一般の相続業務に関するQ&Aを記載させていただいております。

 

【◆ 業務に関するQ&A】

 

【◆ 相続登記関係】

 

【Q1】

相続登記の手続きに必要となる戸籍について教えていただけますか?
 

【A1】

被相続人(亡くなった人)の相続関係を確認できる範囲の戸籍が必要になります。たとえば、被相続人の相続人が配偶者と子である場合、被相続人の出生から亡くなるまでの期間の除籍謄本や改製原戸籍、配偶者と子の現在戸籍が必要です。
 

→ 相続登記の手続きに必要となる戸籍の詳細についてはこちら

 

【Q2】

戸籍にはどのような種類のものがあるのですか?
 

【A2】

戸籍には、戸籍謄本、戸籍抄本、除籍謄本、改製原戸籍などがあります。また、戸籍の様式も時の経過とともに何度か変更しています。
 

→ 人の相続関係を証明する戸籍の種類の詳細についてはこちら

 

【Q3】

相続登記の手続きをする際、必要となる戸籍を取得できない場合はどうすればよいですか?
 

【A3】

破棄または滅失などで戸籍の一部を取得できない場合、その旨の証明書と取得可能な部分の戸籍を提出すれば相続登記の手続きができます。
 

→ 戸籍を取得できない場合の詳細についてはこちら

 

【Q4】

相続登記の手続きをする際、戸籍の他に亡くなった人に関する書類を何か提出する必要がありますが?
 

【A4】

被相続人(亡くなった人)が、手続き対象の不動産の登記名義人と同一人であることを証明できる書類を提出する必要があります。
 

→ 被相続人と不動産の登記名義人の同一性を証する情報の詳細についてはこちら

 

【Q5】

複数の相続人の共有名義とする相続登記を行う場合、相続人全員で手続きをしなければなりませんか?
 

【A5】

複数の相続人の共有名義にする相続登記は、そのうちの1人の相続人だけで手続きすることができます。ただ、後のことを考えると、相続人全員で手続きをしたほうがよいでしょう。
 

→ 複数の相続人のうちの1人の相続人による相続登記の手続きの問題点の詳細についてはこちら

 

【Q6】

相続人による登記とは、どのような登記ですか?
 

【A6】

相続人による登記とは、不動産の所有者が亡くなる前にしていた処分行為の登記がされていない場合、その登記を亡くなった不動産の所有者の相続人が行う手続きをいいます。
 

→ 相続人による登記の詳細についてはこちら

 

【Q7】

遠方にある不動産の相続登記の手続きもしていただけますか?
 

【A7】

当事務所では、全国の不動産の相続登記手続きを承っております。
 

→ 遠方の不動産の相続登記の詳細についてはこちら

 

【A8】

先日、夫が亡くなったので、不動産の名義を夫から妻の私へ変更したいと思います。不動産は夫婦共有名義になっているのですが、どのように手続きをすればよいのですか?
 

【Q8】

夫名義の持分を妻名義へ移転する方法で相続登記の手続きを行います。なお、その際に妻の住所変更の登記が必要となるケースもございます。
 

→ 被相続人と相続人が共有している不動産の相続登記の詳細についてはこちら

 

【Q9】

相続登記の登記原因証明情報の内容について教えてください。
 

【A9】

被相続人と相続人の相続関係を証明する戸籍一式、被相続人の同一性を証明する書類(Q4参照)、遺産分割協議書などの書類が相続登記の登記原因証明情報に該当します。
 

→ 相続登記の登記原因証明情報の詳細についてはこちら

 

【Q10】

遺言書による相続登記の登記原因証明情報の内容は、通常の相続登記をする場合と違いがあるのでしょうか?
 

【A10】

遺言書が含まれる点、遺言者と不動産の権利を取得する相続人との相続関係を証明できる戸籍のみでよい点が通常の相続登記の場合と異なります。
 

→ 遺言書による相続登記の登記原因証明情報の詳細についてはこちら

 

【Q11】

対象土地が農地の場合でも、相続登記の手続きができますか?
 

【A11】

土地が農地の場合でも、通常どおり相続登記の手続きをすることが可能です。手続きの際には、農地法の許可書なども必要ありません。また、相続によって農地を取得した場合、その旨を市町村の農業委員会に届出をする必要があります。
 

→ 農地の相続登記の詳細についてはこちら

 

【Q12】

相続登記の手続きの際にも印鑑証明書が必要となりますか?
 

【A12】

遺産分割協議による相続登記の手続きを行う場合、原則として相続人の印鑑証明書の提出が必要となります。
 

→ 相続登記の印鑑証明書の詳細についてはこちら

 

【Q13】

被相続人が自身の所有する不動産の権利(持分)を相続人と相続人以外の人へ承継させる旨の遺言書を残していた場合、どのように手続きをすればよいですか?
 

【A13】

相続人への相続登記と相続人以外の人への遺贈の登記の手続きを行います。その際、遺贈の登記を相続登記に先行させて手続きしなければなりません。
 

→ 遺言書に基づく遺贈の登記と相続登記をする必要がある場合の詳細についてはこちら

 

【Q14】

被相続人の戸籍上の死亡年月日が「推定年月日死亡」となっている場合、相続登記を行う際、登記記録上、登記原因はどのように記載されるのですか?
 

【A14】

相続登記の原因日付は、戸籍の記載どおりとするのが原則です。そのため、登記記録上、原因日付は「推定年月日相続」と記載されます。
 

→ 戸籍に「推定年月日死亡」と記載されている場合の詳細についてはこちら

 

【Q15】

相続人全員で法定相続分の共有名義の相続登記をした後、遺産分割協議を行って特定の相続人の単独名義にすることはできますか?
 

【A15】

上記の方法によって手続きすることも可能です。ただ、通常の相続登記の場合と手続き方法や必要書類などが異なります。
 

→ 法定相続登記後、遺産分割をした場合の詳細についてはこちら

 

【Q16】

相続人のなかに相続放棄をした人がいる場合の相続登記の手続き方法について教えてください。
 

【A16】

相続放棄をした相続人以外の相続人全員で遺産分割協議を行ったうえで、相続登記の手続きをすることが可能です。また、その際には、相続放棄者の「相続放棄申述受理証明書」を提出する必要があります。
 

→ 相続放棄をした人がいる場合の相続登記の詳細についてはこちら

 

【Q17】

相続人のなかに特別受益者がいる場合の相続登記の手続き方法について教えてください。
 

【A17】

特別受益者も相続人なので、特別受益者を含めた相続人全員で遺産分割協議を行ったうえで相続登記の手続きをするのが原則です。

ただ、特別受益者が法定相続分以上の特別受益を受けている場合、その者以外の相続人全員で遺産分割協議を行ったうえで相続登記の手続きをすることができます。この場合。特別受益者の「特別受益証明書」を提出しなければなりません。
 

→ 特別受益証明書を使用した相続登記の詳細についてはこちら

 

【Q18】

被相続人が亡くなる前に、その法定相続人の1人がすでに亡くなっている場合、どのように相続登記の手続きをすればよいですか?
 

【A18】

上記の場合、被相続人が亡くなる前に亡くなった法定相続人の子や孫が代襲して相続人となります。そのため、代襲相続人を含めた被相続人の相続人全員で遺産分割協議を行ったうえで相続登記の手続きをするのが原則です。
 

→ 代襲相続の場合の相続登記の詳細についてはこちら

 

【Q19】

被相続人が亡くなった後、その法定相続人の1人が相続登記を行う前に亡くなりました。このような場合、相続登記をどのように行えばよいのでしょうか?
 

【A19】

上記の場合、亡くなった法定相続人の相続人全員が、被相続人の相続権を承継します。(このことを数次相続といいます。)そのため、亡くなった法定相続人の相続人全員が、他の法定相続人と遺産分割協議をしたうえで相続登記の手続きを進めていくことになります。
 

→ 数次相続の場合の相続登記の詳細についてはこちら

 

【Q20】

法定相続人の1人が他の人へ相続分を譲渡しました。このような場合の相続登記の手続き方法について教えてください。
 

【A20】

他の法定相続人へ相続分を譲渡した場合、1回の相続登記の申請で、相続分の譲渡を受けた法定相続人名義にできる場合があります。

一方、法定相続人以外の人へ相続分の譲渡をした場合、一度法定相続人全員の共有名義にする相続登記を行ったうえで、相続分の譲渡をした法定相続人から譲渡を受けた人へ持分の権利移転の登記手続きをしなければなりません。
 

→ 相続分の譲渡と登記手続きの詳細についてはこちら

 

【Q21】

相続人のなかに相続欠格者がいる場合の相続登記の手続き方法について教えてください。
 

【A21】

相続欠格者に該当する相続人を除く相続人全員で遺産分割協議を行ったうえで相続登記の手続きをするのが原則です。その際、相続欠格者が相続欠格に該当していることを証明できる書類を提出しなければなりません。
 

→ 相続欠格者がいる場合の相続登記の詳細についてはこちら

 

【Q22】

亡くなった被相続人は、生前住宅ローンを組む際に団体信用生命保険に加入していました。このような場合、被相続人所有の不動産の相続登記の他に何か手続きをしなければならないのでしょうか?
 

【A22】

住宅ローンの借入をした人(債務者)が、団体信用生命保険へ加入した後に亡くなった場合、保険会社から保険金が支払われて、残っていた住宅ローンも完済されます。そのため、被相続人所有の不動産の相続登記だけではなく、住宅ローン完済による抵当権抹消登記の手続きもしなければなりません。
 

→ 団体信用生命保険と抵当権抹消の詳細についてはこちら

 

【Q23】

相続で取得した土地が森林でした。相続登記をする必要があるかと思いますが、その他に何か手続きが必要ですか?
 

【A23】

相続で取得した森林の土地が地域森林計画の対象区域内にある場合、原則として森林の土地の所有者となった旨の届出をする必要があります。
 

→ 森林の土地の所有者届出制度の詳細についてはこちら

 

【Q24】

亡くなった被相続人の財産のなかに、墓地が含まれていました。どのように手続きをすればよいのでしょうか?
 

【A24】

被相続人名義の墓地が祭祀財産にあたる場合、他の相続財産と分けて手続きをします。一方、被相続人名義の墓地が相続財産に含まれる場合、他の相続財産と一緒に手続きをすることになります。
 

→ 相続発生後の墓地の手続きの詳細についてはこちら

 

【Q25】

相続放棄者名義で相続登記がなされてしまった場合、どのようにすればよいですか?
 

【A25】

相続放棄をされた方は、最初から被相続人(亡くなられた方)の相続人ではなかったとみなされます。そのため、真実の相続人名義にする訂正手続きをする必要があります。
 

→ 相続放棄者名義の相続登記がなされた場合の詳細についてはこちら

 

【Q26】 

相続対象の建物の登記情報を確認したところ、表題登記しかなされておらず、権利の登記がありません。このような場合でも、相続による登記手続きはできるのでしょうか?
 

【A26】 

相続対象の建物の登記が表題登記しかない場合でも、相続による登記手続きをすることは可能です。
 

→ 相続人名義による所有権保存登記の詳細についてはこちら

 

Q27 

遠方にある実家の相続登記の手続きを進める前提で、自宅から最寄りの法務局で謄本を取得しようとしたのですが、「改製不適合物件」であるため、管轄の法務局でなければ謄本を発行できないと言われました。 

改製不適合物件とは何でしょうか?また、改製不適合物件でも相続登記ができるのかも気になるので教えてください。

 

A27 

改製不適合物件とは、登記簿のコンピュータ化によるデータ移行ができなくて、紙媒体で登記簿が管理されている不動産のことです。 

対象不動産が改製不適合物件であっても、それ以外の不動産と同様に相続登記の手続きをすることは可能です。ただ、手続き方法や発行される書類の種類等で、通常の相続登記と異なる点があります。 

 

→ 改製不適合物件とその登記手続きの詳細についてはこちら

 

【◆ 相続、遺言、遺産分割関係】

 

【Q1】

相続人のなかに未成年者がいる場合、どのように相続手続きを進めていけばよいですか?
 

【A1】

未成年者は法律上、原則として1人で法律行為ができません。そのため、法定代理人である親が代わりに遺産分割協議へ参加して手続きを進めていきます。

また、未成年者とその親が双方被相続人の相続人であるとき、お互い相続に対して利害関係が生じる形となります。この場合は、家庭裁判所へ申立を行って特別代理人を選任してもらったうえ、その特別代理人が未成年者を代理して手続きを進めていかなければなりません。
 

→ 相続人のなかに未成年者がいる場合の相続手続きの詳細についてはこちら

 

【Q2】

相続人のなかに認知症の人がいる場合、どのように相続手続きを進めていけばよいですか?
 

【A2】

家庭裁判所へ申立を行い、成年後見人を選任してもらったうえ、その成年後見人と他の相続人で相続手続きを進めていく必要があります。
 

→ 相続人のなかに成年被後見人がいる場合の相続手続きの詳細についてはこちら

 

【Q3】

相続人のなかに行方不明者がいる場合、その人を除いて相続手続きを進めることはできますか?
 

【A3】

相続手続きは基本的に相続人全員で行う必要があります。そのため、行方不明者である相続人が生存している限り、その者を含めた相続人全員で相続手続きを進めていかなければならないのが原則です。
 

→ 相続人のなかに行方不明者がいる場合の相続手続きの詳細についてはこちら

 

【Q4】

相続人の1人が外国に住んでいます。相続手続きの際、外国に住んでいる相続人の協力が必要でしょうか?
 

【A4】

相続手続きは基本的に相続人全員で行う必要があります。たとえ、相続人の1人が外国に住んでいる場合でもその結論は変わりません。

また、外国に住んでいる相続人がいる場合、通常の相続手続きのときに必要となる書類の内容も変わってきます。
 

→ 相続人のなかに外国に住んでいる人がいる場合の相続手続きの詳細についてはこちら

 

【Q5】

先日、夫を不慮の事故で亡くしました。妻である私は現在妊娠しています。このような場合、私のお腹にいる子は相続人になるのでしょうか?
 

【A5】

法律上(民法上)、「相続について胎児は生まれたものとみなす」とされています。そのため、お腹のなかにいらっしゃるお子さまも原則として相続人になります。

ただ、実務上、お腹のなかのお子さまがお生まれになってから、遺産分割協議を行ったうえで相続手続きを進めていくのが通常です。
 

→ 相続人のなかに胎児がいる場合の相続手続きの詳細についてはこちら

 

【Q6】

遺言書を作成する際に聞くことがある「相続させる旨の遺言」とは何ですか?
 

【A6】

相続させる旨の遺言とは、特定の相続人に財産を相続させる内容の遺言をいいます。
 

→ 相続させる旨の遺言の詳細についてはこちら

 

【Q7】

相続人全員で遺産分割協議を行う場合、法定相続分どおりに財産を分けなければなりませんか?
 

【A7】

相続人全員で遺産分割協議を行う場合、法定相続分と異なる割合で財産を分けることも可能です。
 

→ 法定相続分と異なる遺産分割の詳細についてはこちら

 

【Q8】

夫が妻である私に全財産を相続させる内容の遺言書を残して亡くなりました。しかし、私は夫の相続財産の一部を子に相続させたいと考えています。このような場合、遺言書の内容と異なる形で夫の相続財産を各相続人に相続させることができるのでしょうか?
 

【A8】

相続人全員の同意があれば、原則として遺言書の内容と異なる内容の遺産分割協議を行って、相続財産を各相続人に相続させることができます。
 

→ 遺言書の内容と異なる遺産分割の詳細についてはこちら

 

【Q9】

先日、私の父が遺言書を残して亡くなりました。父の遺言書には、母に相続財産を全部相続させる旨の内容が記載されています。しかし、母は父が亡くなる前にすでに亡くなっています。この場合、どのように相続手続きを進めればよいのでしょうか?(父と母の子は私1人です。)
 

【A9】

法律上(民法上)、遺言者が亡くなる前に受遺者(遺言で権利を受ける人)がすでに亡くなっている場合、その部分の内容においては、原則として無効となります。そのため、無効となった部分の権利は、遺言者の相続人である子(ご質問者さま)に帰属します。

ただ、遺言書に別段の定め(受遺者が遺言者よりも前に亡くなっていたときに権利を承継する受遺者の定め)がある場合、その定められた受遺者に権利が帰属します。
 

→ 遺言で権利を受ける人がすでに亡くなっている場合の詳細についてはこちら

 

【Q10】

認定死亡とはどのようなことですか?
 

【A10】

認定死亡とは、人の死亡を直接確認できないときでも、状況から判断して死亡していることがほぼ確実である場合、その人の死亡を認定する制度です。死亡の認定がなされるとその人は死亡したものと推定されるので、相続の発生原因にもなるのが原則です。
 

→ 認定死亡の詳細についてはこちら

 

【Q11】

戸籍上に、「高齢者につき死亡と認定」の旨とその許可年月日が記載されていますが、これはどのようなことなのでしょうか?
 

【A11】

ご質問の戸籍の記載内容ですが、これは高齢者職権消除がされたことを示しています。高齢者職権消除とは、年齢が100歳以上で生存している可能性がきわめて低い高齢者の戸籍を、行政側が職権で抹消する措置のことをいいます。

高齢者職権消除がされた戸籍の対象者は、死亡したと扱われるわけではありません。そのため、この措置がされた場合でも、それだけでは戸籍の対象者の相続手続きができるようになるわけでもありません。
 

→ 高齢者職権消除の詳細についてはこちら

 

【Q12】

被相続人が亡くなる前にその孫や子の配偶者と養子縁組をしていた場合、被相続人の孫や子の配偶者は複数の相続資格を取得する場合があるかと思います。

このような場合、複数の相続資格を取得した相続人の相続分はどのようになるのでしょうか?
 

【A12】 

複数の相続資格を取得した相続人の属性によって、複数の相続資格の相続分を取得するケースと取得しないケースがあります。
 

→ 相続資格が重複する場合の相続分の詳細についてはこちら

 

【Q13】

借地上にある建物を相続しました。どのような相続手続きが必要になるのでしょうか?
 

【A13】

借地上にある建物を相続した場合、建物とその敷地の借地権に関する手続きが必要になります。建物は相続登記をして名義変更を行い、敷地の借地権は相続によって取得した旨を地主へ通知して行うのが通常です。
 

→ 建物と借地権を相続した場合の相続手続きの詳細についてはこちら

 

【Q14】

相続の開始原因について教えてください。
 

【A14】

相続の開始原因は、通常の死亡の他、失踪宣告や認定死亡があります。
 

→ 相続の開始原因の詳細についてはこちら

 

【Q15】

現物分割とはどのような遺産分割の方法ですか?
 

【A15】

現物分割とは、相続財産をそのままの状態で分割する方法のことをいいます。相続財産のほとんどが現金や預貯金である場合など、そのままの状態で相続人の相続分にしたがって分割できるときに適した方法です。
 

→ 現物分割の詳細についてはこちら

 

【Q16】

代償分割とはどのような遺産分割の方法ですか?
 

【A16】

代償分割とは、特定の相続人が特定の相続財産を単独で取得する代わりに、他の相続人へ現金や財産を渡して行う分割方法のことをいいます。不動産など分割しにくい財産が相続財産のなかに含まれている場合、この方法によって遺産分割を行うことが多いです。
 

→ 代償分割の詳細についてはこちら

 

【Q17】

換価分割とはどのような遺産分割の方法ですか>
 

【A17】

換価分割とは、相続財産を処分して換価した後、その現金を各相続人が相続分に応じて取得するという遺産分割の方法です。

換価分割は、相続人全員で公平に分割をしたい場合に適した分割方法です。また、相続財産のなかに分割しにくい財産が含まれていて、なおかつ代償分割の方法を利用するのが難しいときも、この方法によって遺産分割が行われます。
 

→ 換価分割の詳細についてはこちら

 

【Q18】

一度成立した遺産分割協議の内容を変更したいと考えています。一度成立した遺産分割協議を解除することはできるのでしょうか?
 

【A18】

相続人全員の合意があれば、遺産分割協議を解除することは可能です。ただ、その後、再分割を行った場合、贈与税や譲渡所得税の課税対象となることがあるので注意が必要です。
 

→ 遺産分割協議の解除の詳細についてはこちら

 

【Q19】

先日亡くなった夫から遺言書を作成したことを聞かされていたので、その遺言書の内容に基づいて相続手続きを進めることにしました。しかし、その遺言書が見当たりません。夫が残した遺言書を探す方法はありますか?
 

【A19】

公正証書遺言によって作成された遺言書である場合、「遺言検索システム」を利用して探すことが可能です。一方、自筆証書遺言で作成された遺言書である場合は、保管されていた場所を当たって、地道に探すしかありません。
 

→ 被相続人の残した遺言書の探し方の詳細についてはこちら

 

【Q20】

法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子と法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子の相続分が同じになったと聞きましたが?
 

【A20】

以前は、法律上(民法上)、非嫡出子(法律上の婚姻関係になる男女の間に生まれた子)の相続分は、嫡出子(法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子)の2分の1とされていました。

しかし、2013年の最高裁判所の判決で、上記規定は憲法14条の法の下の平等に反するので違憲と判断されました。それにともなって、非嫡出子の相続分と嫡出子の相続分は等しくなっています。
 

→ 嫡出子と非嫡出子の相続分の詳細についてはこちら

 

【◆ 法定相続情報証明、遺産承継業務関係】

 

【Q1】

法定相続情報証明制度というものができたと聞きました。どのような制度なのか教えてください。
 

【A1】

法定相続情報証明制度とは、被相続人の法定相続関係を法務局に証明してもらう制度です。相続人が法務局へ申出をした後、法務局側で被相続人の法定相続関係が確認されると、認証文つきの法定相続情報一覧図の写しを発行してもらえます。

そして、各種相続手続きは、被相続人の法定相続関係を証明できる戸籍一式の代わりに認証文つきの法定相続情報一覧図の写し1通を提出して行うことができるようになりました。
 

→ 法定相続情報証明制度の詳細についてはこちら

 

【Q2】

預貯金の相続手続きはどのように行えばよいですか?
 

【A2】

預貯金の相続手続きは、原則として、被相続人が生前に取引していた金融機関に相続関係の書類を提出して行います。
 

→ 預貯金の相続手続きの詳細についてはこちら

 

【Q3】

株式や投資信託などの金融商品の相続手続きについて教えてください。
 

【A3】

被相続人が生前に株式や投資信託を購入していた金融機関(証券会社など)へ相続関係の書類を提出して相続手続きを行うのが原則です。

また、株式や投資信託などの金融商品の相続手続きは、被相続人の口座から相続人の口座へ移管する方法で行います。そのため、相続人が証券会社の口座を保有していない場合、事前に相続人名義の口座を開設しなければなりません。
 

→ 株式の相続手続きの詳細についてはこちら

→ 投資信託の相続手続きの詳細についてはこちら

 

 

【◆ 当事務所で取り扱った事例】 

 

1 

相続人になる方が複数の家族間にわたる場合の相続登記

→ 相続人になる方が複数の家族間にわたる場合の相続登記の詳細についてはこちら

 

2 

相続関係が数世代間にわたる場合の相続登記 

→ 相続関係が数世代間にわたる場合の相続登記の詳細についてはこちら

相続が発生すると、亡くなった人の所有していた財産が、相続人へ包括的に承継されるのが原則です。
 

亡くなった人が土地や建物などの不動産を所有していた場合、その不動産の名義を亡くなった人から相続によって取得する相続人へ変更する手続きをしますが、これを相続登記といいます。
 

相続登記の手続きをするためには、登記申請書と一緒にいくつかの書類を添付するのですが、そのなかの一つに戸籍があります。戸籍には、亡くなった旨など人に関する身分に関する事項がいろいろ記載されています。そのため、戸籍によって亡くなった人の相続関係を正確に把握できることから、これを添付することで、実体関係に沿った登記手続きができるのです。
 

戸籍が相続登記の添付書類とされているのは、このような理由があります。
 

→ 相続登記の必要書類についてはこちら


 

相続登記の手続きに必要は戸籍は、以下のとおりです。


 

【被相続人(亡くなった人)に関する戸籍】

【ⅰ.被相続人の相続人が子の場合】 

 

被相続人の相続人である子を全員確定させる必要があるので、被相続人の出生から亡くなるまでの期間の除籍謄本や改製原戸籍が必要になります。(ただ実際は生殖能力のある年齢までのものがあればよいということになっています。) 

 

【ⅱ.被相続人の相続人が親の場合】 

 

被相続人に子や孫などの直系卑属がいない場合、被相続人の親などの直系尊属が相続人になります。そのため、この場合も被相続人に子や孫などの直系卑属がいないことを確認する必要があるので、と同様の除籍謄本や改製原戸籍が必要になります。

 

【ⅲ.被相続人の相続人が兄弟姉妹の場合】 

 

被相続人に子や孫の直系卑属だけでなく、親などの直系尊属もいない場合、被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。そのため、ⅰと同様の除籍謄本や改製原戸籍だけでなく、親などの直系尊属が亡くなっていることと、被相続人の兄弟姉妹の全員を確定させるために被相続人の親の出生から亡くなるまでの除籍謄本や改製原戸籍が必要です。

 

また、被相続人の子や兄弟姉妹が被相続人が亡くなる前にすでに亡くなっていた場合には、代襲相続が生じることになります。このような場合、亡くなった子や兄弟姉妹の出生から亡くなるまでの除籍謄本や改製原戸籍が必要になるので、さらに必要な戸籍の量が多くなります。

 

【相続人になる人の戸籍】

 

被相続人の相続人になる人の戸籍については、現在の戸籍抄本のみとなります。これは、被相続人の戸籍に記載されている相続人の記載事項と相続人の現在の戸籍抄本をあわせて見れば、相続人の同一性や親子関係、兄弟関係がわかるからです。

 

相続登記の手続きをするとき、場合によっては必要な戸籍の量が膨大になることもあります。しかし、このような場合でも当事務所へ相続登記のご依頼をいただけば職権で取得することができますので、それほど心配する必要はございません。

 

また、2017年5月29日より、全国の法務局で法定相続証明情報制度が始まりました。相続登記をする際、上記の被相続人と相続人の戸籍に代えて、この制度を利用して法務局から交付を受けた法定相続情報一覧図を提出して手続きできるようになっています。
 

→ 法定相続情報証明制度についてはこちら

相続登記の手続きをするためには、亡くなった人(被相続人)の相続関係を証明するための戸籍が必要になります。

 

→ 相続登記の手続きに必要となる戸籍についてはこちら

 

人の相続関係を証明するために必要となる戸籍には、以下の種類のものがあります。

【ⅰ.戸籍謄本、戸籍抄本】 

 

戸籍謄本とは、現在の戸籍で請求の対象となる戸籍に入っている人全員の名前が載っている証明書のことを言います。

 

これに対して、戸籍抄本とは、現在の戸籍で請求の対象となる戸籍に入っている一部の人の名前が載っている証明書のことを言います。

 

【ⅱ.除籍謄本】 

 

除籍謄本とは、人が死亡したり、結婚をしたりして戸籍に記載されている人全員が除かれてしまった戸籍のことを言います。

 

【ⅲ.改製原戸籍】 

 

改製原戸籍とは、法令の改正によって戸籍の様式に変更があった場合、その変更する前の戸籍のことを言います。


次に、これまで戸籍の様式も何度か変更がありましたが、その種類は以下のとおりです。

【ⅰ.明治5年式戸籍(編製期間 明治5年から明治19年)】 

 

この戸籍は、人の身分に関する証明というよりも人の所在を把握するために設けられたもので、記載内容の一部は公にするのに適さないものも含まれています。

 

また、現在においてはこの戸籍は保存期間が経過してしまっているので請求することはできません。 

 

【ⅱ.明治19年式戸籍(編製期間 明治19年から明治31年)】 

 

現在の戸籍の本籍欄に相当する部分が、住所欄として設けられており、本籍が住所として取り扱われています。

 

また、他の年代の戸籍の様式に比べて一人一人の記載事項欄が小さいのが特徴です。 

 

【ⅲ.明治31年式戸籍(編製期間 明治31年から大正3年)】 

 

記載事項として、「戸主と為りたる原因及び年月日」が新たに加わったので、戸籍がいつ編製されたのかわかりやすくなっています。さらに、戸主の記載事項が広くなりました。

 

また、本籍欄が屋敷番号から地番号になり、大正3年の戸籍の様式の変更後もこの様式の戸籍の効力が認められ、そのまま昭和23年戸籍が編製されるまで使用されたものもあります。 

 

【ⅳ.大正4年式戸籍(編製期間 大正4年から昭和22年)】 

 

戸主の記載事項がさらに広くなり、昭和31年式戸籍の編製の時に記載されるようになった「戸主と為りたる原因及び年月日」の欄が廃止され、代わりに戸主の記載事項欄に記載されることになりました。

 

また、昭和23年の戸籍の編成後も、新法が施行されてから10年経過して改製されるまで戸籍としての効力が認められました。 

 

【ⅴ.昭和23年式戸籍とコンピュータ化した戸籍(編成期間 昭和23年から現在)】

 

戦後に民法が改正されて、従来の制度であった「家制度」の廃止に伴い、1つの戸籍に夫婦とその子が入ることになり、その他の家族は別々の戸籍となり、1つの戸籍に入る人数が大幅に減りました。

 

また平成6年の戸籍法の改正により、法務大臣の指定を受けた市区町村はコンピュータ化した戸籍が発行されるようになりました。

相続登記の手続きをする場合、亡くなった人(被相続人)の相続関係を証明するための戸籍を取得しなければならないのが原則です。
 

しかし、場合によっては、相続登記の手続きに必要な戸籍をすべて取得できないケースもあります。なぜなら、戸籍に記載されている全員が亡くなって除籍されてから一定期間経過すると、その戸籍は破棄されてしまうからです。また、場所によっては、昔の戦争による火災や震災などの自然災害で、役所に保存されていた戸籍が滅失していることもあります。

 

そこで、相続登記をする際、このようなときはどのようにすればよいのでしょうか。

平成28年3月11日法務省民二第219号の通達では、取得可能な戸籍や除籍などに加えて、「破棄処分または滅失により除籍謄本を交付できない」旨の市区町村長の証明書を提出すれば、相続登記をして差し支えないという見解が示されています。

そのため、破棄処分や滅失などで被相続人の出生から死亡までの期間の戸籍の一部が取得できない場合、上記の書類があれば相続登記の手続きをすることが可能です。

相続登記の手続きをする際、不動産の登記名義人である被相続人が亡くなったことを証明するために戸籍を提供することになります。しかし、戸籍には本籍、氏名は記載されているものの住所が記載されておりません。一方、不動産の登記情報にはその名義人となっている人の住所と氏名が記録されています。そのため、戸籍を提供しただけでは、住所と氏名を一致させることはできません。
 

そのようなことから、相続登記をする場合、戸籍に記載されている被相続人と不動産の登記名義人が同じ人物であることを証明する必要があるのです。具体的には、除かれた住民票(除票)を被相続人と不動産の登記名義人の同一性を証する情報として提供することになります。除票には、住所の他に本籍を記載してもらうことができます。そのため、除票があれば、不動産の登記名義人と戸籍の記載されている被相続人が同じ人物だということを証明できるのです。

 

また、被相続人が亡くなったときの住所とその不動産を登記情報に記載されている住所が相違している場合、その住所間のつながりを証明しなければなりません。このような場合、複数の除票または戸籍の附票を提供して住所をつなげることになります。

 

一方、被相続人の登記上に記録されている住所と本籍が同一であるときは、それだけで不動産の登記名義人と戸籍に記載されている被相続人が同一人物であることを証明できます。そのため、このような場合は、上記と異なり、除票または戸籍の附票を提供する必要はありません。

 

 

被相続人と不動産の登記名義人の同一性を証する情報として提供する除票や戸籍の附票には、保存期間が設けられています。2019年6月20日より、除票や戸籍の附票の保存期間は消除または改製されてから150年とされましたが、それ以前は5年でした。そのため、2014年6月19日以前に消除または改製された除票や戸籍の附票の中には、保存期間の経過により破棄されて取得できないものも存在します。

 

もし、除票や戸籍の附票を保存期間の経過により取得できない場合、その代わりに以下のものを提供することによって対応することになります。(お手続きをする法務局によって必要となる書類が変わってきます)

  • 登記名義人の登記情報上の住所に被相続人の本籍、住所がない旨の証明書である不在席、不在住証明書
  • 不動産の権利を取得したときに発行された権利証または登記識別情報
  • 相続人全員の記名押印(実印)のある被相続人の同一性を証明する上申書および相続人全員の印鑑証明書

相続が発生してから長期間経過した後に相続登記の手続きをする際、上記のような状況が発生し、手続きに少し手間がかかってしまう場合もあります。そのようなことから、相続登記の手続きはなるべく早めに済ませてしまったほうがよいでしょう。

相続登記をする際、被相続人が所有していた不動産を1人の相続人が単独で相続することもあれば、複数の相続人が相続することもあります。
 

もし、1人の相続人が単独で相続するのであれば、相続登記の申請もその相続人が単独で行います。これに対して、複数の相続人が相続する場合、その複数の相続人全員が相続登記の申請人になるのが原則です。
 

