。
この方法で仮登記の抹消をする場合、仮登記名義人が抹消手続きに承諾したことを証明する情報(印鑑証明書も必要)を提供して行います。しかし、手続きをする際、仮登記名義人の権利証(登記識別情報)は必要ありません。そのため、仮登記名義人の権利証(登記識別情報)がない場合でも、事前通知制度や本人確認情報制度を利用しないで手続きすることができるのです。
当事務所がこの案件のご依頼を受けたときも、仮登記上の利害関係人による単独抹消の方法で手続きを行っています。ただ、法務局によっては、この方法による手続きを認めてくれないところもあるようです。そのため、仮登記上の利害関係人による単独抹消の方法を利用する場合、事前に法務局へ確認をしてから手続きをしたほうがよいでしょう。
私生活のなかでは、親子間で財産を譲渡したり、共同で相続したりするケースが少なくありません。その際、子が未成年である場合、利益相反の問題が生じます。不動産の売買や相続に関する登記手続きをする際にも、親と未成年の子の利益相反行為に関する問題が絡んできます。
そこで、親と未成年の子の利益相反行為について詳しくみていきましょう。
【ⅰ.親と未成年の子の間で利益相反が生じたときは特別代理人を選任する】
利益相反行為とは、複数当事者間で一定の行為をする際、一方に利益が生じた場合に他方が不利益となるような行為をいいます。法律上の行為で生じる利益相反行為はいくつかありますが、親と未成年の子の間で行われる法律上の行為はその一例です。
未成年の子は、原則自分1人で法律上の行為をすることができません。有効な法律行為をするためには、法定代理人である親の同意を得る必要があります(民5条①)。また、親は未成年の子の親権者にあたります(民818条)。そのため、親が代理人となって未成年の子の法律行為をすることが可能です(民824条本文)。
しかし、未成年の子と親との間で法律上の行為をする場合、親が未成年の子の代理人となって取引できるとすると、未成年の子に不利益が生じてしまう可能性があります。なぜなら、一方では親が当事者として、もう一方では未成年の子の代理人としての立場になり、事実上親だけでその内容を決められる状態となるからです。しかし、それでは公平性が保たれないので好ましくありません。
そこで、上記のような親と未成年の子の間で利益相反が生じるケースでは、家庭裁判所に申立てをして特別代理人を選任してもらうことになります(民826条①)。選任された特別代理人が、利益相反の状態にある親の代わりに未成年の子の代理人となり、法律上の行為をするのです。これにより、法律上の行為をするにおいての未成年者の利益が守られます。
【ⅱ.親と未成年の子の利益相反行為の具体例】
親と未成年の子の間で法律上の行為をする際、利益相反の状態が生じるのは具体的にどのような場合でしょうか。
まずあげられるのは、未成年の子の財産を親へ譲渡したり、親の財産を有償で未成年の子へ譲渡したりするときです。たとえば、父親の所有する不動産を未成年の子へ売却するとしましょう。この場合、父親と未成年の子との間で利益相反の状態が生じます。そのため、不動産の売買契約を締結する場合、父親に代わって特別代理人が未成年の子を代理することになります。また、両親がいる場合、原則父親と母親が共同で親権を行使しなければなりません(民818条③本文)。したがって、母親と特別代理人が共同で未成年の子を代理して、父親と不動産の売買契約を締結することになります。
不動産売買の登記を行う際、親子間の利益相反が生じたとき、手続きにはどのような影響があるのでしょうか。特別代理人が登記手続きに関与する場合、その代理権を明らかにするために選任審判書の添付が必要となります。その他については、通常の場合と変わりません。
それから、相続の場合でも親と未成年の子の間で利益相反となるケースがあります。たとえば、相続が発生して、親と未成年の子が同時に法定相続人になったとしましょう。その際、親と未成年の子が遺産分割協議をすると利益相反となります。
→ 法定相続人のなかに未成年の子がいる場合の遺産分割についてはこちら
また、親が未成年の子に代わって相続を放棄するときも、親自身が同時に放棄しない限り、利益相反行為となってしまうのです。
【ⅲ.利益相反行為の判断基準と効力】
