2018年(平成30年)の相続法改正により、配偶者の居住権を保護するための制度(配偶者居住権)が創設されています。

 

【ⅰ.配偶者居住権とその創設された理由】

 

配偶者居住権とは、被相続人が亡くなり、残された生存配偶者がその後もそれまで生活していた被相続人所有の建物に居住できる権利をいいます。
 

高齢化社会が進むなか、相続が発生したときに被相続人の権利を承継する生存配偶者の年齢が高くなっているケースもめずらしくありません。そのような高齢の生存配偶者が、もし被相続人所有の居住建物を相続によって権利を取得できなかった場合、他の場所で生活しなければならなくなるのが原則です。しかし、高齢となった配偶者にとって、これまで生活した居住建物以外の場所で生活を始めることはかなりの負担をともないます。
 

そのようなことから、相続が発生したとき、高齢の生存配偶者の居住権を保護する必要性があるため、配偶者居住権の制度が創設されたのです。

 

【ⅱ.配偶者の居住権を保護するための制度の種類とその詳細】

 

配偶者の居住権を保護するための制度には、配偶者居住権配偶者短期居住権の2つがあります。

 

【配偶者居住権】

 

配偶者居住権は、原則として配偶者の終身の使用を前提とする居住権になります。
 

配偶者居住権が成立するには、被相続人の相続開始の際、被相続人の所有する建物に配偶者が居住していなければなりません。配偶者の居住に対する対価は有償か無償かは問われません。
 

また、配偶者居住権が成立するためには、以下のいずれかに該当する必要があります。

  • 遺産分割協議によって、配偶者が配偶者居住権を取得すること
  • 配偶者居住権が遺贈の目的とされたこと(死因贈与による取得も含む)
  • 遺産分割の請求を受けた家庭裁判所が、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨を定めたこと

一方、上記の要件を満たしたときでも、被相続人が相続開始の際、被相続人と配偶者以外の方が居住建物を共有していた場合、配偶者居住権は成立しません。(例、居住建物の所有権が被相続人とその子の共有である場合)

 

【配偶者短期居住権】
 

配偶者短期居住権とは、被相続人の相続開始後、配偶者の居住権が一定の短期間保護される権利です。
 

被相続人の相続開始の際、被相続人の所有する建物に配偶者が無償で居住していた場合、配偶者居住権が成立する場合を除き、配偶者短期居住権が成立します。(配偶者居住権と異なり、配偶者は無償で居住している必要があります。)
 

また、成立した配偶者の短期居住権は、以下のいずれかの日まで保護されます。
 

  • 居住建物について配偶者を含む被相続人の相続人全員で遺産分割協議を行い、配偶者以外の相続人がその権利を取得した場合、相続開始から6ヶ月を経過する日または配偶者以外の相続人が遺産分割によって権利を取得した日のいずれか遅い日
     
  • 上記以外の場合、居住建物の権利を相続または遺贈によって取得した人が配偶者居住権の消滅の申入れをした日から6ヶ月経過した日

 

【ⅲ.相続発生後に配偶者の居住権はどのような形で成立するか】

 

被相続人が亡くなって相続が発生した後、以下の3つの形で配偶者の居住権が成立します。
 

【ⅰ.配偶者居住権が成立するケース】

被相続人が遺言で配偶者居住権を配偶者に遺贈した場合、相続発生と同時に配偶者居住権が成立します。なお、配偶者居住権と配偶者短期居住権が同時に成立することはありません。そのため、このケースでは、配偶者短期居住権が成立しないことになります。

 

【ⅱ.配偶者短期居住権が成立するケース】

遺言によって、配偶者以外の相続人が被相続人所有の居住建物を取得した場合、相続開始と同時に配偶者短期居住権が成立します。(上記ⅰのケースに該当しない場合が前提です。)

 

【ⅲ.配偶者短期居住権の成立後に配偶者居住権へ移行するケース】

被相続人が遺言を残さずに亡くなった場合、相続発生と同時に配偶者短期居住権が成立します。その後、配偶者を含む相続人全員で配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割協議が成立(家庭裁判所での調停の成立および審判の確定も含みます。)したとき、配偶者短期居住権から配偶者居住権へ移行することになります。

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