2021年(令和3年)428日に「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が公布されて、2023年(令和5年)427日より、相続土地国庫帰属制度が開始しました。

 

【ⅰ.相続土地国庫帰属制度が創設された背景】 

 

相続土地国庫帰属制度とは、相続人が相続・遺贈によって取得した土地を手放して国庫に帰属させることができる制度です。

 

相続で土地を取得しても、土地利用のニーズ低下により、土地を手放したいと希望する方が増えています。また、相続で取得した土地の所有者としての負担感も大きくなり、管理の不全化を招いているケースも少なくありません。

 

このような状況が続くと、相続での土地取得の手続きが進まなくなる場合も出てきてしまいます。その結果、所有者不明土地の発生に招く可能性も出てきてしまい好ましくありません。 

 

そこで、所有者不明土地の発生を防ぐため、相続土地国庫帰属制度を創設し、相続・遺贈によって取得した土地を手放して国庫に帰属させることができるようにしたのです。

 

【ⅱ.相続土地国庫帰属制度の承認申請権者】

 

相続土地国庫帰属の承認申請ができるのは、相続・遺贈によって土地の所有権または共有持分権を取得した相続人に限られます。相続対象の土地が共有であるときは、相続・遺贈によって土地の共有持分権を取得した相続人を含む共有者全員で承認申請をしなければなりません。この場合、他の共有者は、土地の共有持分を相続以外の原因で取得していた場合であっても承認申請が可能です。

 

【承認申請権者の具体例】

 

相続内容 承認申請できる方

A名義の土地をBが単独で相続

Bが単独で承認申請可

ABの共有名義の土地でBA持分を単独で相続

Bが単独で承認申請可

A名義の土地をBCが共同で相続

BCの共同で承認申請可

ABの共有名義の土地でBCA持分を共同で相続

BCの共同で承認申請可

AB会社の共有名義の土地でCA持分を単独で相続

B会社とCの共同で承認申請可

 

【ⅲ.国庫帰属対象の相続土地の要件】 

 

相続で取得した土地のすべてが、国庫帰属対象になるわけではありません。法律(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)上では、相続土地国庫帰属の承認申請の却下要件と不承認要件が規定されています。相続で取得した土地がこれらに該当する場合、国庫に帰属させることができません。

 

相続土地国庫帰属の承認申請の却下要件と不承認要件は、以下のとおりです。 

 

1.却下要件(申請不可事由)】 

 

相続で取得した土地が以下のいずれかの要件に該当する場合、相続土地国庫帰属の承認申請をすることができません。承認申請をした場合、その時点で直ちに却下されます。

 

  • 建物の存ずる土地 
  • 担保権または使用および収益を目的とする権利が設定されている土地 
  • 通路その他の他人による使用が予定される土地として、墓地内の土地、境内地、現に通路・水道用地・用悪水路・ため池の用に供されている土地が含まれる土地 
  • 土壌汚染対策法で規定されている特定有害物質により汚染されている土地 
  • 境界が明らかではない土地その他所有権の存否、帰属または範囲について争いのある土地

 

【2.不承認要件(不承認事由)】 

 

相続土地国庫帰属の承認申請後、対象土地が以下のいずれかの要件に該当する場合、不承認となります。逆に対象土地が以下のいずれかの要件にも該当しない場合、対象土地の国庫への帰属が承認されます。(当制度施行前の時点に相続で取得した土地も承認申請が可能で、条件に適合すれば国庫帰属の対象となります。)

 

  • 勾配が30度以上かつ高さが5m以上の崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり、過分の費用または労力を要するもの 
  • 土地の通常の管理または処分を阻害する工作物、車両、樹木その他の有体物が地上に存する土地 
  • 除去しなければ土地の通常の管理または処分をすることができない有体物が地下に存する土地 
  • 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ通常の管理または処分をすることができない土地 
  • その他、通常の管理または処分するに当たり過分な費用または労力を要する土地

 

相続土地国庫帰属の承認申請の却下要件と不承認要件については、以下の法務省のサイトにもその具体的内容が記載されています。 

→ 相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件(法務省HP

 

【ⅳ.相続土地国庫帰属の負担金】 

 

相続土地公庫帰属の申請後、承認を受けた者は、承認された土地につき、その種目に応じた10年分の標準的な管理費用相当額を負担金として納付しなければなりません。

 