しかし、相続登記の申請手続きは、民法252条但書による保存行為と解されています。そのため、複数の相続人名義の相続登記を行うときでも、そのうちの1人の相続人だけで手続きをすることができます。
 

ただ、この場合、必ず複数の相続人全員の共有名義にしなければなりません。申請人となる相続人の持分のみの相続登記はできないことになっています。なぜなら、これを認めてしまうと、被相続人と相続人が共有している形を作り出してしまうからです。
 

また、複数の相続人名義の相続登記を保存行為によって行った場合、その後に問題が生じてしまうこともあります。
 

相続登記を申請すると登記名義人に対して登記識別情報が発行されますが、その対象はあくまで登記申請人となった人だけです。そのため、保存行為によって複数の相続人名義の相続登記を申請すると、申請人となった1人の相続人に対してのみ登記識別情報が発行され、その他の登記名義人となった相続人に対しては発行されません。
 

上記の形で複数の相続人名義にした不動産を売買しようとする場合、相続登記の申請人以外の相続人は、売買の登記の際に登記識別情報を提供できません。そのため、代替の方法で登記手続きをしなければならなくなってしまうのです。代替の方法で登記手続きを行うと、余計な費用がかかってしまったり、手続きが少し面倒になったりしてしまうなどのデメリットが生じます。

 

→ 事前通知制度についてはこちら

→ 資格者代理人による本人確認情報制度についてはこちら
 

そのようなことから、複数の相続人名義の相続登記をする場合、なるべく登記名義人となる相続人全員が申請人になって手続きをしたほうがよいでしょう。

相続に関する登記手続きというと、まず相続登記があげられるでしょう。しかし、その他、相続が発生した際に相続人が登記申請手続きに関わる相続人による登記があります。
 

相続人による登記とは、亡くなった不動産の所有者が生前に処分行為だけをしていて登記手続きをしていない状態である場合、その処分行為を原因とする登記手続きを亡くなった不動産の名義人の相続人が行うというものです。
 

相続人による登記をする場合、通常の不動産の処分行為に関する登記手続きに必要な書類の他、亡くなった不動産の名義人とその相続人の関係をする相続証明書(戸籍など)が必要になってきます。
 

そこで、不動産の処分行為の1つである売買の相続人による登記についてみていきましょう。売買の登記を相続人による登記で行う場合、売主が亡くなったときと買主が亡くなったときでその手続きの方法が少し違うので注意が必要です。

 

【売主が亡くなった場合】

 

この場合、亡くなった売主の相続人全員が登記手続きに関与する必要があります。そのため、登記手続きをする際に必要となる相続証明書も、相続登記の手続きを行うときと同様に被相続人の相続人全員を証明できるものが必要になります。
 

→ 相続登記の手続きをするときに必要な戸籍についてはこちら
 

また、法定相続情報証明制度の利用により、法務局から交付を受けた法定相続情報一覧図の写しを被相続人と相続人全員の戸籍に代えて提出することも可能です。
 

→ 法定相続情報証明制度についてはこちら

 

【買主が亡くなった場合】

 

この場合は、亡くなった買主の相続人の1人が申請人となって手続きできます。登記手続きをする際に必要となる相続証明書も、被相続人と登記申請に関与する相続人の相続関係が証明できる戸籍だけで十分です。
 

ただ、不動産の権利を取得したのはあくまで被相続人です。そのため、登記手続きをする際、必ず被相続人名義にしなければなりません。

不動産の相続が発生したときに行う相続登記は、不動産登記手続きの1つになります。不動産登記の手続きをする場合、その対象となる不動産の所在地を管轄する法務局に登記申請書と必要書類を提出して行わなければなりません。たとえば、埼玉県の狭山市、所沢市、入間市を所在地とする不動産の登記手続きをする場合、所沢の法務局へ登記申請の手続きをすることになります。
 

しかし、相続登記の対象となる不動産の所在地が必ずしもご自宅の近辺であるとは限りません。相続登記の対象不動産の所在地が、自宅からかなり離れているというケースもあります。このような場合、自宅から遠方にある法務局へ相続登記の申請手続きをしなければなりません。
 

一昔前までは法務局まで足を運んで申請をする必要がありました。そのため、遠方にある不動産の相続登記を行う際、現地まで出向いて申請手続きをしたり、現地の司法書士の方に代理申請をお願いしたりして対応していたのです。しかし、インターネットや郵送の方法で登記手続きが可能となって以降、そのような手間がなくなりました。
 

したがって、自宅から遠方にある不動産の相続登記をする場合でも、ご自宅の近くの司法書士へご依頼すれば問題ありません。
 

当事務所においても、狭山市、入間市、所沢市など当事務所に近辺にある不動産だけでなく、全国の不動産の相続登記を行っております。これまで何度も北海道や九州にある不動産の相続登記のお手続きをさせていただいております。遠方にある不動産の相続登記の手続きをご希望の方でも安心してご依頼ください。

 

甲区(所有権に関する事項)

順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他事項
所有権保存 省略

共有者 

住所 省略

持分2分の1 A

住所 省略

持分2分の1 B

※  表題部省略  乙区の権利事項はありません。

 

上記のような形でAB夫婦(Aの子はC一人とします)が自宅となる不動産を共有で所有しているとします。このような場合、Aが亡くなって相続人であるBとCで遺産分割協議を行い、BがAの持分所有権を単独で相続することになったとき、Aの持分をBへ移す相続登記をします。
 

しかし、上記の相続登記をする際、亡くなったAの最後の住所とBの現在の住所が登記情報に記載されている住所と相違している場合もあります。このようなとき、相続登記をする前に住所変更の登記をする必要があるのかという疑問が出てきます。

 

→ 住所変更の登記についてはこちら

→ 相続登記についてはこちら

 

この場合、被相続人であるAについては住所変更の登記をする必要はありません。なぜなら、被相続人の登記情報上の住所と亡くなったときの住所が相違していても、そのつながりを証明できる除票や戸籍の附票を添付すれば、そのまま相続登記ができるからです。

 

→ 被相続人と不動産の登記名義人の同一性を証する情報についてはこちら

 

一方、Bについては、相続登記の手続きをする前に住所変更の登記をしておいたほうがよいでしょう。なぜなら、Bの住所変更の登記の手続きをしないで相続登記の手続きをしてしまうと当初Bが不動産の権利を取得した際に登記した住所と今回相続によって不動産の権利を取得したときに登記した住所が相違してしまうからです。それにより、同じBでも別の人物として扱われ、登記情報上の「権利者その他事項」のところにも「所有者」ではなく「共有者」として登記されてしまいます。
 

これに対し、相続登記の手続きをする前に住所変更の登記をしておけば、当初Bが不動産の権利を取得した際に登記した住所と今回相続によって不動産の権利を取得した際に登記した住所が同じになります。その結果、名義人となる2つのBは同一人物として扱われ、権利者その他事項のところにも「所有者」として登記されるのです。
 

そのようなことから、当事務所でもこのようなとき、A持分をBへ移す相続登記をさせていただく前に住所変更の登記をさせていただいております。

不動産登記を申請をする際、一定の例外を除いて登記原因証明情報を添付しなければなりません。登記原因証明情報とは、登記原因となった事実又は法律行為によって権利が変動したことを証明する情報のことです。

 

→ 登記原因証明情報についてはこちら

 

不動産登記は、権利を取得する人と権利を失う人が共同して申請手続きを行います。権利を失う人が登記手続きの関与することで登記の真正を担保することが可能です。そのようなことから、不動産登記を共同で申請する場合に提供する登記原因証明情報は、登記原因となった事実又は法律行為によって権利が変動したことを報告的に記載した書面でよいことになっています。

 

一方、相続登記の場合、名義人である被相続人はすでに亡くなっているため、共同申請の方法で登記手続きできません。したがって、権利を取得した相続人が単独で登記申請手続きを行います。単独申請という形で行う相続登記は、手続きをする際、登記の真正が担保されない状況となります。そのため、相続登記の際には、より証明力の強い書類を登記原因証明情報として提供しなければならないのです。具体的には、市区町村長その他公務員が職務上作成した書面が必要になってきます。

 

相続登記の際に登記原因証明情報として提供する市区町村長その他公務員が職務上作成した書面とは、被相続人が亡くなった旨とその相続人全員を証明する戸籍一式です。
 

→ 相続登記の手続きに必要となる戸籍についてはこちら
 

ただ、法定相続情報証明制度により、法務局から交付を受けた法定相続情報一覧図を写しを、被相続人と相続人全員の戸籍の代わりに提出することも可能です。
 

→ 法定相続情報証明制度についてはこちら
 

それから、遺産分割協議によって権利を取得する人を定めた場合は、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書(有効期限はありません)も相続登記の登記原因証明情報の一部として提供する必要があります。
 

さらに、実務上では被相続人と不動産の登記名義人の同一性を証する書面も添付することになります。

 

→ 被相続人と不動産の登記名義人の同一性を証するについてはこちら
 

その他、相続人のなかに相続放棄をした人がいたり、相続分の譲渡があったりした際、これらの事情があったことを証明する書類が必要になります。その書類が私文書の場合、原則として実印を押印して印鑑証明書(有効期限はありません)も提供しなければなりません。

遺産分割協議による場合や法定相続による相続登記の登記原因証明情報として、どのような書類が必要になるのかにつきましてはこの前の記事に記載させていただきました。
 

→ 一般の相続登記の登記原因証明情報についてはこちら
 

それでは、遺言書による相続登記をする際、どのような書類を登記原因証明情報として提供しなければならないのでしょうか。遺言書による相続登記をするために必要な登記原因証明情報としてまずあげられるのが遺言書です。

 

遺言書が公正証書遺言の場合は遺言書の謄本を提供すればよいのですが自筆証書遺言の場合は、原則として、検認手続きをしたことの証明書が合綴されたものが必要となります。自筆証書遺言書を提供して遺言書による相続登記をする場合、原則として、あらかじめ家庭裁判所で検認手続きを受けなければいけないからです。

 

→ 遺言書の検認手続きについてはこちら

 

それから、被相続人が亡くなった旨と遺言によって権利を取得する人が相続人であることを証明できる戸籍も登記原因証明情報の一部として提供しなければなりません。しかし、一般の相続登記とは必要となる書類の内容が少し変わります。
 

一般の相続登記では、亡くなった人の相続人全員を証明するためのものが必要となります。これに対して、遺言書による相続登記では、権利を取得する人が被相続人の相続人であることを証明できるもので十分です。
 

そのため、親が亡くなって相続人である子の一人が遺言書に基づいて権利を取得する場合、死亡年月日が記載されている亡くなった親の除籍と権利を取得する相続人の戸籍謄本(抄本)のみとなります。
 

その他、一般の相続登記と同様に被相続人と不動産の登記名義人の同一性を証する書面が必要になります。
 

→ 被相続人と不動産の登記名義人の同一性を証する書面についてはこちら

土地のなかにもいろいろな種類がありますが、そのなかの1つに田や畑など耕作の目的に供される農地があります。売買や贈与により農地の所有権を移転する場合、農地法の許可を受けなければなりません。そのため、農地を売買や贈与を原因によって所有権移転登記をする際、農地法の許可書を提供して申請手続きを行います。
 

しかし、相続を原因として農地の所有権移転登記をする場合、上記とは異なり、農地法の許可を受ける必要がありません。そのため、農地の相続登記をする場合には農地法の許可書も必要ないので、通常の場合と同様に手続きをすることができます。
 

相続登記には、遺産分割協議をして行う方法、法定相続によって行う方法、遺言書に基づいて行う方法がありますが、いずれの場合も「相続」を原因として農地の所有権移転登記をする場合、農地法の許可は必要ありません。
 

ただ、遺言書に基づいて農地の所有権移転登記をする際、その内容が相続人以外の人へ特定遺贈するというものである場合は、農地法の許可を受ける必要があります。そのため、農地を相続人以外の人へ特定遺贈をする内容の「遺贈」を原因とする所有権移転登記をするときは、農地法の許可書を提供しなければなりません。
 

また、2009年の農地法の改正により、農地を相続してその権利を取得した人は農地のある市町村の農業委員会にその届出をしなければならないことになりました。農業委員会側で、相続によって農地の権利を取得した人を把握できるようにするためにこのような制度が設けられたのです。
 

農業委員会への届出は、原則として被相続人の相続を知った日から10ヶ月以内にしなければなりません。届出をする際、登記完了後の登記事項証明書(登記簿謄本)のコピーを届出書と一緒に農業委員会へ提出することになります。
 

この届出は、本人だけでなく、代理人によって行うことも可能です。当事務所で農地の相続登記のご依頼をいただいた場合、あわせてこの届出のお手続きを代行させていただいております。
 

また、2012年4月以降に森林の土地の所有者となったとき、一定の場合に届出が必要になりました。
 

→ 森林の土地の所有者届出制度についてはこちら

相続登記の手続きの方法には、いくつかの方法があります。
 

→ 相続登記の手続きの方法についてはこちら
 

相続登記をする際、遺言書の内容に基づいて行ったり、法定相続によって相続人全員の共有名義にしたりすることもありますが、遺産分割協議をしたうえで申請手続きを行うケースが最も多いといえるでしょう。
 

そして、遺産分割協議をしたうえで相続登記を行う場合、遺産分割協議書を作成して、この書面を登記申請の際に提出しなければなりません。相続登記の際に提出する遺産分割協議書には、登記名義人となる申請人以外の相続人全員の実印を押印する必要があります。さらに、前記の相続人全員の印鑑証明書も提出しなければなりません。
 

ただ、遺産分割協議書は相続登記以外の相続手続きの際にも使用します。相続登記以外の相続手続きをする際(例、預貯金や金融資産の相続手続き)、提出する遺産分割協議書には相続人全員の実印を押印することが求められ、さらには相続人全員の印鑑証明書を提出しなければならないのが通常です。そのようなことから、相続手続きをする際に作成する遺産分割協議書には、相続人全員の実印を押印し、相続人全員の印鑑証明書を用意しておいたほうがよいでしょう。
 

また、相続登記を申請するときに提出する印鑑証明書には、発行期限があるのか否かも気になるところです。不動産登記の申請をする際に提出しなければならない印鑑証明書のなかには、発行から3ヶ月以内という期限が設けられているものも多いです。
 

→ 不動産登記の手続きに必要な印鑑証明書についてはこちら
 

しかし、相続登記の際に提出する相続人の印鑑証明書には、上記のような発行期限は設けられていません。そのため、発行から3ヶ月を経過しているものであっても、手続きに使用できます。
 

それから、相続登記の際に提出する相続人の印鑑証明書は、原本還付が可能であるのも特徴の1つです。原本還付とは、法務局へ書類の原本とコピーを同時に提出し、手続き終了後に原本を返却してもらうことをいいます。
 

売買や贈与を原因とする所有権移転登記をする場合、売主や贈与者など権利を失う側の人の印鑑証明書を提出しなければなりません。このときに提出する印鑑証明書は必ず原本でなければなりませんが、それとは異なります。

相続が発生した際、被相続人が遺言書を残していない場合、相続人全員で遺産分割協議をして相続する財産を決めていくケースが多いです。ただ、相続人の中に未成年者がいる場合、通常と同じような形で遺産分割協議ができません。なぜなら、未成年者は自身で遺産分割協議に参加できないからです。
 

遺産分割協議は法律行為にあたります。人が法律行為をするには、意思能力や行為能力がなければならないのが原則です。18歳未満の未成年者は、法律上、行為能力はないとされています。そのため、法律行為である遺産分割協議に自ら参加できないのです。

 

そこで、相続人の中に未成年者がいるとき、どのような形で遺産分割協議を行えばよいのかについてみていきます。

 

【ⅰ.特別代理人を選任して遺産分割協議をする】

 

行為能力のない未成年者が法律行為をしようとする場合、法定代理人である未成年者の親が代わりに手続きするのが通常です。そのようなことから、未成年者の代わりにその親が法定代理人として遺産分割協議に参加して相続手続きを進めればよいのではとも考えられます。
 

しかし、親などの法定代理人が未成年者を代理して遺産分割協議に参加すると、好ましくない問題が生じます。父親が亡くなり、母親と未成年の子が相続人である事例で考えてみましょう。この場合、母親が未成年の子を代理して遺産分割協議をすることになるので、事実上、母親は自分1人で協議内容を決められてしまいます。それにより、未成年の子に不利な内容の遺産分割協議がされてしまい、その利益を害される可能性(利益相反の問題)が出てきてしまうのです。
 

遺産分割協議に参加する相続人に未成年の子とその親がいるとき、上記のような問題が生じないように、親の未成年の子に対する代理権は制限されます。そのため、原則として親は、未成年の子の法定代理人として遺産分割協議に参加できません。このような場合、家庭裁判所へ申立てをして、特別代理人を選任してもらいます。

→ 特別代理人選任申立の手続きについてはこちら

 

そして、選任された特別代理人が、未成年の子を代理して遺産分割協議をするのです。遺産分割協議書への署名捺印も、特別代理人が未成年の子に代わって行います。

 

一方、相続人が未成年の子とその親である場合でも、利益相反の問題が生じないときは、家庭裁判所で特別代理人を選任してもらう必要はありません。たとえば、親が相続放棄をして、相続人が未成年の子1人になるケースです。この場合は、親が未成年の子の法定代理人として相続手続きをすることができます。

 

【ⅱ.相続人に未成年の子が複数人いる場合】

 

母親と2人の未成年の子が相続人である場合、上記ⅰの事例と同じような形で手続きをすることができるのでしょうか。このケースにおいても、遺産分割協議をする際、母親と2人の未成年の子は利益相反の関係になります。そのため、遺産分割協議をするには、家庭裁判所で特別代理人を選任してもらう必要があります。ただ、原則として2人の未成年の子にそれぞれ1人ずつ特別代理人を選任しなければならない点が上記ⅰの事例と違う点です。

 

一方、母親が相続放棄をして2人の未成年の子だけが相続人になった場合、1人の特別代理人を選任すれば遺産分割協議が可能です。母親が相続放棄をすれば利益相反の問題がなくなります。それにより、未成年の子の法定代理人として遺産分割協議に参加できるようになるからです。母親は、2人の未成年の子のうちの1人の代理人になれます。そのため、特別代理人を1人だけ選任すれば、遺産分割協議をすることができるのです。

 

法律上の行為能力がない未成年者は、自身で遺産分割協議に参加することができません。そのため、相続人の中に未成年者がいる場合、通常とは違う方法で遺産分割協議をしなければなりません。
 

→ 相続人の中に未成年者がいる場合についてはこちら
 

そして、判断能力(意思能力)のない人が相続人の中にいる状況で遺産分割協議をしようとする際にも、未成年者のケースと同じような問題が生じます。そこで、このような場合は、どのような形で遺産分割協議を行えばよいのかみていきます。

 

【ⅰ.成年後見人を選任して遺産分割協議を行う】
 

有効な法律行為をするには、判断能力(意思能力)が必要になります。そのため、認知症や知的障害などで判断能力(意思能力)のない人が、自身で他の相続人と遺産分割協議を行っても、無効となってしまうのです。
 

このような場合、家庭裁判所に申立を行い、成年後見人を選任してもらいます。そして、選任された成年後見人が判断能力(意思能力)のない相続人の代理人となって、他の相続人と遺産分割協議をするのです。
 

成年後見人は、本人の利益や生活などを考えながら財産を維持したり、保全したりしなければなりません。そのため、成年後見人は、本人の法定相続分を確保できるように遺産分割協議での話し合いを進めていくのが原則です。

 

【ⅱ.相続人の中に成年被後見人と成年後見人がいる場合】
 

成年後見人として、本人の親や子などの親族が選任されるケースも少なくありません。このような状況にある家族内で相続が発生したとき、成年被後見人と成年後見人がともに被相続人の相続人となることも多いです。成年被後見人と成年後見人が同じ被相続人の相続人となる場合、遺産分割協議をする際に利益相反の問題が生じてしまいます。したがって、このようなケースでは、未成年者のときと同様、成年後見人が成年被後見人を代理して遺産分割協議をすることができません。
 

遺産分割協議の際に、成年後見人と成年被後見人が利益相反の状況になる場合、特別代理人が成年被後見人の代理人となって手続きを進めていくのが原則です。そのため、未成年者のときと同様、家庭裁判所に特別代理人選任の申立をする必要があります。
 

→ 特別代理人選任申立の手続きについてはこちら

 

ただ、後見監督人が選任されている場合、たとえ、遺産分割協議の際に成年後見人と成年被後見人が利益相反の状況にあるときでも、原則として特別代理人を選任してもらう必要はありません。なぜなら、後見監督人が選任されている場合は、その者が成年被後見人の代理人となるからです。

相続人の中に行方不明者がいるときでも、その者が生存している限り、相続権がなくなるわけではありません。遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。そのため、もし、生存している行方不明者がいる場合、遺言書があるなどの例外を除き、その者も含めて相続手続きを行う必要があります。
 

そこで、相続人に行方不明者がいる場合、どのようにして相続手続きを進めていけばよいのかみていきます。

 

ⅰ.行方不明の相続人の所在を調査する】

 

行方不明の相続人と何かしらの方法で連絡を取ることができれば、通常の方法で遺産分割協議をすることも可能です。そのため、まず行方不明の相続人の所在を調査することから始めます。
 

本籍地には、その場所に本籍を置く人の戸籍だけではなく戸籍の附票という書類が備えられています。戸籍の附票とは、人がある場所に本籍地を置いている間の住所の履歴が記載されている書類です。被相続人の除籍を取得して、行方不明の相続人の戸籍を追っていくと、その者の現在の本籍がわかります。その本籍で戸籍の附票を取得すれば、行方不明の相続人の所在を確認することができるのです。
 

行方不明の相続人の所在が確認できれば、そこへ手紙を出したり、直接訪問したりして連絡を取ることが可能です。このような形で行方不明であった相続人と連絡を取れるようになり、スムーズに相続手続きが進むケースも結構あります。

 

ⅱ.行方不明の相続人と自力で連絡がとれない場合】

 

自分で行方不明の相続人の所在調査を行っても、連絡が取れないケースもあります。また、行方不明の相続人が戸籍の附票から判明した住所に住んでいないこともあるでしょう。このような場合、以下の2つの方法を利用して相続手続きを進めていきます。

【家庭裁判所で不在者財産管理人を選任してもらう】

 

行方不明の相続人の生存は確認できるものの、どこにいるのかわからない場合、家庭裁判所に申立てをして不在者財産管理人を選任してもらいます。不在者財産管理人とは、行方不明の人の財産を本人に代わって管理する人です。行方不明者以外の他の相続人は、選任された不在者財産管理人と協力して相続手続きを進めていきます。

 

不在者財産管理人の権限は、原則として本人の財産の保存行為、利用改良行為に限定されています。そのため、不在者財産管理人は、行方不明の相続人に代わって相続手続きに関与する際、遺産分割協議に無条件で参加できないのです。不在者財産管理人が行方不明の相続人に代わって遺産分割協議に参加するためには、家庭裁判所から権限外行為の許可を得る必要があります。

 

【家庭裁判所に失踪宣告の申立を行う】

 

相続人の行方不明期間が一定の年数以上である場合、家庭裁判所に失踪宣告の申立を行って相続手続きを進めることもできます。失踪宣告とは、行方や生死が不明である人を死亡したものとみなす制度です。家庭裁判所から失踪宣告の審判がなされると、対象の行方不明者は死亡したものとみなされるので、それを前提とした相続関係を下に相続手続きを進められるようになります。

不在者財産管理人を選任する方法、失踪宣告の申立をする方法のどちらを利用して相続手続きを行う場合も、数カ月程度の時間を要します。そのため、通常の相続手続きをするときよりも、手続き期間が長期化するのが通常です。

相続人全員が日本人であっても、その中の1人または複数人が外国に住んでいるケースもあります。このような場合でも、遺言書がある場合などの例外を除き、相続人全員で相続手続きを進めなければなりません。そのため、外国に住んでいる相続人にも手続きに協力してもらう必要があります。
 

相続人の中に外国に住んでいる人がいる場合、相続手続きに必要となる書類の内容が少し変わってきます。その点について具体的にみていきましょう。

 

ⅰ.印鑑証明書の代わりにサイン証明書を提出する】

 

相続人全員で遺産分割協議を行った後、相続登記の手続きをする際、遺産分割協議書とともに相続人全員の印鑑証明書を提出するのが原則です。預貯金の相続手続きをするときは、遺産分割協議書を必ず提出しなければならないというわけではありませんが、相続人全員の印鑑証明書の提出を求められます。
 

しかし、日本人であっても外国に住所がある場合、日本で印鑑登録をすることができません。そのため、外国に住んでいる人は、印鑑証明書の発行を受けられないのです。そのため、相続手続きをする際に印鑑証明書が必要なとき、どのように対応すればよいのかという問題が生じます。
 

外国に住んでいる日本人が相続手続きをする場合、印鑑証明書の代わりにサイン証明書(署名証明書)を提出して対応します。サイン証明書とは、在外公館が証明する文書で個人の印鑑証明書の代わりとなる書類です。
 

外国在住の日本人がサイン証明書を取得するには、現地の在外公館まで出向く必要があります。そこで領事の前で相続手続きの際に提出する遺産分割協議書に署名し、その横に拇印を押します。そして、その署名と拇印をした遺産分割協議書に署名した旨の証明書を綴じて割印してもらうことにより発行してもらうのです。

 

ⅱ.住民票の代わりに在留証明書を提出する】

 

相続登記の手続きをする際、原則として名義人となる者の住民票を提出する必要があります。しかし、外国に住んでいて日本に住所がない場合、住民票を発行してもらうことができません。そのため、外国に住んでいる相続人が相続登記の名義人となるとき、どのように対応すればよいのかが問題となります。
 

このような場合、住民票の代わりに在留証明書を提出します。在留証明書とは、外国に住んでいる日本人の現在の住所、またはこれまでの住所の履歴を管轄の在外公館が証明する書類です。
 

在留証明書もサイン証明書(署名証明書)と同様に、現地の在外公館で取得することができます。

夫が不慮の事故などで亡くなり、その夫の妻が現在妊娠中であったとしましょう。このような場合、妻とそのお腹の中にいる胎児が相続人となります。

そこで、胎児が相続人になる場合の相続についてみていきます。

 

ⅰ.胎児が相続人となる理由】

 

相続人になるには、被相続人が亡くなったときに生存していることが条件となります。胎児はまた生まれていないので、生存しているとはいえません。しかし、民法の規定では、相続について胎児はすでに生まれたものとみなすと規定しています。そのようなことから、原則の例外として胎児は相続人となるのです。ただ、死産である場合は相続人ではなかったことになります。
 

「相続について胎児はすでに生まれたものとみなす」の規定に対して、以下の2つの考え方があります。

【停止条件説】

 

停止条件説とは、胎児が生きて生まれてくることを条件として、相続開始のときにさかのぼって相続する権利を取得するという考え方です。

 

【解除条件説】

 

解除条件説とは、胎児が生まれる前であっても相続する権利があり、死産となったときだけ、相続開始のときにさかのぼって相続する権利がなかったとする考え方です。

不動産登記実務では、胎児名義の登記手続きも認められていますが、それは解除条件説の考え方に基づくものです。
 

→ 胎児を名義人とする登記手続きについてはこちら

 

ⅱ.胎児が相続人になるときの遺産分割協議による相続手続き】

 

相続人全員で遺産分割協議を行い、その内容に基づいて相続手続きを進めていくケースが多いです。そこで、胎児が相続人になる場合でも、遺産分割協議によって相続手続きができるのか気になるところです。
 

解除条件説の考え方であれば、胎児の権利能力が認められるので、胎児の母(利益相反が生じる場合は特別代理人)が代理人となって遺産分割協議ができることになります。しかし、胎児が生まれるとき、人数が1人であるとは限りません。また、死産になる可能性もあり、その場合、胎児は相続人ではなかったことになります。
 

そのようなことから、相続人の中に胎児がいる場合、その段階で遺産分割協議を行って相続手続きをするのは難しいのが現実です。また、実務上では、相続人である胎児が生まれる前に遺産分割協議はできないとされています。
 

したがって、相続人である胎児が生まれてから遺産分割協議をして、相続手続きを進めていくことになります。

生前に遺言書を作成しておくことで、自分が亡くなったときに特定の者へ財産を承継させることができます。遺言によって自分の財産を承継させる対象として、相続人を選定することも可能です。
 

そして、遺言で自分の財産を相続人へ承継させる場合、「相続させる旨の遺言」をするのが一般的です。

 

ⅰ.相続させる旨の遺言とその効力】

 

相続させる旨の遺言とは、「○○に甲土地、乙建物を相続させる」というような特定の相続人に財産を相続させる遺言のことをいいます。

相続させる旨の遺言は、その内容の趣旨が遺贈であることが明らかであるか、遺贈と解すべき特段の事情がない限り、「遺産分割方法の指定」と解されます。そのため、相続させる旨の遺言を作成した被相続人が亡くなり、その遺言書の効力が発生した場合、直ちに相続人へ財産が承継されるのです。

相続させる旨の遺言を内容とする遺言書に沿って相続登記をする際、財産を承継する相続人が単独で手続きすることができます。そのようなことから、スムースに相続登記の手続きが行えるのです。

なお、2018年の相続法改正により、相続させる旨の遺言は、「特定財産承継遺言」として民法で規定されています。相続させる旨の遺言により、相続人へ権利承継があった場合、その相続人の法定相続分を超える部分については、権利の対抗要件を備えなければ、第三者(他人)に自分が権利者であることを主張できなくなりました
 

→ 相続の効力などに関する見直し(2018年相続法改正)についてはこちら
 

そのようなことから、今後、相続させる旨の遺言により、不動産の権利を相続した相続人は、速やかに登記手続きをすることが求められます。

 

ⅱ.相続させる旨の遺言のメリット】

 

相続させる旨の遺言を内容とする遺言書を作成すると、その遺言書の効力が発生した後に相続手続きをする際、どのようなメリットがあるのでしょうか。
 

まず、相続登記の手続きをするときの負担する費用が少なくなります。相続登記をはじめとする不動産登記の手続きをする際、原則として登録免許税を納付しなければなりません。「遺贈」を原因として登記手続きをする場合、原則として税率は1000分の20になります。しかし、相続させる旨の遺言を内容とする遺言書を提出して行う相続登記の税率は1000分の4です。そのため、遺贈を原因として登記手続きをするときよりも、負担する費用が少なくなるのです。
 

→ 遺言書による登記手続きについてはこちら
 

承継させる土地が農地である場合、農地法の許可を受ける必要がないのもメリットだといえます。遺言書で農地を相続人以外の者へ特定遺贈する場合、農地法の許可を受けなければなりません。登記手続きをする際にも、農地法の許可書を提出する必要があります。しかし、農地を相続で承継させるときは、農地法の許可を受ける必要はありません。そのため、相続させる旨の遺言により農地の相続登記を行う場合、農地法の許可書も提出しなくてよいのです。
 

遺言によって承継される土地が借地権である場合、地主の承諾を得なくてよいのもメリットです、借地権を遺贈で承継させるときは、地主の承諾が必要ですが、相続の場合は地主の承諾がなくても、借地権を相続人へ承継させられます。
 

→ 建物と借地権を相続した場合についてはこちら

遺言書を作成することによって、相続人だけではなくそれ以外の者に対しても被相続人の財産を承継させることが可能です。そのため、遺言書による登記手続きをする際、遺贈の登記と相続登記をしなければならないケースもあります。
 

そこで、遺言書に基づいて遺贈の登記と相続登記をする際の手続き方法についてみていきます。

 

ⅰ.先に遺贈の登記手続きを行う】

 

生前に遺言書を書いていたAが亡くなり、その遺言書には、以下の内容が記載されていました。

「遺言書は、遺言者の所有する不動産の持分2分の1を相続人Bに相続させる。残りの持分2分の1を相続人ではないCに遺贈する。」

遺言書にこのような内容の記載がある場合、Bに対してA所有不動産の持分2分の1の相続登記を行い、Cに対して残りの持分2分の1の遺贈の登記を行います。
 

→ 遺言書による登記手続きについてはこちら
 

その際、Bに対する相続登記を先行させて手続きをすることはできません。このようなケースでは、最初にCに対する遺贈の登記手続きを行い、その後にBに対する相続登記の手続きをしなければならないのです。

 

ⅱ.遺贈の登記を相続登記よりも先に行わなければならない理由】

 

遺言書で不動産の持分の一部を相続人へ承継させ、残りの持分を相続人以外の者に承継させる場合、なぜ遺贈の登記を相続登記よりも先に行わなければならないのでしょうか。それは、共同相続人のうちの1人だけの相続分につき、相続登記の手続きができないとされているからです。
 

相続登記を遺贈の登記に先行して手続きをすると、不動産の持分の一部が相続人名義となり、残りの持分は被相続人名義のままの状態になります。それにより、共同相続人のうちの1人だけの相続分につき、相続登記がされたことになってしまうのです。一方、遺贈の登記を相続登記に先行して行えば、このような問題は生じません。
 