ある法律上の行為が利益相反にあたるか否かは、その行為の外形上で判断されます。その行為の内面的な要素については基本的に考慮されません。たとえば、共同相続人となった親と未成年の子が、遺産分割協議をすることになりました。このような場合、仮に未成年の子にとって有利な協議内容であったとしても利益相反行為になってしまいます。
また、利益相反にあたる場合で、特別代理人を選任することなく親と未成年の子で法律上の行為をするとどのような効力が生じるのでしょうか。この場合は、無権代理行為となり、原則無効となります。しかし、未成年の子が成年に達した後、その無権代理行為を追認して、その効力を有効にすることが可能です。
不動産登記の手続きをする際に生じる利益相反の問題は、親と未成年の子との関係だけではありません。
会社と取締役が取引の当事者となったり、関与したりする場合も、利益相反の問題が生じます。
そこで、どのような場合に会社と取締役が利益相反の状態となるのか、また、会社と取締役が利益相反となった場合、不動産登記の手続きにどのような影響を与えるのか見ていきます。
【ⅰ.会社と取締役間の利益相反とは】
法律上、会社は「法人」として取引の主体となる資格があります。ただ、会社が実際に取引をするか否かを決めるのは、その業務執行機関となる取締役などです。また、その一方で取締役自身も「個人」として取引の主体になれます。そのため、会社とその取締役が同じ法律上の取引の当事者となったり、関与したりする場合、利益相反となるケースがでてくるのです。
会社法という法律で、取締役は、株式会社のために職務を忠実に行わなければならないと定められています(会社法355条)。そのため、法律上の取引をする際も、取締役は自身が役員になっている会社に不利益を及ぼすような行為をしてはいけないということになります。したがって、取引において会社と取締役間で利益が相反する場合、一定の制限がされているのです。具体的には、法律上の取引で会社と取締役間で利益が相反する場合、原則として株主総会または取締役会の承認決議を得なければなりません(会社法356条1項②③ 365条1項)。
【ⅱ.会社と取締役の利益相反行為の具体例】
会社と取締役の利益相反行為には、直接取引と間接取引があります。
直接取引とは、取締役が自己または第三者のために会社(株式会社)と取引しようとするケースのことです(会社法356条1項②)。取締役自身が会社の相手当事者となって取引するときだけではなく、他の会社の代表者となって、自身が取締役をしている会社と取引する場合も含みます。
直接取引の具体例としてどのような場合があげられるでしょうか。まずは、会社と取締役間で売買などの有償契約をするときです。会社が取締役へ特定のものを贈与する場合も直接取引の利益相反行為にあたります。その他、会社が取締役に貸付をしたり、会社が取締役の債務を免除したりしたときなどです。
また、同じ人が代表取締役であるA社とB社の間で取引をする場合も直接取引による利益相反行為になります。なぜなら、ある会社(A社)の取締役(代表取締役)をしている人が、他の会社(B社)の代表者(代表取締役)となって、ある会社(A社)と取引をしているからです。この場合、原則A社とB社の双方で株主総会または取締役会の承認を得る必要があります。
一方、間接取引とは、会社(株式会社)が、その会社(株式会社)の取締役以外の人と取引をする際、その会社(株式会社)の取締役と利益が相反する場合のことです。(会社法356条1項③)。代表的な例として、取締役の債務を担保するために会社の不動産に抵当権などの担保権を設定する行為があげられます。また、担保設定者となる会社の取締役が、債務者となる会社の代表者であるときも、間接取引による利益相反の関係が生じます。
【ⅲ.会社と取締役の利益相反行為と登記手続き】
会社と取締役の利益相反の問題が絡んでくる場合、不動産登記の手続きにはどのような影響がでてくるのでしょうか。
会社と取締役間で利益相反の生じる取引をする場合、原則として株主総会または取締役会の承認を得なければなりません。そのため、不動産登記の手続きを行う際にも、それを証明する書類を提出することが求められます。具体的には、利益相反行為を承認した株主総会または取締役会の議事録を提出します。
また、承認議事録が株主総会議事録の場合は作成者、取締役会議事録の場合は出席した取締役及び監査役がそれぞれ実印で承認議事録に押印しなければなりません。そのため、会社と取締役が利益相反となる不動産登記手続きをする際、押印者の印鑑証明書の提出も必要です。代表取締役が押印者である場合は会社の印鑑証明書、平取締役や監査役が押印者である場合は個人の印鑑証明書を提出します。
