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資産価値が低くて売却困難な不動産を相続すると、管理責任や固定資産税の支払い義務などを負担するだけとなって、経済的デメリットが生じるケースも少なくありません。そのため、相続財産の中に資産価値が低くて売却困難な不動産しかない場合、相続人側としては、相続放棄も選択肢の一つになります。
そこで、相続放棄後の相続財産である不動産の権利関係や管理義務はどのようになるのか見ていきます。
【ⅰ.相続放棄後の不動産の権利関係について】
相続人が相続放棄をすると、次順位以降の相続人が存在する場合、相続する権利はその者へ移ります。
たとえば、被相続人A(相続財産は不動産のみ)には、配偶者Bと子Cの他、両親のDとE(その他には被相続人Aの直系尊属はいない)、兄弟F(子はいない)がいたとします。この場合、第1順位の相続人であるBとCが相続放棄をした場合、不動産を相続する権利は、第2順位の相続人であるDとEへ移ります。さらに、DとEも相続放棄をすると、今度は第3順位の相続人であるFが不動産の相続権を得ることになります。
Fも被相続人Aの相続権を放棄すると、不動産の相続権を有する者が存在しなくなります。このような場合、Aの相続財産である不動産は、法人として扱われます。(民951条)法人として扱われる相続財産のことを、法律的には相続財産法人と言います。相続人が不存在となれば、特別な手続きを要することなく、相続財産法人となります。
相続財産が法人化された場合、その財産管理や清算手続きを担う相続財産清算人が選任されるケースもあります。被相続人に対して法律上の権利や利害関係を有している者などの申立てにより、家庭裁判所は相続財産清算人を選任します。(民952条①)選任された相続財産清算人は、清算業務を進める過程において、相続人探索を行った上で、相続財産である不動産を管理したり、換価処分後に債権者へ配当したりするなどの業務を行います。
また、相続人探索の公告期間の満了後、特別縁故者が財産分与の申立を行い、その者が相続財産である不動産を取得するケースもあります。(民958条の3)相続財産清算人が清算業務を行う過程で残った不動産または換価処分後の現金は、最終的に国へ引き継がれることになります。(民959条)
【ⅱ.相続放棄をしても不動産の管理義務を負わなければならない場合もある】
相続放棄をした場合、初めから相続人とならなかったものとみなされるため、不動産を相続しなくて済みます。
相続によって不動産の所有者にもならないため、固定資産税の支払い負担も回避できます。しかし、相続放棄をしても、不動産の管理義務を負わなければならない場合もあります。
2021年4月21日に民法等の一部を改正する法律案が可決成立し、改正後の法令が2023年4月1日に施行されました。上記法改正により、相続放棄をした者による相続財産の管理を規定する民法940条の内容も変更となっています。
改正前の民法940条は、以下のように規定されていました。
(相続の放棄をした者による管理) 改正前民法940条
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法改正前においては、相続放棄によって相続人となった者(次順位相続人)が、相続財産の管理を始めることができるまで、相続放棄をした者は相続財産の管理義務を負わなければなりませんでした。
しかし、法改正によって、民法940条の規定は以下のとおり変更となり、相続放棄をした者の相続財産の管理義務の内容も変更されています。
(相続の放棄をした者による管理) 改正後第940条
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改正後の民法940条の規定では、相続放棄をした者が負うのは「管理義務」から「保存義務」に変更されています。(管理義務と保存義務の内容は、実質的な違いはないと考えられます。)また、相続放棄をした者が保存義務を負うのは、相続放棄時に相続財産を現に占有していた場合だけとされています。
改正前の民法940条では、相続放棄をした者が、相続財産を占有しているか否かに関わらず、管理義務を負わなければならない旨の規定になっています。しかし、相続財産を占有していない場合でも相続放棄をした者に管理義務を負わせるのは不適切です。そのため、相続放棄をした際に相続財産を占有しているときのみ、その者に保存義務を負わせる旨の内容に改正されました。
また、保存義務を負う期間も、「相続人または相続財産清算人に対して相続財産を引き渡すまで」に変更となっています。改正前の民法940条では、相続放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始められるまで管理義務を負う旨が規定されています。しかし、相続人全員が相続放棄をして、相続人になる者が不存在になった場合の管理義務を負う期間が不明確です。そこで、相続人全員が相続放棄をして相続人になる者が不存在となった場合、家庭裁判所で選任された相続財産清算人に相続財産を引き渡すまで保存義務を負う旨が規定されて、その期間が明確になりました。
民法940条の規定により、相続放棄をした者が相続財産の保存義務を負う場合、「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって保存を行わなければなりません。「自己の財産におけるのと同一の注意」とは、自分の財産を管理する際に要する注意の程度を言います。
もし、相続放棄後の相続財産の保存義務を怠り、それが原因で事故が発生したり、近隣の方に被害を与えてしまったりした場合、保存義務を負う者は、被害者から損害賠償請求を受ける可能性もあるので注意が必要です。
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