したがって、このようなケースでは、まず遺贈の登記手続きを先に行い、その後に相続登記の手続きをするのです。

相続登記をはじめとする不動産登記の手続きを行うと一定事項が登記されますが、その1つに原因日付があります。原因日付とは、登記の目的となる権利変動発生の事実や法律行為とその日付のことです。具体的には、所有者となる住所と氏名の上のところに「年月日○○(相続、売買、贈与など)」と記載されます。
 

不動産の所有者が亡くなったとき、権利を承継する相続人名義にするために相続登記を行います。その際、被相続人の戸籍に「推定年月日死亡」と記載されているときの原因日付はどのようになるのでしょうか。相続登記の原因日付とあわせてみていきましょう。

 

ⅰ.相続登記の原因日付について】

 

相続登記の登記原因は、原則「相続」となります。これは、遺言に基づいて相続登記を行うか否かにかかわらず、その結論は変わりません。日付は、不動産の所有者が亡くなった日で、戸籍に記載されている死亡年月日がそれに該当します。
 

相続登記をする際、相続人全員で遺産分割協議を行ったうえで手続きをするのが一般的ですが、この場合の登記原因の日付はいつになるのでしょうか。遺産分割協議による相続登記の登記原因の日付も、上記と同じ不動産の所有者が亡くなった日になります。遺産分割協議が成立した日が原因日付となるわけではありません。なぜなら、遺産分割協議の効力は、相続が開始したときまでさかのぼることになるからです。

 

ⅱ.不動産の所有者の正確な死亡年月日が不明な場合】

 

近年、1人で生活されている高齢者の方が孤独死されるケースも増えています。被相続人となる方が孤独死された場合、正確な死亡年月日がわかりません。そのため、このようなときは、被相続人の戸籍に「推定年月日死亡」と記載されることがあります。
 

そこで、被相続人の戸籍に「推定年月日死亡」と記載されているとき、相続登記の原因日付はどのようになるのでしょうか。相続登記の原因日付は、戸籍の記載どおりとするのが原則です。そのため、原因日付は「推定年月日相続」となります。
 

しかし、上記のように登記されてしまうと、相続した不動産を売却しようとする際、不都合が生じてしまう可能性も少なくありません。そのようなことから、戸籍の記載が「推定年月日死亡」となっているときでも、原因日付を「年月日相続」という形で登記したいという要望も多いです。
 

この点、法務局によっては、気を利かせていただき、「年月日相続」で登記の受付をしてもらえることもあります。当事務所においても、実際にこのようなケースで「推定年月日相続」ではなく、「年月日相続」で登記手続きをさせていただいたこともありました。
 

ですが、上記はあくまで例外であり、原則は戸籍の記載とおりに、「推定年月日相続」として登記手続きをすることになります。

人が亡くなって相続が発生をすることになりますが、その際に相続人などが相続や遺贈によって、亡くなった人の財産を取得することになります。そして、相続や遺贈によって取得する財産などの額が一定の額以上の場合には税金がかかってくるのですが、この税金のことを相続税といいます。相続税がかかってくる場合は、一定の期間の間に申告と納税をする必要があるので、相続の手続きとあわせて行う必要があります。

 

2015年に相続税が改正されていくつかの変更がありましたが、そのなかでも相続税の基礎控除が少なくなったのがメインの変更点です。基本的に、相続や遺贈によって取得する財産などの額が基礎控除の範囲内であれば相続税はかからないのですが、これが縮小されることによって、これまでより相続税の納税義務の対象となる方が増えることが予想されます。

 

2015年の相続税改正により、基礎控除の額は以下のとおりに変更となりました。

【改正前】

 

5000万円+1000万円×法定相続人の人数

 

【改正後】

 

3000万円+600万円×法定相続人の人数

たとえば、夫が亡くなって相続人が妻と子一人の場合において、改正前であれば基礎控除は7000万円であったのに対し、改正後は4200万円となります。そのため、4500万円の遺産がある場合、これまでであれば相続税の納税対象外でしたが、改正後は相続税の納税対象になる可能性があります。 
 

また、その他の変更点としてあげられるのが税率が上がったということ、未成年者、障害者控除が拡大したこと、小規模宅地等の特例の改正などがあります。 
 

相続登記などの相続手続きを司法書士にご依頼される方の中には、相続税の申告をする必要がある方も多くなってくることが予想されます。
 

相続税の申告は、通常税理士さんに手続きをお願いすることになります。当事務所で相続登記などの相続手続きをさせていただく際、相続税の申告が必要となる方には、提携させていただいている相続税に強い税理士の先生を紹介させていただくことが可能です。
 

相続手続きをご希望の方で、相続税の申告が必要となる方でも安心してご相談下さい。 

不動産を所有している人が亡くなった場合、相続によって権利を取得する人の名義にするため、相続登記の手続きを行います。
 

→ 相続登記の手続きの方法についてはこちら
 

相続登記をする場合、相続人全員で遺産分割協議をして権利を取得する人の名義にすることが多いですが(遺言書がある場合を除きます)、遺産分割協議をしないで法定相続による登記をする場合もあります。
 

しかし、法定相続による相続登記をした後、遺産分割協議をして不動産を単独で相続する相続人を決めるようなケースもあるでしょう。この場合、どのような方法で手続きを行うのでしょうか。

 

【ⅰ.登記手続きは共同申請の方法で行う】

 

相続登記は、原則相続によって不動産の権利を取得した人が単独で登記の申請手続きを行います。しかし、法定相続による相続登記を行った後、遺産分割協議によって不動産を単独で相続する相続人を決めた場合、通常の相続登記とは手続き方法が異なります。
 

このようなときは、遺産分割協議によって不動産の権利を単独で相続する人を登記権利者、権利を失う他の相続人を登記義務者とする共同申請の方法で手続きをしなければなりません。
 

具体例をあげて説明しましょう。Aが亡くなって相続人がB、C(持分2分の1ずつ)であるとします。この場合、一度法定相続による相続登記(B、C各持分2分の1)をした後、遺産分割によりBが不動産の権利を単独で取得したとき、Cの持分をBへ移転させる登記手続きをBとCが共同で行うのです。

 

【ⅱ.権利証(登記識別情報)が必要になるか否か、登記原因やその日付も異なる】

 

権利証(登記識別情報)が手続きに必要となるか否かについても違いがあります。通常の相続登記では、手続きをする際、原則として権利証(登記識別情報)を提供する必要はありません。しかし、上記の方法で登記手続きをする場合、権利を失うCの権利証(登記識別情報)の提供が必要です。
 

その他、登記原因やその日付も通常の相続登記と異なります。相続登記の登記原因は「相続」ですが、上記の方法で登記手続きする場合は「遺産分割」が登記原因となります。また、原因日付となる日は、相続が発生した日ではなく、遺産分割協議が成立した日です。

人が亡くなって相続が発生した場合、相続人が被相続人の権利や義務を承継できる割合が法律上で定められていますが、これを法定相続分といいます。相続人全員で遺産分割を行う際、この割合を基準にして決めるケースも多いです。
 

ただ、法定相続分と異なる割合で遺産分割協議を行いたいと希望する相続人も存在します。そこで、法定相続分と異なる割合での遺産分割協議が可能なのかについてみていきます。

 

【ⅰ.法定相続分と異なる遺産分割協議は可能】

 

相続人全員で遺産分割協議を行う場合、必ず法定相続分のとおりに分割しなければならないわけではありません。法定相続分と異なる割合で遺産分割協議をすることも可能です。
 

民法では、「遺産分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」と定められています。そのため、相続人間での話し合いがまとまれば、各相続人が取得する遺産の内容や割合を自由に決めることも可能なのです。「相続人のうちの1人が遺産をすべて取得し、他の相続人は遺産を取得しない」という内容の遺産分割協議を成立させることもできます。
 

相続登記をする際も、遺産分割協議を行って権利を取得する相続人を決めた後に手続きをするのが一般的です。法定相続分どおりに登記をするケースはそれほど多くありません。

 

【ⅱ.被相続人のマイナス財産は原則法定相続分の割合で承継する】

 

相続の対象となる財産は、プラスの財産だけではありません。借金などのマイナスの財産もその対象となります。そこで、被相続人のマイナスの財産を相続する場合、遺産分割協議によって特定の相続人へ承継させることができるのでしょうか。
 

借金などのマイナスの財産は、法定相続分の割合で各相続人へ承継されるのが原則です。相続人間だけで特定の相続人へ承継させることはできません。なぜなら、これを認めてしまうと、債権者が不利益を受けてしまう場合が出てくるからです。たとえば、資力の乏しい相続人がマイナスの財産を単独で承継するとなると、債権者は債権を回収できなくなる可能性があります。そのようなことから、債権者に不利益が生じないように、原則としてマイナスの財産は、法定相続分の割合で各相続人へ承継されることになっているのです。
 

ただ、債権者に不利益が生じなければ、遺産分割協議によってマイナスの財産を特定の相続人へ承継させても問題は生じません。そのため、債権者の同意があれば、このような形で処理することが可能です。

生前に遺言書を残していた人が亡くなった場合、原則としてその遺言書の内容に沿って相続手続きを行います。しかし、被相続人が遺言書を作成したときの事情と、相続が発生したときの事情が変わっているケースも少なくありません。このような場合、遺言書の内容と異なる形で相続手続きを進めたほうが好ましいときもあります。
 

そこで、遺言書の内容と異なる遺産分割協議を行って相続手続きをすることができるのかみていきます。

 

【ⅰ.遺贈がなされた場合】

 

遺贈には特定の財産を受遺者に承継させる「特定遺贈」と遺産全体に対する割合を指定して受遺者に承継させる「包括遺贈」があります。どちらの遺贈がなされた場合でも、原則として遺言書の内容と異なる遺産分割協議をすることは可能です。
 

遺言書で遺贈がなされている場合、その内容と異なる遺産分割をするには、受遺者の同意が必要になります。受遺者から同意を得るとは、いいかえると受遺者に遺贈を放棄してもらうということです。
 

特定遺贈の場合、遺言者が亡くなった後、受遺者はいつでも遺贈の放棄をすることができます。そのため、特定遺贈の受遺者に放棄する意思があれば、いつでも遺言書の内容と異なる遺産分割協議をすることが可能です。
 

一方、包括遺贈の場合、受遺者が遺贈の放棄をするためには、相続開始を知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述しなければなりません。包括遺贈の受遺者は、相続人と同一の権利義務を有すると法律上で定められています。そのため、受遺者が包括遺贈の放棄をするには、相続放棄と同じ方法で手続きをする必要があるのです。
 

特定遺贈の場合と違い、包括遺贈は放棄できる期限が設けられている点に注意を要します。

 

【ⅱ.相続させる旨の遺言がなされた場合】

 

相続させる旨の遺言がなされた場合、相続による権利承継をその相続人の意思表示にかからせたなど特段の事情がない限り、遺言者が亡くなった後、当然にその相続人へ相続による権利承継がされます。そのため、遺言書の内容が相続させる旨の遺言である場合、遺言書の内容と異なる遺産分割協議はできないものと考えられます。
 

→ 相続させる旨の遺言についてはこちら
 

しかし、相続人全員の合意があれば、遺言書の内容と異なる遺産分割協議が可能です。たとえ、相続させる旨の遺言がなされた場合でも、権利承継の対象となる相続人の意思を無視して強制的に権利を取得させるべきではないからです。
 

東京高裁の2009年12月18日の判決では、相続させる旨の遺言の利益を放棄できない旨が示されましたが、そのなかで相続人全員の合意が得られていない点が指摘されています。逆に、相続人全員の合意があれば、その意思が尊重されるべきであるということです。
 

したがって、相続人全員の合意があれば、遺言書の内容と異なる遺産分割協議が可能と解されます。

 

ⅲ.遺言執行者が定められている場合】

 

遺言書に遺言執行者が定められている場合、相続人は遺言執行の対象となる相続財産の処分や執行を妨げる行為をすることができないとの規定があります。そのため、相続人全員と受遺者だけではなく、遺言執行者の同意も得たうえで遺言書の内容と異なる遺産分割協議を行ったほうがよいでしょう。

特定の相続人や第三者に財産を承継させるため、生前に遺言書を残していたとしましょう。しかし、遺言者が亡くなる前に遺言で権利を受ける人がすでに亡くなっているというケースもあります。このような場合、遺言者が亡くなった後、遺言書の内容に沿った財産承継が実現できません。そのため、どのように相続手続きを進めていけばよいか疑問が生じます。
 

そこで、遺言者が亡くなる前に遺言で権利を受ける人がすでに亡くなっている場合、遺言書の効力はどのようになるのかみていきます。

 

ⅰ.その部分において遺言は無効となるのが原則】

 

「遺言者が亡くなる前に受遺者がすでに亡くなっている場合、遺贈の効力は生じない」旨の規定が民法に定められています。そのため、相続人以外の第三者である受遺者が、遺言者よりも先に亡くなっている場合、その部分において遺言は無効となるのが原則です。その結果、遺言者の相続人に権利が帰属することになります。亡くなった受遺者の相続人が権利を承継するわけではありません。
 

しかし、その遺言書に別段の定めがある場合はこの限りではありません。たとえば、遺言書に「α不動産をAに遺贈する。もし、Aが遺言者より前に亡くなっているときは、α不動産をBに遺贈する。」などの定めがあるときです。このようなとき、Bは遺贈によってα不動産を取得します。
 

特定の相続人に特定の財産を相続させる旨の遺言があった場合で、権利を承継する相続人が遺言者より先に亡くなったときはどのようになるのでしょうか。このケースでも、原則として遺言の効力はなくなります。権利を承継する相続人に子がいるときでも、原則として代襲相続は生じません。無効となった相続させる旨の遺言の対象となる権利は、遺言者の相続人全員に帰属します。
 

→ 相続させる旨の遺言についてはこちら
 

ただ、遺言者が遺言で別段の意思表示をしている場合、遺贈のときと同じように、遺言書の効力はその範囲で生じます

 

ⅱ.遺言者が亡くなった後に権利を受ける人が亡くなった場合】

 

遺言者が亡くなった後、遺言書に基づいて相続手続きをする前に権利を受ける人が亡くなるということもあります。この場合、①の場合と異なり、通常どおり遺言の効力が生じます。なぜなら、遺言者が亡くなった時点では、まだ遺言によって権利を受ける人は生存しているからです。遺贈や相続させる旨の遺言が原則無効になるのは、遺言者より前に権利を受ける人が亡くなったときです。
 

そして、このケースでは、受遺者の相続人が最終的に権利を取得することになります。

相続の発生原因である人の死亡は、医師の確認により認定されます。しかし、状況によって、死亡したことがほぼ確実であるにもかかわらず、その認定ができないときもあります。このような場合であっても、死亡したものとして扱う制度がありますが、その1つが認定死亡です。
 

そこで、認定死亡とはどのような制度なのかについてみていきます。

 

【ⅰ.認定死亡とは?】

 

認定死亡とは、直接人の死亡を確認できないときでも、状況から判断して死亡していることがほぼ確実である場合、その人の死亡を認定する制度です。
 

水難、震災などの事故に巻き込まれて死亡した人がいる場合、取り調べや捜索をした官公署は、死亡地の市区町村に死亡の報告をします。官公署が取り調べや捜索をする際、水難や震災にあった人で死亡が確実な状況にあるにもかかわらず、その遺体がみつからないがために、直接死亡が確認できない場合もめずらしくありません。このようなときでも、官公署はその人の死亡を認定して、その旨の報告をすることがあります。
 

認定死亡の制度は、官公署が死亡の報告をする際に職権でなされるものです。そのため、水難や震災などで行方不明になった人の関係者側からの申立により、死亡認定してもらうことは原則としてできません。ですが、取り調べや捜索を行った官公署側へ死亡認定願を提出することで、動いてもらうように働きかけることは事実上可能となっています。

 

【ⅱ.認定死亡の効果】

 

官公署が人の死亡を認定すると、対象者の戸籍に死亡の旨が記載されます。認定死亡がされた場合、死亡を原因とする法律上の効果が当然に認められるというわけではありません。しかし、認定死亡の記載は、反証がなされない限り、戸籍に記載された死亡年月日に死亡したものと推定されるという裁判所の判例があります。そのため、認定死亡がされた場合、その人は死亡したものとして、不動産や預貯金などの各種相続手続きを進めることが可能です。

 

ⅲ.認定死亡と失踪宣告】

 

認定死亡と同様、人の死亡が確認できないときに死亡したものとして扱う制度に失踪宣告があります。両制度には共通する点もありますが、違う点もあります。そこで、認定死亡と失踪宣告の制度には、どのような違いがあるのでしょうか。
 

まず、死亡を認定する機関に違いがあります。認定死亡は、官公署の死亡報告に基づいて戸籍にその旨が記載されることで死亡したものと扱われます。これに対して、失踪宣告は、家庭裁判所の審判によって死亡したものとされるのです。
 

それから、死亡したものと扱われる法的な効果にも違いがあります。認定死亡では、「死亡したものと推定される」であるのに対し、失踪宣告の場合は、「死亡したものとみなす」です。認定死亡の場合、反証(死亡推定の事実と反対になる証拠)を示すことで、その法的効果がくつがえります。これに対して、死亡したとみなされる失踪宣告は、反証を示しても、その法的効果はくつがえりません。失踪宣告の法的効果を取り消してもらうためには、家庭裁判所に申立をして、その旨の審判を受ける必要があります。

戸籍上に「高齢者につき死亡と認定」の旨とその許可年月日が記載されていることがありますが、これは高齢者職権消除がされたことを示しています。
 

そこで、高齢者職権消除とはどのような制度なのか、また、高齢者職権消除がされた場合、それをもって各種相続手続きができるのかについてみていきます。

 

ⅰ.高齢者職権消除とは?】

 

年齢が100歳以上で生存している可能性がきわめて低い高齢者の戸籍を、行政側が職権で抹消する措置を高齢者職権消除といいます。
 

人が死亡した場合、親族や同居者は、死亡者の本籍地などの市区町村へ死亡届を提出し、それにより、死亡者の戸籍に死亡した旨の記載がされます。しかし、各種事情により、死亡届が提出されない場合、死亡者の戸籍に死亡した旨の記載がされません。そのため、亡くなったにもかかわらず、戸籍上では生存している状態が発生してしまうのです。
 

戸籍上のなかで、このような状況が生じるのは好ましくありません。そこで、行政側が必要に応じて、年齢が100歳以上で亡くなっている可能性が高い行方不明の高齢者の戸籍を職権で消除できる制度が設けられているのです。高齢者職権消除は、市区町村長が監督法務局長の許可を得て行います。

 

ⅱ.高齢者職権消除によって相続は開始するか?】

 

高齢者職権消除がされると、対象者の戸籍に「高齢者につき死亡と認定」の旨が記載されます。「死亡」という文言から、高齢者消除の措置がされたことにより、対象者が亡くなって相続開始の効果が生じたのではないかとも考えられます。
 

しかし、高齢者職権消除はあくまで戸籍の記載事項を整理するための便宜的措置です。この措置により、対象者が死亡したと扱われるわけではなく、相続開始の効果を生じさせるものでもありません。そのため、高齢者消除の記載のある戸籍を使用して、各種相続手続きもできません。この点は、死亡したものと推定され、相続の開始原因となる認定死亡と異なります。
 

→ 認定死亡についてはこちら
 

もし、高齢者消除の対象者となる人の相続を開始させたいのであれば、家庭裁判所へ失踪宣告の申立をして、死亡したものとみなしてもらう必要があります。

不動産を所有していた人が亡くなって相続が発生すると、遺言書がない場合を除き、相続人全員で相続登記の手続きを進めていくのが通常です。しかし、被相続人とその相続人全員の状況や遺産の内容によっては、相続人のなかで相続放棄をする人が出てくるケースも考えられます。
 

そこで、相続人のなかに相続放棄をした人がいる場合、どのような形で相続登記の手続きを進めていけばよいのでしょうか。相続放棄の内容とあわせてみていくことにします。

 

【ⅰ.相続放棄とは?】

 

相続放棄とは、被相続人の有する権利や義務の承継を全面的に放棄することをいいます。相続人が相続放棄をすると、その相続に関してはじめから相続人ではなかったことになります。そのため、相続放棄をした後、その相続人は被相続人を一切相続することはできません。
 

相続放棄は、管轄の家庭裁判所に申述(申立)をすることによって行います。相続人が相続放棄の申述を行った後、家庭裁判所側がその内容を審査し、申述した相続人へ照会を行ったうえで受理するか否かの決定を出すのが通常です。
 

審査の結果、要件を満たしていると判断された場合、家庭裁判所から相続放棄申述受理の決定が出されます。これにより、申述をした相続人が相続放棄をしたことになるのです。
 

→ 相続放棄の申述(申立)手続きの詳細についてはこちら

 

【ⅱ.相続放棄者がいるときの相続登記の手続き方法】

 

遺産分割による相続登記をする際、登記手続きの前に、相続人全員で相続不動産の権利取得者を決めるための協議を行うのが原則です。
 

→ 遺産分割による相続登記についてはこちら
 

しかし、相続放棄をした相続人は、はじめから被相続人の相続人ではなかったとみなされます。そのため、相続放棄をした相続人は、遺産分割協議に参加する必要はありません。この場合、相続放棄をした相続人以外の相続人全員で遺産分割協議を行ったうえで、相続登記の手続きをすることになります。

 

【ⅲ.相続放棄をした旨を証明する書類の提出が必要】

 

相続人のなかに相続放棄者がいる場合、その者以外の相続人全員で遺産分割協議を行ってから相続登記の手続きをします。しかし、相続放棄をしたとき、放棄した相続人の戸籍にその旨が記載されるわけではありません。そのようなことから、法務局側が登記審査の際、相続人のなかに相続放棄者がいることを確認できるようにしておく必要があります。
 

相続人のなかに相続放棄者がいる状況で相続登記を行う場合、そのことを証明するために「相続放棄申述受理証明書」を提出しなければなりません。相続放棄申述受理証明書とは、家庭裁判所によって相続放棄が受理された旨を証明してもらえる書類です。したがって、相続登記の手続きを行う前までに、相続放棄をした相続人は、相続放棄申述受理証明書を取得しておく必要があります。
 

相続人が相続放棄の申述(申立)をした後、家庭裁判所から照会書と照会事項の回答書が送付されてきます。相続放棄の申述をした相続人は、照会事項の回答書に回答をして家庭裁判所へ返送することになるのですが、その際、一緒に相続放棄申述受理証明書の取得申請をすることが可能です。

相続人全員で遺産分割協議を行ったうえで相続登記の手続きをする際、そのなかの1人の相続人が被相続人から法定相続分以上の生前贈与(特別受益)を受けていたとしましょう。このような場合、相続人全員で遺産分割協議をして手続きする他、特別受益証明書を提出して相続登記を行うことも可能です。
 

そこで、特別受益証明書を使用した相続登記について、特別受益の内容と一緒にみていくことにします。

 

【ⅰ.特別受益とは?】

 

特別受益とは、特定の相続人が被相続人から生前贈与や遺贈によって権利承継を受けたときの利益をいいます。
 

特定の相続人がこのような利益を得ている状況で、さらに被相続人の相続が発生したとき、他の相続人と法定相続分の割合で相続できるとなると不公平感が生じます。そのようなことから、相続人間の均衡を保つため、特別受益者の相続人は、被相続人を相続する際、特別受益の分だけ相続分が少なくなるのが原則です。
 

→ 特別受益についてはこちら

 

【ⅱ.特別受益者がいる場合の相続登記の手続き方法】

 

ある相続人が被相続人から法定相続分以上の特別受益を受けていたとき、相続できる財産はゼロになるのが原則です。しかし、この場合、その特別受益者の相続人の地位までなくなるわけではありません。そのため、相続登記をする際に遺産分割を行うとき、法定相続分以上の特別受益を受けた相続人もその協議に参加しなければならないことになります。
 

ですが、登記実務ではこのようなとき、特別受益証明書を提出することにより、法定相続分以上の特別受益を受けた相続人を除いた相続に全員で遺産分割協議をしたうえで相続登記をすることができます。特別受益証明書とは、特別受益者の相続分がないことを証明する旨が記載された書類をいいます。この書類には、特別受益者の署名と実印による捺印が必要です。そのため、相続登記の申請の際には、特別受益証明書と一緒に特別受益者の印鑑証明書を提出しなければなりません。
 

また、親と未成年の子が共同相続人である場合、親が未成年の子の代わりに特別受益証明書を作成しても利益相反の問題は生じません。特別受益証明書は、相続人が特別受益者である事実を証明するもので、法律的な利害関係を新たに発生させる性質のものではないからです。そのようなことから、この場合、親は未成年の子のために特別代理人を選任する必要もありません。
 

→ 未成年者の相続人の相続手続きと特別代理人についてはこちら

 

→ 特別代理人の選任についてはこちら

 

【ⅲ.事実上の相続放棄をするために利用されることも多い】

 

特別受益を受けていない相続人を特別受益者として扱い、その旨の特別受益証明書を作成して相続登記をするケースも多いです。これにより、その相続人の事実上の相続放棄を実現できるので、スムーズに登記手続きできるメリットがあります。
 

しかし、上記のような事実に反する内容の特別受益証明書を作成した場合、その証明書の効力が問題となります。この点につき、最近の裁判例の傾向では、証明書の内容が事実に反しているときでも、それだけで単純に無効とはしていません。証明書が作成者の真意に基づいて作成されているか否かを基準に有効無効を判断しています。そのため、内容が事実に反していても、作成者がそのことを把握したうえで証明書が作成されていれば問題ありません。
 

ただ、相続財産のなかに借金などのマイナスの財産があったときには注意が必要です。なぜなら、この場合、特別受益証明書の作成によって事実上の相続放棄をした相続人も、債務の承継を免れられないからです。

相続が発生したとき、被相続人の子や兄弟姉妹など、本来法定相続人になる人がすでに亡くなっているケースも少なくありません。このような場合、被相続人の相続において、代襲相続が生じることになります。

そこで、代襲相続が生じた場合の登記手続きや関連事項についてみていきます。

 

【ⅰ.代襲相続とは何か?】

 

代襲相続とは、被相続人が亡くなる前にその法定相続人がすでに亡くなっているとき、その法定相続人の子や孫が被相続人を相続することをいいます。
 

たとえば、被相続人に配偶者と2人の子がいて、子の1人が被相続人の亡くなる前にすでに亡くなっていたとします。このとき、亡くなった被相続人の子に子(被相続人の孫)がいる場合、その子(被相続人の孫)が代襲相続人となるのです。
 

被相続人の法定相続人がすでに亡くなっているときだけではなく、その法定相続人が相続欠格や廃除などによって相続権を失っている場合も代襲相続発生の原因となります。一方、法定相続人が被相続人の相続放棄をしたときは、代襲相続は生じません。
 

そして、被相続人の法定相続人が子であるときの代襲相続は、再代襲相続が生じます。被相続人の相続が発生する前に、被相続人の子だけではなく、その子の子(被相続人の孫)もすでに亡くなっていて、さらにその下に子(被相続人のひ孫)がいるとしましょう。このような場合、その子(被相続人のひ孫)が再代襲相続人となります。
 

これに対して、被相続人の法定相続人が兄弟姉妹であるときは、再代襲相続は発生しません。被相続人の相続が発生する前に、被相続人の兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合、その子(被相続人の甥、姪)は代襲相続人になりますが、さらにその下の子(被相続人の甥、姪の子)は再代襲相続人にはならないのです。

 

【ⅱ.代襲相続の場合の相続登記について】

 

代襲相続が生じているときに相続登記をする場合、どのように手続きを進めていくのでしょうか。代襲相続が生じているケースでも、基本的に通常の相続登記と同じ形で手続きをします。具体的には、遺言書がある場合を除き、代襲相続人を含めた被相続人の相続人全員で遺産分割協議をして権利を取得する人を決めた後、相続登記により名義変更の手続きを行うのが原則です。
 

上記の方法により、被相続人の相続人へ直接相続登記によって名義変更できるのはもちろんですが、代襲相続人が権利取得者となって直接名義人となることもできます。なぜなら、代襲相続人も被相続人の法定相続人と同様、相続によって権利を直接承継する資格があるからです。
 

また、代襲相続による相続登記をする際に必要となる戸籍の種類ですが、通常の相続登記のときに提出を求められる戸籍の他、被代襲者(代襲によって相続された人)の出生から亡くなるまでの期間の戸籍が必要となります。

 

【ⅲ.代襲相続と似て非なる数次相続】

 

代襲相続は、被相続人が亡くなる前に法定相続人である子や兄弟姉妹がすでに亡くなっているときに発生するものです。一方、被相続人が亡くなった後、遺産分割協議など相続手続きをするまえにその子や兄弟姉妹が亡くなるケースもあります。後者の相続のことを一般的に数次相続といいます。
 

被相続人の相続が代襲相続か数次相続か否かで相続人の判断や手続きの方法が変わってくるので注意が必要です。
 

→ 数次相続の場合の相続登記についてはこちら

相続が発生してから相続関係が複数間の世代にまたがってしまうケースもめずらしくありませんが、その際に生じる相続関係の1つに数次相続があります。
 

そこで、数次相続とその相続登記の手続きについてみていきます。

 

【ⅰ.数次相続とは何か?】

 

数次相続とは、被相続人の法定相続人が相続を承認後、各種相続手続きをする前に亡くなって、第2の相続が発生する状態のことです。このような場合、亡くなった法定相続人の相続人全員が被相続人の相続権を承継することになります。
 

そのため、被相続人の相続手続きをするには、亡くなった法定相続人の相続人全員が関与しなければならないのが原則です。

 

【ⅱ.数次相続と代襲相続の違い】

 

複数間の世代にまたがって相続関係が発生する際、数次相続と比較されるのが代襲相続です。この2つの相続にはどのような違いがあるのでしょうか。
 

代襲相続とは、被相続人が亡くなったとき、生存していれば法定相続人の地位にあった子や兄弟姉妹がすでに亡くなっている状態にあり、その子が代襲相続人となって相続するというものです。これに対して、数次相続は、被相続人が亡くなったときにはまだ法定相続人は生存しており、その法定相続人が相続を承認した後に亡くなって第2の相続が発生する点に違いがあります。
 

具体例をあげてその違いをみていくことにしましょう。被相続人A、Aの配偶者B、Aの子にはC、Dの2人がいて、Cには配偶者Eと子Fがいるとします。このような場合、Aが亡くなった後にCが亡くなったときが数次相続、Aが亡くなったときにすでにCが亡くなっている場合は代襲相続となります。
 

数次相続の場合、Cの子のFだけではなく、配偶者であるEも被相続人Aの相続権を取得します。なぜなら、Cが亡くなったとき、Aの相続権がCからEとFに相続されるからです。一方、代襲相続のケースでは、Fが代襲相続人となり、Aの相続権を取得しますが、Cの配偶者であるEはAの相続権を取得しません。 
 

→ 代襲相続の場合の相続登記についてはこちら

 

【ⅲ.数次相続が発生したときの相続登記の方法】

 

数次相続が発生している場合、相続人のうち誰が名義人となるかで相続登記の手続き方法が異なります。ⅱの具体例の相続関係で、Aの後Cが亡くなって数次相続が発生しているとき、どのような手順で手続きをするのか、名義人となる相続人ごとにみていきます。

 

【AからBまたはDに相続登記をする場合】
 

この場合は、Aの相続人B、DとCの相続人であるE、Fで遺産分割協議をすることによって1件で登記手続きをすることができます

 

【AからEまたはFに相続登記をする場合】
 

こちらのケースでは、原則、1件の登記手続きでEまたはFの名義にすることはできません。 数次相続が発生した場合、最終の相続人に直接相続登記をするためには、中間の相続人が単独でなければならないからです。
 

しかし、逆に中間の相続人を単独にすることができれば、被相続人から最終の相続人への相続登記を1件で済ませられます。Aの直接の相続人であるB、D及びCの相続人であるE、Fが遺産分割協議を行って、Cが単独で相続したことにすれば、AからE(F)へ直接相続登記をすることが可能です。
 

また、「A名義の不動産はE(F)が単独で相続する」旨の最終的な遺産分割協議の結果のみが記載された遺産分割協議書を提供することで、AからE(F)へ直接相続登記ができる旨の見解も示されています。(H29.3.30民二第237号)

相続が発生した際、各相続人は法定相続分を有することになりますが、その相続分を譲渡することもできます。

そこで、相続分の譲渡とはどのようなものなのか、相続分の譲渡をしたときの登記手続きとあわせてみていくことにします。

 

【ⅰ.相続分の譲渡とは?】

 

相続分の譲渡とは、相続人の1人または数人が他の人へ相続分を譲渡することです。民法905条1項において、「共同相続人の1人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価格及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる」という定めがありますが、この規定は相続分の譲渡が可能であることが前提となっています。
 