その他、承認議事録の押印者の資格証明に関する書面や情報を提供する必要があります。しかし、こちらは会社法人等番号の提供によって代えることが可能です。
共有名義の解消方法はいくつかありますが、共有者間の持分放棄もそのなかの一つです。共有者間の持分放棄は、いろいろな面に注意しながら手続きを行わなければなりません。
そこで、共有者間の持分放棄とその登記手続きの方法について、法律上と税務上の問題とあわせて見ていくことにします。
【ⅰ.共有者間の持分放棄とは】
共有者間の持分放棄とは、共有者の一人が自分の持分権を放棄する旨の意思表示をすることです。持分放棄は、相手のない単独行為にあたります。そのため、持分放棄者の意思表示だけでその効果が発生するのです。
民法では、「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する」旨を規定しています(民255条)。そのため、共有者の一人が持分を放棄すると、その権利は他の共有者が取得することになるのです。たとえば、AとBの二人が各2分の1の割合で持分を共有しているとします。この場合、Bが持分を放棄すると、Bの持分2分の1の権利をAが取得することになって、結果的にAの単独所有となります。
【※共有者が三人の場合の持分放棄】
共有者が三人いる場合で、そのうちの一人が持分放棄をすると、他の二人の共有者は、それぞれの持分割合に応じて放棄者の持分を取得することになります。持分放棄の規定である民法255条の「他の共有者」とは、持分放棄をした人以外の共有者のことを指します。したがって、他の二人の共有者のうちの一人のみに放棄した持分を帰属させることはできません(登記研究470・97)。
共有者が三人いる場合で、持分放棄によって最終的に共有者のうちの一人の単独所有とするには、他の二人の共有者が各一回ずつ(計二回)持分放棄の意思表示をする必要があります。たとえば、A・B・Cの三人が各3分の1の割合で持分を共有しているとします。この場合で最終的にAの単独所有とするには、以下の手順で持分放棄をする必要があります。
持分放棄者 | 持分放棄の結果 |
B(最初に持分放棄) | Bの放棄した持分3分の1は、他の共有者AとCの持分割合(1対1)に応じて、各6分の1の割合でAとCに帰属します。その結果、AとCの二人が各6分の3(3分の1+6分の1)の割合で持分を共有することになります。 |
C(Bの後に持分放棄) | Cの放棄した持分6分の3は、他の共有者であるAに帰属し、Aの単独所有となります。 |
※上記のケースは、最初にBが持分放棄をして、その後にCが持分放棄をする手順となっていますが、最初にCが持分放棄をして、その後にBが持分放棄をする手順で行うことも可能です。
【ⅱ.共有者間の持分放棄の登記手続き方法】
共有者間の持分放棄をした場合、その後の権利関係を登記上に反映させるため、名義変更の手続きをしなければなりません。
持分放棄の登記手続きは、持分を放棄する共有者とその持分権を取得する他の共有者が共同でするのが原則です。具体的には、「持分放棄」と登記原因として、放棄された持分権を取得する他の共有者が登記権利者、持分放棄をする共有者が登記義務者となって行います。
また、共有者の一人が持分放棄をして複数の共有者にその権利が帰属する場合、権利を取得した共有者の一人分だけの登記手続きをすることも可能です。たとえば、共有者がA、B、Cの三名で、Aが持分放棄をしたとしましょう。この場合、BとCにそれぞれAの放棄した持分が帰属します。その際、持分放棄による登記手続きをBの権利取得分だけ行うことができるのです。
一方、持分放棄によって登記名義を移転できるのは共有名義人に限られます。そのため、「持分放棄」を原因として、共有名義人以外の人へ権利を移転する登記手続きはできません。
【ⅲ.共有者間の持分放棄の登記と名変登記】
所有権の権利を移転する際、登記義務者(所有権の権利を失う人)の現在の住所氏名と登記上の住所氏名が違う場合、所有権の移転登記をする前に名変登記(住所や氏名の変更登記)をしなければならないのが原則です。
そのため、共有者の持分放棄の登記手続きをするとき、持分を放棄する共有者の登記上の住所や氏名が現在のものと相違する場合、名変登記をしてから持分放棄による登記手続きを行います。
