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民法・不動産登記法等の改正法が2021年(令和3年)4月28日に公布されて、2024年(令和6年)4月1日から相続登記の申請が義務化されました。
【ⅰ.相続登記の申請が義務化された背景】
当法改正前においては、相続登記の申請義務はなく、申請期限も法定されていませんでした。そのため、相続登記の申請を行うか否かは、関係当事者の意思に委ねられていました。
相続登記の申請を行わなくても、当事者が不利益を被るケースは限られる他、相続不動産の価値が低く、売却が困難である場合、当事者にとって手間や費用をかけてまで手続きをするメリットが少ないと言えます。そのため、不動産の所有者が亡くなった後、相続登記がなされない場合も一定数存在しました。
しかし、相続発生後、長期間相続登記申請の手続きを怠ってしまうと、相続関係が複数世代にまたがって相続人が多数となり、所有者不明土地が発生する要因となります。所有者不明土地とは、「不動産登記上で所有者が直ちに判明しない土地」、「所有者が判明しても、その所有者が所在不明で連絡が取れない状況にある土地」のことです。
所有者不明土地の発生により、公共事業や復旧・復興事業、民間の土地取引などを円滑に進められなくなり、土地の利活用が阻害されてしまいます。また、土地が管理不全の状況となり、隣接する土地やその所有者へ悪影響を及ぼす可能性も出てきます。
このような所有者不明土地問題を解決するには、その発生の予防に努めることが急務です。そこで、所有者不明土地の主な発生要因となっている相続登記の未了状態を解消するため、法改正によって、相続登記の申請が義務化されたのです。
【ⅱ.相続登記申請義務の具体的内容】
当法改正により相続登記の申請義務化の制度が施行される2024年(令和6年)4月1日から、不動産を相続により取得した相続人に対し、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請する義務が課されます。ここでいう「不動産を相続により取得した相続人」の中には、相続の他、特定財産承継遺言や遺贈により不動産を取得した相続人も含まれます。
また、法定相続分および代襲相続人の相続分による相続人の共有登記がなされた後、当相続人間で遺産分割協議が成立して、特定の相続人が不動産を取得することになったとします。このような場合、遺産分割協議の結果、法定相続分を超えて不動産の所有権を取得した相続人は、遺産分割協議の成立日から3年以内に所有権の移転(遺産分割による持分移転など)登記をしなければなりません。
ここで注意しなければならないのは、当改正法施行日である2024年(令和6年)4月1日より前に発生した相続についても相続登記の申請義務化の対象になるという点です。当改正法施行日前に発生した相続については、施行日から3年間が相続登記の申請義務期限になります。
たとえば、相続人が2022年(令和4年)11月1日に不動産の所有者が亡くなって相続が発生したこと、2022年(令和4年)12月1日に当不動産の所有権を自身が相続により取得したことを知ったとします。このような場合、当法改正施行日である2024年(令和6年)4月1日から3年以内に相続登記を申請する義務が課せられるのです。
【相続発生時期と相続登記申請義務期限の関係】
相続発生時期 | 相続登記申請義務期限 |
改正法施行日前に相続が発生した場合 | 改正法施行日から3年以内 |
改正法施行日後に相続が発生した場合 | 自己のために相続の開始があったことを知り、かつその所有権を取得したことを知った日から3年以内 |
【ⅲ.相続人申告登記】
相続登記の申請義務化にともない、相続人申告登記制度が設けられています。相続人申告登記とは、相続人が相続登記の申請義務を簡易に履行できるように設けられた新たな登記制度です。
「相続人間の話し合いがまとまらない」、「遺産分割協議ができない」などの諸事情により、期限内に相続登記の申請義務を履行することが難しい状況におかれる相続人の方も一定数存在します。そこで、このような状況に置かれている相続人の方でも、相続登記の申請義務を履行することができるように、相続人申告登記の制度が設けられました。
相続人申告登記は、相続人が「不動産の登記名義人の相続が開始したこと」、「自身がその相続人であること」を管轄法務局の登記官に申し出る方法によって行います。不動産の登記名義人の相続人が複数名である場合でも、その中の一人の相続人が単独で申出できます。
相続人が期限内に上記申出を行うことで、相続登記の申請義務を履行したものとみなされます。 相続人が相続人申告登記の申出を行った後、申出を受けた管轄法務局の登記官が審査をした上で、申出者である相続人の住所、氏名などを職権で登記に付記することになります。