上記規定による相続分の譲渡とは、遺産全体に対して譲渡相続人が有する包括的持分権ないし相続人たる地位を譲渡することを意味します。そのため、相続人が相続分の譲渡をした場合、譲渡相続人の有する一切の権利義務が包括的に譲受人へ承継されるのです。したがって、相続人が相続財産のなかの特定財産だけを他の人へ譲渡しても、上記規定による相続分の譲渡には当たりません。

 

【ⅱ.相続分の譲渡対象者および譲渡時期と譲渡方法】

 

相続人は、どのような人を対象に相続分の譲渡ができるのでしょうか。民法905条1項の条文上では、相続分を第三者へ譲渡したときの規定が設けられています。そのようなことから、相続人以外の第三者に対してしか譲渡できないのではとも考えられます。しかし、相続分の譲渡対象者に制限は設けられていません。そのため、相続人以外の第三者だけではなく、譲渡相続人以外の相続人に対しても譲渡することが可能です。
 

次に、相続分の譲渡ができる時期については、民法905条1項で規定されています。当該条文では「遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したとき」と定められているので、相続分の譲渡ができるのは、遺産分割協議を行う前までということになります。したがって、遺産分割協議が終了した後は、相続分の譲渡をすることができません。
 

それから、相続分の譲渡方法ですが、とくに決められた方式はありません。相続分の譲渡が行われた旨の証明書を作成し、それに当事者が署名と実印による捺印をするのが通常です。また、相続分を譲渡する際の対価は、有償でも無償でもかまいません。

 

【ⅲ.相続分の譲渡がある場合の登記手続き】

 

相続人の1人または数人が相続分の譲渡をしたとき、どのような形で相続登記の手続きを進めていくのでしょうか。相続分の譲渡対象が他の相続人かそれ以外の第三者かによって手続きの方法が変わってきます。
 

相続分の譲渡がある場合、具体的には以下のような手順で相続登記の手続きを進めていきます。

 

【相続分の譲渡対象が他の相続人である場合】

 

3名いる共同相続人のなかで、相続人の1人が他の相続人へ相続分を譲渡した場合、残りの2名の相続人間で遺産分割協議を行ったうえで相続登記の手続きをすることが可能です。たとえば、共同相続人A、B、Cがいる場合、CがAへ相続分の譲渡をした後、AとBの2名で「Aの単独名義にする」旨の遺産分割協議を行い、Aを名義人とする相続登記の手続きを直接することができます。
 

これに対して、相続分の譲渡をする前に、法定相続分による相続登記がすでになされている場合、相続分の譲渡相続人から譲受人へ持分の移転登記を行います。
 

また、数次相続が発生している状況で、同一順位以外の相続人へ相続分の譲渡をすることができますが、この場合、原則として直接相続分の譲受人へ相続登記をすることができません。そのため、相続が発生した順序にしたがって相続登記の手続きを進めていくことになります。
 

→ 数次相続の場合の相続登記についてはこちら

 

ただ、同一順位以外の相続人へ相続分の譲渡がなされた後に、譲渡人以外の相続人間で遺産分割協議が行われ、相続人の1人が単独で相続した場合、被相続人名義から直接相続人名義へ登記手続きができる旨の見解が出されています(H30.3.16法務省民二第137号)。

 

【相続分の譲渡対象が他の相続人以外の第三者である場合】
 

このケースでは、最初に法定相続による相続登記を行い、法定相続人全員の共有名義にした後、譲渡相続人から譲受人への持分移転登記をしなければなりません。なぜなら、相続分の譲渡の効力は、相続が発生したときまでさかのぼるわけではないからです。そのようなことから、直接相続人以外の第三者を名義人とする相続登記はできません。

相続が発生したとき、法定相続人が被相続人の権利義務を承継するのが通常です。しかし、法定相続人が一定の行為をしたとき、相続する権利を失うケースがあります。法定相続人が相続欠格者となったときがその1つです。
 

そこで、相続欠格の詳細と相続欠格者がいるときの相続登記の手続き方法についてみていきます。

 

【ⅰ.相続欠格とは?】

 

相続欠格とは、法定相続人が被相続人などに対して一定の行為をしたとき、その人の相続権が剥奪される制度のことです。民法891条には、相続欠格事由が定められていますが、法定相続人がそれらの行為をした場合、相続権を失うのです。
 

相続欠格事由の内容ですが、被相続人などの生命侵害に関する事項と被相続人の遺言に対する不当な干渉に関する事項があります。具体的には、被相続人などを殺害して刑に処せられたり、被相続人が遺言を作成する際、詐欺や強迫行為によって妨害したりすると、その法定相続人は相続欠格者となります。
 

→ 相続欠格事由についてはこちら

 

【ⅱ.相続欠格の効力発生と効果】

 

法定相続人が被相続人などに対して相続欠格事由に該当する行為をすれば、それだけで当然に相続欠格者となります。対象の法定相続人が相続欠格者であることを裁判所などで認めてもらう必要はありません。
 

それから、相続欠格の効力発生時期ですが、被相続人が亡くなる前後で異なります。被相続人の亡くなる前に相続欠格事由が発生した場合、法定相続人はそのときに相続欠格者となります。これに対して、相続開始後に相続欠格事由が発生した場合、相続欠格の効力が生じるのは被相続人が亡くなったときです。
 

また、法定相続人に及ぶ相続欠格の効果は相対的なものであり、対象の被相続人の相続権だけを失います。たとえば、A、Bの夫婦とその子Cがいて、Aの相続が発生したとしましょう。このようなケースでAが生前に作成した遺言書をCが偽造していた場合、Cは相続欠格者となり、Aの相続権を当然に失います。ですが、Bの法定相続人である地位まで剥奪されるわけではありません。そのため、後にBが亡くなった場合、原則CはBを相続することができるのです。

 

【ⅲ.相続欠格者がいるときの相続登記の手続き方法と必要書類】

 

不動産の所有者が亡くなって相続登記の手続きをする際、相続人のなかに相続欠格者がいるケースも考えられます。このような場合、手続き方法や必要書類は、通常の相続登記と比較して何か変化が生じるのでしょうか。
 

相続欠格者がいるときの相続登記の手続き方法も、基本的には通常の場合と同じです。ただ、相続登記をする際、相続欠格者を除く相続人全員で行うので、そのことを手続きのなかで明らかにする必要があります。相続欠格者である旨は、その人の戸籍には記載されません。そのため、相続登記をする際に、相続欠格者がその事由に該当していることを証明できる書類を提出する必要があります。
 

相続登記の手続きをする際、相続欠格者であることを明らかにするためにどのような書類を提出すればよいのでしょうか。相続欠格者本人が自分には相続権がない旨を認めているときは、相続欠格証明書を作成して、これを相続登記の手続きの際に提出します。相続欠格証明書には、相続欠格者の署名と実印による捺印が必要となります。さらには、相続欠格者の印鑑証明書も一緒に提出しなければなりません。
 

一方、相続欠格者自身が相続欠格事由に該当していることを認めないときは、裁判所で訴訟をして確定判決を得た後、その判決書を提出することになります。被相続人の遺言に関する不当な干渉が欠格事由に当たるとして争っている場合は、民事訴訟によって欠格事由の有無を確定させます。そのうえで、欠格事由に該当している旨の判決書を証明書類として提出するのです。
 

被相続人の生命侵害に関する点が相続欠格事由に当たるとして争っている場合は、刑事裁判でその旨を確定してもらった後、刑事裁判の判決書を証明書類として提出します。

相続人の相続分は、相続資格によってその割合が法律で定められています。たとえば、配偶者と子1人が相続人である場合、相続分は各2分の1ずつです。しかし、相続人の1人が複数の相続資格を有することもあります。このようなとき、複数の相続資格を有する相続人の相続分をどのように扱えばよいのでしょうか。
 

相続が発生して相続人の相続資格が重複するケース、類似のケースをいくつかとりあげてみていくことにします。

 

【ⅰ.被相続人が孫と養子縁組した場合】

 

Aに配偶者Bと子C、D、孫E(Cの子)がいて、Cが亡くなった後、AがEを養子縁組したとしましょう。このようなとき、Aが亡くなって相続が発生したとき、Eは子と代襲相続人の2つの相続資格を有することになります。
 

この場合、登記先例の見解では、Eは子の相続分と代襲相続人の相続分を両方取得するとしています。孫も子と同じ血族相続の系統にあたるため、相続分の併有を認めても問題ないからです。
 

上記の例において、Eは子としての相続分6分の1、代襲相続人としての相続分6分の1の計6分の2の相続分を取得することになります。

 

ⅱ.被相続人の配偶者が被相続人の親と養子縁組した場合】

 

子供がいない夫婦ABがいて、AがBの両親であるC、Dと養子縁組をしました。CD間には配偶者であるB以外に子E、Fがいます。
 

上記の事例において、CとDが最初に亡くなり、その後Bが亡くなったとき、Aは配偶者と兄弟姉妹の2つの相続資格が重複することになります。このような場合、登記先例では相続分の併有を否定し、配偶者の相続分のみを取得するとしています。なぜなら、配偶者の相続の系統と血族相続の系統は異なるからです。

したがって、上記の事例でのBの相続人の相続分は、Aが8分の6、EとFがそれぞれ8分の1ずつとなります。

 

【ⅲ.配偶者、実子、直系尊属のいない兄と養子縁組した場合】

 

上記ⅰ、ⅱのケースとは少し異なり、相続放棄にした後、別の相続資格での相続権を得ることができるのか問題が生じる場合もあります。
 

たとえば、配偶者、実子、直系尊属がいない兄のAと弟のBが養子縁組をしたとしましょう。その後、Aが亡くなって相続が発生した場合、養子であるBが相続人になります。そのとき、BがAの相続を放棄すると、Aの兄弟姉妹へ相続権が移ります。このようなケースでAの弟であるBは、Aの弟として相続人になれるのでしょうか。
 

BがAの相続を放棄した場合、原則として、養子としての相続権と弟としての相続権を両方失います。そのため、BはAを相続することはできません。ただ、養子としての相続権だけを放棄することを明示していた場合、弟としての相続権は失いません。そのため、このようなとき、BはAの弟として相続することが可能です。

建物を所有する場合、建物の所有権だけではなく、その敷地となる土地を利用する権利が必要です。土地の利用権は、所有権であることが一般的ですが、借地権である場合もあります。
 

そこで、土地の利用権が借地権である建物を所有している人が亡くなって相続が発生した場合、どのような手続きが必要なのでしょうか?

 

【ⅰ.建物と借地権の相続手続き】

 

借地権も財産権なので、相続の対象に含まれます。そのため、相続人は建物と共に借地権を取得することになるのです。借地権の建物の相続手続きの方法ですが、建物の場合、被相続人から権利を取得する相続人へ名義を変更します。一方、借地権に関しては、相続により権利を取得した旨を地主に通知するだけです。
 

借地権には地上権と賃借権がありますが、後者である場合、借地権の相続手続きをする際、地主の承諾が必要になるのではとも考えられます。なぜなら、賃借人が他の者に賃借権を譲渡する場合、賃貸人の承諾が必要との規定(民612条①)があるからです。
 

しかし、相続は被相続人の権利や義務が相続人へ包括的に承継されるもので、譲渡のような特定承継ではありません。したがって、相続により借地権を取得した場合、地主の承諾は必要ないのです。
 

ただ、相続人が相続により借地権を取得した場合、その旨を地主に伝えなければ分かりません。そのため、相続人は自分が借地権を相続した旨を地主に通知することになります。

 

【ⅱ.建物と借地権が遺贈された場合】

 

借地権を有していた被相続人が、遺言で相続人以外の者へ遺贈により権利を承継させるケースもあるでしょう。そこで、遺贈により建物と借地権を取得した場合、相続で取得したときと何か違いがあるのでしょうか?
 

建物については被相続人から権利を取得した者への遺贈による名義変更手続きをします。登記手続きの方法は、相続を原因として名義変更する場合と異なりますが、建物の名義が権利取得者へ移転するという効果の面では同じです。
 

→ 遺贈による登記手続きについてはこちら

→ 相続による登記手続きについてはこちら
 

しかし、遺贈により借地権を取得する場合、相続の場合と異なり、地主の承諾を得なければなりません。そのため、遺言の効力が生じた後、地主へ承諾請求することになります。
 

地主に対する承諾請求は、遺贈により借地権を取得した受遺者と遺贈義務者(遺言者の相続人全員又は遺言執行者)が連署して行うのが一般的です。ただ、地主側は、遺贈による借地権移転の承諾義務はありません。そのため、地主へ承諾請求をしても断られてしまう可能性もあります。
 

もし、地主が遺贈による借地権移転を承諾しない場合、借地権者側は、裁判所へ申立をして、承諾に代わる許可をもらうことが可能です。ただ、遺贈により借地権が移転しても、地主に不利となるおそれがない場合に限られます(借地借家19条①)。

通常の死亡が相続の開始原因であることは、ご存じの方も多いでしょう。しかし、それ以外にも、法律的に死亡したものと扱われ、相続が開始する場合があります。そこで、相続の開始原因にはどのようなものがあるのか、みていくことにします。

 

【ⅰ.通常の死亡】

 

相続の開始原因でもっとも一般的なのが、病気、事故、老衰などで人が亡くなる通常の死亡です。
 

医師は、脈拍、呼吸の停止、脳機能の不可逆的停止による瞳孔散大の三徴候を基準に、人の死亡を判定するのが一般的です。人が亡くなった後、医師によって死亡診断書または死体検案書が作成されますが、これらの書類に記載された死亡年月日時分が、人の死亡時期となります。
 

死亡した人と同居している親族など一定の者は、その事実を知った日から7日以内に死亡届を提出しなければなりません(戸籍86条①、87条①)。死亡届を提出する場合、死亡診断書または死体検案書を添付する必要があります(戸籍86条②)。
 

死亡届は、亡くなった人の本籍地、届出人の所在地の市区町村へ提出するのが原則ですが(戸籍25条①)、死亡地の市区町村へ提出することも可能です(戸籍88条①)。その他、いくつかの例外の提出先が、戸籍法で定められています(戸籍88条②など)。

 

【ⅱ.失踪宣告】

 

従来の住所または居所を去り、戻ってくる見込みがない者を不在者といいます。不在者のなかには生存が確認できる者もいますが、生死不明である者も少なくありません。不在者が生死不明であると、その者に関する法律関係が不確定な状態に置かれてしまう場合があります。そのような状態を解消するために、失踪宣告の制度が設けられているのです。
 

失踪宣告とは、不在者の生死不明の状態が一定期間続いた場合、不在者を死亡したとみなしてもらう制度です。
 

失踪宣告には、普通失踪と危難失踪があり、詳細は以下のとおりです。

【普通失踪】

 

普通失踪とは、自宅を出てそのまま行方不明になるなどの通常の失踪をいいます。不在者の生死不明の状態が7年間続いた場合、利害関係人の申立により、家庭裁判所から失踪宣告をしてもらうことが可能です(民30条①)。

 

普通失踪による失踪宣告がされると、対象となる不在者は、行方不明になってから7年が経過したときに死亡したものとみなされます(民31条)。

 

【危難失踪】

 

震災などの災害や船舶の沈没など、死亡の原因となる危難に遭遇することによる失踪が危難失踪です。危難が去った後、1年間生死が明らかではない場合に申立ができます(民30条②)。失踪宣告により、対象となる不在者が死亡したとみなされる時期は、危難が去ったときです(民31条)。

 

【ⅲ.認定死亡】

 

災害等により、死亡が確実視される場合で遺体が発見されないこともあります。このようなとき、取り調べをした官公署は、対象者が死亡したと思われる所在地の市町村長へ死亡の報告をしなければなりません(戸籍89条)。官公署の死亡の報告により、戸籍へ死亡の記載がなされますが、この取り扱いを認定死亡といいます。

→ 認定死亡についてはこちら

相続が発生すると、相続人全員で遺産分割協議を行ったうえで、遺産をどのように取得するのか決めます。遺産分割の方法のなかで、遺産をそのままの状態で分割するのが現物分割です。
 

そこで、遺産分割協議をする際、現物分割に適するのはどのようなときか、またこの分割方法には、どのようなメリットとデメリットがあるのかみていきます。

 

【ⅰ.現物分割に適する場面とは?】

 

遺産を各相続人の相続分に従って分割できる状態であれば、現物分割の方法に適しているといえます。具体的には、遺産のほとんどが現金や預貯金である場合です。また、遺産に複数の高額財産があるときも、現物分割で対応可能な場合があるでしょう。
 

一方、複数の相続人がいて、遺産が1つの不動産と現金や預貯金が少々という場合、現物分割の方法を利用するのは難しいです。このようなときは、他の方法で遺産分割をしていくことになります。
 

→ 代償分割についてはこちら

 

【ⅱ.現物分割のメリットとデメリット】

 

現物分割は、遺産をそのまま相続人へ承継させる遺産分割の方法です。遺産の名義を変更したり、手渡したりすればよいだけなので、他の分割方法よりも楽に手続きできるのがメリットといえるでしょう。また、遺産分割により、権利関係をはっきりさせられるのもメリットです。遺産自体を直接承継させるわけですから、相続人の誰がどの遺産を相続したのか明確になります。
 

一方、法定相続分の割合で分割しにくいというデメリットがあります。財産によって価値が違うので、遺産を換価して対応せざる負えない場合も少なくないからです。また、不動産や上場していない株式など、遺産のなかには価値の評価が難しいものがあります。遺産の価値が不明確であると、相続人同士でなかなか話がまとまりません。

遺産分割をする際、遺産のなかで現金や預貯金が多いときは、法定相続分どおりに分割しやすいといえるでしょう。このようなケースでは、現物分割の方法でスムーズに相続手続きができます。
 

→ 現物分割についてはこちら
 

しかし、遺産のなかで、分割しにくい財産が含まれている場合も少なくありません。このようなケースでは、現物分割の方法で法定相続分どおりに分割することは困難です。そのようなことから、遺産のなかで分割しにくい財産が含まれているときは、一般的に代償分割の方法で相続手続きを行います。

そこで、代償分割とはどのような遺産分割の方法か、またこの分割方法の注意点についてみていきます。

 

【ⅰ.代償分割とは?】

 

代償分割とは、特定の相続人が遺産を取得する代わりに、他の相続人へ現金や財産を渡して行う遺産分割の方法です。この方法で遺産分割を行えば、遺産のなかで不動産など分割しにくい財産が含まれているときでも、法定相続分どおりに分割できます。
 

相続人がA、Bの2名、遺産は2000万円の不動産と500万円の現金と預貯金である場合についてみていきましょう。このようなとき、現物分割の方法で法定相続分どおりの分割を行うには、不動産を共有で相続しなければなりません。しかし、不動産を共有にしてしまうと、後に売却する場合、共有者全員で手続きを行う必要があります。共有者同士で売却をするか否かの意見が相違してしまうと、手続きがスムーズに進みません。さらに、不動産を相続して保有することになると、毎年固定資産税を支払う必要があります。共有で不動産を相続すると、固定資産税を誰が負担するのかということも問題になってくるのです。
 

そこで、Aが単独で不動産を、Bが預貯金をそれぞれ相続し、AがBに対して取得した遺産の差額である1500万円を支払う形で代償分割を行うのです。これにより、相続人間で平等さが保たれ、後の不動産の売却や固定資産税の負担に関する問題も解消されます。

 

【ⅱ.代償分割の注意点】

 

代償分割は、遺産のなかで分割しにくい財産が含まれているときに適した遺産分割方法です。しかし、代償分割の方法で相続手続きを行う際、注意点があるので頭に入れておいたほうがよいでしょう。
 

代償分割をする際、相続人間で渡される代償の対価は現金であることが多いですが、相続人間で話し合いがつけば、不動産や株式なども代償の対価にできます。ただ、不動産や株式を代償の対価にする際、譲渡した相続人は譲渡所得税の課税対象となる場合があるので注意しましょう。また、不動産を代償の対価として受け取ったとき、不動産取得税や登録免許税を負担する必要があることも把握しておきたいところです。
 

代償分割を行った場合、その旨を遺産分割協議書に記載することも忘れてはなりません。遺産分割協議書に代償分割の記載がないと、代償金の支払いや代償財産の交付が贈与とみなされてしまう可能性があります。それにより、代償金や代償財産を受け取った相続人は、贈与税を負担しなければならなくなる場合もあるのです。遺産分割協議書に代償分割の記載があれば、代償金の支払いや代償財産の交付は相続手続きのなかで行われたものと判断されます。したがって、代償金や代償財産を受け取った相続人に贈与税が課税されることもありません。

遺産を現物のまま相続しようとする場合、現物分割または代償分割の方法を活用して遺産分割を行います。
 

→ 現物分割についてはこちら

→ 代償分割についてはこちら
 

しかし、遺産の内容によっては、どうしても現物のままでは分けられないこともあるでしょう。そのような場合、遺産を換価して、その現金を各相続人が相続するという方法を取るのです。この手順で行われる遺産分割を換価分割といいます。

 

【ⅰ.どのような状況が換価分割に適するのか】

 

遺産分割を行う際、換価分割の方法を選択するのが適しているのはどのような場合なのでしょうか。まず、相続人全員で公平に遺産分割をしたいときです。遺産を処分して現金化し、その現金を各相続人へ法定相続分どおりに分配すればよいので、公平な遺産分割を実現できます。
 

遺産のなかに分割しにくい財産があるときも、換価分割が適しているといえるでしょう。このような場合、代償分割の方法で手続きをすることも考えられます。しかし、遺産を取得する相続人に、代償の対価を負担できる資力がなければ、代償分割の方法を利用できません。一方、換価分割の場合は代償金や代償財産を用意する必要はないので、相続人の資力の有無に関係なく手続きすることができます。
 

また、遺産分割を行う際、換価分割に適さない場合もいくつかあります。まず、相続人の一人が遺産である不動産に居住しているときです。このようなケースで換価分割を行ってしまうと、処分された不動産に居住している相続人は住む場所を失ってしまいます。
 

短期間で遺産分割を行いたい場合も換価分割は不向きです。遺産のなかには、不動産など処分して現金化するまで時間がかかるものも少なくありません。そのため、換価分割を選択すると相続手続きが長期化するケースも多いです。

 

【ⅱ.不動産を処分して行う換価分割について】

 

換価分割をする場合、遺産のなかでも分割しにくい財産を処分することになります。不動産は、分割しにくい上に数百万円から数千万円単位の価値があります。そのため、換価分割をする際、処分の対象になることも少なくありません。不動産を処分して換価分割を行う場合、考慮しなければならない問題があるので、その点を踏まえながら手続きすることが大切です。

 

【遺産分割協議と贈与税の問題】

 

不動産を処分して換価分割を行うには、その前提として相続登記をしなければなりません。相続人の名義にしておかないと、遺産である不動産を売却できないからです。各相続人が法定相続分どおりに売却代金を取得するには、相続人全員の共有名義で登記した後、相続人全員で不動産を処分しなければならないと考えられます。売却代金は不動産を処分した対価なので、各相続人は取得した売却代金の割合に相当する不動産の権利を有していなければならないからです。もし、登記名義人ではない相続人が不動産の売却代金を取得した場合、登記名義人の相続人から贈与を受けた形になります。そのため、登記名義人ではない相続人に対して贈与税が課税されるのではという問題が出てきてしまうのです。
 

しかし、単独名義で相続登記をした後、不動産を処分して換価分割を行った場合でも、原則贈与税の問題にはなりません。単独名義で相続登記をしたことが、不動産を換価するための便宜上のものであり、売却代金が遺産分割の内容にしたがって分けられていれば、贈与にならないとの見解を国税庁が示しています。国税庁への照会事例は、遺産分割調停の事例ですが、相続人全員で遺産分割協議を行ったケースでも同様に考えてよいでしょう。
 

→ 遺産の換価分割のための相続登記と贈与税(国税庁HP)についてはこちら
 

換価分割をする際、遺産分割協議書に「換価分割である旨」「相続人間の分割割合」を忘れずに記載しておくことが大切です。

 

【譲渡所得税の問題】

 

換価分割のために相続不動産を処分した場合、売却益が発生すると、原則相続人に対して譲渡所得税が課税されます。複数の相続人がいるときは、取得した売却代金の割合に応じて、譲渡所得税を負担しなければなりません。売却益は「売却価格−(取得費+譲渡費用)」で算出します。
 

たとえば、相続人2名で換価分割を行い、相続不動産を処分したとしましょう。相続不動産の売却価額が3000万円、取得費と譲渡費用が2000万円だったとすると、売却益は1000万円になります。2名の相続人が各2分の1ずつ売却代金を取得した場合、それぞれが500万円の売却益を得たと扱われます。そのため、2名の相続人は、500万円に一定の税率を乗じた額を譲渡所得税として申告しなければなりません。換価分割をして相続手続きを行うと、思わぬ出費を強いられることがあるので注意しましょう。
 

ただ、売却益が発生しても状況によっては譲渡所得税がかからないケースもあります。例えば、被相続人と同居していた相続人が相続不動産を処分したときです。この場合、相続不動産は相続人の居住用の不動産に当たります。売却した不動産が居住用であるとき、3000万円の特別控除を受けることが可能です。そのため、売却益が3000万円以下であれば、相続人に対して譲渡所得税がかかりません。
 

また、相続税が課せられるとき、負担する譲渡所得税額を少なくできる場合があります。相続税申告書の提出期限の翌日以後3年以内に換価分割で相続不動産を処分すると、納税した相続税を取得費に加えることが可能です。それにより、売却益が少なくなるので、負担する譲渡所得税額を抑えることができます。

相続の対象となる財産は、預貯金、不動産、金融資産などのプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。そのため、住宅ローンの債務者が、返済期間中に亡くなると、ローンの返済義務も相続人に承継されるのが原則です。
 

しかし、住宅ローンの債務者が「団体信用生命保険」に加入していれば、相続人にローンの返済義務は承継されません。この場合、保険が適用されてローンが完済となるからです。
 

そこで、団体信用生命保険とそれに基づく抵当権抹消の登記手続きについて説明します。

 

【ⅰ.団体信用生命保険とは】

 

団体信用生命保険とは、住宅ローンを組む際に加入する生命保険です。住宅ローンの債務者がこの保険に加入した後、亡くなったり、高度障害になったりすると、保険会社から金融機関へ保険金が支払われます。それにより、住宅ローンも完済されるのです。
 

住宅ローンの返済期間は、20年から30年に及ぶケースも少なくありません。その期間内に、住宅ローンの債務者にもしものことが起きる可能性も十分考えられます。そのようなことになると、残された家族が残りの住宅ローン返済の負担を負わなければなりません。
 

ですが、団体信用生命保険に加入していれば、そのようなリスクも回避することが可能です。したがって、団体信用生命保険は、住宅ローンを組む際にも、その後の生活においても、人々に安心感を与えてくれるものだといえるでしょう。
 

団体信用生命保険は、一般的に「団信」と呼ばれていますが、大きく分けて一般団信と疾病特約付きの団信があります。前者は、死亡や高度障害を保障内容とする団信です。一方、後者はそれに加えて、がん、脳卒中、急性心筋梗塞など一定の疾病も保障内容となります。

 

【ⅱ.団体信用生命保険により住宅ローンが完済になった場合の抵当権抹消の登記手続き】

 

団体信用生命保険によって、保険会社から金融機関へ保険金が支払われると、住宅ローンが完済になります。それにより、設定された抵当権も消滅するので、抵当権抹消の登記をすることになります。
 

→ 抵当権抹消登記についてはこちら
 

住宅ローンの債務者である不動産所有者が亡くなり、団体信用生命保険によって住宅ローンが完済となった場合、いきなり抵当権抹消の登記はできません。亡くなった不動産所有者の相続登記をした後でなければ、抵当権抹消の登記はできないのです。
 

→ 相続登記についてはこちら
 

不動産登記は、原則、権利関係が変動した順に沿って手続きしなければなりません。今回のケースは、①住宅ローンの債務者である不動産所有者が亡くなる、②団体信用生命保険によって保険会社から保険金が支払われる、③住宅ローンが完済になるという順で権利関係が変動しています。
 

したがって、不動産登記の手続きの原則に従い、最初に相続登記、その後に抵当権抹消という順番で登記手続きを行うのです。 

相続登記(相続による不動産の名義変更手続き)、預貯金や有価証券(株式や投資信託)などの相続手続きをする場合、被相続人(亡くなった人)の相続関係を証明する必要があります。そのため、これらの手続きをするには、被相続人の出生から亡くなるまでの除籍謄本や改製原戸籍と相続人全員の現在の戸籍謄本または抄本を提出しなければなりませんでした。
 

→ 相続登記の手続きに必要となる戸籍についてはこちら
 

しかし、2017年5月29日より、全国の法務局で法定相続情報証明制度が始まりました。この制度により、各種相続手続きごとに被相続人の相続関係を証明する戸籍一式を提出し直す必要がなくなり、相続手続きの負担も少なくなりました。

 

【ⅰ.法定相続情報証明制度とは】

 

法定相続情報証明制度とは、法務局に被相続人の法定相続関係を証明してもらう制度です。
 

この制度が創設された背景には、相続登記を促進させることにあります。長年にわたって相続登記をしてしない不動産が増えてしまうと、所有者不明土地問題や空き家問題が深刻化してきてしまいます。それにより、処分できない不動産や利用できない不動産が増えてしまうのは好ましくありません。このような問題を解消するため、法定相続情報証明制度を創設して、人々が相続登記をしやすいように手続きの軽減化をはかったのです。
 

法定相続情報証明制度を利用するためには、相続人等が法務局へその申出をする必要があります。その後、被相続人の相続関係が確認されれば、認証文つきの法定相続情報一覧図の写しを法務局から交付してもらえるのです。
 

そして、各種相続手続きは、被相続人の相続関係を証明する戸籍一式の代わりにこの認証文つきの法定相続情報一覧図の写しを提出してすることができます。

 

【ⅱ.法定相続情報証明制度の手続きの流れ】

 

法定相続情報証明制度を利用する場合、以下の流れで手続きを行います。

 

【1.申出に必要な書類の収集】

法定相続情報証明制度の利用の申出を行う場合、以下の書類を提出しなければなりません。

  • 被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍一式
  • 被相続人の最後の住所を証明する書類

 

※  被相続人の住民票の除票または戸籍の附票が上記の書類に該当します。

 

  • 被相続人の法定相続人全員の戸籍謄本または抄本
  • 申出人(法定相続情報証明の手続きを行う人)の住所と氏名を確認できる公的書類

 

※  住民票の写し、運転免許証の写し、マイナンバーカードの表面の写しなどが該当します。(運転免許証の写し、マイナンバーカードの表面の写しを提出する場合、書面に「原本と相違がない」旨を記載して、申出人の署名(記名)をする必要があります)

 

また、法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合は、相続人全員の住民票の写しを提出する必要があります。

 

【2.法定相続情報一覧図、申出書の作成】

法定相続情報証明制度の利用の申出をする際、法定相続情報一覧図と申出書を上記の必要書類と一緒に提出します。そのため、申出をする前にこれらの書類を作成しなければなりません。

  • 法定相続情報一覧図

法定相続情報一覧図とは、被相続人と相続人の関係を図であらわした家系図のような書面です。この書面には、被相続人の氏名、生年月日、最後の住所、死亡年月日と相続人の氏名、生年月日、被相続人との続柄などを記載しなければなりません。

 

  • 申出書

申出書には、申出人(代理人が手続きするときは代理人)の表示、利用方法、交付に必要な通数、被相続人名義の不動産の有無、申出先の法務局の種別などを記載します。

 

【3.法定相続情報証明制度の利用の申出】

必要な書類の収集、作成が済みましたら、管轄の法務局へ法定相続情報証明制度の利用の申出を行います。申出は、法務局へ出頭して行う他、郵送の方法で行うことも可能です。
 

なお、申出ができる法務局の管轄は以下のとおりとなっています。

  • 被相続人の本籍地を管轄する法務局
  • 被相続人の最後の住所地を管轄する法務局
  • 申出人の住所地を管轄する法務局
  • 被相続人名義の不動産の所在地を管轄する法務局

 

【4.法定相続情報一覧図の写しの交付】

法定相続情報証明制度の利用の申出を行うと、法務局内で申出書や必要書類を確認しながら、その内容を調査します。提出された書類や記載内容に問題がなければ、法務局側から法定相続情報一覧図の写しが交付されます。
 

もし、不足書類や記載内容に不備がある場合、法務局側から書類の提出や補完を求められます。申出から3カ月を経過しても申出の不備に対応しない場合、法務局側で提出された書類を破棄できる仕組みとなっているので注意しましょう。
 

なお、法定相続情報一覧図の受領は、法務局の窓口まで出頭して行う他、郵送で行うことも可能です。

 

【ⅲ.法定相続情報一覧図の写しの再交付】

 

法務局から法定相続情報一覧図の写しの交付を受けた後、相続手続きの関係上、追加で必要になる場合もあります。このようなときは、申出をすることで法定相続情報一覧図の写しを再交付してもらえます。
 