また、持分放棄により権利を取得する他の共有者の登記上の住所や氏名が、現在のものと相違するときも名変登記が必要になります。
【ⅳ.利益相反の問題や農地法の許可の有無】
親と未成年の子が共有で登記名義人となっている場合、未成年の子が持分放棄をすると、その持分権は親へ移転します。それにより、親が利益を得るのと同時に未成年の子が不利益を被る状況となるため、利益相反の問題が生じるのではとも考えられます。
上記のケースにおいて、子の持分放棄をする場合、特別代理人の選任は要しない旨の登記先例があります(昭和35・12・23民甲3239)。また、同先例では、特別代理人を選任した場合で、その特別代理人による未成年者の持分放棄も有効である旨の見解も示しています。
また、農地の共有者の一人が持分放棄をする際、農地法の許可が必要なのか否かも問題になります。この場合、農地法の許可を得なくても共有者は持分放棄をすることが可能です。持分放棄は人の意思表示によって権利が移転するものではなく、法律の規定によって権利が移転するものなので、農地法の許可の対象外となっているからです。
【ⅴ.亡くなった共有者の一人に相続人がいない場合の権利帰属】
不動産の共有者の一人が亡くなったとき、その人に相続人がいない場合も他の共有者に権利が移転する旨が民法で規定されています(民255条)。
しかし、この場合、共有者が意思表示によって持分放棄をしたときと異なり、当然に他の共有者へ亡くなった共有者の持分権が帰属するわけではありません。
平成元年11月24日の最高裁判例により、特別縁故者への財産分与(民958条の3)の対象とならなかったときに、はじめて他の共有者へ持分権が移転するとされています。
【ⅵ.共有者間の持分放棄と贈与税】
共有者の一人が持分放棄をした場合、結果的に他の共有者が放棄された持分を無償で取得することになります。そのため、持分放棄により持分権を取得した他の共有者は、贈与を受けたと扱われて贈与税の課税対象になるのではとも考えられます。
相続税法基本通達では、このような場合、贈与により取得したものとして取り扱うとしています。したがって、共有者の一人が持分放棄をして、他の共有者がその持分権を取得した場合、贈与税の課税対象になるので注意が必要です。
借入金を完済して金融機関から抵当権抹消登記の必要書類の交付を受けた後、長期間手続きを放置してしまい、交付を受けた必要書類を紛失してしまったとします。このような場合でも、抵当権抹消登記の手続きを行うことは可能です。
→ 手続きに必要な書類を紛失してしまった場合の抵当権抹消登記についてはこちら
上記の場合、抵当権抹消登記の必要書類を再発行してもらうため、金融機関に連絡することになります。金融機関側は、抵当権抹消登記書類の再発行請求の連絡を受けた後、その方の取引情報を確認した上で対応します。
しかし、取引時期がかなり昔になると、金融機関側で保管していた取引情報がすでに破棄されていることも少なくありません。それにより、金融機関側で完済している旨は確認できても、完済年月日まで確認できないこともあります。
抵当権抹消登記の手続きを行う際、登記原因を「弁済」とする場合、登記申請書に完済年月日を記載します。しかし、完済年月日が確認できなければ、登記申請書に記載できないため、手続きに支障が生じます。
そこで、完済年月日が確認できない場合でも抵当権抹消登記の手続きができるのか、もし手続きが可能であるなら、どのような方法で行うのかについて見ていきます。
【ⅰ.完済年月日が確認できない場合でも抵当権抹消登記手続きは可能】
抵当権の被担保債権の借入金が完済されていることは明らかである一方、完済年月日が確認できないとします。このような場合でも、抵当権抹消登記手続きをすることは可能です。「弁済」を登記原因とする抵当権抹消登記手続きを行う際、完済年月日が確認できない場合は、登記申請書の登記原因に「年月日不詳弁済」と記載します。(登記研究567・166)
本来であれば、「弁済」を登記原因とする抵当権抹消登記手続きを行う場合、完済年月日を正確に記載しなければなりません。たとえば、完済日が「昭和60年3月25日」だったとします。このような場合、登記申請書の登記原因には、「昭和60年3月25日弁済」と記載することになります。
