特定の相続人に財産を相続させるため、あらかじめ他の相続人に相続放棄をしてもらいたいと考える方もいます。また、相続発生後に起こりうる相続人間のトラブルを回避する目的で、被相続人の生存中に相続放棄をしておきたいという方もいるでしょう。上記の目的を実現するため、被相続人の生前に相続放棄をすることができるか否かが気になるところです。

 

そこで、生前の相続放棄について解説していきます。

 

【ⅰ.生前に相続放棄をする旨の約束をしても無効】

 

推定相続人が、被相続人の生前に相続放棄をする旨の約束をしてもその効力は生じません。相続放棄は、「相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内にしなければならない」旨が、民法上で規定されています。(民915条①)

 

→ 相続放棄の申述(申立)期限についてはこちら

 

相続放棄ができるのは、被相続人の相続発生後に限られます。被相続人の生前に相続放棄ができる旨の法律上の規定はありません。裁判所の判例(東京高裁昭和54年1月24日決定)でも、生前の相続放棄は法律上の規定がないため無効である旨の見解が示されています。

 

また、生前に被相続人の相続放棄ができるとすると、相続人自身の意思を無視した形で手続きがなされる可能性もあります。たとえば、特定の相続人が他の相続人や被相続人から強要されて相続放棄をしてしまう場合も考えられます。

 

相続放棄は、相続人間の平等性が保たれている中で、相続人の意思にもとに行われるべき手続きです。そのようなことから、被相続人の生前に相続放棄をすることはできないのです。もし、被相続人の生前に相続人が契約書や念書上に「相続を放棄する」旨を記載しても無効になります。また、被相続人の生前に相続放棄の申述手続きを行なっても、家庭裁判所側で受け付けてくれません。

 

【ⅱ.生前の相続放棄の代わりに行える手続き方法】

 

相続人は被相続人の生前に相続放棄の手続きをすることはできません。しかし、生前の相続放棄の代わりに行える手続き方法はいくつかあります。それらの手続きによって、相続させたくない相続人への財産承継を回避できたり、特定の相続人へ財産を承継させたりすることが可能です。

 

【遺言書の作成および遺留分の放棄】

 

生前に遺言書を作成しておくことで、特定の相続人だけに財産を承継させることが可能です。

 

たとえば、被相続人Aには、B、C、Dの3名の法定相続人がいたとしましょう。この場合、Aが生前に「Bに財産全部を相続させる」旨の内容の遺言書を作成しておけば、相続発生の際、BがAの財産全部を承継するのが原則です。それにより、C、Dへの相続財産の承継を回避することもできます。

 

→ 相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)についてはこちら

 

ただ、遺言書を作成するのみでは、特定の相続人だけに財産を承継させられないケースもあります。なぜなら、遺留分という制度が法律上(民法上)で定められているからです。遺留分とは、相続人に対して法律上認められている最低限の相続分のことです。

 

→ 遺留分についてはこちら

 

上記の例で、CとDが遺留分を有している場合、その権利の侵害部分をBに対して金銭請求できます。もし、Bが遺留分侵害額請求を受けた場合、承継した相続財産の金銭の一部をCとDに渡さなければならないケースも出てきます。

 

遺留分の問題を回避するには、遺言書の作成に加えて、財産を承継しない相続人に遺留分を放棄してもらう必要があります。相続放棄とは異なり、被相続人の生前に遺留分を放棄することは可能です。相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可が必要なので、その審判申立をして手続きを行います。

 

遺留分の放棄の許可審判を受けるためには、申立者の放棄の意思および放棄することに対する合理的な理由の存在が必要です。申立者が生前に被相続人から多額の金銭的援助を受けているケースが合理的な理由の代表的な例です。

 

【生前贈与】

 

生前に贈与を行うことで、その財産を相続財産の対象から外すことができます。それにより、特定の相続人へ集中的に財産を承継させることが可能です。

 

→ 生前贈与の不動産登記手続きについてはこちら

 

→ 生前贈与の不動産登記手続きに関する注意事項についてはこちら

 

生前贈与をする場合、贈与税の課税に注意しなければなりませんが、非課税枠の範囲内の額で生前贈与を行えば税負担を回避できます。また、贈与税の配偶者控除や相続時精算課税制度を活用すれば、税負担を抑えながら生前贈与をすることが可能です。

 

→ 贈与税の配偶者控除についてはこちら

 

→ 相続時精算課税制度についてはこちら

 

【推定相続人の廃除】

 

被相続人の生前に自身へ不正な行為をした推定相続人がいたとしましょう。この場合、廃除の手続きによって、その推定相続人の相続権を剥奪できる場合があります。

 

→ 推定相続人の廃除についてはこちら

 

廃除によって推定相続人の相続権が剥奪されれば、その者への財産承継を回避できます。

 

ただ、推定相続人を廃除しても、財産承継の回避を実現できないケースもあります。相続人の廃除は、代襲相続発生原因の一つにあげられています。(民887条②③)もし、廃除された推定相続人に子や孫がいる場合、その者が代襲相続することになります。

 

→ 代襲相続についてはこちら

 

代襲相続人となった子や孫を経由して、廃除された推定相続人に被相続人の財産が渡ってしまう可能性もゼロではありません。

 

廃除された推定相続人への財産承継を回避できるのは、その者(廃除された推定相続人)に直系卑属(子や孫)がいない場合だけです。この点を把握した上で推定相続人の廃除の手続きをするか否かを決めることが大切です。

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