再交付の申出ができるのは、法定相続情報証明制度の利用の申出を行った申出人だけです。再交付の申出先も、法定相続情報証明制度の利用の申出を行った法務局に限られます。
 

また、法定相続情報一覧図の保管期間は、法定相続情報証明制度の利用の申出を行った翌日から起算して5年間です。そのため、再交付の申出ができるのもこの期間内だけということになります。

 

【ⅳ.司法書士も法定相続情報証明制度の利用の申出や一覧図の写しの受領の代理手続きができます】

 

被相続人の出生から亡くなるまでの期間の戸籍に記載されている相続人、またはその相続人の地位を相続により承継した者が、法定相続情報証明制度の利用の申出をすることができます。
 

しかし、代理人によって法定相続情報証明制度の利用の申出をすることも可能です。代理人になれるのは、「申出人の法定代理人、申出人の親族、戸籍法第10条の2第3項に掲げる者」と定められています。
 

戸籍法第10条の2第3項に掲げる者とは弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士などの士業を指します。そのため、司法書士が、申出人を代理して法定相続情報証明制度の利用の申出や一覧図の写しの受領に関する手続きを行えます。
 

当事務所でも、法定相続情報証明制度に関する手続きを取り扱っております。遺産承継業務による預貯金や有価証券(株式や投資信託など)の相続手続きや相続登記と一緒にご依頼いただくことも可能です。 
 

→ 遺産承継業務についてはこちら
 

→ 相続登記についてはこちら 

人々は、生活の中で自分のお金を金融機関の口座に預金するのが一般的です。そのため、人が亡くなって相続が発生した場合、必ずといってよいほど預貯金の相続手続きをすることになります。
 

預貯金の相続手続きは、被相続人が生前に預金取引をしていた金融機関で行うのが原則です。

 

【ⅰ.預貯金の相続手続きの流れ】

 

預貯金の相続手続きは以下の手順で進めていくのが一般的です。

 

【1.預貯金の相続手続きの事前準備】

金融機関は、預金口座の名義人が亡くなったことを知ると、その預金口座を凍結します。預金口座が凍結されてしまうと、預金の引き出しはもちろん、口座振替による支払いもできなくなってしまいます。
 

そのようなことから、被相続人の預金口座内で振替によって支払いをしている場合、預貯金の相続手続きをするまえに、その支払いの振替口座を変更しておかなければなりません。

 

【2.被相続人が預金していた金融機関への連絡】

預貯金の相続手続きをするには、被相続人が預金取引をしていた金融機関に、相続が発生した旨の連絡をすることから始めます。金融機関側はその連絡を受けると、被相続人の預金口座から預金が引き出されないように取引を制限します。
 

その後、金融機関側から相続人に対して、相続手続き依頼書や必要書類の一覧表などの書類が交付されるので、それをもとに預貯金の相続手続きを進めていくのです。
 

また、相続税の申告をする際、被相続人の相続発生時の残高証明書を提出しなければなりません。そのため、相続税の申告が必要なときは、被相続人の相続が発生した旨の連絡をする際、一緒に残高証明書を請求します。残高証明書の請求をする場合、相続人が複数であるときは、そのうちの1人だけで手続きすることが可能です。

 

【3.必要書類の収集と預貯金を相続する相続人の決定】

金融機関からの案内にしたがって、手続きに必要な書類を準備します。預貯金の相続手続きをする場合、一般的に以下の書類が必要になります。
 

→ 預貯金の相続手続きに必要な書類についてはこちら
 

また、遺言書がある場合を除いて、相続人全員で遺産分割協議を行い、被相続人の預貯金を相続する相続人を決めます。

 

【4.金融機関への預貯金の相続手続きの依頼】

金融機関から交付された相続手続き依頼書を必要書類と一緒に提出して、預貯金の相続手続きを行います。
 

相続手続き依頼書には、原則相続人全員の署名と捺印が必要になりますが、遺産分割協議書を提出する場合は、預貯金を相続する(手続きをする)相続人の署名と捺印のみで手続き可能です。
 

また、被相続人が遺言書を残している場合は、原則として、遺言により預貯金を相続する相続人が単独で手続きできます。

 

【5.預貯金の払戻し手続き】

金融機関側で提出された書類を確認し、問題がなければ預貯金の払戻し手続きを行います。金融機関によって違いますが、スムーズに手続きが進めば、1週間から2週間程度で完了します。

 

 

【ⅱ.相続人の1人が単独で預貯金の相続手続きをすることができるか】

 

従来の判例においては、「預貯金債権は可分債権であり、相続発生と同時に各相続人が相続分にしたがって、それぞれ単独で取得する」とされていました。そのため、この判例を根拠に相続人の1人が単独で預貯金の相続手続きできると考えることも可能だったのです。
 

しかし、2016年12月19日に、最高裁で「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権、定期貯金債権は、いずれも相続開始時において、当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」と判断されました。また、2017年4月6日には、定期預金債権も同様の判断が最高裁で示されています。
 

上記2つの判例が出されたことにより、相続人の1人が単独で預貯金の相続手続きをするのは困難な状況となったのです。
 

そのようなことから、2018年の相続法改正により、遺産分割前の預貯金の払戻し制度が創設されています。この制度を活用することで、一定の金額の範囲内であれば、相続人の1人が単独で預貯金の払戻しをすることが可能です。
 

→ 遺産分割前の預貯金の払戻し制度についてはこちら

 

 

【ⅲ.遺産承継業務により、司法書士は預貯金の相続手続きを代行できます】

 

預貯金の相続手続きをするには、原則として、相続人全員で行う必要があります。しかし、各相続人の方がそれぞれ離れた場所で生活されている場合、お互い協力してやり取りしながらお手続きをする必要があるので、どうしても負担がかかります。
 

また、「仕事で平日に時間が取れない」、「ご高齢により自分で金融機関まで足を運んで手続きをするのが難しい」という方もいらっしゃるでしょう。
 

このようなとき、司法書士は遺産承継業務により、預貯金の相続手続きを代行することができます。

 

→ 遺産承継業務についてはこちら
 

また、預貯金の他、株式や投資信託などの有価証券の相続手続き、相続登記(相続による不動産の名義変更)を同時にお手続きさせていただくことも可能です。

 

→ 相続登記についてはこちら

人々は、不動産や預貯金の他、有価証券を保有していることも少なくありません。有価証券にもいろいろな種類がありますが、そのなかで代表的なものの一つに株式があります。
 

株式も一種の財産権に当たるので、もし被相続人が株式を保有していた場合、その株式は相続財産となります。そのため、株式の保有者が亡くなったとき、その保有株式の相続手続きを行わなければなりません。株式の相続手続きは、上場株式と非上場株式でそれぞれ手続き方法が変わってきます。

 

【ⅰ.株式とは】

 

株式とは、株式会社が事業を行うために必要な資金を調達する目的で発行している有価証券のことです。株式を取得するとその発行会社の株主となり、発行会社へ意見を主張することができるようになります。また、値上がり益、配当金を得られたり、株主優待を受けられたりするので、資産運用目的で株式を保有する方も多いです。
 

株式には、証券取引所を通じて株式を公開している上場株式と未公開の非上場株式の2つがあります。上場株式は、証券取引所で公開されるため、証券会社を通じて取引することが可能です。一方、非上場株式は、証券取引所で未公開なので、証券取引所を通じて取引できません。そのため、当事者間で契約内容や価格を決めて取引をすることになります。
 

ただ、非上場株式の発行会社のなかには、定款で譲渡制限規定を設けることで、取引を制限しているところが少なくありません。そのため、非上場株式の取引を行う場合、発行会社に対する譲渡承認請求が必要になるケースもめずらしくありません。

 

【ⅱ.上場会社の株式の相続手続き】

 

2009年1月5日から、株券電子化制度が始まり、株券の発行制度は廃止されました。それにともなって、上場株式は、基本的に証券会社の口座で電子的に管理されるようになったのです。したがって、上場株式の相続手続きは、被相続人の保有していた上場株式が管理されている証券会社で行うことになります。
 

上場株式の相続手続きは、被相続人と相続人の相続関係を証明できる戸籍一式、相続人全員の印鑑証明書、遺産分割協議書等の書類を証券会社へ提出して行います。また、上場株式を取得するためには、証券会社の口座を保有していなければなりません。そのため、被相続人名義の上場株式を相続する場合、相続人の証券口座へ振替(移管)してもらう必要があるのです。もし、相続人が証券口座を保有していない場合、相続人名義の証券口座を開設してから相続手続きを行う必要があります。
 

被相続人が、株券電子化前に上場株式を取得しており、その株券を所持している場合は、相続手続きの方法が変わります。このようなケースでは、上場株式の発行会社が特別口座を開設した信託銀行等で相続手続きをしなければなりません。本来、株券電子化前に発行された上場会社の株券は、株券電子化が始まるまでに、ほふり(証券振替保管機構)という機関へ預託しなければなりませんでした。しかし、その手続きがされていない場合、上場株式の発行会社によって信託銀行等に特別口座が開設され、そこで上場株式が管理されているからです。

 

【ⅲ.非上場株式の相続手続き】

 

会社を経営していた被相続人自身がその会社の株主であったときなど、非上場株式の相続手続きを行うケースも少なくありません。
 

非上場株式の相続手続きをする場合、まず、非上場株式を相続する相続人を決定することから始めます。非上場株式の発行会社が定款で譲渡制限規定を定めていた場合でも、相続は譲渡にあたらないため、発行会社の承認を得ることなく株式を取得する相続人を決定することが可能です。また、被相続人の保有している株式数が不明である場合、相続手続きを行う前に、その点をまず明確にしなければなりません。発行会社に対して残高証明書を請求して、被相続人の非上場株式の保有数を明らかにします。
 

非上場株式を相続する相続人が決定した場合、その相続人が発行会社に対して株主名簿の名義書換請求をします。その際、必要書類を提出して手続きしなければなりません。株主名簿記載変更申請書、被相続人と相続人の相続関係を証明できる戸籍一式、相続人全員の印鑑証明書、遺産分割協議書等の書類を提出して手続きを行うのが一般的です。また、非上場株式の株券が発行されている場合は、株券の提示も必要になります。
 

非上場株式は評価方法が複雑になるので、税務や会計の専門家に確認してから相続手続きを進めていくことが大切です。

→ 取引相場のない株式の評価(国税庁HP)についてはこちら

 

【ⅳ.遺産承継業務により司法書士も株式の相続手続きができます】

 

株式の相続手続きは、証券会社や発行会社とやり取りして手続きをしなければなりません。また、預貯金と相続手続きの方法が少し違うので、株式を保有していたり、取引していていたりする方でなければ、相続手続きの進め方に戸惑うケースもあるでしょう。そのため、専門家へ依頼したほうが、スムーズに相続手続きができることも多いです。
 

司法書士は、遺産承継業務により株式の相続手続きを代行できます。預貯金の相続手続きや相続登記(相続による不動産の名義変更)と一緒にお手続きさせていただくことも可能です。
 

→ 遺産承継業務についてはこちら
 

→ 預貯金の相続手続きについてはこちら
 

→ 相続登記についてはこちら 

亡くなられた被相続人が資産運用をしている方である場合、投資信託を保有しているケースが少なくありません。投資信託も株式と同様、財産権に当たります。そのため、被相続人が保有していた投資信託も相続財産となるので、相続手続きを行わなければなりません。

 

【ⅰ.投資信託とは】

 

投資信託とは、投資家から集めた資金をひとまとめにして、それを専門家が運用して収益を得る金融商品のことです。運用によって利益が出た場合、償還金や分配金という形で投資家へ還元されます。
 

投資信託は、元本保証の金融商品ではないので、運用の成績次第で利益を得られることもあれば、元本割れして損失を被ることもあります。ただ、投資信託は、複数の資産を投資対象とするものもあるため、分散投資の実践が可能です。分散投資には、大幅な元本割れを防ぐ効果があるため、値動きが異なる国内外の株式や債券へ同時に投資すれば、リスクを抑えながらの運用ができます。
 

2014年1月より、NISA(少額投資非課税制度)が始まって以降、年々投資信託を運用しやすい環境になっています。2024年1月より、新NISAがスタートし、年間投資枠・非課税保有限度額が拡大したり、非課税保有期間が無期限になったりするなど、さらに活用しやすくなりました。そのような環境の変化により、今後は投資信託を運用する方が増加し、それにともなって投資信託の相続手続きをしなければならない機会も多くなることが予想されます。

 

【ⅱ.投資信託の相続手続きの流れ】

 

投資信託の相続手続きは、一般的に以下の流れで行います。

 

【1.被相続人が亡くなった旨の連絡】

投資信託の相続手続きをする場合、まず、被相続人が亡くなった旨の連絡をしなければなりません。
 

投資信託を運用する際、投資信託を販売する販売会社、投資信託の運用方針を決めて指示する運用会社、投資家から集めたお金を管理する受託会社の3つの会社がかかわりますが、投資信託の相続手続き先は販売会社です。そのため、被相続人が亡くなった旨の連絡も銀行や証券会社などの販売会社に対して行います。
 

もし、販売会社がよくわからない場合は、「取引残高報告書」を確認しましょう。投資信託を保有していると、販売会社から「取引残高報告書」という書類が送られてきます。この書類の内容を確認すれば、販売会社である金融機関を把握することが可能です。
 

被相続人が亡くなった旨の連絡を行うと、販売会社から相続手続きに必要な書類のご案内が届くので、それにしたがって手続きを進めていくことになります。

 

【2.必要書類の収集と投資信託の相続手続き方法】

投資信託の相続手続きをするには、被相続人と相続人の相続関係を証明する戸籍一式、相続人全員の印鑑証明書が原則必要になります。そのため、相続手続きをする前に、これらの書類を集めなければなりません。
 

なお、法定相続情報一覧図の写しの原本を、被相続人と相続人の相続関係を証明する戸籍一式の代わりに提出することも原則可能です。
 

→ 法定相続情報証明制度についてはこちら
 

また、被相続人が遺言で投資信託を相続する相続人を定めているときを除き、原則相続人全員で投資信託の相続手続きを行わなければなりません。2014年2月25日に最高裁で「委託者指図型投資信託を複数の相続人が共同相続した場合、相続開始と同時に各相続人へ当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になる」という判断が下されました。そのため、相続人全員で手続きを行わなければ、販売会社側も応じないと考えられるからです。

 

【3.投資信託の相続手続き書類の提出】

必要書類の収集が済みましたら、相続手続き依頼書と一緒に販売会社へ提出します。販売会社側は提出された書類を確認し、問題がなければ被相続人が保有している投資信託の相続手続きを進めます。
 

また、投資信託の相続手続きは、被相続人口座から相続人口座へ移管する方法で行います。そのため、被相続人の投資信託を相続する相続人が販売会社の口座を保有していない場合、事前に相続人名義の口座を開設しなければなりません。

 

【4.相続人口座への移管手続き】

相続人口座への移管手続きは、完了まで一定の時間を要します。(証券会社によっては、提出書類の受付日より2ヶ月程度かかるケースもありました。)移管手続きが完了すると、販売会社から相続手続き完了通知が発送されます。相続手続きの完了後は、相続人口座内で、投資信託の取引をしたり、解約したりすることが可能になります。

 

【ⅲ.投資信託を相続する際の注意点】

 

投資信託には、設定された一定期間しか購入できない単位型のものと、いつでも購入できる追加型のものがあります。単位型の投資信託のなかには、一定期間解約が制限されるものも存在します。相続対象となる投資信託がこのタイプのものである場合、解約する際、遺産分割のときに想定した価格よりも、大幅に下がってしまう可能性もあるので注意が必要です。
 

投資信託を相続する場合は、税務上の問題にも気を配らなければなりません。相続した投資信託を解約して現金化したときの価格が、被相続人の取得した価格よりも上回っていた場合、譲渡益が発生するので、所得税や住民税等の税金が発生します。
 

また、相続人の1人が投資信託を相続して解約した場合、その現金の一部を他の相続人へ渡すと原則贈与とみなされてしまいます。そのため、遺産分割協議書に代償分割する旨を明記しておくなど贈与税が発生しないようにしておかなければなりません。
 

投資信託の相続手続きをする場合、事前に税務署や税理士の先生へ確認して、税務上の問題を解決しておくことが大事です。

 

【ⅳ.遺産承継業務により司法書士も投資信託の相続手続きができます】

 

投資信託の相続手続きは、預貯金の相続手続きと似ている部分が多いです。しかし、手続きを進めていくなかで、「口数」や「基準価額」など投資信託特有の知識が必要となります。そのため、投資信託に関する知識があまりない方が自分でお手続きをする場合、少し戸惑われることがあるかもしれません。また、被相続人の方が数千万円単位の投資信託を保有されていた場合、相続税の申告が必要となるケースもあります。
 

司法書士は遺産承継業務により、ご本人の代わりに投資信託の相続手続きを代行することが可能です。当事務所においても、投資信託の相続手続きを取り扱っております。

 

→ 遺産承継業務についてはこちら

 

また、相続税の申告が必要となる場合は、提携させていただいている税理士の先生をご紹介させていただきます。

2018年度および2022年度の税制改正により、以下の二つの相続登記の登録免許税の免税措置が設けられています。

 

【ⅰ.相続による土地の権利取得者が相続登記をする前に亡くなった場合】

 

個人が土地を相続により取得した後、相続登記をしないまま亡くなったとき、2018年4月1日から2025年3月31日までの期間に、上記の亡くなった個人名義にするための相続登記を行った場合、登録免許税が課されないこととなりました。
 

たとえば、ある土地の登記名義人Aが亡くなってBが相続したとします。その後、BがAの相続登記をしないまま亡くなってCが相続したとしましょう。このとき、A名義の土地を最終的にC名義とするため、その前提として行うAからBへの相続登記の登録免許税が免税と対象となるのです。これに対して、その後行うBからCへの相続登記の登録免許税は免税の対象となりません。
 

ただ、上記のような数次相続の場合で中間の相続人(上記の例ではB)が1人であるときは、登記名義人から最終の相続人へ直接相続登記をすることができます。中間の相続人が複数名いるときでも、遺産分割協議をしてその中の1人の相続人が相続した場合も同様です。
 

→ 数次相続の場合の相続登記についてはこちら
 

そのため、数世代間による土地の相続登記をするときでも、この登録免許税の免税措置が適用されるケースはあまり多くないかもしれません。

 

【ⅱ.相続登記対象の土地の価額が100万円以下の場合】

 

相続(相続人への遺贈も含む)による土地の所有権移転登記および表題部所有者の相続人名義の土地の所有権保存登記を行う場合、当手続き対象土地の価額が100万円以下の場合、登録免許税の免税措置が適用されます。

→ 相続人名義の所有権保存登記についてはこちら
 

登録免許税の免税措置期間は、相続による土地の所有権移転登記の場合、2018年11月15日から2025年3月31日までです。一方、表題部所有者の相続人名義の土地の所有権保存登記についての登録免許税の免税措置期間は、2021年4月1日から2025年3月31日までとなっています。
 

→ 相続登記の登録免許税の免税措置(法務局HP)についてはこちら

相続人間で遺産分割協議を一度成立させた後、何かしらの事情でやり直しをしたいという場合が出てきます。このようなとき、各相続人間で一度成立した遺産分割協議の効力を否定することができるのでしょうか。

各相続人間で遺産分割協議を解除できるか否かは事情によって異なります。

 

【ⅰ.法定解除をすることはできない】

 

売買などの契約で当事者の一方に債務不履行(契約で定められた約束事を果たさないこと)があった場合、他方の当事者は債務不履行を理由にその契約を解除できます。そこで、遺産分割協議において、相続人間で定められた債務が履行されなかったとき、債務不履行を理由に解除できるのでしょうか。
 

平成元年2月9日の最高裁判例では、「遺産分割協議が成立した場合に、相続人の1人が他の相続人に対して遺産分割協議によって負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は民法541条によって遺産分割協議を解除できない」としています。一度成立した遺産分割協議の効力を最初からなかったものとすると法的安定性を欠くことになるため、このような見解が示されたのです。

 

【ⅱ.相続人全員による合意解除であれば可能】

 

相続人全員で一度遺産分割協議をした後、その分割内容を変更したいとき、遺産分割協議をやり直すことができるのでしょうか。
 

このような場合、相続人全員の合意があれば、一度成立した遺産分割協議を解除することが可能です。その後、相続人全員で再度遺産分割協議をすることができるのです。平成2年9月27日の最高裁判例においても、このような形で遺産分割協議をしても、法律上、当然に妨げられるものではないとしています。
 

ただ、一度成立した遺産分割協議を合意解除して再度相続人全員で分割協議をする場合、税務上との関係で注意しなければなりません。税務上では、再分割によって相続人間で遺産の再配分がおこなわれると、贈与または交換などがあったものとみなされます。それにより、贈与税や譲渡所得税の課税対象となってしまうのが原則だからです。

 

【ⅲ.遺産分割協議の無効や取消を主張できるか】

 

遺産分割協議も契約などと同じ法律行為にあたります。法律行為とは、人が意思表示をすることで、法律上で認められる権利や義務を発生させたり、消滅させたりすることです。そのため、相続人間で遺産分割協議をする際、何かしらの法律上の不備があった場合、契約と同様に無効や取消を主張できるときがあります。
 

たとえば、遺産分割協議に参加した相続人の1人が、分割内容について大きな勘違いまたは誤解をしていたとしましょう。この場合、その相続人が遺産分割協議においてした意思表示に要素の錯誤があったと判断されるケースもあります。もし、意思表示に要素の錯誤があったのであれば、そのことについて重大な過失があるときを除き、その相続人は遺産分割協議の取消を主張することが可能です。
 

また、遺産分割協議をする際、相続人の1人が他の相続人にだまされたり、脅されたりして意思表示をしたとします。この場合、詐欺や強迫による意思表示にあたり、遺産分割協議の取消を主張できるのです。
 

その他、遺産分割協議に一部の相続人が参加していなかった場合、相続人はその協議の無効を主張できます。なぜなら、相続人全員で協議をしなければ遺産分割協議を有効に成立させることができないからです。

相続手続きをする際、被相続人の相続人と相続財産の他、遺言書の存在を確認する必要があります。遺言書があるか否かで相続手続きの進め方が大きく変わってきてしまうからです。
 

そこで、被相続人の残した遺言書はどのように探せばよいのでしょうか。遺言書のなかでもよく作成される公正証書遺言と自筆証書遺言の探し方についてみていきましょう。

 

【ⅰ.公正証書遺言は遺言検索システムを利用して確認できる】

 

公正証書遺言の場合、日本公証人連合会において設けられている「遺言検索システム」を利用して、被相続人が遺言書を残しているか否かを確認できます。日本公証人連合会では、1989年1月1日以降に公正証書による遺言書を作成した人の情報が登録されています。そのため、上記の年月日以降に被相続人の作成した公正証書遺言があるか否かを、全国の公証役場を通じて日本公証人連合会へ照会をかけることができるのです。
 

遺言検索システムによる公正証書遺言の調査ができる人は、公証人法という法律で定められています。遺言者が亡くなっている場合、調査ができるのは相続人または受遺者や遺言執行者などの法律上で利害関係のある人だけです。
 

遺言書の調査を依頼する場合、相続人または利害関係人であることを証明できる書類を提出しなければなりません。具体的には被相続人が亡くなった旨の記載のある除籍謄本、調査の依頼者が被相続人の相続人であることを証明する戸籍謄本などがこれに当たります。それから、調査の依頼者の身分証明書(運転免許証、パスポートなど)の提示が必要です。
 

被相続人の作成した遺言書の調査を依頼した後、公証役場より照会の結果が通知されます。通知の結果より、被相続人の公正証書遺言があった場合、作成した公証役場へ閲覧または謄本の交付請求をすればその内容を確認できます。

 

【ⅱ.自筆証書遺言は地道に探すしかない】

 

自筆証書遺言には公正証書遺言の「遺言検索システム」のような調査方法はありません。そのため、相続人側で被相続人の自筆証書遺言が保管されていそうな場所を地道にあたって探すしかありません。
 

自筆証書遺言の保管方法はいろいろありますが、そのなかでもまず考えられるのが被相続人自身で保有しているケースです。この場合、自宅で重要書類と一緒に保管されていないか、机やタンスの引き出しに入っていないかしっかり調査しましょう。また、被相続人が貸金庫を利用している場合、そこに保管されている可能性もあるので確認が必要です。
 

保有資産が多い人や事業をしている人などの場合、作成した自筆証書遺言を専門家へ預けている場合もあります。被相続人が日頃から手続きをお願いしていた専門家へ自筆証書遺言を預かっているか否かを問い合わせてみるとよいでしょう。
 

調査により、被相続人の自筆証書遺言を発見することができたら速やかに検認手続きをする必要があります。また、発見された自筆証書遺言が封筒に入っていた場合、開封しないようにしなければなりません。もし、検認手続きをしないで相続手続きをしてしまったり、自筆証書遺言を開封したりすると、5万円以下の過料に処せられる可能性があるので注意が必要です。

相続などで取得した不動産のなかに森林の土地が含まれている場合、届出をしなければならないケースがあります。
 

そこで、森林の土地の所有者になったときの届出制度についてみていきましょう。

 

【ⅰ.森林の土地の所有者届出制度の概要と創設された理由】

 

森林法の改正により、2012年4月以降に森林の土地の所有者となった場合、その旨の届出が必要になりました。
 

なぜ、このような制度が創設されたのかというと、市区町村側で森林の土地の所有者を把握しやすくするためです。森林の土地の所有者がわからない状態になると、自治体等が森林を育成するための伐採や造林をする際、そのことに対し所有者へ働きかけることができません。それにより、森林施業を効率的に行えなくなってしまいます。また、森林施業が適切に行われていない森林がある場合、所有者に助言や指導をするのが難しくなってしまいます。
 

そのような状態を解消するために、森林の土地の所有者届出制度が創設されたのです。

 

【ⅱ.届出の対象となる森林の土地】

 

すべての森林の土地が所有者届出の対象となるわけではありません。所有者届出の対象となるのは、地域森林計画の対象区域内にある森林の土地だけです。そのため、所有者となった場合、取得した森林の土地が届出の対象となるか否かをまず確認しなければなりません。所有者となった森林の土地が地域森林計画の対象区域内にあるか否かは、市区町村の林野担当部署で確認することが可能です。

 

【ⅲ.森林の土地の所有者届出が必要となる場合】

 

届出の対象となる土地の取得者が個人であるか法人であるかを問わず、所有者届出をする必要があります。また、所有権の取得原因も限定されていません。そのため、相続、売買、贈与、合併等で森林の土地の所有者となった場合、すべて所有者届出の対象となります。その他、面積の制限もないので、小さい面積である森林の土地である場合も、地域森林計画の対象区域内にあるときは、所有者届出をする必要があります。
 

一方、国土利用計画法に基づく土地売買契約の届出をしているときは、上記の例外として、森林の土地の所有者届出をする必要はありません。
 

森林の土地の所有者届出は、所有者となった日から90日以内に、取得した土地の市区町村長に対して行います。届出の際には、届出書の他、森林の土地の位置を示す地図(公図など)と森林の土地の登記事項証明書(写しでも可)を提出することになります。

 

【ⅳ.相続で森林の土地の所有者になったときの届出方法】

 

届出の対象となる森林の土地を相続で取得した場合、原則として相続発生より90日以内に所有者届出をしなければなりません。届出期間内に相続人間で遺産分割協議が成立しているか否かで、届出の方法が変わってきます。

【ⅰ.相続発生から90日以内に遺産分割協議が成立していない場合】

 

森林の土地の所有者届出は、土地の所有者になってから90日以内にしなければなりません。そのため、相続発生から90日以内に相続人間で遺産分割協議が成立していない場合は、相続人の共有物として届出をすることになります。届出は相続人のうちの1人で行うことも全員で行うことも可能です。

 

その後、相続人間で遺産分割協議が成立した後、遺産分割協議によって森林の土地の所有者となった相続人が再度届出を行います。この場合、遺産分割協議が成立した日から90日以内に届出をしなければなりません。

 

【ⅱ.相続発生から90日以内に遺産分割協議が成立している場合】

 

所有者届出の手続き期限内に相続人間で遺産分割協議が成立している場合、遺産分割協議によって森林の土地の所有者となった相続人が届出を行うことになります。

 

【ⅴ.森林の土地の所有者届出をしないと過料の対象になることも】

 

森林の土地の所有者届出をしなかったり、虚偽の届出をしたりした場合、10万円以下の過料の対象になることもあります。そのようなことから、森林の土地の所有者になった場合、届出の手続きを忘れないようにしましょう。

被相続人に子がいる場合、第一順位の相続人は子になります。第一順位の相続人となる資格を有する子は、法律上の婚姻関係にある夫婦の間に生まれた嫡出子だけではありません。法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた非嫡出子も、被相続人の子としての相続資格を有します。
 

そこで、被相続人を相続する子のなかに嫡出子と非嫡出子がいる場合、それぞれの相続分はどのようになるのでしょうか。

 

【ⅰ.嫡出子と非嫡出子の相続分は等しくなった】

 

従来、非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の2分の1でした。しかし、嫡出子と非嫡出子の相続分にこのような差異を設けることは、非嫡出子を不利益に扱う差別ともとれます。そのようなことから、憲法14条の法の下の平等に反するという指摘も少なくありませんでした。
 

そして、2013年9月4日の最高裁判所の判決により、この民法の規定は、憲法14条の法の下の平等に反するとして違憲と判断されました。それにともなって、民法の規定も改正されて、非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分と等しくなったのです。

 

【ⅱ.非嫡出子の相続分の改正による影響】

 

嫡出子と非嫡出子の相続分が等しくなった旨の民法改正規定は、2013年9月5日以降に開始した相続について適用するとしています。そのようなことから、2013年9月5日以降の相続に関しては、非嫡出子の相続分の改正による影響を受けます。
 

一方、この最高裁の判例が出た2013年9月4日以前に開始した相続については、影響を受けるときと受けないときがあります。

【ⅰ.2001年7月より前に開始した相続の場合】

 

2001年7月より前に開始した相続の場合、非嫡出子の相続分の改正による影響は及びません。2013年9月4日の最高裁の判例では、「非嫡出子の相続分が嫡出子の相続分の2分の1という規定は、遅くとも2001年7月当時では憲法14条1項の法の下の平等に反していた」と判断しています。

 

しかし、その一方で、「2001年7月より前の相続開始時点において、1995年7月5日の最高裁の判例などで、この規定が合憲だとした判断を変更するものではない」としています。

 

そのようなことから、2001年7月より前に開始した相続に関する法律関係については、今回の民法改正の影響は及ばないのです。

 

【ⅱ.2001年7月から2013年9月4日の間に開始した相続の場合】

 

憲法に反する法律は原則として無効です。したがって、2001年7月以降に非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1として処理した相続手続きの効力も原則として無効になります。

 

しかし、2001年7月から2013年9月4日の間に済ませた相続手続きの効力を無効とすると、法的安定性が害されてしまいます。そのようなことから、この期間に遺産分割協議の合意や審判が成立し、相続に関する法律関係が確定的なものとなっている場合は、改正の影響を受けないとされたのです。

 

2001年7月から2013年9月4日の間に、遺産分割協議の合意や審判が成立しておらず、相続に関する法律関係が確定的なものとなっていない場合のみ、改正の影響を受けることになります。

2018年の相続法改正により、配偶者の居住権を保護するための制度(配偶者居住権)が創設されています。

 

【ⅰ.配偶者居住権とその創設された理由】

 

配偶者居住権とは、被相続人が亡くなって残された配偶者が、その後もそれまで生活していた被相続人所有の建物に居住できる権利をいいます。
 

高齢化社会が進むなか、相続が発生したときに被相続人の権利を承継する生存配偶者の年齢が高くなっているケースもめずらしくありません。そのような高齢の生存配偶者が、もし被相続人所有の居住建物を相続によって権利を取得できなかった場合、他の場所で生活しなければならなくなるのが原則です。しかし、高齢となった配偶者にとって、これまで生活した居住建物以外の場所で生活を始めることはかなりの負担をともないます。
 

そのようなことから、相続が発生したとき、高齢の生存配偶者の居住権を保護する必要性があるので、配偶者居住権の制度が創設されたのです。

 

【ⅱ.配偶者の居住権を保護するための制度の種類とその詳細】

 

配偶者の居住権を保護するための制度には、配偶者居住権配偶者短期居住権の2つがあります。

 

【配偶者居住権】

 

配偶者居住権は、原則として配偶者の終身の使用を前提とする居住権になります。
 

配偶者居住権が成立するには、被相続人の相続開始の際、被相続人の所有する建物に配偶者が居住していなければなりません。配偶者の居住に対する対価は有償か無償かは問われません。
 

また、配偶者居住権が成立するためには、以下のいずれかに該当する必要があります。

  • 遺産分割協議によって、配偶者が配偶者居住権を取得すること
  • 配偶者居住権が遺贈の目的とされたこと(死因贈与による取得も含む)
  • 遺産分割の請求を受けた家庭裁判所が、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨を定めたこと