しかし、完済年月日が確認できない場合、上記のような形で正確に記載できません。そのようなことから、登記実務上では、完済年月日は不詳とする形で手続きすることが認められているのです。
「不詳」とは、「調べれば明らかになる可能性もあるが、現時点では明らかではない」旨を意味する言葉になります。「不詳」と似た言葉に「不明」がありますが、こちらは全くわからなくて調べる方法もない状態を意味します。したがって、現時点で完済年月日を確認できない場合でも、その後の調査によって明らかになる可能性もあるため、登記原因日付に「不詳」という文言を記載することになったと考えられます。
【ⅱ.完済年月日が確認できない場合の抵当権抹消登記手続き方法】
完済年月日が確認できない場合でも、手続き方法は、通常の抵当権抹消登記を行うときと基本的に変わりません。不動産の所有者と抵当権者が共同で、管轄の法務局へ必要書類を提出して抵当権抹消登記手続きを行います。
また、金融機関側より必要書類を再発行してもらった上で手続きをする場合、抵当権設定時に通知された登記識別情報または発行された登記済証(登記済の赤い判がある抵当権設定契約書など)がない状態となります。そのようなときは、事前通知制度を利用して抵当権抹消登記手続きを行うのが通常です。
ただ、登記手続きを行う際に提出する登記原因証明情報には、完済している旨と完済年月日が明らかではない旨を記載する点が、通常の抵当権抹消登記手続きのときと異なります。
ローン完済によって抵当権が消滅してから10年以上の長期間が経過した後であっても、その当時に金融機関から発行を受けた抹消登記書類があれば、それを利用して手続きすることが可能です。
しかし、上記のようなケースで、ローン完済によって抵当権が消滅してから、抵当権抹消登記手続きをするまでの間に、金融機関の代表者が変更になっていることも少なくありません。その場合、抵当権抹消登記手続きをする時点での金融機関の代表者とローン完済時に金融機関から発行を受けた抹消登記書類(金融機関の委任状・解除証書など)に記載されている代表者名が相違することになるため、この点が手続き上で支障になるのではとも考えられます。
そこで、金融機関の代表者変更がある場合の抵当権抹消登記手続きとその方法について見ていきます。
【ⅰ.ローン完済時に発行された抹消登記書類を使用して手続きできる】
抹消登記書類の発行を受けてから抵当権抹消登記手続きをするまでの間に、金融機関の代表者変更があったとします。このような場合でも、ローン完済時に発行された抹消登記書類を使用して、抵当権抹消登記手続きができます。なぜなら、金融機関の代表者変更があっても、登記申請の代理権は消滅しないからです。
不動産登記法においては、「代理権の不消滅」の規定があります。
(代理権の不消滅) 不動産登記法17条 登記の申請をする者の委任による代理人の権限は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。
|
第4項にある「法定代理人」には、法人の代表者も含まれると解されています。登記申請の代理権は、上記第4項の規定により、法人である金融機関の代表者変更があっても消滅しません。したがって、金融機関の代表者変更があった場合でも、変更前の代表者名で作成されている抹消登記書類を使用して手続きすることができるのです。
【ⅱ.金融機関の代表者変更がある場合の抵当権抹消登記手続きの方法】
ローン完済時に発行された変更前の代表者名義で作成されている抹消登記書類を使用して手続きをする場合、その方法は通常の抵当権抹消登記の時と基本的に変わりません。しかし、手続きをする際、登記申請書上において明らかにしなければならない事項がある点で、通常の抵当権抹消登記の時と異なります。
上記方法で抵当権抹消登記の手続きをする場合、「前代表者の代表権限が消滅した旨」と「前代表者が代表権限を有していた時期」を登記申請書に記載して、その旨を明らかにしなければなりません。
また、前代表者が代表権限を有していたことを確認できる情報の提供も必要です。基本的には、金融機関の会社法人等番号を提供して対応することになります。
もし、金融機関の会社法人等番号の提供だけでは、前代表者が代表権限を有していたことを確認できない場合、その旨が確認できる閉鎖謄本などを提出する必要があります。
金融機関の代表者変更があった場合、その前に発行された抹消登記書類を使用するのではなく、現代表者名義で作成されている抹消登記書類を再発行してもらった上で抵当権抹消登記手続きをする方法もあります。