ただ、相続人申告登記は、相続登記の申請義務が履行できるように設けられた仮の登記制度にすぎず、一般の登記制度とは異なり、不動産についての権利関係を公示するものではなく、その効果が限定的なものである点に注意が必要です。そのため、相続人間で遺産分割協議が成立した後、その協議に基づいて不動産を取得する方への相続登記の申請義務については、相続人申告登記によっては履行できません。この場合は、通常の相続登記の手続きを行うことでその申請義務を果たす必要があります。また、相続した不動産を処分される場合も、その前提として通常の相続登記の手続きを行い、不動産を相続された相続人の方へ名義を変更しておかなければなりません。
【ⅳ.申請義務化後の相続登記の手続き方法】
当改正法が施行されて相続登記の申請義務化された後、相続発生後の状況によって、手続き手順が異なります。
【申請義務期限内(3年以内)に相続人間で遺産分割協議が成立しない場合】
被相続人が遺言書を残していない場合、相続人全員で遺産分割協議を行って不動産の権利を取得する相続人を決めた後、相続登記を行うのが通常です。
しかし、当協議が申請義務期限内(3年以内)に成立しない場合、当期限内までに遺産分割協議による相続登記ができません。このようなケースで、相続登記の申請義務を履行するためには、最初に申請義務期限内(3年以内)に相続人申告登記の申出または法定相続による相続登記を行います。
その後、遺産分割協議が成立した場合、当協議の成立日より3年以内に、遺産分割協議による相続登記を行います。(遺産分割協議が成立しない場合は、それ以上の登記申請は義務付けられないため、手続きの必要はありません。)
【申請義務期限内(3年以内)に相続人間で遺産分割協議が成立した場合】
相続発生後、申請義務期限内(3年以内)に相続人間で遺産分割協議が成立した場合、当期限内までに遺産分割協議による相続登記を行います。
しかし、諸事情により、当期限内までに遺産分割協議による相続登記を行うのが難しいケースもあります。このような場合、当期限内までに相続人申告登記の申出または法定相続による相続登記をした後、遺産分割協議の成立日から3年以内に当協議による相続登記を行います。
【被相続人が遺言書を残していた場合】
特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)または遺贈によって、相続人に不動産を権利承継させる旨の遺言書を被相続人が残していた場合、当遺言書の内容に基づいて登記申請を行うのが原則です。
このようなケースでは、相続人が遺言によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請する義務が課されるため、その期限内までに手続きを行います。申請する登記は、遺言書の内容に基づく登記の他、相続人申告登記の申出でもよいとされています。(ただ、相続人が遺言によって取得した不動産を売却等処分される場合は、相続登記または遺贈による登記の手続きをしておく必要があります。)
【ⅴ.相続登記の申請義務違反は過料の対象】
相続登記の申請義務に正当な理由がなく違反した場合、その者に対して10万円以下の過料に処する旨の規定が設けられています。
上記の「正当な理由」とは、対象者が申請義務期限内(3年以内)に相続登記をすることが難しい事情の存在を指します。具体的には、以下のような事情がある場合、一般的に「正当な理由」があると認められます(令和5年9月12日法務省民二第927号)。
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【※相続登記の申請義務違反があった際の過料に処されるまでの手順について】
相続登記の申請義務を負う相続人がその申請義務に違反した場合、即過料に処せられるわけではありません。
法務局の登記官が相続登記の申請義務違反を把握した場合、まず、相続登記の申請義務を負う相続人に対して、相続登記の申請手続きを行うように催告書を送付する形で催告します。その後、相続登記の申請義務を負う相続人が、当催告書を受領して、相続登記の申請を行った場合、申請義務違反による過料に処せられません。また、法務局の登記官が、催告書を受領した相続登記の申請義務を負う相続人から期限内に申請を行わないことに対する説明を受け、その内容に正当な理由があると認めた場合も過料の対象となりません。
相続登記の申請義務を負う相続人がその申請義務に違反し、当違反を把握した法務局の登記官からの催告を受けた後も、正当な理由なく相続登記の申請をしなかった場合に、はじめて裁判所に対して過料の通知がなされます。過料の通知を受けた裁判所は、相続登記の申請義務違反の要件に該当するか否かを判断した上、過料に科する旨の裁判を行います。裁判所から相続登記の申請義務違反の要件に該当すると判断され、過料に科する旨の裁判が行われることにより、対象の相続人は過料に処せられることになります。
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