一方、上記の要件を満たしたときでも、被相続人が相続開始の際、被相続人と配偶者以外の人が居住建物を共有していた場合、配偶者居住権は成立しません。(例、居住建物の所有権が被相続人とその子の共有である場合)

 

【配偶者短期居住権】
 

配偶者短期居住権とは、被相続人の相続開始後、配偶者の居住権が一定の短期間保護される権利です。
 

被相続人の相続開始の際、被相続人の所有する建物に配偶者が無償で居住していた場合、ⅰの配偶者居住権が成立する場合を除き、配偶者短期居住権が成立します。(ⅰの配偶者居住権と異なり、配偶者は無償で居住している必要があります。)
 

また、以下のいずれかの日まで成立した配偶者の短期居住権が保護されます。
 

・居住建物について配偶者を含む被相続人の相続人全員で遺産分割協議を行い、配偶者以外の相続人がその権利を取得した場合、相続開始から6カ月を経過する日または配偶者以外の相続人が遺産分割によって権利を取得した日のいずれか遅い日
 

・上記以外の場合、居住建物の権利を相続または遺贈によって取得した人が配偶者居住権の消滅の申入れをした日から6カ月経過した日

 

【ⅲ.相続発生後に配偶者の居住権はどのような形で成立するか】

 

被相続人が亡くなって相続が発生した後、以下の3つの形で配偶者の居住権が成立します。
 

【ⅰ.配偶者居住権が成立するケース】

 

被相続人が遺言で配偶者居住権を配偶者に遺贈した場合、相続発生と同時に配偶者居住権が成立します。なお、配偶者居住権と配偶者短期居住権が同時に成立することはありません。そのため、このケースでは、配偶者短期居住権が成立しないことになります。

 

【ⅱ.配偶者短期居住権が成立するケース】

 

遺言によって、配偶者以外の相続人が被相続人所有の居住建物を取得した場合、相続開始と同時に配偶者短期居住権が成立します。(上記ⅰのケースに該当しない場合が前提です。)

 

【ⅲ.配偶者短期居住権の成立後に配偶者居住権へ移行するケース】

 

被相続人が遺言を残さずに亡くなった場合、相続発生と同時に配偶者短期居住権が成立します。その後、配偶者を含む相続人全員で配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割協議が成立(家庭裁判所での調停の成立および審判の確定も含みます。)したとき、配偶者短期居住権から配偶者居住権へ移行することになります。

2018年の相続法改正により、遺産分割に関する規定の見直しが行われています。

 

【ⅰ.持戻し免除の意思表示の推定規定】

 

婚姻期間が20年以上になる夫婦の一方が、他方に対して、居住用建物またはその敷地を遺贈したり、贈与したりしたとします。このような場合、上記の遺贈または贈与について、特別受益の持戻し免除の意思表示があったものと推定される旨の規定が新設されました。(民903条④)

 

→ 特別受益とその持戻し免除についてはこちら

 

【持戻し免除の意思表示の推定規定はなぜ新設されたか】
 

持戻し免除の意思表示の推定規定が新設された主な理由は、配偶者の生活保障を厚くするためです。

この推定規定が適用されなければ、配偶者への居住用建物とその敷地の遺贈または贈与は特別受益として扱われてしまします。被相続人の相続発生後に相続財産の価額や相続分を計算するときも、当然特別受益分が考慮されます。その結果、配偶者が取得できる相続財産は、その分少なくなってしまうのです。しかし、これでは、その後の配偶者の生活保障に不安が残るケースがでてきてしまいます。
 

一方、この推定規定が適用されれば、特別受益の持戻し計算をしないで相続財産の価額や相続分が計算されるため、配偶者はより多くの財産を取得できます。その結果、配偶者の生活もより厚く保護されやすくなるのです。
 

また、遺贈や贈与をした趣旨を尊重した遺産分割ができるようにするのもこの規定が新設された理由の1つです。配偶者の長年にわたる貢献に報いる目的で、居住用建物とその敷地を遺贈したり、贈与したりするケースも少なくありません。持戻し免除の意思表示の推定規定が適用されると、遺贈または贈与された居住用建物とその敷地は、相続財産として考慮されません。その結果、配偶者へ居住用建物とその敷地を遺贈したり、贈与したりした趣旨が反映された形で遺産分割ができるようになるのです。

 

【婚姻期間の要件が定められた理由】
 

持戻し免除の意思表示の推定規定が適用される条件として、夫婦の婚姻期間が20年以上と定められています。このような条件が定められたのは、長期間婚姻関係にある夫婦は、お互い他方の配偶者への貢献の度合いが高いと考えられるからです。
 

また、贈与税の配偶者控除が適用される夫婦の婚姻期間の条件が、「婚姻から20年経過した後」となっています。そのため、持戻し免除の意思表示の推定規定に関する夫婦の婚姻期間の要件も、贈与税の配偶者控除にあわせて20年以上とされたのです。
 

→ 贈与税の配偶者控除についてはこちら

 

【持戻し免除の意思表示の推定規定が適用されるか否かでどのくらい違うか】
 

相続の発生後、相続人全員で遺産分割協議をする際、持戻し免除の意思表示の推定規定が適用された場合と適用されない場合では、以下のような違いがあります。
 

【事例】
 

相続人が配偶者と子1人で、被相続人の相続財産は預貯金1000万円だったとします。また、被相続人は生前に配偶者へ居住用不動産(評価額1000万円)を贈与していました。このような場合、配偶者と子が相続できる財産額は、以下のとおりとなります。

 

【1.持戻し免除の意思表示の推定規定が適用されない場合】
 

配偶者が被相続人から生前に贈与を受けた居住用不動産(評価額1000万円)は、特別受益に該当します。そのため、預貯金1000万円に居住用不動産(評価額1000万円)を加えた2000万円が被相続人の相続財産となります。
 

そして、配偶者と子が相続時に取得できる財産額は、以下のとおりとなります。

配偶者 相続できる財産額1000万円-特別受益分1000万円=0

1000万円(預貯金1000万円)

 

【2持戻し免除の意思表示の推定規定が適用される場合】
 

配偶者が被相続人から生前に贈与を受けた居住用不動産(評価額1000万円)は、特別受益分として相続財産へ持戻しをしないことになります。そのため、被相続人の相続財産は、預貯金1000万円のみとなります。

そして、配偶者と子が相続時に取得できる財産額は、以下のとおりとなります。

配偶者 500万円(預貯金1000万円の2分の1)
500万円(預貯金1000万円の2分の1)

生前に贈与を受けた居住用不動産(評価額1000万円)を合わせると、配偶者は合計1500万円の財産額を取得できることになります。持戻し免除の意思表示の推定規定が適用されない場合は、配偶者は1000万円の財産額しか取得できません。そのため、持戻し免除の意思表示の推定規定が適用された場合、配偶者が取得できる財産額は500万円分多くなるのです。

 

【ⅱ.遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲】
 

相続が発生した後、相続人全員で遺産分割協議をする前に、相続人の1人が一部の相続財産を処分してしまったとします。このような場合、処分された相続財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができる旨の規定が新設されています。(民906条の2)
 

処分された相続財産を遺産分割時に遺産として存在するものとみなすためには、そのことについて相続人全員の同意を必要とするのが原則です。ただ、遺産分割前に相続財産を処分した人が相続人の1人である場合、その相続人の同意は必要ありません。

 

【当規定が新設された理由】

 

処分された相続財産を遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができる旨の規定は、相続人間において相続できる財産額の不公平さを是正するために新設されています。
 

遺産分割の対象となる相続財産は、遺産分割時に存在している相続財産であるのが原則です。そのため、相続が発生した後、遺産分割前までに処分されて存在しなくなってしまった財産は、遺産分割の対象にならないと考えられます。
 

しかし、このように考えると、相続財産の一部を不当に処分した相続人が他の相続人よりも多くの財産を取得するという状況が生じてしまいます。このような不公平な結果は好ましくないので、その状況を是正するために当規定が新設されたのです。

 

【当規定が適用された場合の具体例】
 

当規定の適用の有無によって、相続人の取得できる財産額が以下のとおり変わってきます。
 

【事例】
 

相続人が長男と次男の2人で、被相続人の相続財産は預貯金1000万円のみだったとします。また、長男は生前に被相続人から現金1000万円の贈与を受けていました。相続発生後、長男が被相続人の相続財産である預貯金のなかから、500万円をひそかに引き出して使ってしまいました。このようなケースにおいて、相続人間で遺産分割協議を行う場合、長男と次男が取得できる財産額は以下のとおりとなります。


【1.当規定の適用なしの場合】
 

この場合、遺産分割の際に存在する預貯金500万円と長男が生前に被相続人から贈与を受けた1000万円の合計1500万円を分割の対象として、長男と次男の取得分を決めていきます。長男と次男が取得できる財産額は、以下のとおりです。

長男 1000万円(生前贈与分)
次男 500万円(残っている預貯金)

また、長男がひそかに引き出して使ってしまった500万円分も被相続人の相続財産になるので、長男と次男がそれぞれ2分の1ずつ権利を有することになります。そのため、次男は長男に対して250万円分を不法行為による損害賠償請求または不当利得として請求することが可能です。
 

その結果、最終的に長男と次男が取得できる財産額は、以下のとおりとなります。

長男 1000万円+250万円=1250万円
次男 500万円+250万円=750万円


【2.当規定の適用がある場合】
 

長男がひそかに引き出して使ってしまった500万円を含む預貯金1000万円と長男が被相続人から生前に贈与を受けた1000万円の計2000万円を分割の対象として、長男と次男が取得する財産を決めていくことになります。
 

この場合の長男と次男が取得できる財産額は、以下のとおりです。

長男 1000万円(生前贈与分)
次男 1000万円(預貯金分)

上記のように、遺産分割をする際に当規定が適用されると、相続人間で取得できる財産額の不公正さが是正されるのです。

 

【ⅲ.遺産の一部分割】

 

2018年の相続法改正前においても、被相続人の遺産の一部のみを分割することも実務上認められていました。そして、今回の相続法改正により、遺産の一部分割をすることができる旨の規定が民法上で明記されています。(民907条①②本文)
 

上記の規定により、被相続人の遺産の一部だけを分割できることが明確になりました。さらには、相続人の間で遺産分割協議の話し合いがまとまらなくて相続人が家庭裁判所へ分割の請求をした場合、家庭裁判所は原則として一部分割の審判ができることも明確になっています。
 

一方、家庭裁判所による一部分割の審判ができない例外ケースも民法で規定されています。(民907条②但書)具体的には、「他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合」に該当するときです。
 

「他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合」とは、一部分割をすることで、遺産全体について共同相続人間で適正な分割ができなくなるときを指します。たとえば、一部分割によって、相続人の1人が法定相続分を超過する財産を相続する場合で、他の相続人に代償金を支払える見込みがないときです。
 

このような場合、相続人から遺産の一部分割の請求があったとしても、家庭裁判所はその請求を不適法として却下することになります。

2018年の相続法改正により、遺産分割前の預貯金債権の払戻し制度が新設されています。

 

【ⅰ.遺産分割前の払戻し制度が新設された理由】

 

遺産分割前の払い戻し制度が新設されたのは、相続発生後の相続人の資金需要に対応できるようにするためです。
 

人が亡くなって相続が発生すると、被相続人の葬儀費用や相続債務の支払いなどで、早急にお金が必要になるケースもめずらしくありません。そのようなことから、相続発生後、相続人の1人が単独で被相続人の預貯金口座からお金を引き出せる環境にあったほうが、上記のような資金需要に対応しやすいといえます。
 

しかし、2016年の最高裁の判例において、預貯金債権は遺産分割の対象になる旨の判断がなされました。そのため、遺言や遺産分割協議により相続財産の権利取得が確定しないかぎり、相続人の1人が単独で被相続人の預貯金口座からお金を引き出せない環境となってしまったのです。
 

→ 預貯金の相続手続きについてはこちら
 

そこで、遺言がない場合または相続発生後、遺産分割協議が成立する前であっても、相続人の1人が単独で被相続人の預貯金口座からお金を引き出せるように遺産分割前の払戻し制度が新設されたのです。

 

【ⅱ.遺産分割前の払戻し制度の具体的内容】

 

遺産分割前の払戻しの制度には、家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する制度と家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める制度の2つがあります。

 

【1. 家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する制度】
 

家事事件手続法の保全処分である仮分割の仮処分の要件が緩和され、相続人に預貯金の全部または一部を仮に取得させることができる制度が設けられました(家事事件手続法200条③)。
 

今回の相続法改正前においても、仮分割の仮処分の制度は存在しています(家事事件手続法200条②)。しかし、適用要件が「事件の関係人の急迫の危険を防止するために必要があること」となっており、家庭裁判所から認めてもらうことが困難でした。
 

そのようなことから、仮分割の仮処分の要件が緩和され、遺産分割の調停の成立または審判の確定前に、相続人が相続財産の預貯金を仮に取得できるようにしたのです。
 

【預貯金の仮分割の仮処分の適用要件】
 

仮分割の仮処分によって相続人が預貯金を仮に取得するためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 遺産分割の調停または審判の申立てをしていること
  • 相続債務の支払い、相続人の生活費の支弁などで預貯金を必要としていること
  • 他の共同相続人の利益を害しないこと

また、仮分割の仮処分によって預貯金債権を行使できるのは、遺産分割の調停または審判の申立人とその相手方です。つまり、適用要件を満たせば、共同相続人の全員が権利行使できる資格を有することになります。

 

【2.家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める制度】
 

相続が発生した後、遺産分割協議をする前に家庭裁判所の判断を経ることなく相続人の1人が単独で預貯金の払戻しを受けられる制度も設けられています(民909条の2前段)。
 

1の制度を利用する場合、家庭裁判所の手続きを経なければなりません。そのため、相続人の1人が単独で預貯金の払戻しを受けるまで時間がかかったり、負担になったりする可能性もあります。
 

しかし、それでは、被相続人の葬儀費用や相続債務の支払いなどで早急にお金が必要な場合への対応が不十分です。そのようなことから、相続発生後、時間をかけずに相続人の1人が単独で預貯金の払戻しを受けられる制度もあわせて新設されたのです。
 

2の制度は1の制度と異なり、家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを受けることになります。そのため、相続人の1人が単独で払戻しを受けられる金額も以下のような上限が定められています。
 

【相続人が単独で払戻しを受けられる上限額】

  • 相続発生時の預貯金額×3分の1×払戻しを受ける相続人の法定相続分

※  相続発生時の預金額とは、普通預金の場合は1口座ごと、定期預金の場合は1明細ごとの金額を指します。
 

また、同一の金融機関(同一の金融機関の複数支店に預金口座がある場合はその全支店)ごとに、払戻しを受けられる金額の上限150万円です。
 

なお、相続人の1人が単独で預貯金の払戻しを受けた場合、その相続人が遺産の一部分割により払戻しを受けた金額を取得したものとみなされます(民909条の2後段)。

2018年相続法改正により、遺言制度に関する見直しが行われています。

 

【ⅰ.自筆証書遺言の方式緩和】

 

自筆証書遺言書を作成する際、遺言書と一体のものとして相続財産の全部または一部の目録を添付するとします。このような場合、その財産目録自書以外の方法でも作成等が可能となりました。
 

自筆証書遺言書は、遺言者が全文、日付、氏名を自書したうえ、これに捺印して作成しなければならないのが原則です。しかし、遺言の対象となる相続財産が多数ある場合、それを全部自書で作成するのは大きな負担になります。そのため、自筆証書による遺言書の作成方法は、特に高齢者の方にとって利用しづらい状況にありました。
 

このような点をふまえて、自筆証書遺言書の作成方式が緩和され、遺言書に添付する財産目録は、自書以外の方法で作成等ができるようになったのです。
 

→ 自筆証書遺言書とその具体的な作成方法についてはこちら

 

【ⅱ.遺言執行者の権限の明確化】

 

相続法改正により、遺言執行者の権限が明確化され、その権限に基づいて行った効果についても規定されています。

 

【遺言執行者の権限およびその行為の効果】

 

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(民1012条①)。そして、この権限内において、遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接その効力が生じる旨が規定されました。(民1015条)

遺言の内容の実現が遺言執行者の職務であると規定されたことから、その遺言の執行の内容が相続人の利益とならないものであってもかまいません。そのため、相続人にとって利益とはならない内容の遺言であっても、遺言執行者としては、遺言者の意思を実現するために職務を行えばよいということになります。

また、遺贈を内容とする遺言で遺言執行者の定めがある場合、その執行の職務を行うことができるのは、遺言執行者のみです。したがって、遺贈の受遺者がその履行を請求する場合、遺言執行者の定めがある場合は遺言執行者を相手にすることになります。一方、遺言執行者の定めがないときの履行請求の相手方は、遺言者の相続人全員です。

 

【遺言執行者の通知義務】

 

遺言執行者として指定された者が就任承諾をしてその任務を開始した場合、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない旨が規定されています(民1007条②)。
 

遺言執行者の通知義務が規定された理由は、相続人の利益を保護するためです。遺言者が亡くなった後、遺言執行者が指定されていないときは、相続人全員で遺言の執行業務をしなければなりません。したがって、遺言の内容および遺言執行者の存在の有無は、相続人にとっての重要事項であるといえます。
 

そのようなことから、相続人が遺言の内容および遺言執行者の存在の有無を把握できるように遺言執行者の通知義務が規定されたのです。
 

なお、条文上では、「相続人」に対して遺言執行者は遺言の内容を通知しなければならないとされています。そのため、遺贈によって権利を承継する相続人以外の人に対しては通知しなくてよいのが原則です。ただ、包括遺贈によって権利を承継した包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有します。そのため、包括受遺者に対しては遺言の内容を通知する必要があると考えられます。

 

【相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)についての遺言執行者の権限】
 

相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)があって、遺言執行者が存在する場合、遺言執行者は対抗要件を備える(共同相続人の権利取得を他の人に主張できるようにする)ために必要な行為をすることができる旨が規定されました(民1014条②)。
 

→ 相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)についてはこちら
 

今回の相続法改正により、相続人が相続で権利を承継する際、法定相続分を超える部分については、登記などの対抗要件を備えなければ、他の人にその権利を主張できなくなりました(民899条の2①)。
 

→ 相続の効力などに関する見直し(2018年相続法改正)についてはこちら
 

そのため、遺言執行者が相続人へ権利を承継させる手続きをする際、対抗要件を備えさせる手続きも行えるようにする必要があります。
 

しかし、相続法改正前の規定では、遺言執行者が相続人へ権利を承継させる手続きをする際、対抗要件を備えさせる手続きも行えるか否かが明らかではありませんでした。
 

そのようなことから、対抗要件を備えさせる手続きも行える旨を規定して、相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)についての遺言執行者の権限を明確にしたのです。
 

また、相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)の対象財産が預貯金である場合、遺言執行者は対抗要件を備えさせるために必要な行為だけではなく、預貯金の払戻しや解約の手続きができる旨も規定されています。(民1014条③本文)

2018年相続法改正により、遺留分制度に関する見直しが行われています。

 

【ⅰ.遺留分の請求権の金銭債権化】

 

相続人が相続の際に自身の遺留分を侵害された場合、受遺者または受贈者等に対して、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求できるとの規定に変更されました。(遺留分侵害額請求権)
 

→ 遺留分侵害額請求についてはこちら
 

物権的な効力を有する「遺留分減殺請求権」から金銭の支払請求権である「遺留分侵害額請求権」に変更されたことにより、以下のようなメリットが生じます。
 

【1.遺留分権利者、受遺者または受贈者の間で生じる共有関係を回避できる】

 

遺留分侵害額請求権は金銭債権であるので、改正前の遺留分減殺請求権と異なり、物権的な効力を有しないのが特徴です。たとえ、受遺者や受贈者に遺留分侵害額請求を行使しても、侵害額の限度で遺贈や贈与の効力が失効して遺留分権利者にその権利が帰属することはありません。

 

そのようなことから、遺留分権利者が遺留分侵害額請求権を行使した場合でも、受遺者または受贈者等と共有関係になることを回避できるのです。

 

【2.特定の人に財産を与えたいという遺言者の意思が実現しやすくなる】

 

遺留分の請求権が金銭債権化されたことにより、特定の人に財産を与えたいという遺言者の意思が実現しやすくなります。

 

改正前において、遺留分権利者が遺留分減殺請求を行使した場合、その限度額で遺贈や贈与の効力が失効します。そのため、遺言者が特定の人に遺贈や贈与によって財産を承継させようとしても、それが実現できなくなることもありました。

 

しかし、改正後の遺留分侵害額請求は、あくまで金銭の支払請求権なので、遺留分の請求をしても、遺贈や贈与の効力はそのまま維持された状態となります。その結果、遺留分の請求しようとする遺留分権利者がいる場合でも、遺言者は問題なく特定の人に遺贈や贈与によって財産を承継させられるのです。

 

【ⅱ.遺留分請求の金銭債務の支払いに関する相当の期限の許与】

 

遺留分権利者から遺留分侵害額の支払請求を受けた場合、受遺者または受贈者は、その侵害額に相当する金銭の支払いをしなければなりません。しかし、その金額によっては、受遺者または受贈者が支払うための金銭をすぐに準備できない場合も考えられます。
 

そのようなことから、受遺者または受贈者は、請求された遺留分侵害額の金銭の支払いにつき、その期限の許与(支払期限の先延ばし)を裁判所に対して求めることが可能となっています。

2018年相続法改正により、相続の効力などに関する見直しが行われています。

 

【ⅰ.共同相続における権利承継の対抗要件規定】

 

相続による権利承継は、遺産分割によるものか否かにかかわらず、法定相続分を超える部分については対抗要件を備えなければ他の人に権利主張ができない旨の規定が設けられました(民899条の2①)。
 

たとえば、被相続人の相続人が2名(相続分は各2分の1ずつ)で相続財産が不動産だけだったとします。このようなとき、相続人の1人が不動産を単独で相続した場合、登記をしなければもう1人の相続人の法定相続分(持分2分の1)に関する部分について、他の人に権利主張ができないことになります。
 

共同相続における権利承継の対抗要件規定は、以下のような理由で設けられました。

【1.遺言の有無や内容を知らない債権者の利益を保護するため】

 

相続法改正前において、相続分の指定または相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)で相続人の1人が単独で不動産を取得した場合、対抗要件である登記をしなくても、他の人に権利主張が可能でした。たとえ、遺言の有無や内容を知らない債権者が、代位によって法定相続分による相続登記を行ったうえで不動産を取得する相続人以外の者の持分の差押えをしても、その手続きは原則として無効となります。そのようなことから、権利行使が困難となり、債権者の利益が害されてしまう状態にありました。

 

しかし、共同相続における権利承継の対抗要件規定の創設により、相続分の指定または相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)で相続人の1人が単独で不動産を取得しても、法定相続分を超える部分については登記手続きをしなければ他の人に権利主張できなくなりました。そのため、上記のような場合、差押えをした債権者の権利主張が原則として認められるので、その利益保護がはかられることになります。

 

【2.登記制度や強制執行制度の信頼性を確保するため】

 

相続分の指定や相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)による不動産の権利承継を登記しないで他の人に主張できるとすると、実際の権利関係と登記上の権利関係の不一致が生じるケースも多くなります。それにより、不動産取引の安全が害され、登記制度の信頼性も低くなってしまいます。また、不動産競売などの強制執行手続きにおいても同様の問題が起こりかねません。

 

しかし、共同相続における権利承継の対抗要件規定が存在すれば、上記のような問題を解消できます。それにより、登記制度や強制執行制度の信頼性が確保されることになるのです。

 

【ⅱ.相続によって承継する権利が債権である場合】

 

相続によって承継する権利が債権であっても、法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えなければ、他の人にその権利主張できない点は同じです。
 

相続によって債権を承継した場合に必要な対抗要件の内容は、債権譲渡と同じになります。そのため、債務者に対する通知または債務者からの承諾がなければ、法定相続分を超える部分の承継につき、債務者に対して権利主張ができません。対抗要件を備えるための債務者に対する通知は、共同相続人全員で行うのが原則です。
 

また、債務者以外の人に権利主張するためは、上記の通知または承諾が確定日付のある証書でなされる必要があります。
 

ただ、上記原則の例外として、法定相続分を超えて債権を承継した相続人が、相続債権に関する遺言または遺産分割の内容を明らかにして債務者にその承継を通知した場合、共同相続人全員が債務者に通知したものとみなす旨の規定も設けられています(民899条の2②)。
 

債権の相続に関して不満を持つ共同相続人が、対抗要件を備えるための通知手続きに協力しないケースも考えられます。そのようなことから、相続によって債権を承継する相続人が単独で通知できる制度が規定されたのです。

2018年相続法改正により、相続人以外の者の貢献を考慮するための制度が創設されています。

 

【ⅰ.特別の寄与制度】

 

相続人以外の者が被相続人の財産の維持または増加に貢献した場合、一定の要件を満たすことで、相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求できる特別の寄与制度が創設されています(民1050条①)。
 

特別の寄与制度が設けられた理由は、被相続人の財産の維持または増加に貢献した相続人以外の者の地位を法的に保護するためです。
 

相続人が一定の行為により、被相続人の財産の維持または増加に貢献した場合、寄与分制度によって、それに見合う財産をもらうことができます。
 

→ 寄与分制度についてはこちら
 

しかし、寄与分は相続人のみに認められるので、相続人以外の者が一定の行為によって被相続人の財産の維持または増加に貢献してもこの制度による主張ができません。
 

そのようなことから、被相続人に対して何もしていない相続人が相続財産をもらえるのに対し、一定の行為により、被相続人の財産の維持または増加に貢献した相続人以外の者は、相続財産の分配をまったく受けられないという不公平な状況が発生するケースもめずらしくありませんでした。
 

そこで、実質的な公平をはかるために特別の寄与制度が創設されたのです。

 

【ⅱ.特別寄与者に該当するための要件】

 

相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求できる特別寄与者となりうるには、以下の要件を満たす必要があります。
 

【1.被相続人の親族であること】

 

特別寄与者になるためは、被相続人の親族であることが要件となっています。特別寄与者となりうる親族とは、具体的に6親等内の血族、3親等内の姻族を指します。

 

【2.被相続人の相続人ではないこと】

 

特別の寄与制度は、被相続人の財産の維持または増加に貢献した相続人以外の者の地位を法的に保護するための制度です。そのため、特別寄与者となりうるのも、相続人以外の者ということになります。

 

ただ、相続放棄をした者、相続欠格や廃除によって相続権を失った者は、特別寄与者になることはできません(民1050条①かっこ書)。

 

【3.提供した労務が無償であること】

 

特別寄与者として相続人に金銭(特別寄与料)を請求できるのは、「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした被相続人の親族」であると規定されています。そのため、被相続人に対して提供した労務も無償でなければなりません。

 

また、提供する労務も「療養看護その他」と規定されていることから、その種類は幅広く含まれます。たとえば、被相続人が行っていた事業に関する労務を無償で提供し、それによって、被相続人の財産の維持または増加に貢献した場合も対象となるのです。

 

これに対して、財産上の給付は、特別の寄与制度の寄与行為に含まれません。寄与分制度においては、労務の提供だけではなく、財産上の給付も寄与行為に含まれますが、この点は異なります。

 

したがって、被相続人の相続人以外の親族が、被相続人の事業に対して資金提供をしたり、財産を無償で譲渡したりして、被相続人の財産の維持または増加に貢献したとしても、特別寄与者になることができません。

 

【ⅲ.特別寄与料の請求】
 

特別寄与者は、被相続人の相続人に対して以下の方法で特別寄与料の請求を行います。

 

【1.特別寄与者と相続人との協議(話し合い)により請求する】

 

特別寄与者は、被相続人の相続人と協議(話し合い)をして特別寄与料の額を決めたうえで請求するのが原則です。

 

被相続人の相続人が複数名いる場合、各相続人が法定相続分の割合で特別寄与料を負担すると規定されています(民1050条⑤)。そのため、このような場合、特別寄与者は各相続人に対して、個別に特別寄与料を請求することになります。

 

【2.家庭裁判所へ協議に代わる処分を請求する】

 

特別寄与者と相続人の間で特別寄与料の支払いに関する協議がまとまらない場合、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求することが可能です(民1050条②本文)。上記の請求は、相続が開始した地(被相続人の最後の住所)を管轄する家庭裁判所に対して行います(家事事件手続法216条の2)。 

 

協議に代わる処分の請求があった場合、家庭裁判所は、寄与の時期、方法、程度、相続財産の額、その他一切の事情を考慮して特別寄与料の額を定めたうえで、当事者に対して金銭の支払いを命ずることになります(民1050条③、家事事件手続法216条の3)

2018年の相続法改正により、「民法および家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立しましたが、それと同時に「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が制定されました。
 

これにより、遺言書の保管業務を取り扱う法務局において、自筆証書遺言書を保管してもらうことが可能となりました。
 

当制度は、2020年7月10日から運用開始しております。

 

【ⅰ.自筆証書遺言書の保管制度が創設された理由】

 

自筆証書遺言書の保管制度が創設された理由は、法務局で保管しておくことにより、遺言者の残した自筆証書遺言の存在が明確になり、円滑に相続手続きが進められるようになるからです。
 

自筆証書遺言書は公正証書遺言書と比較して、安い費用で手軽に作成できたり、その内容を秘密にできたりすることが可能です。
 

しかし、その一方で遺言者自身の管理が不十分による遺言書の紛失、相続人などの家族による遺言書の隠匿や偽造などのリスクも存在します。また、遺言者が亡くなった後、相続人が遺言書を発見できずにそのまま相続手続きを進めてしまうことも考えられます。
 

そのようなことにより、自筆証書遺言書を作成しても、遺言者の最終意思が反映されない状態で相続手続きがなされる可能性があるという問題がありました。
 

そこで、自筆証書遺言書の保管制度を創設して、上記のような問題の解消をはかったのです。

 

【ⅱ.自筆証書遺言書の保管制度を利用するメリット】

 

自筆証書遺言書の保管制度を利用するメリットとして、以下のようなことがあげられます。

【1.遺言書の紛失、隠匿、偽造を防ぐことができる】

 

保管制度を利用して法務局に預けておけば、遺言書の紛失を防ぐことができます。また、相続人などの家族によって、遺言書を隠匿されたり、偽造されたりすることもありません。そのため、遺言者が亡くなった後、遺言書の内容に沿った形で相続手続きを実現できる可能性が高くなります。

 

【2.遺言書の検認手続きが不要になる】

 

遺言者の残した遺言書が自筆証書遺言書である場合、相続手続きをする前に検認手続きをしなければならないのが原則です。そのため、検認手続きを終えてから相続手続きをしなければならないので、その分時間がかかってしまうという欠点がありました。

しかし、自筆証書遺言書の保管制度を利用すれば、相続手続きをする前に遺言書の検認手続きをする必要はありません。それにより、スムーズに相続手続きを進めることができるようになります。

 

【3.公正証書遺言書と比較して作成する際の手間や費用が少ない】

 

相続手続きをする前に遺言書の検認手続きが不要であるのは、公正証書遺言書も同様です。しかし、自筆証書遺言書の保管制度を利用したほうが、公正証書遺言書よりも作成する際の手間や費用が少ないというメリットがあります。

公正証書遺言書を作成する場合、必要書類を準備したうえで事前に公証人と打ち合わせを行った後、公証役場まで足を運んで遺言書の作成作業をしなければなりません。それから、立会をする2人の証人の手配も必要となります。

 

→ 公正証書遺言書の作成についてはこちら

 

以上にように、公正証書遺言書を作成するには、ある程度の手間がかかります。

 

一方、自筆証書遺言書の保管制度を利用する場合、法務省令で定める様式にしたがって作成した遺言書を法務局に預けるだけです。したがって、公正証書遺言書を作成するときよりも少ない負担で済ませることができます。

また、費用面においても、自筆証書遺言書の保管制度を利用するほうが少ない負担で済みます。公正証書遺言書を作成する場合、相続財産の額にもよりますが、費用は数万円単位になるのが通常です。これに対して、自筆証書遺言書の保管制度を利用する際に負担する費用は、保管申請の手数料(1通3,900円)だけです。

 

 

【ⅲ.保管の対象となる自筆証書遺言書】

 

法務局による保管の対象となる自筆証書遺言書は、法務省令で定める様式にしたがって作成された無封のものに限られます。無封が要件となっているのは、保管をする際、法務局側は遺言者から遺言書を預かるだけではなく、遺言書の画像情報を遺言者保管ファイルに記録しなければならないからです。
 

封がされた自筆証書遺言書を対象としてしまうと、上記作業が円滑に進みません。そのようなことから、保管の対象となる自筆証書遺言書は無封のものに限定したのです。
 

また、法務省令で定める様式とは、具体的に以下のとおりです。

  • 用紙は、文字が明瞭に判読できる日本産業規格A列4番の紙とします。
  • 縦置きまたは横置きかを問わず、縦書きまたは横書きかを問いません。
  • 各ページにページ番号を記載する必要があります。
  • 片面のみに記載する必要があります。
  • 遺言書の枚数が数枚にわたるときでも、とじ合わせないこと
  • 決められた余白を設けて記載する(縦書きの場合、上と右5㎜以上、下10㎜以上、左20㎜以上)