この場合、抵当権抹消登記手続きは、発行を受けた抹消登記書類を紛失してしまった時に準ずる形で進めていくことになります。
民法・不動産登記法等の改正法が2021年(令和3年)4月28日に公布されて、2026年(令和8年)4月1日に住所氏名変更登記の申請が義務化されることになりました。
【ⅰ.住所氏名変更登記の申請が義務化された背景】
不動産を取得した個人や法人が、その後に住所(本店)・氏名(社名)に変更があった場合、住所氏名変更登記をすることになります。
当法改正前においては、住所氏名変更登記の申請義務がないことや申請をしなくても大きな不利益が生じないことなどから、住所(本店)・氏名(社名)に変更が生じた後、その旨の登記がなされないケースも一定数存在しました。また、複数回転居されている方の場合、その都度住所氏名変更登記をするのは負担が大きいことも、住所氏名変更登記がなされない理由の一つにあげられています。
しかし、住所氏名変更登記の未了状態が、社会問題化となっている「所有者不明土地」の発生につながると懸念されています。都市部においては、住所氏名変更登記の未了状態が、所有者不明土地の主な発生要因となっている旨の調査結果も存在するところです。
所有者不明土地が発生すると、土地の利活用の阻害、近隣住民への悪影響などのさまざまな社会問題が生じてしまうため、その予防は急務と言えます。そこで、所有者不明土地の発生要因とされる住所氏名変更登記の未了状態を解消するため、法改正によって、相続登記と同様に住所氏名変更登記の申請が義務化されたのです。
【ⅱ.住所氏名変更登記の申請義務の内容】
当改正法施行日である2026年(令和8年)4月1日以降、所有権の登記名義人に対して、住所(本店)・氏名(社名)の変更した日から2年以内にその旨の登記を申請することが義務付けられます。
ここで注意しなければならないのは、当改正法施行日より前に住所(本店)・氏名(社名)の変更があった場合も、未登記であれば住所氏名変更登記の申請義務化の対象になるという点です。当改正法施行日前に所有権の登記名義人の住所(本店)・氏名(社名)が変更となった場合、施行日から2年間が住所氏名変更登記の申請義務期限になります。
たとえば、2023年(令和5年)3月1日に所有権の登記名義人の住所が変更になったとします。このような場合、当改正法施行日である2026年(令和8年)4月1日から2年以内に住所氏名変更登記の申請義務が課されるのです。
【住所(本店)・氏名(社名)の変更時期と住所氏名変更登記申請義務期限の関係】
住所(本店)・氏名(社名)の変更時期 | 住所氏名変更登記申請義務期限 |
改正法施行日前に住所(本店)・氏名(社名)の変更があった場合 | 改正法施行日から2年以内 |
改正法施行日後に住所(本店)・氏名(社名)の変更があった場合 | 住所(本店)・氏名(社名)の変更があった日から2年以内 |
【ⅲ.住所氏名変更登記の職権登記制度】
住所氏名変更登記の申請義務化にともない、当事者による申請の他、法務局側による職権登記の制度も設けられています。
申請当事者の中には、さまざまな事情で住所氏名変更登記の申請義務を果たすことが難しい環境の方も一定数存在します。そのような中、住所氏名変更登記の申請義務化を法で規定しただけでは、申請義務の実効性を確保する観点からは不十分です。
そこで、住所氏名変更登記の手続きの合理化や簡素化を図り、申請義務の実効性を確保するため、法務局側による職権登記制度が設けられました。
法務局側による住所氏名変更の職権登記は、他の公的機関との情報連携を図りながら、以下の手順で手続きが進められます。
【登記名義人が個人の場合】
登記名義人が個人である場合、個人情報保護の観点から住民基本台帳の閲覧できる事由を制限している点を踏まえ、本人の了承がある場合に限り、以下の手順で職権による住所氏名変更登記が行われます。
【1.登記名義人から検索用情報の事前提供を受ける】
住所氏名変更による職権登記を行う際、法務局側は登記名義人から住所、氏名、生年月日など、住基ネットに照会するための検索用情報の提供を事前に受けておきます。
当法改正後、新たに登記名義人となる個人は、その登記申請時に検索用情報を提供しなければなりません。一方、当法改正前に登記名義人となっている個人の場合、登記申請時以外の任意の時期に、検索用情報の提供が可能となる予定です。
