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2018年(平成30年)の相続法改正により、遺産分割に関する規定の見直しが行われています。
【ⅰ.持戻し免除の意思表示の推定規定】
婚姻期間が20年以上になる夫婦の一方が、他方に対して、居住用建物またはその敷地を遺贈したり、贈与したりしたとします。このような場合、上記の遺贈または贈与について、特別受益の持戻し免除の意思表示があったものと推定される旨の規定が新設されました(民法903条4項)。
【持戻し免除の意思表示の推定規定はなぜ新設されたか】
持戻し免除の意思表示の推定規定が新設された主な理由は、配偶者の生活保障を厚くするためです。
この推定規定が適用されなければ、配偶者への居住用建物とその敷地の遺贈または贈与は特別受益として扱われてしまします。被相続人の相続発生後に相続財産の価額や相続分を計算する時も、通常特別受益分が考慮されるため、その分配偶者が取得できる相続財産は少なくなってしまいます。しかし、これでは、その後の配偶者の生活保障に不安が残るケースがでてきてしまいます。
一方、この推定規定が適用されれば、特別受益の持戻し計算をしないで相続財産の価額や相続分が計算されるため、配偶者はより多くの財産を取得できます。その結果、配偶者の生活もより厚く保護されやすくなるのです。
また、遺贈や贈与をした趣旨を尊重した遺産分割ができるようにするのも、この規定が新設された理由の一つになります。配偶者の長年にわたる貢献に報いる目的で、居住用建物とその敷地を遺贈したり、贈与したりするケースも少なくありません。持戻し免除の意思表示の推定規定が適用されると、遺贈または贈与された居住用建物とその敷地は、相続財産として考慮されません。その結果、配偶者へ居住用建物とその敷地を遺贈したり、贈与したりした趣旨が反映された形で遺産分割を行えるようになります。
【婚姻期間の要件が定められた理由】
「遺贈時点または贈与時点において、夫婦の婚姻期間が20年以上であること」が、持戻し免除の意思表示の推定規定の適用条件の一つになります。このような条件が定められたのは、長期間婚姻関係にある夫婦は、お互い他方の配偶者への貢献の度合いが高いと考えられるからです。
また、贈与税の配偶者控除の適用条件が、「夫婦の婚姻から20年経過した後に贈与が行われたこと」となっています。そのため、持戻し免除の意思表示の推定規定に関する夫婦の婚姻期間の要件も、贈与税の配偶者控除にあわせて規定されたものと考えられます。
【持戻し免除の意思表示の推定規定が適用されるか否かでどのくらい違うか】
相続の発生後、相続人全員で遺産分割協議をする際、持戻し免除の意思表示の推定規定が適用された場合と適用されない場合では、以下のような違いがあります。
【事例】
相続人が配偶者と子1人で、被相続人の相続財産は預貯金1000万円だったとします。また、被相続人は生前に配偶者へ居住用不動産(評価額1000万円)を贈与していました(贈与時点において、被相続人と配偶者の婚姻期間が20年以上であるものとします。)。このような場合、配偶者と子が相続できる財産額は、以下のとおりとなります。
【1.持戻し免除の意思表示の推定規定が適用されない場合】
当推定規定が適用されない場合、配偶者が被相続人から生前に贈与を受けた居住用不動産(評価額1000万円)は、特別受益に該当します。そのため、預貯金1000万円に居住用不動産(評価額1000万円)を加えた2000万円が被相続人の相続財産となります。
そして、特別受益を考慮の上で法定相続分を基準に遺産分割協議を行った場合、配偶者と子が相続時に取得できる財産額は、以下のとおりとなります。
配偶者 | 相続できる財産額1000万円-特別受益分1000万円=0 |
子 | 1000万円(預貯金1000万円) |
【2.持戻し免除の意思表示の推定規定が適用される場合】
当推定規定が適用される場合、配偶者が被相続人から生前に贈与を受けた居住用不動産(評価額1000万円)は、特別受益分として相続財産へ持戻しされません。そのため、被相続人の相続財産は、預貯金1000万円のみとなります。
そして、配偶者と子が法定相続分を基準に遺産分割協議を行った場合、相続時に取得できる財産額は、以下のとおりとなります。
配偶者 | 500万円(預貯金1000万円の2分の1) |
子 | 500万円(預貯金1000万円の2分の1) |
生前に贈与を受けた居住用不動産(評価額1000万円)を合わせると、配偶者は合計1500万円の財産額を取得できることになります。持戻し免除の意思表示の推定規定が適用されない場合は、配偶者は1000万円の財産額しか取得できません。そのため、持戻し免除の意思表示の推定規定が適用された場合、配偶者が取得できる財産額は500万円分多くなります。
【ⅱ.遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲】