 

【ⅳ.自筆証書遺言書の保管制度の手続き】

 

自筆証書遺言書の保管制度に関する手続きは、大きく分けて遺言者が行うものと相続人などが行うものの2つがあります。

 

【遺言者が行う手続き】
 

遺言者が行う手続きには、「遺言書の保管申請」、「遺言書の閲覧」、「遺言書の保管申請の撤回」があります。

 

【◆  遺言書の保管申請】

 

遺言者が法務局に対して遺言書の保管をしてもらうための申請手続きになります。

遺言書の保管申請は、以下の流れで手続きを進めていきます。
 

【1.遺言書を保管してもらう法務局の選択】
 

遺言者が作成した自筆証書遺言書を保管してもらう法務局を選択する必要があります。遺言書の保管申請ができる法務局は、「遺言者の住所地」、「遺言者の本籍地」、「遺言者の所有する不動産所在地」のいずれかを管轄する法務局になります。

 

ただ、他の遺言書を法務局に預けている場合は、その預け先の法務局が保管先の管轄になります。
 

【2.申請書を作成および必要書類などの準備】
 

遺言書の保管申請の手続きは、申請書および必要書類などを提出して行わなければなりません。そのため、申請書の作成および必要書類などの準備の作業が必要となります。

 

なお、遺言書の保管申請の際に必要となる書類などは以下のとおりです。

  • 遺言書
  • 申請書
  • 本籍の記載のある住民票の写し(発行後3カ月以内のもの)
  • 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
  • 手数料(1通3,900円)


【3.遺言書の保管申請手続きの予約】

 

遺言書の保管申請は、原則として事前に予約をしたうえで手続きする必要があります。
 

【4.遺言書の保管申請】

 

事前に予約した日時に、管轄の法務局で遺言書の保管申請の手続きを行います。遺言書の保管申請は、遺言者が必ず出頭して手続きをしなければなりません。郵送や代理人による申請は不可となっています。


【5.遺言書の保管証の受領】

 

手続き完了後、申請先の法務局より遺言書の保管証を受領します。

 

【◆  遺言書の閲覧】

 

遺言者は、遺言書を預けた後、いつでも法務局で保管されている遺言書の閲覧を請求することが可能です。遺言書の閲覧方法は、モニターでの遺言書の画像の閲覧、遺言書原本の閲覧の2つがあります。

 

遺言書の閲覧の請求は、以下の流れで手続きを進めていきます。


【1.閲覧請求をする法務局の選択】

 

遺言書の閲覧請求は、遺言書の保管事務を取り扱う法務局であればどこでもできます。

遺言書原本を預けている法務局を選択した場合、モニターでの遺言書の画像の閲覧および遺言書原本の閲覧の請求が可能です。上記以外 の場合モニターでの遺言書の画像の閲覧を請求することになります。


【2.閲覧請求の請求書の作成】

 

遺言書の閲覧請求をするには、請求書に必要事項を記載して提出する必要があります。そのため、請求書を作成しなければなりません。


【3.閲覧請求の予約】

 

遺言書の閲覧請求をするには、原則として事前に予約しなければなりません。


【4.閲覧請求】

 

1で選択した法務局に2で作成した請求書を提出して遺言書の閲覧請求を行います。遺言書の閲覧請求ができるのは遺言者だけで、遺言書の保管申請と同様に出頭して手続きしなければなりません。

提出書類は、請求書以外ありませんが、手続きの際に本人確認を行います。そのため、遺言者は顔写真つきの身分証明書(運転免許証など)を持参して法務局に出頭する必要があります。

また、閲覧請求をする際、手数料を支払わなければなりません。手数料の額は以下のとおりです。

モニターによる閲覧 1,400円
遺言書原本の閲覧 1,700円


【5.遺言書の閲覧】

 

法務局に閲覧請求をした後、遺言書の閲覧をすることになります。

 

【◆  遺言書の保管申請の撤回】

 

遺言者は、法務局に対して遺言書の保管申請の撤回をすることが可能です。これにより、法務局に預けている遺言書を返却してもらえます。

 

遺言書の保管申請の撤回は、以下の流れで手続きを進めていきます。


【1.撤回書の作成】

 

遺言書の保管申請の撤回は、撤回書に必要事項を記入して提出することによって行います。そのため、撤回書の作成が必要となります。


【2.撤回の予約】

 

遺言書の保管申請の撤回は、原則として手続き前に予約をしなければなりません。遺言書の保管申請の撤回は、遺言書の預け先の法務局に対してのみ行うことが可能です。そのため、遺言書の預け先の法務局へ撤回の予約をすることになります。


【3.撤回の手続きおよび遺言書の返却】

 

遺言書の保管申請の撤回は、遺言者が法務局へ出頭して手続きをしなければなりません。
 

手続きの際には、1で作成した撤回書を提出します。それ以外の書類の提出は原則不要ですが、遺言書の保管申請後、遺言者の住所、氏名に変更が生じた場合、それを証明できる書類(住民票、戸籍など)を提出しなければなりません。
 

また、遺言者の本人確認を行うため、法務局へ出頭する際、顔写真つきの身分証明書(運転免許証など)を持参する必要があります。
 

なお、保管申請の撤回の手続きをする際、手数料は発生しません。
 

保管申請の撤回手続き終了後、法務局より遺言書の返却を受けることができます。

 

【相続人などが行う手続き】

 

相続人などが行う手続きには、「遺言書保管事実証明書の交付請求」、「遺言書情報証明書の交付請求」、「遺言書の閲覧」があります。

 

【◆  遺言書保管事実証明書の交付請求】

 

遺言者保管事実証明書とは、遺言書の保管の有無を確認できる書類になります。法務局に遺言書が保管されている場合は、当証明書により、遺言書の作成年月日保管番号などの情報を証明してもらうことが可能です。

遺言者の相続人など一定の者(相続人、受遺者、遺言執行者など)は、遺言者が亡くなった後、遺言者保管事実証明書の請求をすることができます。

 

遺言書保管事実証明書の交付請求は、以下の流れで手続きを進めていきます。


【1.証明書を請求する法務局の選択】

 

遺言書保管事実証明書の請求は、遺言書の保管業務を取り扱う法務局であれば、どこでも手続き可能です。
 

【2.請求書の作成および必要書類などの準備】

 

遺言書保管事実証明書の請求手続きは、請求書と必要書類など提出して行わなければなりません。そのため、請求書を作成して、手続きに必要な書類などを準備します。

 

遺言書保管事実証明書の請求手続きに必要となる書類などは、以下のとおりです。

  • 遺言者の死亡を確認できる戸籍(除籍)謄本
  • 請求者の住民票
  • 請求者が請求できる地位にあることを証明できる書類(例、請求者が相続人の場合、遺言者の相続人であることを確認できる戸籍謄本)

その他、証明書の交付の際には請求者の本人確認を行うので、身分証明書(運転免許証など)も準備しておく必要があります。
 

【3.証明書の請求の予約】

 

遺言書保管事実証明書の請求をする場合、原則として事前に予約しなければなりません。
 

【4.証明書の請求手続き】

 

請求書および必要書類などを法務局へ提出して、遺言書保管事実証明書の請求手続きを行います。請求の際には、手数料(1通800円)を支払わなければなりません。
 

また、証明書の請求は、郵送の方法でも手続き可能です。郵送による請求をする場合、手続きに必要な書類などの他、返信用封筒と切手を同封して、手続き先の法務局へ送付します。
 

【5.証明書の交付】

 

4の手続き完了後、遺言書保管事実証明書の交付を受けられます。交付の際には、請求者(証明書の受取人)の本人確認が行われるので、身分証明書(運転免許証など)の提示が必要です。
 

郵送の方法で請求をした場合は、請求者の住所へ証明書を送付してもらえます。

 

【◆  遺言書情報証明書の交付請求】

 

遺言書情報証明書とは、法務局に保管されている遺言書の内容を証明する書類です。当証明書には、遺言書の作成年月日や保管番号の他、遺言者、受遺者、遺言執行者に関する情報、遺言書の保管を開始した日付などが記載されます。
 

遺言者の相続人など一定の者(相続人、受遺者、遺言執行者など)は、遺言者が亡くなった後、遺言書情報証明書の交付を受けることが可能です。また、当証明書を使用して、遺言者の各種相続手続きができます。
 

遺言書情報証明書の交付請求は、以下の流れで手続きを進めていきます。
 

【1.証明書を請求する法務局の選択】

 

遺言書情報証明書の交付請求は、遺言書の保管業務を取り扱う法務局であれば、どこでも手続き可能です。
 

【2.請求書の作成および必要書類などの準備】

 

遺言書情報証明書の交付請求は、請求書と必要書類などを法務局に提出して手続きをすることになります。そのため、請求書を作成し、必要書類を準備しなければなりません。

 

遺言書情報証明書の交付請求をする際に必要となる書類は、以下のとおりです。

  • 遺言者の出生から亡くなるまでの期間の戸籍(除籍)謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本および住民票(住民票は発行3カ月以内のもの)

 

※  法定相続情報一覧図(住所の記載のあるもの)を上記書類の代替として提出することも可能です。

 

→ 法定相続情報証明制度についてはこちら

 

  • 請求者が請求できる地位にあることを証明できる書類(例、請求者が相続人の場合、遺言者の相続人であることを確認できる戸籍謄本)

 

その他、証明書の交付の際には請求者の本人確認を行うので、身分証明書(運転免許証など)も準備しておく必要があります。

 

【3.証明書の交付請求の予約】

 

遺言書情報証明書の交付請求をする場合、原則として事前に予約をしなければなりません。
 

【4.証明書の交付請求手続き】

 

請求書および必要書類を法務局に提出して、遺言書情報証明書の交付請求手続きを行います。交付請求の際には手数料(1通1,400円)を支払わなければなりません。

 

また、遺言書情報証明書の交付請求手続きは、郵送の方法でも行えます。手続き方法は、遺言書保管事実証明書の交付請求と基本的に同じです。
 

【5.証明書の交付】

 

4の手続き完了後、遺言書情報証明書の交付を受けられます。交付の際には、請求者(証明書の受取人)の本人確認が行われるので、身分証明書(運転免許証など)の提示が必要です。郵送の方法で請求をした場合は、請求者の住所へ証明書を送付してもらえます。

 

また、請求者に遺言書情報証明書が交付されたとき、法務局より、請求者以外の相続人などに対して、遺言書を保管している旨の通知がなされます。

 

【◆  遺言書の閲覧】

 

遺言者の相続人など一定の者(相続人、受遺者、遺言執行者など)は、法務局で保管されている遺言者の遺言書の閲覧を請求することが可能です。上記の者のよる遺言書の閲覧請求ができるのは、遺言者が亡くなった後に限られます。

遺言書の閲覧は、遺言者自身が行うときと同様、モニターでの遺言書の画像の閲覧、遺言書原本の閲覧の2つの方法によって行います。

 

遺言書の閲覧請求は、以下の流れで手続きを進めていきます。
 

【1.閲覧請求する法務局の選択】

 

遺言書の閲覧請求は、遺言書の保管事務を取り扱う法務局であればどこでもできます。

遺言書原本を預けている法務局を選択した場合、モニターでの遺言書の画像の閲覧および遺言書原本の閲覧の請求が可能です。上記以外の場合、モニターでの遺言書の画像の閲覧を請求することになります。
 

【2.請求書の作成】

 

遺言書の閲覧請求をするには、請求書の提出が必要になります。そのため、請求書を作成しなければなりません。請求書には必要事項を記載することになります。
 

【3.閲覧請求の予約】

 

遺言書の閲覧請求をするには、原則として事前に予約しなければなりません。
 

【4.閲覧請求】

 

1で選択した法務局に2で作成した請求書を提出して遺言書の閲覧請求を行います。

提出書類は、請求書以外ありませんが、手続きの際に本人確認を行います。そのため、遺言者は顔写真つきの身分証明書(運転免許証など)を持参して法務局に出頭しなければなりません。

 

また、閲覧請求をする際、手数料を支払う必要があります。手数料の額は以下のとおりです。

モニターによる閲覧 1,400円
遺言書原本の閲覧 1,700円


【5.遺言書の閲覧請求】

 

法務局に閲覧請求をした後、遺言書の閲覧をすることになります。

なお、遺言者の相続人など一定の者が遺言書の閲覧をした場合、法務局より、請求者以外の相続人などに対して、遺言書を保管している旨の通知がなされます。

相続発生後、被相続人所有の土地の名義変更手続きを行う際、その対象の土地のなかに、登記上の地目が「墓地」になっているものも散見されます。土地の登記上の地目が「墓地」であるとき、一般の相続登記とは異なる方法で手続きをする場合もあります。そのため、相続発生後、被相続人名義の墓地の取り扱いについて把握しておかなければなりません。

 

そこで、相続発生後、被相続人名義の墓地の取り扱いや承継者の決定方法を解説した上で、登記手続きについてみていきます。

 

【ⅰ.祭祀財産にあたる墓地は相続財産に含まれない】

 

被相続人名義の墓地は、基本的に他の相続財産と分けて手続きを進めなければなりません。なぜなら、墓地は原則として祭祀財産にあたるからです。
 

祭祀財産とは、先祖をまつるための財産で、具体的には、系譜、祭具、墳墓のことを指します。
 

系譜とは、祖先の血統や続柄が記された書物をいい、家系図や過去帳がこれにあたります。祭具とは、仏壇や神棚など祖先をまつるための供されるもののことです。そして、墳墓とは、亡くなった人の遺骨を納めるための墓石をいい、墓石が設置されている土地の所有権や使用権も含まれます。
 

墓地の権利は、墳墓に含まれるため、祭祀財産と扱われるのが原則です。祭祀財産にあたる墓地は、相続財産に含まれないため、遺産分割の対象にもなりません。したがって、被相続人名義の墓地が祭祀財産にあたる場合、他の相続財産と分けて手続きを進めなければならないのです。

 

【ⅱ.祭祀財産の承継者とその決定方法】

 

被相続人名義の墓地は、原則として祭祀財産の承継者が権利を取得します。祭祀財産の承継方法は、法律(民法)で定められているので、その規定にしたがって承継者が決定されます。
 

祭祀財産の承継に関する法律の規定は、具体的にどのような内容となっているのでしょうか。
 

まず、被相続人が祭祀財産の承継者を指定していた場合、その者が承継します。祭祀財産の承継の指定方法は、とくに規定はありません。そのため、被相続人が生前に書面上や口頭でしても、遺言でしても、法的には有効です。
 

被相続人が祭祀財産の承継者を指定していない場合、慣習にしたがって、祖先の祭祀を主宰する者が承継します。
 

そして、祭祀財産の承継者の指定や慣習がないときは、家庭裁判所の調停または審判で決定することになります。

 

【ⅲ.墓地が相続財産に該当するケースもある】

 

墓地は祭祀財産にあたるのが原則です。しかし、被相続人名義の墓地が、祭祀財産にあたらないケースもあります。具体的には、登記上の土地の地目が「墓地」であっても、実際にはその土地上にお墓が建っていないときです。被相続人名義の土地の現況が墓地ではない場合、当然祭祀財産に含まれません。
 

また、被相続人名義の土地の使用権を持っている人が、その土地を墓地として利用しているときも同様です。この場合、その土地にあるお墓は被相続人のものではないため、墓地も被相続人の祭祀財産にはあたりません。
 

被相続人名義の墓地が祭祀財産とならない場合、被相続人名義の他の財産と同様に相続の対象となります。このようなケースでは、相続人全員で遺産分割協議をして、被相続人名義の墓地の承継者を決めていきます。

 

【ⅳ.墓地の登記手続きの方法】

 

墓地の登記は、祭祀財産として手続きする方法と相続財産として手続きする方法の2通りの方法があります。
 

墓地が祭祀財産にあたるとして手続きする場合、「民法第897条による承継」を原因として登記をします。この方法で登記をする場合、祭祀財産の承継者と相続人全員の共同で申請手続きをしなければなりません。(被相続人が遺言書を残していて、遺言執行者が指定されている場合は、相続人全員の代わりに遺言執行者が申請手続きに関与します。)
 

墓地が相続財産に該当する場合、通常の相続登記を同じ形で「相続」を原因として登記をします。そのため、遺言や遺産分割協議などで定められた墓地の承継者が単独で登記申請をすることが可能です。
 

→ 一般の相続登記についてはこちら
 

また、土地の登記上の地目が「墓地」となっている場合、登記手続きをする際に登録免許税を納付する必要はありません。なぜなら、登録免許税法により、「墳墓地に関する登記」については、登録免許税を課さないと定められているからです(登録免許税法5条⑩)。

相続登記をする際、相続放棄をした人が登記名義人になることは基本的にありません。しかし、相続人の1人から保存行為によって単独で共同相続登記の手続きがなされ、結果的に相続放棄者が登記名義人となってしまうケースもあります。

→ 相続人の1人からの保存行為による共同相続登記とその問題点についてはこちら

また、被相続人や相続人の債権者から債権者代位による共同相続登記の手続きがなされる場合も同様です。

 

相続放棄をした人は、最初から被相続人の相続人ではなかったことになります。

→ 相続放棄の効果についてはこちら

したがって、相続放棄者名義でなされた相続登記は内容が誤っていることになるため、名義人を訂正する登記手続きをしなければなりません。

 

そこで、どのような方法で名義人を訂正する登記手続きをすればよいのか、具体的にみていきます。

 

【ⅰ.相続登記がなされる前に名義人の相続放棄が受理された場合】

 

共同相続人名義で相続登記がなされ、そのうちの1人の相続人が相続放棄をしていたときは、更正登記の方法で名義を訂正します。

 

たとえば、A、B、Cの3名の共同相続登記がなされ、そのうちAのみが相続登記の手続き前に相続放棄をしていたとしましょう。この場合、内容が誤っているのはA名義の登記のみで、B名義とC名義の登記の内容に誤りはありません。したがって、登記内容の一部に誤りがあるため、更正登記の方法で「A、B、C」から「B、C」の共有名義に訂正する手続きを行うのです。

 

一方、相続登記の名義人となった相続人全員単独相続人の場合も含みます。)が相続放棄をしていたときは、相続登記を抹消する方法で訂正します。
 

たとえば、相続登記の名義人となったA、B、Cが、全員すでに相続放棄をしていたとしましょう。この場合、登記されたA、B、Cの名義は、内容的にすべて誤っています。そのため、なされた相続登記を抹消し、被相続人名義に戻す方法によって訂正を行うのです。

 

【ⅱ.相続登記がなされた後に名義人の相続放棄が受理された場合】

 

相続登記がなされた後名義人の1人または全員の相続放棄が受理された場合、それによって相続分が増加した相続人や新たに相続人となった人へ移転登記をする方法で名義変更を行う旨の見解もいくつか存在しました。(昭26・12・4民甲2268、昭33・4・15民甲771など)

 

相続登記がなされた時点では、まだ名義人の相続放棄は受理されていないため、登記内容に誤りはないことを根拠に、登記内容の一部または全部の誤りを訂正する手続きである更正登記や抹消登記の方法ではなく、移転登記の方法で真正な相続人の名義にするという内容の上記見解が示されたと考えられます。

 

一方、「相続放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」旨の相続放棄の効力を規定する民法939条を根拠に、相続放棄をした相続人名義の登記は、真実の権利関係と一致しない無効な登記であると考え、抹消登記をして被相続人に名義を戻した後、新たに相続人となった人へ相続登記を行う方法で手続きする旨の見解も出されています。(昭52・4・15民三2379)

地方に所在する築年数の古い戸建の相続登記を行う場合、物件によっては表題登記(表示に関する登記)しかなされておらず、権利に関する登記のないケースが散見されます。
 

表題登記を含む表示に関する登記とは、土地や建物の物理的現況を公示する登記です。一方、権利に関する登記とは、土地や建物の権利関係の内容を公示する登記になります。
 

→ 表示に関する登記と権利に関する登記についてはこちら
 

土地や建物の名義を被相続人から相続人に変更する相続登記は、権利に関する登記の一種です。相続対象の建物に表題登記しかなされておらず、権利に関する登記がない場合、通常の方法で相続登記の手続きをすることができません。
 

→ 相続登記についてはこちら
 

そこで、表題登記しかなされていない建物の相続による登記の手続き方法等についてみていきます。

 

【ⅰ.所有権保存登記の方法で相続による登記手続きを行う】

 

表題登記しかなされていない建物の相続による登記手続きは、所有権保存登記を申請する方法で行います。なぜなら、表題登記しかなされていない物件の権利に関する登記をするには、最初に登記上の権利部の甲区(所有権に関する事項)を起こす必要があるからです。
 

戸建ての所有権保存登記は、表題部所有者の他、その相続人が申請人となって手続きすることが可能です。そのため、所有権保存登記の方法で、直接相続人名義にする形で手続きをします。

(所有権の保存の登記)

不動産登記法74条

  1. 所有権の保存の登記は、次に掲げる者以外の者は、申請することができない

  一.表題部所有者またはその相続人その他の一般承継人

 

  以下省略

表題登記しかなされていない建物の相続による登記を行う際、その敷地も被相続人名義となっていて、上記建物と土地が手続き対象になるケースも多いです。この場合、土地は通常の相続登記、建物は相続人名義による所有権保存登記を行います。
 

通常の相続登記と相続人名義による所有権保存登記は、違う種類の登記手続きになります。そのため、このような場合では、土地と建物の相続による登記を別々に申請手続きしなければなりません。

 

【ⅱ.特定の相続人名義による登記手続きも可能】

 

以下のような、表題登記しかなされていない建物(表題部所有者の氏名以外は省略)があったとします。

住所 省略
氏名 A

表題部所有者のAはすでに亡くなっていて、B、C、Dの3名がAの相続人(相続分は各3分の1ずつ)だったとします。
 

この場合、相続人名義の所有権保存登記を行う場合、法定相続分の持分割合で相続人全員の共有名義にすることも、特定の相続人の単独名義にすることも可能です。具体的には、持分各3分の1の割合でB、C、Dの共有名義にすることも、遺産分割協議を行った上で、B、C、Dのいずれかの単独名義にすることもできます。

 

【ⅲ.数次相続が発生しているケースでも一度で手続きが可能】

 

表題登記しかなされていない建物の名義人である被相続人に数次相続が発生しているケースも少なくありません。
 

数次相続が発生しているケースで通常の相続登記を行う際、権利取得する最終の相続人への名義変更手続きを一度でするには、中間の相続人が単独であるか単独にできることが条件となります。そのため、相続関係によっては、一度で手続きができない場合もあります。
 

→ 数次相続の場合の相続登記についてはこちら
 

しかし、相続人名義による所有権保存登記を行う場合、表題登記の名義人である被相続人に数次相続が発生していても、権利取得する最終の相続人への名義変更手続きを一度ですることが可能です。中間の相続人が複数人(単独ではなく、また単独にすることが不可)の場合であっても、その結論は変わりません。

 

【ⅳ.相続人名義による所有権保存登記の必要書類】

 

相続人名義による所有権保存登記の必要書類は、通常の相続登記のものとその内容は基本的に同じです。
 

→ 通常の相続登記の必要書類についてはこちら
 

被相続人と相続人の相続関係を証明できる戸籍一式、権利取得する相続人の住民票等が必要になります。また、遺産分割協議を行って権利取得する相続人を決めた場合、遺産分割協議書と相続人の印鑑証明書も必要です。
 

→ 相続登記の登記原因証明情報についてはこちら
 

→ 相続登記の印鑑証明書についてはこちら

民法・不動産登記法等の改正法2021428日に公布されて、202441日から相続登記の申請が義務化されることになりました。

 

【ⅰ.相続登記の申請が義務化された背景】 

 

当法改正前においては、相続登記の申請義務はなく、申請期限も法定されていませんでした。そのため、相続登記の申請を行うか否かは、関係当事者の意思に委ねられていました。 

 

相続登記の申請を行わなくても、当事者が不利益を被るケースは限られる他、相続不動産の価値が低く、売却が困難である場合、当事者にとって手間や費用をかけてまで手続きをするメリットが少ないと言えます。そのため、不動産の所有者が亡くなった後、相続登記がなされない場合も一定数存在しました。 

 

しかし、相続発生後、長期間相続登記申請の手続きを怠ってしまうと、相続関係が複数世代にまたがって相続人が多数となり、所有者不明土地が発生する要因となります。所有者不明土地とは、「不動産登記上で所有者が直ちに判明しない土地」、「所有者が判明しても、その所有者が所在不明で連絡が取れない状況にある土地」のことです。 

 

所有者不明土地の発生により、公共事業や復旧・復興事業、民間の土地取引などを円滑に進められなくなり、土地の利活用が阻害されてしまいます。また、土地が管理不全の状況となり、隣接する土地やその所有者へ悪影響を及ぼす可能性も出てきます。 

 

このような所有者不明土地問題を解決するには、その発生の予防に努めることが急務です。そこで、所有者不明土地の主な発生要因となっている相続登記の未了状態を解消するため、法改正によって、相続登記の申請が義務化されたのです。

 

【ⅱ.相続登記申請義務の具体的内容】 

 

当法改正により相続登記の申請義務化の制度が施行される202441日から、不動産を取得した相続人に対し、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請する義務が課されます。ここでいう「不動産を取得した相続人」の中には、相続の他、特定財産承継遺言や遺贈により不動産を取得した相続人も含まれます。 

 

→ 特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)についてはこちら 

→ 遺贈(遺言書)による登記についてはこちら 

 

また、法定相続分および代襲相続人の相続分による相続人の共有登記がなされた後、当相続人間で遺産分割協議が成立して、特定の相続人が不動産を取得することになったとします。このような場合、遺産分割協議の結果、法定相続分を超えて不動産の所有権を取得した相続人は、遺産分割協議の成立日から3年以内に所有権の移転(遺産分割による持分移転など)登記をしなければなりません。 

 

ここで注意しなければならないのは、当改正法施行日(202441日)前に発生した相続についても相続登記の申請義務化の対象になるという点です。当改正法施行日前に発生した相続については、施行日から3年間が相続登記の申請義務期限になります。 

 

たとえば、相続人が2022111日に不動産の所有者が亡くなって相続が発生したこと、2022121日に当不動産の所有権を自身が相続により取得したことを知ったとします。このような場合、当法改正施行日である202441日から3年以内に相続登記を申請する義務が課せられるのです。

 

【相続発生時期と相続登記申請義務期限の関係】

 

相続発生時期 相続登記申請義務期限

改正法施行日前に相続が発生した場合

改正法施行日から3年以内

改正法施行日後に相続が発生した場合

自己のために相続の開始があったことを知り、かつその所有権を取得したことを知った日から3年以内

 

【ⅲ.相続人申告登記】 

 

相続登記の申請義務化にともない、相続人申告登記制度が設けられています。相続人申告登記とは、相続人が相続登記の申請義務を簡易に履行できるように設けられた新たな登記制度です。 

 

「相続人間の話し合いがまとまらない」、「遺産分割協議ができない」などの諸事情により、期限内に相続登記の申請義務を履行することが難しい状況におかれる相続人も一定数存在します。そこで、このような状況に置かれている相続人でも、相続登記の申請義務を履行することができるように、相続人申告登記の制度が設けられました。 

 

相続人申告登記は、相続人が「不動産の登記名義人の相続が開始したこと」、「自身がその相続人であること」を管轄法務局の登記官に申し出る方法によって行います。相続人が期限内に上記申出を行うことで、相続登記の申請義務を履行したものとみなされます。 相続人が相続人申告登記の申出を行った後、申出を受けた管轄法務局の登記官が審査をした上で、申出者である相続人の住所、氏名などを職権で登記に付記することになります。

 

ただ、相続人申告登記は、相続登記の申請義務が履行できるように設けられた簡易な登記制度にすぎず、一般の登記制度とは異なり、不動産についての権利関係を公示するものではなく、その効果が限定的なものである点に注意が必要です。そのため、相続人間で遺産分割協議が成立した後、その協議に基づいて不動産を取得する方への相続登記の申請義務については、相続人申告登記によっては履行できません。この場合は、通常の相続登記の手続きを行うことでその申請義務を果たす必要があります。また、相続した不動産を処分される場合も、その前提として通常の相続登記の手続きを行い、不動産を相続された相続人の方へ名義を変更しておかなければなりません。

 

【ⅳ.申請義務化後の相続登記の手続き方法】 

 

当改正法が施行されて相続登記の申請義務化された後、相続発生後の状況によって、手続き手順が異なります。 

 

【申請義務期限内(3年以内)に相続人間で遺産分割協議が成立しない場合】 

 

被相続人が遺言書を残していない場合、相続人全員で遺産分割協議を行って不動産の権利を取得する相続人を決めた後、相続登記を行うのが通常です。 

 

→ 相続登記とその手続き方法についてはこちら 

 

しかし、当協議が申請義務期限内(3年以内)に成立しない場合、当期限内までに遺産分割協議による相続登記ができません。このようなケースで、相続登記の申請義務を履行するためには、最初に申請義務期限内(3年以内)に相続人申告登記の申出または法定相続による相続登記を行います。

 

その後、遺産分割協議が成立した場合、当協議の成立日より3年以内に、遺産分割協議による相続登記を行います。遺産分割協議が成立しない場合は、それ以上の登記申請は義務付けられないため、手続きの必要はありません。) 

 

 【申請義務期限内(3年以内)に相続人間で遺産分割協議が成立した場合】 

 

相続発生後、申請義務期限内(3年以内)に相続人間で遺産分割協議が成立した場合、当期限内までに遺産分割協議による相続登記を行います。

 

しかし、諸事情により、当期限内までに遺産分割協議による相続登記を行うのが難しいケースもあります。このような場合、当期限内までに相続人申告登記の申出または法定相続による相続登記をした後、遺産分割協議の成立日から3年以内に当協議による相続登記を行います。 

 

【被相続人が遺言書を残していた場合】 

 

特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)または遺贈によって、相続人に不動産を権利承継させる旨の遺言書を被相続人が残していた場合、当遺言書の内容に基づいて登記申請を行うのが原則です。 

 

このようなケースでは、相続人が遺言によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請する義務が課されるため、その期限内までに手続きを行います。申請する登記は、遺言書の内容に基づく登記の他、相続人申告登記の申出でもよいとされています。

 

【ⅴ.相続登記の申請義務違反は過料の対象】 

 

相続登記の申請義務に正当な理由がなく違反した場合、その者に対して10万円以下の過料に処する旨の規定が設けられています。 

 

上記の「正当な理由」とは、対象者が申請義務期限内(3年以内)に相続登記をすることが難しい事情の存在を指します。具体的には、以下のような事情がある場合、一般的に「正当な理由」があると認められます(令和5年9月12日法務省民二第927号)。

  • 相続登記などの申請義務に係る相続について、相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類などの収集や他の相続人の把握などに多くの時間を要する場合
  • 相続登記などの申請義務に係る相続について、遺言の有効性や遺産の範囲などが相続人などの間で争われているために、相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
  • 相続登記などの申請義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
  • 相続登記などの申請義務を負う者がDV被害者その他これに準ずる者であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
  • 相続登記などの申請義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合

2021428日に民法・不動産登記法等の改正法が交付され、202441日から相続登記の申請が義務化されることになります。

 

→ 相続登記の申請義務化についてはこちら

 

相続登記の申請義務化にともない、相続人が相続登記の申請義務を簡易に履行できるように相続人申告登記の制度が新設されましたが、その他、「所有不動産記録証明制度」「所有権登記名義人の死亡情報についての符号表示制度」の二つの制度が設けられています。 

 

「所有不動産記録証明制度」、「所有権登記名義人の死亡情報についての符号表示制度」の二つの制度は、当改正法公布日より5年以内に施行される予定となっております。

 

【ⅰ.所有不動産記録証明制度】 

 

所有不動産記録証明制度とは、特定の者が所有権登記名義人として記録されている不動産を一覧化した上で証明してもらえる制度になります。

 

相続登記は、被相続人が所有権登記名義人となっている不動産を特定した上で申請手続きを行わないと、手続き対象となる不動産の存在を見逃してしまい、登記漏れが生じてしまう可能性もあります。手続き漏れが生じて長期間相続登記がなされない状況が続くと、所有者不明土地の発生につながってしまうため、好ましくありません。

 

現行の法令(不動産登記法)において、登記記録は土地や建物など不動産ごとに作成されているため、法務局において、被相続人が所有権登記名義人となっている不動産を特定した上で一覧的に証明してもらえる仕組みは存在しません。申請当事者が相続登記の手続き前に被相続人名義の不動産を特定するには、権利証の記載内容を確認したり、名寄帳を取得してその内容を確認したりするなどの作業が必要です。

 

しかし、専門家ではない一般の方が相続登記を行う前にこれらの作業を行うのは、手続き負担が少し大きいと言えます。もし、登記申請先の法務局において、被相続人名義の不動産を特定できる仕組みができると、手続き負担が少なくなるため、相続登記の申請義務の実効性確保にもつながります。