【2.住所、氏名の変更情報の定期的な照会および取得】
登記名義人から提供を受けた検索用情報を使用して、法務局側は住基ネットへ定期的に照会を行い、登記名義人の住所、氏名の異動情報を取得します。それにより、登記名義人の住所、氏名の変更の有無を確認することになります。
【3.登記名義人への意思確認・職権登記】
住基ネットへの検索により、住所、氏名の変更が確認できた場合、法務局側は職権による住所氏名変更登記を行うことについて登記名義人に確認します。登記名義人から了承を得られた場合、登記官は職権による住所氏名変更登記の手続きを行います。これにより、登記名義人である個人の住所変更登記申請義務も履行済となります。
一方、職権による住所氏名変更登記を行うことについて、登記名義人の了承を得られないときは、職権による変更登記はなされません。
【登記名義人が法人の場合】
登記名義人が法人の場合、意思確認を行うことなく、住所氏名変更の職権登記の手続きが進められます。
商業・法人登記システムにおいて、対象法人の本店や社名が登記手続きによって変更となった場合、法務省のシステム間連携でその旨の情報が提供されることになります。2021年(令和3年)の不動産登記法改正により、2024年(令和6年)4月1日から所有権の登記名義人が法人である場合、会社法人等番号も登記事項とされることになりました。
法人の本店・社名の変更に関する商業・法人登記システムとの情報連携も、会社法人等番号を検索キーとすることになっています。
そして、上記により提供された情報に基づき、登記官は住所氏名変更の職権登記を行います。職権登記の完了により、登記名義人である法人の住所変更登記申請義務も履行済となります。
【ⅳ.住所氏名変更登記の申請義務違反は過料の対象】
住所氏名変更登記の申請義務に正当な理由なく違反した場合、その者に対して5万円以下の過料に処する旨の規定が設けられました。
上記の「正当な理由」とは、対象者が申請義務期限内(2年以内)に住所氏名変更登記をすることが難しい事情の存在を指します。「正当な理由」の具体的な内容は、相続登記と同様に今後通達などで明確にされる予定となっています。
2021年(令和3年)に、不動産登記の公示機能向上を目的として、「形骸化した登記の抹消手続きの簡略化」、「登記簿の附属書類の閲覧制度の見直し」に関する改正がなされました。
上記改正は、2023年(令和5年)4月1日から施行されています。
【ⅰ.形骸化した登記の抹消手続きの簡略化】
所有権以外の権利において、登記がなされているものの中には、実体的な権利は既に消滅しているにも関わらず、その登記が抹消されないまま長期間放置されているものも存在します。そのような登記においては、名義人が所在不明の状態となっているケースも少なくありません。
抹消登記を含む不動産の権利の登記手続きは、法令で定められている例外を除き、登記権利者(登記手続きをすることで利益を受ける人)と登記義務者(登記手続きをすることで不利益を受ける人)が共同で行うことになります。
しかし、登記名義人が所在不明である場合、共同申請の方法で権利の抹消登記の手続きを行うことができません。また、不動産登記法には、登記名義人が所在不明である場合の抹消登記手続き方法も規定されていますが、時間や手間がかかり、申請者の手続き的な負担も重いことから、うまく活用されていないのが実情です。
そのようなことから、より簡易的な形で形骸化した登記の抹消手続きを行えるようにするための改正がなされました。当改正により、以下の三つの規定が設けられています。
【買戻特約に関する登記の単独抹消】
買戻特約に関する登記がなされている場合、買戻特約がされた売買契約の日から10年経過しているときは、不動産の所有者が単独で抹消登記の申請手続きができるようになりました。
買戻特約とは、売買契約と同時に、売主が買主に対して受領した売買代金額(売主と買主で別段の合意をした場合は、合意によって定めた額)および契約の費用を返還して、売買契約の解除ができる旨を合意する特約のことです。
買戻特約で定められる期間は最長10年で、その後に期間の延長をすることができません。つまり、登記されている買戻特約が当特約のされた売買契約の日から10年経過している場合、当権利は期間満了により効力を失っていることは明らかです。