国庫帰属の承認対象土地は、「宅地」、「田・畑」、「森林」、「その他(原野、雑種地等)」の4種類のどれかに区分され、納付する負担金額もその区分に応じて算出されます。

 

負担金額の具体的な決定方法や算出方法については、以下の法務省のサイトにその内容が記載されています。 

→ 相続土地国庫帰属制度の負担金(法務省HP

 

【ⅴ.相続土地国庫帰属の手続きの流れ】 

 

相続で取得した土地の国庫帰属の手続きは、以下の手順で行います。 

 

1.法務局に事前相談】 

 

相続土地国庫帰属の承認申請をする前に、全国の法務局・地方法務局(本局に限られます)で、当制度の利用に関する事前相談を受けることが可能です。事前相談先の法務局は、対象の相続土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局の本局になるのが原則です。しかし、対象の相続土地の所在地が自宅所在地から遠方にある場合は、自宅から最寄りの法務局・地方法務局の本局でも事前相談を受けられます。

 

相続土地国庫帰属制度に関する相談は、事前予約制となっていて、対面または電話の方法により、1回につき30分間受けることができます。事前相談を受けられるのは、土地所有者本人の他、その家族や親族に限られます。

 

また、相談を受ける前に、以下の書類を準備しておく必要があります。

 

  • 相続土地国庫帰属相談票(法務省HPよりダウンロード可) 
  • 対象の相続土地の状況に関するチェックシート(法務省HPよりダウンロード可) 
  • 土地の状況等が分かる資料や写真(登記事項証明書、公図、地積測量図、測量図面など)

 

2.承認申請】 

 

相続土地国庫帰属の承認申請は、対象の相続土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局の本局に承認申請書と添付書類を提出する形で行います。

 

承認申請書と一緒に提出する添付書類の内訳は、以下のとおりです。

 

【必須書類】 

  • 承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
  • 承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真 
  • 承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真 
  • 申請者の印鑑証明書(発行期限はなし)

 

【遺贈によって土地を取得した相続人の必須書類】 

  • 相続人が遺贈を受けたことを証する書面

 

【承認申請者と土地の登記名義人が異なる場合の必須書類】 

  • 土地の登記名義人から相続または一般承継があったことを証する書面 

 

【承認申請者と登記名義人が同一で、登記上に記録されている名義人の氏名または住所に変更がある場合の必須書面】

  • 氏名または住所の変更があったことを証する書面

 

【任意書類】 

  • 固定資産評価証明書 
  • 承認申請土地の境界等に関する資料

 

承認申請書は、審査手数料分の収入印紙を貼付した上で提出しなければなりません。審査手数料は、土地一筆につき14,000円になります。審査手数料を納付後、承認申請を取り下げたり、審査で却下・不承認になったりした場合でも、納付した審査手数料の返還対応は不可です。

 

承認申請の書類提出は、来所して窓口に提出する方法と郵送の方法により行うことができます。相続土地国庫帰属の承認申請手続きができるのは、申請者本人またはその法定代理人(親権者、後見人等)だけです。法定代理人以外の任意代理人による承認申請は認められません。 

 

これに対して、承認申請の際に提出する承認申請書と添付書類の作成については、専門家(弁護士・司法書士・行政書士に限る)に代行してもらうことが可能です。

 

3.法務大臣(法務局)による要件審査・承認】 

 

管轄の法務局へ相続土地国庫帰属の承認申請の書類提出後、法務局担当官が書面内容を確認するとともに、対象の相続土地の所在地まで出向いて実地調査をした上で、要件審査を行います。

 

要件審査の結果、却下要件や不承認要件があった場合、申請は却下または不承認になります。一方、却下要件や不承認要件がない場合は申請が承認されます。

 

承認、不承認の結果は、申請者本人にその旨が通知されます。また、申請が承認された場合、承認通知と併せて負担金額の通知がなされます。 

 

4.負担金額の納付・国庫帰属】 

 

相続土地国庫帰属の申請が承認された後、負担金額を納付しなければなりません。負担金額の納付は、負担金額の通知を受けた日の翌日から30日以内にする必要があります。もし、上記期限内までに負担金額の納付をしない場合、相続土地国庫帰属の申請承認が失効してしまうので、注意が必要です。 

 

申請者本人が負担金額を納付すると、その時点で対象の相続土地の所有権は国へ移転することになります。

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