 

そのようなことから、相続登記の申請義務化にともない、申請者の手続き負担の軽減と登記漏れを防ぐ等の目的で、所有不動産記録証明制度が設けられました。 

 

所有不動産記録証明制度の施行後は、法務局において、所有不動産記録証明書の交付を受けられるようになります。所有不動産記録証明書には、特定の者が所有権登記名義人として記録されている不動産が一覧的に記載されます。一方、特定の者が所有権登記名義人として記録されている不動産が存在しない場合は、その旨の記載のある証明書が交付される予定です。 

 

また、所有不動産記録証明書の交付請求ができる者は、プライバシー等の配慮で、以下の範囲に限定されています。

登記名義人対象者 交付請求可能者

本人が名義人となっている不動産についての証明書

登記名義人対象者本人

被相続人その他被承継人が名義人となっている不動産についての証明書

相続人その他一般承継人

 

なお、所有不動産記録証明書の交付請求ができる法務局については、今後法務大臣が指定する予定となっています。また、所有不動産記録証明書の交付等の手数料額については、政令等で定められる予定です。

 

【ⅱ.所有権登記名義人の死亡情報についての符号表示制度】 

 

所有権登記名義人の死亡情報についての符号表示制度とは、法務局の登記官が他の公的機関より取得した死亡情報に基づき、不動産登記上に死亡の事実を符号によって表示する制度です。

 

不動産の所有権登記名義人が死亡した場合でも、当名義人を対象とする相続登記がなされない限り、死亡の事実が登記上に公示されません。そのため、相続登記がなされていない場合、当名義人の死亡の事実も登記上から確認できないことになります。

 

もし、所有権登記名義人の死亡の事実を登記上で確認できる仕組みが存在すれば、民間事業や公共事業の計画段階等において、事業用地の選択の際、所有者の特定、所有者との交渉が困難な土地や地域を避けることが可能となります。このような状況にあると、円滑に事業用地の選択が行えるようになり、民間事業や公共事業のその後の手続きもスムーズに進められるようになります。そのようなことから、所有権登記名義人の死亡情報をできるだけ登記上にも反映されるべきであるとの意見が寄せられていました。 

 

そこで、所有権登記名義人の相続に関する登記情報の更新を図る方策として、所有権登記名義人の死亡情報についての符号表示制度が設けられたのです。

自宅から遠方にある不動産の相続登記を行う前提として、自宅から最寄りの法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)の取得請求をしても、その対象不動産が「改製不適合物件」であるために、発行してもらえないケースがまれにあります。 

 

改製不適合物件と言われる不動産とは、どのようなものなのでしょうか。その詳細と登記手続きの特徴について説明していきます。

 

【ⅰ.改製不適合物件とは】 

 

改製不適合物件とは、登記簿がコンピュータ化されていなくて、紙媒体で登記簿が管理されている不動産のことを言います。

 

1988年の不動産登記法等の改正により、それまで紙媒体で行われていた登記事務がコンピュータ化されることになりました。それにともない、紙媒体で管理されていた登記の記録内容もコンピュータ内で管理されることになり、順次データ移行が進められました。

 

しかし、「共有者の共有持分が合計して1にならない」、「登記記録の中に判読できない文字が存在して移記できない」等の理由で、登記の記録内容をコンピュータ化できない不動産もありました。この不動産が改製不適合物件であり、法務局の登記事務がコンピュータ化された後においても、紙媒体で登記の記録内容が管理されています。 

 

この改製不適合物件のことを、司法書士等の業界内において、「事故簿」と呼ばれたりすることもあります。

 

【ⅱ.改製不適合物件の登記手続きの特徴】 

 

改製不適合物件もそれ以外の不動産と同様に登記手続きを行うことは可能です。ただ、登記手続きの対象不動産が改製不適合物件の場合、それ以外の不動産の登記手続きのときと、以下の点で異なります。 

 

1.改製不適合物件の所在地管轄の法務局でのみ謄本の取得が可能】 

 

司法書士が業務において不動産登記の申請手続きを行う際、権利関係を確認するため、事前に謄本を取得しますが、その対象不動産が改製不適合物件であるか否かによって、請求できる法務局と発行される書類の種類が異なります。

 

登記の記録内容がコンピュータ内で管理されている不動産の謄本を取得請求した場合、法務局側から登記事項証明書が発行されます。登記事項証明書は、コンピュータ内に記録されている登記情報の内容を証明した書面であるため、請求対象の不動産所在地を管轄する法務局だけではなく、全国の法務局で取得可能です。

 

一方、改製不適合物件の謄本を取得請求した場合、法務局側から登記簿謄本が発行されます。発行元となる登記の記録内容が記載されている紙媒体の簿冊は、改製不適合物件の所在地を管轄する法務局で管理されています。そのため、登記簿謄本を取得できるのは、改製不適合物件の所在地を管轄する法務局だけです。 

 

2.改製不適合物件はオンラインで登記申請ができない】 

 

不動産の登記申請方法には、「書面申請」と「オンライン申請」の二つの方法があります。書面申請とは、登記申請書を書面で作成した上で法務局へ提出して行う登記申請方法です。一方、オンライン申請とは、インターネット上から登記申請情報を法務局へ送信して行う登記申請方法になります。

 

通常であれば、各登記申請者が書面申請、オンライン申請のどちらかを選択して不動産登記の申請手続きを行うことが可能です。しかし、登記手続きの対象不動産が改製不適合物件である場合、オンライン申請を選択して手続きをすることができません。そのため、書面申請の方法で登記手続きをすることになります。 

 

3.改製不適合物件の登記手続き完了後に登記識別情報通知書は発行されない】 

 

2005年の不動産登記法改正法施行後にオンライン申請が可能となった法務局へ相続登記を申請した場合、手続き終了後、名義人となった人に対して登記識別情報通知書が発行されます。

 

→ 登記識別情報についてはこちら

 

しかし、登記手続きの対象不動産が改製不適合物件の場合、オンライン申請の方法で登記ができないため、手続き終了後に登記識別情報通知書も発行されません。その代わりとして、登記申請書の写しに登記済の印の押された登記済権利証が発行されます。 

 

したがって、改製不適合物件の登記申請手続きを行う際、登記済権利証の発行素材となる申請書副本を登記申請書と一緒に法務局へ提出する必要があります。

 

【ⅲ.手続き対象が改製不適合物件の場合は司法書士にご相談を】 

 

相続登記の対象不動産が改製不適合物件である場合、申請手続き方法もイレギュラーな形となります。もし、相続登記の手続き対象が改製不適合物件である場合、司法書士等の専門家へご相談されたほうがよいでしょう。 

 

当事務所所在地の近辺にある狭山台団地(住所:埼玉県狭山市狭山台1丁目~3丁目)の共有持分(事務所・集会所・ポンプ室)も改製不適合物件になります。そのため、当事務所では数多くの改製不適合物件の相続登記手続きに対応させていただいております。

2021428日に「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が公布されて、2023427日より、相続土地国庫帰属制度が開始することになりました。 

 

【ⅰ.相続土地国庫帰属制度が創設された背景】 

 

相続土地国庫帰属制度とは、相続人が相続・遺贈によって取得した土地を手放して国庫に帰属させることができる制度です。

 

相続で土地を取得しても、土地利用のニーズ低下により、土地を手放したいと希望する方が増えています。また、相続で取得した土地の所有者としての負担感も大きくなり、管理の不全化を招いているケースも少なくありません。

 

このような状況が続くと、相続での土地取得の手続きが進まなくなる場合も出てきてしまいます。その結果、所有者不明土地の発生に招く可能性も出てきてしまい好ましくありません。 

 

そこで、所有者不明土地の発生を防ぐため、相続土地国庫帰属制度を創設し、相続・遺贈によって取得した土地を手放して国庫に帰属させることができるようにしたのです。

 

【ⅱ.相続土地国庫帰属制度の承認申請権者】

 

相続土地国庫帰属の承認申請ができるのは、相続・遺贈によって土地の所有権または共有持分権を取得した相続人に限られます。相続対象の土地が共有であるときは、相続・遺贈によって土地の共有持分権を取得した相続人を含む共有者全員で承認申請をしなければなりません。この場合、他の共有者は、土地の共有持分を相続以外の原因で取得していた場合であっても承認申請が可能です。

 

【承認申請権者の具体例】

 

相続内容 承認申請できる方

A名義の土地をBが単独で相続

Bが単独で承認申請可

ABの共有名義の土地でBA持分を単独で相続

Bが単独で承認申請可

A名義の土地をBCが共同で相続

BCの共同で承認申請可

ABの共有名義の土地でBCA持分を共同で相続

BCの共同で承認申請可

AB会社の共有名義の土地でCA持分を単独で相続

B会社とCの共同で承認申請可

 

【ⅲ.国庫帰属対象の相続土地の要件】 

 

相続で取得した土地のすべてが、国庫帰属対象になるわけではありません。法律(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)上では、相続土地国庫帰属の承認申請の却下要件と不承認要件が規定されています。相続で取得した土地がこれらに該当する場合、国庫に帰属させることができません。

 

相続土地国庫帰属の承認申請の却下要件と不承認要件は、以下のとおりです。 

 

1.却下要件(申請不可事由)】 

 

相続で取得した土地が以下のいずれかの要件に該当する場合、相続土地国庫帰属の承認申請をすることができません。承認申請をした場合、その時点で直ちに却下されます。

 

  • 建物の存ずる土地 
  • 担保権または使用および収益を目的とする権利が設定されている土地 
  • 通路その他の他人による使用が予定される土地として、墓地内の土地、境内地、現に通路・水道用地・用悪水路・ため池の用に供されている土地が含まれる土地 
  • 土壌汚染対策法で規定されている特定有害物質により汚染されている土地 
  • 境界が明らかではない土地その他所有権の存否、帰属または範囲について争いのある土地

 

【2.不承認要件(不承認事由)】 

 

相続土地国庫帰属の承認申請後、対象土地が以下のいずれかの要件に該当する場合、不承認となります。逆に対象土地が以下のいずれかの要件にも該当しない場合、対象土地の国庫への帰属が承認されます。(当制度施行前の時点に相続で取得した土地も承認申請が可能で、条件に適合すれば国庫帰属の対象となります。)

 

  • 勾配が30度以上かつ高さが5m以上の崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり、過分の費用または労力を要するもの 
  • 土地の通常の管理または処分を阻害する工作物、車両、樹木その他の有体物が地上に存する土地 
  • 除去しなければ土地の通常の管理または処分をすることができない有体物が地下に存する土地 
  • 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ通常の管理または処分をすることができない土地 
  • その他、通常の管理または処分するに当たり過分な費用または労力を要する土地

 

相続土地国庫帰属の承認申請の却下要件と不承認要件については、以下の法務省のサイトにもその具体的内容が記載されています。 

 

→ 相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件(法務省HP

 

【ⅳ.相続土地国庫帰属の負担金】 

 

相続土地公庫帰属の申請後、承認を受けた者は、承認された土地につき、その種目に応じた10年分の標準的な管理費用相当額を負担金として納付しなければなりません。

 

国庫帰属の承認対象土地は、「宅地」、「田・畑」、「森林」、「その他(原野、雑種地等)」の4種類のどれかに区分され、納付する負担金額もその区分に応じて算出されます。

 

負担金額の具体的な決定方法や算出方法については、以下の法務省のサイトにその内容が記載されています。 

 

→ 相続土地国庫帰属制度の負担金(法務省HP

 

【ⅴ.相続土地国庫帰属の手続きの流れ】 

 

相続で取得した土地の国庫帰属の手続きは、以下の手順で行います。 

 

1.法務局に事前相談】 

 

相続土地国庫帰属の承認申請をする前に、全国の法務局・地方法務局(本局に限られます)で、当制度の利用に関する事前相談を受けることが可能です。事前相談先の法務局は、対象の相続土地の所在地を管轄する法務局・地方法務局の本局になるのが原則です。しかし、対象の相続土地の所在地が自宅所在地から遠方にある場合は、自宅から最寄りの法務局・地方法務局の本局でも事前相談を受けられます。

 

相続土地国庫帰属制度に関する相談は、事前予約制となっていて、対面または電話の方法により、1回につき30分間受けることができます。事前相談を受けられるのは、土地所有者本人の他、その家族や親族に限られます。

 

また、相談を受ける前に、以下の書類を準備しておく必要があります。

 

  • 相続土地国庫帰属相談票(法務省HPよりダウンロード可) 
  • 対象の相続土地の状況に関するチェックシート(法務省HPよりダウンロード可) 
  • 土地の状況等が分かる資料や写真(登記事項証明書、公図、地積測量図、測量図面など)

 

2.承認申請】 

 

相続土地国庫帰属の承認申請は、対象の相続土地が所在する都道府県の法務局・地方法務局の本局に承認申請書と添付書類を提出する形で行います。

 

承認申請書と一緒に提出する添付書類の内訳は、以下のとおりです。

 

【必須書類】 

  • 承認申請に係る土地の位置及び範囲を明らかにする図面
  • 承認申請に係る土地と当該土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真 
  • 承認申請に係る土地の形状を明らかにする写真 
  • 申請者の印鑑証明書(発行期限はなし)

 

【遺贈によって土地を取得した相続人の必須書類】 

  • 相続人が遺贈を受けたことを証する書面

 

【承認申請者と土地の登記名義人が異なる場合の必須書類】 

  • 土地の登記名義人から相続または一般承継があったことを証する書面

 

 

【任意書類】 

  • 固定資産評価証明書 
  • 承認申請土地の境界等に関する資料

 

承認申請書は、審査手数料分の収入印紙を貼付した上で提出しなければなりません。審査手数料の具体的な金額は、今後政令で定められる予定となっています。

 

承認申請の書類提出は、来所して窓口に提出する方法と郵送の方法により行うことができます。

 

また、相続土地国庫帰属の承認申請手続きができるのは、申請者本人またはその法定代理人(親権者、後見人等)だけです。法定代理人以外の任意代理人による承認申請は認められません。 

 

これに対して、承認申請の際に提出する承認申請書と添付書類の作成については、専門家(弁護士・司法書士・行政書士に限る)に代行してもらうことが可能です。

 

3.法務大臣(法務局)による要件審査・承認】 

 

管轄の法務局へ相続土地国庫帰属の承認申請の書類提出後、法務局担当官が書面内容を確認するとともに、対象の相続土地の所在地まで出向いて実地調査をした上で、要件審査を行います。

 

要件審査の結果、却下要件や不承認要件があった場合、申請は却下または不承認になります。一方、却下要件や不承認要件がない場合は申請が承認されます。

 

承認、不承認の結果は、申請者本人にその旨が通知されます。また、申請が承認された場合、承認通知と併せて負担金額の通知がなされます。 

 

4.負担金額の納付・国庫帰属】 

 

相続土地国庫帰属の申請が承認された後、負担金額を納付しなければなりません。負担金額の納付は、負担金額の通知を受けた日の翌日から30日以内にする必要があります。もし、上記期限内までに負担金額の納付をしない場合、相続土地国庫帰属の申請承認が失効してしまうので、注意が必要です。 

 

申請者本人が負担金額を納付すると、その時点で対象の相続土地の所有権は国へ移転することになります。

2021428日に民法等の一部を改正する法律が公布されて、202341日より、具体的相続分による遺産分割を行える時期が制限されることになりました。

 

【ⅰ.具体的相続分による遺産分割の時的制限の内容と当規定が設けられた理由】 

 

当法改正により、相続開始時から10年経過した後に行う遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分または指定相続分によることとなりました。(民法904条の3本文)。

 

この規定により、相続開始時から10年経過した後は、原則として法定相続分または指定相続分に基づく遺産分割しかできなくなります。特別受益や寄与分を考慮に入れた具体的相続分による遺産分割は、原則として、相続開始時から10年以内に行わなければなりません。

 

→ 特別受益についてはこちら 

→ 寄与分についてはこちら

 

当法改正前まで、具体的相続分による遺産分割の時的制限がなかったため、手続きが長期化しても、特別受益や寄与分を考慮に入れた遺産分割を希望する相続人に不利益は生じませんでした。それにより、遺産分割を早期に行うことによる相続人のインセンティブも働きにくいため、相続発生後、遺産分割の手続きが進まないまま長期間経過してしまうケースもありました。

 

しかし、このような状況が続くと、数次相続の発生で相続人も多数に膨れ上がってしまい、遺産分割を行ったり、遺産の管理や処分をしたりすることが困難となる場合も出てきてしまいます。さらに、相続人同士が疎遠状態でお互い連絡を取ることが難しい状況にある場合、所有者不明土地の発生につながる可能性も生じるため、好ましくありません。

 

また、相続開始時から遺産分割の手続きが進まないまま長期間経過すると、特別受益や寄与分に関する書類を紛失したり、相続人の記憶が薄れたりすることにより、具体的相続分の算定が困難になるという問題もあります。 

 

そのようなことから、上記の問題を解消するため、具体的相続分による遺産分割を希望する相続人に早期の分割請求を促す効果を期待して、当規定が設けられたのです。

 

【ⅱ.具体的相続分による遺産分割の時的制限規定の例外】 

 

具体的相続分による遺産分割の時的制限規定の例外に該当する場合、相続開始時から10年経過した後でも、具体的相続分による遺産分割を行えるケースもあります。

 

当規定の例外に該当する事由は、具体的に以下のとおりです。

 

相続開始時から10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき

相続開始時から10年の期間満了前の6ヶ月以内の間に、遺産分割請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合、当事由が消滅したときから6ヶ月経過前に、当相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたとき

相続開始時から10年経過後に、具体的相続分による遺産分割を行う旨の相続人全員の合意がある場合

 

【ⅲ.施行日(202341日)前に発生した相続も適用対象】 

 

具体的相続分による遺産分割の時的制限規定は、当改正法の施行日(202341日)より前に発生した相続における遺産分割も、その適用対象となる点に注意が必要です。

 

当改正法の施行日前に発生した相続においての具体的相続分による遺産分割の時的制限期間は、経過措置により、相続開始時から10年経過時または当改正法施行時から5年経過時のいずれか遅い時までと定められています(当改正法附則3)。

 

たとえば、201821日に相続が発生した場合、相続開始時から10年経過した時が当法改正施行時から5年経過した時よりも前に到来します。そのため、この場合の具体的相続分による遺産分割の時的制限期間は、当改正法施行時から5年経過した時までです。 

 

一方、202321日に相続が発生した場合、当改正法施行時から5年経過した時が相続開始時から10年経過した時よりも前に到来します。したがって、このケースで具体的相続分による遺産分割を行えるのは、相続開始時から10年経過した時までということになります。

 

【当改正法施行日前に発生した相続の具体的相続分による遺産分割の期限】

 

相続開始時と当改正法施行時の関係 遺産分割の期限
施行日時点で相続開始時から10年経過している場合

当改正法施行日から5年経過した時まで

相続開始時から10年経過した時が当改正法施行時から5年経過した時よりも前に到来した場合

当改正法施行日から5年経過した時まで

当改正法施行時から5年経過した時が相続開始から10年経過した時よりも前に到来した場合

相続開始時から10年経過した時まで

 

相続人になる方が複数名いるケースで、そのうちの1名の単独名義とする相続登記をするには、遺言書が存在するなど一定の場合を除き、相続人全員による遺産分割協議を行った上で、手続きを進める必要があります。 

 

→ 相続登記の手続き方法についてはこちら 

 

被相続人の相続関係が比較的単純なケース(例:相続人が被相続人の配偶者と子である場合等)では、相続人間で相続に関する話し合いがまとまって、スムーズに相続登記の手続きが進む場合も多いです。これに対して、被相続人の相続関係が複雑なケースでは、相続人間で相続に関する話し合いがまとまるまで時間がかかり、相続登記の手続き完了まで長期間を要するケースも少なくありません。 

 

当事務所においても、相続関係が複雑なケースの相続登記のお手続きをさせていただいたことがいくつかありますが、その一つとして、相続人になる方が複数の家族間にわたる場合の事例を紹介させていただきます。(ご依頼者様の個人情報の関係上、実際の事例内容を一部変更させていただいております。)

 

【事例】

 

お亡くなりになられた被相続人の兄の方から、同人の単独名義とする相続登記のお手続きのご依頼を受けました。被相続人の相続関係は、以下のとおりでした。(以下より、当事例の当事者の方をABC等で標記させていただきます。)

 

  • 被相続人A(配偶者と子はいない)は、父Cと母Dの実子で、ご依頼者BCDの実子。
  • CDは、Aの生前に離婚して、Cは後妻であるEと再婚。CEの間には、FGH3名の実子が存在。
  • DCと離婚後、Aを引き連れてIと再婚。その後にIAを養子縁組。
  • IにとってもDとの結婚は再婚で、Iと先妻Jとの間には、実子Kが存在。
  • Aの両親CDおよび養親Iは、Aの生前に亡くなっている。

 

【相続関係および相続分の内容解説】 

 

被相続人Aには、配偶者はいません。また、相続順位が第1順位の直系卑属(子や孫等)もいないため、Aの相続権は第2順位である直系尊属(父母、祖父母等)へ移ります(民法8891項①)。

 

しかし、Aの両親CDおよび養親I等の直系尊属の方は、全員Aの生前に亡くなられているため、同人の相続において、第2順位に該当する方もいないことになります。そのため、Aの相続権は第3順位である兄弟姉妹へ移ることになります(民法8891項②)。そのため、本事例のAの法定相続人は、Aの兄弟姉妹全員ということになります。

 

兄弟姉妹とは、同じ親から生まれた子どものことを指します。ここで言う「同じ親」とは、両親だけではなく片親も含みます。今回の事例に当てはめてみると、Aの両親CDの子であるB、片親の父Cとその後妻Eの子であるFGH、養親Iと先妻Jの子であるKは、いずれもAと「同じ親」から生まれた子どもであるため、Aの兄弟姉妹にあたります。 

 

したがって、BFGHK5Aの法定相続人になります。

 

また、Aの相続における各法定相続人の法定相続分は、以下のとおりとなります。

 

相続人 相続分
B 6分の2
F 6分の1
G 6分の1
H 6分の1
K 6分の1

 

法律(民法)により、片親のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、両親を同じくする兄弟姉妹の2分の1とする旨が規定されています(民法9004項但書)。 

 

今回の事例では、BのみがAの両親を同じくする兄弟姉妹に該当し、FGHK4名は、Aの片親のみを同じくする兄弟姉妹になります。そのようなことから、BFGHKは、21111の割合で相続することになるため、Aの相続における法定相続分は、上記表のとおりとなるのです。

 

【当事務所でのお手続き】 

 

被相続人Aは生前に遺言書を残されていなかったため、同人名義の不動産をご依頼者Bの単独名義とするには、Aの相続人全員(BFGHK5名)で遺産分割協議を行った上で、相続登記の手続きをする必要があります。

 

ご依頼を受けた後、当事務所側で上記の旨をお伝えさせていただいたところ、ご依頼者B以外の4名の相続人のうち、FGH3名の方とは、定期的な交流があり、スムーズに話し合いができる状況であるとのことでした。一方、被相続人Aの養親であるIとその先妻Jとの間の子であるKとは、面識自体はあるものの、直近10年以上は疎遠状態であり、電話番号等の連絡先もわからないとのことでした。

 

幸い、ご依頼者Bは積極的に動いていただける方で、Kの自宅住所を把握されていたため、手紙でご連絡の上、ご事情をお伝えいただけるとのことでした。そのため、K側で当事情をご理解いただいた上、お手続きにご協力をいただける旨の了承を得られ次第、当事務所側で書類等のやり取りをさせていただく形でお手続きを進めさせていただくことになりました。

 

手紙でご連絡していただいた後、ご事情をご理解いただくのに少々お時間を要したようですが、Kから当手続きにご協力いただける旨の了承を得られたとのご連絡が依頼者Bからありました。ご連絡を受けた後、当事務所側でKに対して、相続登記のお手続きに必要となる書類(遺産分割協議書、印鑑証明書等)のご捺印やご準備についてのご案内をさせていただき、無事ご対応していただくことができました。

 

また、FGHについては、依頼者Bとの間で、Bの単独名義とする形で相続登記のお手続きを進めさせていただくことに同意されていたので、スムーズに書類のご捺印やご準備のご対応をしていただけました。

 

上記により、必要書類が揃った後、管轄の法務局へBの単独名義とする相続登記の申請をさせていただき、無事お手続きを完了させていただくことができました。

 

 

今回ご紹介した事例では、ご依頼者の方と疎遠状態にあった相続人の方にご協力いただけたため、相続関係が複雑なケースであるものの、ご依頼から4ヶ月程度で相続登記のお手続きをさせていただくことができました。

 

ただ、今回の事例とは異なり、疎遠状態にある相続人の方が複数名いたり、お手続きに非協力的であったりすると、ご依頼からお手続き完了までさらに時間を要したり、手続き完了自体が困難になったりする場合もございます。

相続発生後、相続登記の手続きを長期間怠ってしまうと、数次相続の発生により、相続関係が数世代間にわたってしまい、相続人の数もその分増えてしまうのが通常です。 

 

→ 数次相続についてはこちら 

 

上記のような状況になると、相続人同士がお互い疎遠状態であることも多くなり、相続人全員で話し合いをした上で、遺産分割協議に基づく相続登記の手続きを進めることが困難となってしまうケースも少なくありません。 一方、相続関係が数世代間にわたる場合でも、相続人全員の合意や手続きへの協力が期待できる状況であれば、相続登記の手続きができることもあります。 

 

→ 相続登記についてはこちら 

 

当事務所に相続関係が数世代間にわたる場合の相続登記のご依頼が来るケースもございますが、その中でお手続きをさせていただくことができた事例を紹介させていただきます。(ご依頼者様の個人情報の関係上、実際の事例内容を一部変更させていただいております。)

 

【事例】 

 

お亡くなりになられた被相続人の子の配偶者の方から、同人の単独名義とする相続登記のお手続きのご依頼を受けました。ご依頼者の方の配偶者とその両親及び兄弟姉妹の方はすでに全員お亡くなりになられており、相続関係が3世代にわたっているため、お手続きが可能な状況にある今のうちに相続登記をしてしまいたいとのことでした。 

 

被相続人の相続関係は、以下のとおりでした。(以下より、当事例の当事者の方をABC等で標記させていただきます。)

 

  • 被相続人Aには、配偶者BCDE3名の子(ABの間の子)がいるが、すでに全員亡くなっている(A:昭和45年亡、B:昭和50年亡、C:平成25年亡、D:平成20年亡、E:昭和60年亡)。 
  • Cには、配偶者Fおよび1名の子HCFの間の子)がいるが、FHはすでに亡くなっている(F:平成10年亡、H:平成15年亡)。また、Hには、IJK3名の子がいる。 
  • Dには、配偶者と子はいない。 
  • Eには、依頼者である配偶者GLMN3名の子(EGの間の子)がいる。

 

【相続関係の内容解説】 

 

数次相続が発生している相続において、被相続人の最終的な相続人を確定するには、被相続人の他、中間相続人の相続関係を調査する必要があります。当事例において、Aの最終的な相続人を確定するには、Aの他、BCDEの相続人を調査することになります。 

 

Aの相続について】 

 

被相続人Aが死亡した昭和45年当時、同人の配偶者BおよびCDE3名の子は生存しています。そのため、BCDE4名がAの相続人となり、同人を相続することになります(民法8871項、890条)。 

 

Bの相続について】 

 

Bが死亡した昭和50年当時、同人の子であるCDE3名の子は生存しています。そのため、CDE3名がBの相続人となり、BAを相続する権利もCDEが相続することになります(民法8871項)。 

 

Eの相続について】 

 

昭和60年にABの相続人の1人であるEが死亡しました。Eには、配偶者であるGと同人の子であるLMN3名の子がいるため、これらの方が相続人となります。そのため、EAを相続する権利(Bの相続発生時にEが相続したBAを相続する権利を含む)もGLMN4相続することになります(民法8871項、890条)。 

 

Dの相続について】 

 

平成20年にABの相続人の1人であるDが死亡しました。Dには、配偶者・子を含む直系卑属はいない上、両親を含む直系尊属は全員死亡しているため、相続権は同人の兄弟姉妹へ移ることになります(民法887条、8891項)。Dの兄弟姉妹のうち、CDの死亡時はまだ存命であったため、Dの相続人になります(民法8891項②)。一方、EDより先に死亡しているため、Eの子であるLMNが代襲相続人となります(民法8892項)。したがって、CLMNDの相続人(代襲相続人)となり、DAを相続する権利(Bの相続発生時にDが相続したBAを相続する権利を含む)を相続することになります。 

 

Cの相続について】 

 

平成25年にABの相続人の1人であるCが死亡しました。Cには、配偶者F1人の子Hがいましたが、2人ともCより先に死亡しています。そのため、Hの子であるIJKCの代襲相続人となり、CAを相続する権利(Bの相続発生時にCが相続したBAを相続する権利を含む)の他、Cが相続したDAを相続する権利(Bの相続発生時にDが相続したBAを相続する権利を含む)を相続することになります(民法8872項)。 

 

以上により、GIJKLMN7が、Aの最終的な相続人ということになります。

 

【当事務所でのお手続き】 

 

お手続きのご依頼を受ける前の面談時において、ご依頼者G側より、同人の単独名義とする相続登記をされたい旨をお伝えいただきました。また、ご依頼者G側で、当お手続きの相続関係当事者についてある程度把握されていたので、その内容をお聞きさせていただきました。

 

ご依頼者Gからお聞きさせていただいた当手続きの相続関係当事者の内容から、上記事例のとおり、GIJKLMN7名がAの最終的な相続人になる旨をお伝えさせていただきました。その上で、ご依頼者Gの単独名義とする相続登記をさせていただくには、遺言書がある等の一部例外を除き、上記7名の相続人全員で遺産分割協議をしていただく必要がある旨もご説明させていただきました。

 

相続人7名のうち、IJKはご依頼者Gの配偶者Eの兄弟姉妹の孫にあたる方でしたので、ご連絡が可能な状況にあるのかご確認させていただいたところ、幸いにも、Iとは連絡可能であり、Iを通じてJKとも連絡を取ることができる状況にありました。そして、すでにIからJKに当手続きについてお伝えいただき、IJK3名からもお手続きにご協力いただくことが可能とのことでした。

 

ご依頼者Gから上記事情をお聞きした後、相続登記のお手続きは可能な状況である旨をお伝えし、正式にお手続きのご依頼を受けました。最初に戸籍を取得させていただき、Aの最終的な相続人を正式に確定させていただいた上、7名の相続人全員に遺産分割協議書へのご署名・ご捺印をいただく手順でお手続きを進めさせていただくことにしました。

 

収集した戸籍の内容を確認させていただいたところ、ご依頼者Gからお話いただいたとおり、Aの最終的な相続人は、GIJKLMN7名でした。そこで、当事務所側で遺産分割協議書を作成させていただき、上記7名の相続人に当書類へのご署名・ご捺印をしていただくことになりました。

 

まず、Iへ遺産分割協議書を送付させていただき、IJKにご署名・ご捺印のご対応をしていただきました。IJKの間をIにしっかり取りまとめていただいたため、上記3名の遺産分割協議書へのご署名・ご捺印のご対応もスムーズに進みました。その後、ご依頼者のGに遺産分割協議書を送付させていただき、GLMNに当書類へのご署名・ご捺印のご対応をしていただくことができました。 

 

遺産分割協議書へのご署名・ご捺印のご対応が済み、戸籍・相続人全員から準備いただいた印鑑証明書等の相続登記の必要書類が全部揃った後、管轄の法務局宛にご依頼者Gの単独名義とする相続登記の申請をさせていただき、無事お手続きを完了させていただくことができました。

 

【総評】 

 

今回紹介した事例は、相続関係が数世代間にわたってはいたものの、相続人全員との連絡が可能な状況であり、中間相続人や最終相続人の数が比較的少なかったため、ご依頼から3ヶ月程度で相続登記のお手続きをさせていただくことができました。

 

しかし、今回の事例の相続関係当事者以上に中間の相続人や最終的な相続人の数が多い場合、ご依頼からお手続きが完了するまでの期間が年単位に及んでいたかもしれません。さらに、相続人の中で、お手続きに非協力的な方や連絡を取ることができない方がいらっしゃった場合、相続人全員の合意を得ることやお手続き完了自体が困難になってしまう可能性もありました。 

 

また、土地の利活用が阻害される等の社会的問題を引き起こしている所有者不明土地の発生を予防するために、法改正で2024年(令和6年)41日より、相続登記の申請が義務化されることになっています。 

 

→ 相続登記の申請義務化についてはこちら 

 

そのようなことから、相続登記は、手続き可能な状況のうちに済ませておくことが大切です。

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埼玉県狭山市中央三丁目
6番G-206号

営業時間

9:00~18:30

定休日

土日祝祭日

主な業務地域

狭山市、日高市、入間市、鶴ヶ島市、所沢市、川越市、飯能市、坂戸市、その他埼玉県、東京都など関東地方全域