効力を失っていることが明らかな買戻特約に関する登記であれば、不動産の所有者が単独で抹消登記の申請手続きを行っても問題ないため、このような規定が設けられました。
【存続期間が満了している地上権等の登記の単独抹消】
地上権、永小作権、質権、賃借権、採石権に関する登記の存続期間および買戻特約に関する登記の買戻期間が満了している場合、法務省令の定める方法で相当の調査を行っても、抹消対象の登記名義人の所在が明らかにならないときは、不動産の所有者が単独で抹消登記の申請手続きができるようになりました。
登記された買戻特約の買戻期間が10年未満であり、既にその期間が満了している場合も、この規定に基づいて抹消登記の申請手続きをすることが可能です。
当規定による手続きを行うために求められる相当な調査とは、戸籍、住民票などの公的書類による所在調査のことです。抹消対象の登記名義人の所在確認のため、現地調査まで行う必要はありません。
上記方法による調査の結果、抹消対象の登記名義人が所在不明である場合、裁判所に公示催告の申立を行います。当申立後、裁判所から除権決定を受けることで、不動産所有者の単独による抹消登記の申請手続きができるようになります。
【解散した法人の担保権等に関する登記の単独抹消】
解散した法人の担保権等に関する登記につき、当法人の清算人が所在不明である場合、当法人が解散してから30年経過し、かつ、被担保債権の弁済期から30年経過しているときは、供託等を行わなくても、不動産の所有者が単独で抹消登記の申請手続きをすることができるようになりました。
不動産登記の原則に基づいて、解散した法人の担保権の抹消登記を共同申請の方法で行う場合、不動産所有者と当法人の清算人が手続きに関与する必要があります。もし、当法人の清算人が所在不明の場合、新たに清算人を選任した上で、担保権の抹消登記の申請手続きを進めることになります。
しかし、当法人で清算人を選任することが困難な状況にある場合(例:解散法人が清算結了済で、すでに法人の実態がない場合等)は、裁判所に申立をした上で清算人を選任してもらう必要があるため、担保権の抹消登記の申請手続きを円滑に進めることが難しくなります。
また、不動産登記法には、担保権等の登記名義人が所在不明である場合、供託による担保権抹消登記の特例規定が設けられていますが、手続き的な負担が重い上に、担保権等の登記名義人が法人の場合、当規定の適用対象外となるケースも多いです。
そのようなことから、より簡易的な形で申請手続きができるように、解散した法人の担保権等に関する登記の単独抹消規定が設けられたのです。
【ⅱ.登記簿の附属書類の閲覧制度の見直し】
当法改正により、土地所在図等の図面以外の登記簿の附属書類につき、正当な理由がある場合に、その対象部分に限って閲覧できることになりました。この規定により、閲覧の可否は、その対象となる文書の性質ごとに検討・判断されることになります。また、自己を申請人とする登記記録に係る登記の附属書類については、無条件で閲覧できる旨の規定も設けられました。
当法改正前において、土地所在図等の図面以外の登記簿の附属書類を閲覧できるのは、利害関係の有する部分に限るとされていました。しかし、この「利害関係を有する部分」とは、具体的にどの範囲のことを指すのか不明確でした。
また、個人のプライバシーへの配慮の要請が年々強くなり、その影響を考慮した上で、登記簿の附属書類の閲覧の可否を検討・判断していく必要があります。
そのような理由で、当法改正により、登記簿の附属書類の閲覧制度の規定が見直されました。
担当:佐伯(さえき)
受付時間:9:00~18:30
定休日:土日祝祭日
遺産相続相談、遺言・相続手続き、遺言書作成のご相談、相続、売買、贈与、抹消などの不動産登記手続き、会社設立、役員変更などの会社の登記手続きは、実績のある埼玉・狭山の佐伯司法書士事務所にお任せください。
親切・丁寧な対応をモットーとしております。お気軽にご相談ください。
対応エリア | 狭山市、日高市、入間市、鶴ヶ島市、所沢市、川越市、飯能市、坂戸市、その他埼玉県、東京都など関東地方全域 |
---|
一般の相続関連業務
家庭裁判所で行う相続関連業務
不動産登記関連業務
会社・法人登記関連業務
業務に関するQ&A等
改正情報
お役立ち情報
相続に関する知識
遺言に関する知識
お客さまの声
事務所紹介
狭山市、日高市、入間市、鶴ヶ島市、所沢市、川越市、飯能市、坂戸市、その他埼玉県、東京都など関東地方全域