相続が発生した後、相続人全員で遺産分割協議をする前に、相続人の1人が一部の相続財産を処分してしまったとします。このような場合、処分された相続財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができる旨の規定が新設されています(民法906条の2)。
処分された相続財産を遺産分割時に遺産として存在するものとみなすためには、そのことについて相続人全員の同意を必要とするのが原則です。ただ、遺産分割前に相続財産を処分した人が相続人の1人である場合、その相続人の同意は必要ありません。
【当規定が新設された理由】
処分された相続財産を遺産分割時に遺産として存在するものとみなすことができる旨の規定は、相続人間において相続できる財産額の不公平さを是正するために新設されています。
遺産分割の対象となる相続財産は、遺産分割時に存在している相続財産であるのが原則です。そのため、相続が発生した後、遺産分割前までに処分されて存在しなくなってしまった財産は、遺産分割の対象にならないと考えられます。
しかし、このように考えると、相続財産の一部を不当に処分した相続人が他の相続人よりも多くの財産を取得するという状況が生じてしまいます。このような不公平な結果は好ましくないので、その状況を是正するために当規定が新設されました。
【当規定が適用された場合の具体例】
当規定の適用の有無によって、相続人の取得できる財産額が以下のとおり変わってきます。
【事例】
相続人が長男と次男の2人で、被相続人の相続財産は預貯金1000万円のみだったとします。また、長男は生前に被相続人から現金1000万円の贈与を受けていました。相続発生後、長男が被相続人の相続財産である預貯金1000万円をひそかに引き出して使ってしまいました。
このようなケースにおいて、長男と次男が取得できる財産額は、当規定が適用される場合とされない場合でそれぞれどのようになるのでしょうか。
【1.当規定の適用なしの場合】
当規定が適用されないと、被相続人の相続財産である預貯金1000万円を相続発生後に長男が引き出して使いこんでしまったことにより、遺産分割時点での被相続人の相続財産は0となります。相続財産がない場合、遺産分割が成り立たないため、長男の特別受益を考慮して次男の相続分割合を計算した上での遺産分割協議を行うこともできません。
したがって、次男としては、被相続人の相続財産である預貯金1000万円に対する自身の相続分を侵害されたとして、長男に対して500万円(1000万円×2分の1)の支払いを求める(不当利得による返還請求・不法行為に基づく損害賠償請求等)ことができるにすぎなくなってしまいます。
以上により、最終的に長男と次男が取得できる財産額は以下のとおりで、次男にとって不公平な結果となります。
長男 | 1000万円(生前贈与分)+500万円(預貯金分)=1500万円 |
次男 | 500万円(預貯金分) |
【2.当規定の適用がある場合】
当規定が適用される場合、長男がひそかに引き出して使ってしまった預貯金1000万円を分割の対象として、長男が被相続人から生前に贈与を受けた現金1000万円も考慮の上、遺産分割協議を行って長男と次男が相続財産の取得割合を決めていくことが可能です。
当ケースで、長男の特別受益を考慮の上で法定相続分を基準に遺産分割協議を行った場合、長男と次男が取得できる財産額は、以下のとおりになります。
長男 | 1000万円(生前贈与分) |
次男 | 1000万円(預貯金分) |
上記のとおり、遺産分割協議を行う際に当規定が適用されると、長男と次男の相続財産の取得割合の不公正さが是正されることになります。
【ⅲ.遺産の一部分割】
2018年(平成30年)の相続法改正前においても、被相続人の遺産の一部のみを分割することも実務上認められていました。そして、今回の相続法改正により、遺産の一部分割をすることができる旨の規定が民法上で明記されています(民法907条1項・2項本文)。
上記により、被相続人の遺産の一部だけを分割できることが明確になりました。さらには、相続人の間で遺産分割協議の話し合いがまとまらず、家庭裁判所へ分割の請求をした場合、家庭裁判所は原則として一部分割の審判ができることも明確になっています。
一方、家庭裁判所による一部分割の審判ができない例外ケースも民法で規定されています(民法907条2項但書)。具体的には、「他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合」に該当する時です。
「他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合」とは、一部分割をすることで、遺産全体について共同相続人間で適正な分割(平等になるような分割)ができなくなる時を指します。たとえば、一部分割によって、相続人の1人が法定相続分を超過する財産を相続する場合で、他の相続人に代償金を支払える見込みがない時です。
このような場合、相続人から遺産の一部分割の請求があったとしても、家庭裁判所はその請求を不適法として却下することになります。
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